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クリスマス番外編・星連なる夜 後編



 死王アイシス・レムナントの居城で開催されたクリスマスパーティには、各界からの招待客が集まり思い思いにパーティを楽しんでいた。

 まだ死の魔力を完全にコントロールできるようになってそれほどの年月が経っていないこともあり、大勢というわけではない……だが、かつてからは考えられないほど多くの人が彼女の居城を訪れていた。


 そんな賑やかな光景を微笑まし気に眺めていたアイシスの元に、家族であり親友でもあるリリウッドが近づいてきた。


『……アイシス、今日は素敵なパーティに招待していただき、ありがとうございます』

「……うん……でも……今回の企画は……六連星の皆……私はなにもしてない」


 簡単な挨拶を交わしたあと、リリウッドはアイシスの隣の席に腰を下ろし、アイシスと同じように会場を眺める。

 談笑しているクロムエイナ、災厄神と飲み比べをしているメギド、城の外に浮遊し挨拶にきた参加客とのんびり話しているマグナウェル、他と比べて大量過ぎる料理を取りイリスに叱られているアリス……このあたりは、アイシスやリリウッドにとって馴染みの顔ぶれだ。


 だが今日はそれ以外にも、人界の三王、リリア・アルベルトと屋敷の面々、快人の後輩である異世界人たち、神界の最高神と創造神、果ては異世界の神といままではアイシスとあまり関わりの無かった者たちも、招待を受けて参加している。

 もちろん、この光景には現在六連星の面々と話をしている世界の特異点……宮間快人の存在が大きいのは言うまでもない。だがそれだけでは、この光景は生まれていない。

 少しずつではあるが、確実に……アイシスが多くの人たちに受け入れられつつあるからこそ、いまの光景があった。


『……かつて、貴女が見た夢の光景……ですね』

「……ううん……違う」

『おや?』

「……夢がかなったとは言わない……いま目の前にあるこの光景は……いつかは消えてしまう幻想じゃない……私がこれから……守っていくべき……『大切な今』……まだまだ……夢を現実に変えてる途中……だよ」


 そう言って優し気に微笑むアイシスを見て、リリウッドも自然と笑みを浮かべた。


『……強くなりましたね。心の余裕というか、貫禄というか、貴女もずいぶんと王らしくなった気がしますね』

「……そうかな? ……もしそうなら……私は……『王にしてもらった』んだと思う……大好きなカイトが居て……大切な皆が居て……その笑顔を守りたいって思うから……強くありたいって……思う」

『かつてはそうは思えませんでした。ですが、いまの貴女を見ていると……貴女の夢が現実に変わる日も、そう遠くないと思えますよ』

「……ありがとう」


 かつて欲しいものを追い求めていただけの時とは違い、守りたいと思うものを手に入れたからこそ、アイシスは大きく成長した。

 それこそ、クロムエイナが数千年はかかると見立てていた死の魔力の完全な制御を、たった百年足らずで成し遂げてしまうほどに……。


「……夢?」

『おや?』

「あっ、お話し中に失礼しました。アイシス様の夢と聞こえましたのでつい……」

『いえ、構いませんよ』


 リリウッドが口にした『貴女の夢』という言葉……アイシスの夢という言葉に、比較的ふたりに近い位置にいたポラリスが反応した。

 そしてそれにつられるように、他の六連星の面々も視線をアイシスたちに向ける。それに軽く微笑んだあとで、アイシスはゆっくりと口を開いた。


「……昔……この城を造った時……いつかこの城が……温かくて賑やかで……いっぱいの笑顔に溢れる……そんな場所になればいいなって……そう思った」


 アイシスのその言葉を聞いて、六連星の面々は目を潤ませた。彼女たちももうアイシスの配下となってそれなりの年月は経っている。アイシスが長く孤独に過ごしてきたことは知っていたから。


「……一度は諦めかけた夢だけど……皆のおかげで……少しずつ叶ってる……私はそれが……すごく嬉しい……皆……私の配下に……ううん……家族になってくれて……ありがとう」

「~~!? 叶えましょう!!」

「……え?」

「その夢はきっと叶うっす! いいえ、叶えてみせるっす!」


 アイシスが家族と呼んだことに感極まり目を潤ませながら、ウルペクラが強く宣言する。アイシスが見た夢……アイシスの願いを叶えてみせると。

 そしてそれは彼女一人の考えではなかった。


「えぇ、我々にお任せください。必ずやアイシス様の夢をかなえてみせます! どうか岩の船に乗ったおつもりで」

「……泥船より沈みそうな船だネ。脳筋女の馬鹿発言は置いておいテ、今後の目標が決まったのはありがたいですネ。研究もそうですガ、目標が明確であった方が効率も上がりますヨ」


 ウルペクラに続き、シリウスとラサルもアイシスを安心させるように微笑みながら告げる。


「そやね~皆笑顔が楽しいね。とっても素敵な夢やし、叶えたいですわ」

「なにそれほど困難な夢というわけでもないでしょう。アイシス様はお優しいですし、世間の評価なんて偏見が大きいです。アイシス様のことを知れば自然とくだらない誤解など解けるでしょう。なぁ、筆頭殿?」

「うむ、今後の我らの方針は決まったな……この城を温かで笑顔溢れる場所にする。ふふ、悪くない夢だ」


 スピカ、ポラリス、イリスもやる気に溢れる表情で告げ、そのまま六連星の面々は新しい目標に向けて相談を始めた。


「賑やかにするというだけなラ、私の兵を城に放つかイ?」

「誰が、ゾンビの呻き声で賑やかにしろって言ったんすかアホラサル。それよりアレっすよ。そもそも、死の大地に訪れる人が少なすぎるのが問題なんすよ。だから、アイシス様の優しさが分かってない馬鹿が多いんす」

「なるほど、いきなり配下を増やすとまでせずとも、死の大地を訪れる人を増やすというのはいい案ではあるな」


 ラサルの発言に突っ込みつつウルペクラが告げた言葉に、イリスが思案するような表情を浮かべる。


「なら、観光地を作るというのはどうだろう? アイシス様だけでなく死の大地そのものにも偏見を持つ者というのは一定数存在するわけだし、そちらを改善するには悪くない手だと思うが?」

「それなら~ウチが作ってる花畑はどないやろ? ブルークリスタルフラワーがいっぱいで綺麗やし、それでブルークリスタルフラワーを好きになってくれる人が増えたら、ウチも嬉しいわ」

「だがあの場所は少々地形が悪い……岩山や氷山を切り崩して平らな地にするか」


 ポラリス、スピカ、シリウスも会話に加わり、死の大地に観光地を作るという方向に話が切り替わっていく。


「ならいっそ街を作るっすよ! 死の大地はかなり広いっすし、採掘の終わった鉱山もいくつかあるわけっすから、その場所を使って……」

「であれば、ある程度防寒にも気を配る必要があるな。訪れるものすべてが実力者というわけでもない。そうなると、死の大地の寒さは堪えるであろう……ポラリス、永続型結界魔法で寒さを防ぐことはできるか?」

「完全に私の手から離して自立させるなら、遮断は無理とまで言わないが魔水晶が大量に必要だ。しかし、緩和なら容易だよ」


 城の中から城の外に、観光地から街に……話は……夢はどんどん大きく眩しく膨らんでいく。


「街となるト、道の整備も必要ではないかネ? まァ、それはパワーが有り余ってるシリウスに任せればいいと思うがネ」

「綺麗な形に舗装する自信はないぞ? その無駄に狡賢い頭で協力しろ、ラサル」

「う~ん、ゲートもあればええんやけど~ウチらだけじゃちょお難しいねぇ。十魔のグラトニーとか時空間魔法が得意な子にも協力してもらいたいなぁ」


 真剣に話す六連星の面々を、それを少し驚いた表情で見ていたアイシスだったが……少ししてフッと笑みを浮かべた。

 そんなアイシスの隣に、同じように笑みを浮かべた快人が座る。


「……あっという間に『アイシスさんの夢』から、『皆の夢』に変わったみたいですね。なんというか……いい家族ですね」

「……うん…‥優しくて温かくて……あたり前みたいに……私と一緒に夢を追いかけてくれる……大切な……自慢の家族」


 そう、六連星の面々は誰一人としてアイシスの夢を聞いて、『叶うといい』などと他人事のような言葉は口にしなかった。

 叶えよう、叶えてみせると……アイシスと同じ夢を見て、ソレを叶えるために動き出した。彼女たちにとって、アイシスの願いは己の願いであると、そんな強い忠誠心と深い絆の感じられる行動が、アイシスにとっては嬉しくてたまらなかった。

 そんなアイシスの手を、快人は優しく握り微笑みかけた。


「もちろん、俺も協力しますよ」

「……うん! ……嬉しい」


 アイシスは涙の浮かんだ目で、それでも心の底から幸せそうな笑顔を浮かべる。隣にいる、全ての始まりとなった存在であり、誰よりも愛おしい人……快人と出会えた幸せを強く噛みしめながら。

 同時に快人と家族である六連星の皆と過ごすこれからの未来を、必ず幸せなものにしてみせると……強い決意を胸に抱く。


 城の窓から見える大きな月と、そのすぐ傍で輝く星は……まるで、彼女たちのこれからを祝福するかのように温かな光を放っていた。





のちのクリスタルシティ誕生の瞬間である。

六連星は皆仲良し(喧嘩はする)で、アイシス大好き。アイシスが幸せそうでなによりです。


そして、前編で入りきらなかったおまけ



謎の剣士(理想)


シリウスの脳内のみに存在する凄腕の剣士。『超絶飛翔蛇流ちょうぜつひしょうじゃりゅう』という、おそらくドラゴンを模したであろう変幻自在の剣術を使う虫人型の魔族。

かつてシリウスの挑戦を受け、圧倒的な力でシリウスを退け、『強くなれ……』と告げてクールに去っていった。


カブト虫の虫人型魔族らしく、昆虫の特徴は虫人型魔族には当てはまらないため性別こそ不明だが、天を突く勇ましい角に黒いダイヤのような甲殻が強く印象に残っている。二刀流の剣は、どちらもシリウスが現在まで一度も見たことがないような業物だった。

シリウスにとってはリベンジしたい目標であると同時に、憧れでもある。謎の剣士に打ち勝つまでは、魔界最強の剣士とは名乗らないと誓っている。

圧倒的強者のはずだが、なぜか情報がまったく存在しない上に、シリウス以外が会ったという記録もない。



謎の剣士(現実)


かつてないほど傑作の剣が二本も打てた結果、かつて犯されていた病(中二病)が一時的に再発したアリスちゃん。

カブト虫の着ぐるみを被り『超絶美少女流』とか言って遊んでたら、たまたまそれを目撃したシリウスに勝負を挑まれることになったので、サクッと倒してカッコよさげなキメ台詞と共にその場を去った。


シリウスが謎の剣士(笑)を目標に必死に鍛錬していたのは、持ち前の情報力で把握していたが……なぜか彼女の脳内で超絶美化されていたため言い出せせず、結局伝えるのは諦めた。

なおその時に使っていた傑作の剣二本は、六王祭の記念品として快人に渡しており、こっそり丸投げしている。


「……カイトさんなら……それでもカイトさんなら……なんかいい感じのフラグにしてくれるはず……」


なお、快人がマジックボックスに入れたままその剣の存在を忘れているため、バレていないが……バレたらいっぱい叱られる模様。

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― 新着の感想 ―
[一言] 快人が協力するだって? これは間違いなく、なんの障害も無く街と街道とゲートが出来上がりますね。 むしろいつの間にかゲートがポンと用意されていても驚かない。
[一言] 超絶美少女流が超絶飛翔蛇流に聞き間違えられたのは面白すぎるw この話何回読んでも好きだわ
[一言] そうやった…この小説でひねくれてるのはシリアス先輩だけやったな… てか、あれ?シリアス先輩は?(・ω・ = ・ω・) 謎のって付くやつはだいたい、謎リスなんよね…( -∀-)
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