クリスマス番外編・星連なる夜 前編
予告通り、死王配下幹部六連星の番外編です。前後編になる予定
魔界の北部に位置する死の大地、そこにある死王アイシス・レムナントの居城では、彼女の配下たちが今夜行われるクリスマスパーティの準備を行っていた。
かなりの人数が入れそうな広間に、巨大なテーブルを片手で担いだ女性が入ってくる。玉虫色のショートボブに頭から生えた触覚、背には甲虫を思わせる羽が生えている。
身長は190㎝を越えており、両腰に携えた計六本の剣からどことなく武人のような雰囲気を感じさせる。
その女性……死王配下幹部六連星の一員にして、『天刃星』と呼ばれるシリウスは、テーブルを会場となる広間の中央に置いたあとで周囲を見渡し、少し離れた場所にいる女性に声をかけた。
「すまない、ラサル。少しいいか?」
「うン? なんだイ?」
シリウスに呼ばれ、漆黒のローブを身に纏い顔を隠すようにフードを被ったままで作業を行っていた『地縛星』ラサル・マルフィクが振り返って首をかしげる。
150cmほどのやや小柄な体格だが、その背には2mを越える巨大な棺桶を担いでおり、全身黒づくめなのも相まって独特の威圧感を放っていた。
「大テーブルを運んできたのだが、セッティングは苦手でな……悪いが頼めるか?」
「あァ、了解したヨ。でハ、そちらは私が引き継ぐヨ。シリウスは引き続キ、全員分の椅子を運んできてくレ」
「うむ、心得た」
「頼むヨ」
シリウスとラサルは共に六連星の一員ではあるが、普段は犬猿の仲でありしょっちゅう喧嘩をしているが、今回は喧嘩はせずに協力し合っている。
その様子を少し離れた場所で見ながら、もうひとりの六連星が感慨深げに呟いた。
「いやはや、あのふたり今日は喧嘩していないみたいだね。助かるよ。喧嘩して作業が遅れていたら、私が筆頭殿に叱られるところだった」
紫色のロングヘア、白いとんがり帽子に、同色のローブ、まさに魔女という風貌の女性……『極北星』ポラリスは、どこか楽しげに苦笑していた。
彼女は六連星の中でも、筆頭であるイリスに次いで古株であり、料理を行っているイリスに変わり会場準備の統括を務めていた。
「そやね~協力し合えるのは、ええことやねぇ。ウチも安心したわ」
ポラリスの呟きにのんびりとした口調で反応したのは、青みがかった銀髪に結晶のような花が特徴的な女性。ブルークリスタルフラワーの精霊であり、六連星の一員『晶花星』の名を持つスピカだった。
純白のドレスに身を包み上品な貴族令嬢のようにも見える彼女だが、その口調はどこか独特なものだった。
スピカはポラリスの言葉に答えたあとで視線を動かし、少し高い場所に浮遊して作業をしているもうひとりの六連星に声をかけた。
「ウル、そっちはどうかな?」
「そうっすね、もう少し飾りが欲しいところっす。スピカ、花の追加をお願いするっす」
「はいな~お安い御用や~」
スピカがパッと片手をあげると、彼女の周囲に大量のブルークリスタルフラワーが現れる。そしてそれを、伸びてきた十本の白い尻尾が受け取る。
十本もある長い尻尾と両手を器用に動かしながら飾り付けとしているのは、『狐妖星』ウルペクラ。癖の強い白髪のセミショートヘアに、130㎝ほどの小さな体。頭には狐の耳が生えており、顔立ちもどこか幼さを感じさせる。
上半身には巫女風の衣装、下半身はスカートにレギンスという独特な格好のウルペクラは、手早く飾り付けを終えてスピカの隣に着地する。髪の色が似ていることもあって、並ぶとふたりは姉妹のようにも見えた。
「まぁ、こんなところっすね」
「あぁ、いい出来だ。さすがセンスがあるね、私も統括として満足だよ」
「ポラリスは、ほぼ見てただけじゃねぇっすか……とりあえず、イリスに告げ口しとくっす」
「おいおい、勘弁してくれたまえ。それでは私がパーティに参加できなくなってしまうじゃないか……はぁ、たしかに全体を見るばかりで、私自身が作業に加わっていなかったのは認めるしかないだろうね。仕方がない、ここからは少し張り切るとするか……」
程なくして広い会場は美しく飾り付けられ、無事にパーティ会場の準備が整った。
「うん、問題なさそうだね。皆、ご苦労様」
「イリスの方は、まだかかっとるみたいやねぇ」
「こちらハ、五人いるわけだしネ。必然と言えば必然だヨ」
「そうっすね。手伝えることがあるならアタシたちも――あっ!?」
人数比から時間がかかっているイリスの話題について話していると、言葉の途中でウルペクラがなにかに気付いたように振り返る。
耳はピンッと伸びで降り、尻尾がなにかを期待するかのように揺れていることからすぐに他の面々もなにに気付いたかは察することができた。
その直後、会場となっている広間の扉が開き、彼女たちの主であるアイシスがやってきた。
「……皆……ご苦労様……会場の準備は……終わったかな?」
「アイシス様ぁっ!」
アイシスが現れると、ウルペクラは勢いよく尻尾を振り満面の笑顔を浮かべて駆け寄った。
「はい! 終わりました……あ、あの辺とかアタシが飾り付けたんすけど、問題ないっすか?」
「……うん……綺麗にできてる……ウルはいい子」
「えへへ、そんな、アタシはアイシス様の配下として当然の働きをしただけっすよぉ」
アイシスが手を伸ばして頭を撫でると、ウルペクラは蕩けるような笑顔を浮かべて十本の尻尾を嬉しそうに振る。その姿は見た目相応の……いうならば母親に甘える幼子のようで、微笑ましい光景だった。
アイシスはそのままウルペクラの頭を優しく撫でつつ、他の六連星に視線を動かして口を開く。
「……それじゃあ……私はカイトを迎えに……行ってくるね……買い物もしてくるから……時間が少しかかると思う……パーティの開始は予定通りの時刻で……」
「了解しました。ごゆっくり」
代表してポラリスが答えると、アイシスは満足げに頷いたあと軽く手を振って転移魔法で姿を消した。少しの間沈黙が流れたあと、ふと思い出したようにポラリスが口を開く。
「そういえば、筆頭殿から聞いたんだが……アイシス様とカイト様は、我々にそれぞれプレゼントを用意してくれるらしいね。買い物というのはおそらくそれだろう」
「そうなんすか!? もぅ、アイシス様もカイト様も本当に優しいんすから……アタシたちがいろいろもてなす側なんすし、そんなに気を使ってくれなくてもいいすけどねぇ……でも、そういうことろも大好きっす!」
「そうやね~ありがたいお話やねぇ」
ポラリスの言葉で一気にテンションが上がったのか、ウルペクラは千切れんばかりに尻尾を振りつつ幸せそうに呟き、ソレを見たスピカが微笑まし気に同意する。
そんな和気藹々とした空気の中で、シリウスはなにやら考えるように顎に手を当て、少しして一度頷いてから告げた。
「……イリス殿であれば遅れることはないだろうが、さりとて人手もあった方がいいだろう。こちらはひと段落したようだし、私はイリス殿の手伝いを――うん?」
料理をしているイリスを手伝うと言いながら出口に向かって歩き出そうとしたシリウスだが、直後に手を引かれて足を止める。
振り返るとシリウスの手には純白の尻尾が……『握りつぶさんばかりの力』で巻き付いていた。
「……おい、余計なことするなよ羽虫」
そして、先ほど可愛らしくはしゃいでいた姿からは想像もできないほどドスの利いた……いや、殺気の籠った声で告げるウルペクラ。その額には青筋が浮かんでおり、表情は地獄の鬼もかくやというレベルだった。
「念のために言っとくぞ……テメェの作った『劇物』が、万が一、億が一、アイシス様かカイト様の口に入るような事態になったら……アタシがテメェを殺すぞ」
「……あっ、はい。すみません」
凄まじい怒りをあらわにしているウルペクラに、思わずシリウスは敬語になりつつ青ざめた顔で頷いた。
「……う~ん、私も彼女に同意だね。向き不向きというものがあるので、君の参加は遠慮してもらいところだね。主に我々が食事を楽しむために」
「ポラリス!?」
「そやね~これに関しては、ちょおウチもフォロー出来んなぁ」
「スピカまで!?」
ポラリスはともかく、六連星の中で一番穏やかで優しいスピカまで苦笑を浮かべながらウルペクラに同意しており、シリウスはショックを受けたような表情を浮かべた。
なお、彼女の料理下手は筋金入りであり、周囲の反応が正常なのだが……本人はそこそこ出来ると思っていたりもする。
そしてこんな状況になって、残るもうひとりが参加……もとい火に油を注がないわけがない。
「クカカカカカ! いヤ、仕方ないサ。落ち込む必要はないヨ、シリウス。全身筋肉で構成されている君ニ、料理などという高等な作業を求める方が間違いというだけサ」
「……そうだな。まぁ、それでも死肉と死肉を混ぜてゾンビを作るぐらいしかできなさそうな死肉女よりは、まともだと自負しているがな」
「……ア?」
「……は?」
とうぜん煽ってきたラサルに、シリウスが煽り返さないわけもない。そうなると両者の間にはいつものように一瞬で火花が散り、それぞれ得物を構えて臨戦態勢に移る。
「……喧嘩するなら外でやってくれたまえ。飾り付けの終わった会場になにかあれば、怖い筆頭殿に吹き飛ばされると思うよ」
「「……」」
ポラリスの言葉を聞いて、シリウスとラサルは睨み合ったままそれぞれ剣と棺桶を持って城の外へ移動していった。
そして少しすると轟音が聞こえてきて、ポラリスは溜息を吐きながら会場が壊れないように結界魔法を発動した。
「やれやれ、まぁいつも通りといえばいつも通りかな……さて、私の仕事は終わったし紅茶でも……」
「そうか、それはいいタイミングであったな。手が空いたのなら料理を手伝え、ポラリス」
「筆頭殿……いつのまに……いやいや、私はこれから至福のティータイムと洒落こもうとだね」
「こまんでいい、さっさと来い」
「筆頭殿は私に厳しすぎやしないかい!? 私はいま、会場の統括という重役を果たしたばかりなのだよ……」
いつの間にか会場にはイリスが来ており、そのまま流れるようにポラリスの首根っこを掴んで連行していく。
「どうぜ、前半は見ていただけで誰かから突っ込まれて途中から参加したのであろうが」
「……困ったね。事実だけに言い返せない。ならばせめて、運搬方法の改善を要求する。うら若きかどうかはともかく、乙女である私は臀部で床を掃除する移動方法には抵抗があるのだが?」
「そうか、なら……」
「オッケーだ、筆頭殿。私が悪かった。ちゃんと立って歩く。だから魔法で吹き飛ばして運搬しようとするのはやめてくれ……料理をする前に私が料理されるのはごめんだ」
こちらもある意味いつも通りのやり取りで連行されていくポラリスを見送ったあとで、残されたウルペクラとスピカは顔を見合わせた。
「ウル~ウチらはどないしようか?」
「そうすね、アタシたちは、シリウスの馬鹿ほどじゃないっすけど、料理はあんまり得意じゃないですし……手伝っても邪魔になりそうすよね」
「そやね~足引っ張ってしまうかもしれんなぁ」
「なら別のことをするっす。時間はまだ余裕があるっすし、アタシたちからもアイシス様とカイト様にプレゼントを用意するのなんでどうっすかね?」
余談ではあるがウルペクラとスピカは仲がいい。無邪気で明るいウルペクラと、のほほんとして穏やかなスピカは、なんだかんだで性格的にも相性がいい。
「ええね~きっと、喜んでくれ張ると思うよぉ」
「そうっすよね! そして、あわよくばまた頭を撫でてもらえたり……えへへ」
「お似合いのおふたりやし~お揃いのもんがええかもなぁ」
「う~ん、アクセサリーとか花飾りとかなら、作れそうっすね。一緒に作るっすよ!」
「はいな~」
先の二組とは違い、こちらは楽しげな様子でどんなプレゼントにしようかと相談しつつ移動していった。
そして本編よりながいおまけ、六連星の詳細です
①黒暴星 イリス・イルミナス
六連星のまとめ役、皆のおかんポジ。一番仲の良いメンバーは、なんだかんだで古株同士なポラリス。アリスとはまた違った手のかかる相手ではあるが、それはそれでなんかかんだで嫌いではない。
本編で散々語ったので、特に追加で語ることはなし
②極北星 ポラリス
六連星の副リーダーポジションで、基本的にイリスの補佐を務めている。
『己の行動によって発生する結果を先に知る』という限定的な未来予知能力を生まれもっている。
一万四千年前ほど前に死にかけていたところをアイシスに助けられた魔族だが、当時力の弱い魔族だった彼女はアイシスの死の魔力に怯え、アイシスの前から逃げ去ってしまった。
命の恩人にロクに礼すらいえなかったことを深く後悔し、アイシスに救ってもらった命をアイシスのために使おうと、当時の交友関係を清算し魔界の極北にある無人島に移り住み、いつかアイシスに謝罪して配下となることを夢見て鍛錬に明け暮れた。
長い年月をかけて伯爵級最上位クラスの力を手に入れ、これでようやくアイシスの配下になることができると喜んだのもつかの間……ポラリスが能力によって知った未来では、なぜか自分が配下になろうとしても『アイシスの心を傷つけ悲しませる結果』しか見えなかった。
(当時のアイシスには配下を受け入れる心の余裕はなく、一番に願う力がなくとも自分を受け入れてくれる存在以外は目に入ってない状態で、かなり荒れていた)
ポラリスの能力は限定的であり結果を知ることはできても『過程や原因』を知ることはできないため、なぜ自分が配下になろうとしてアイシスを悲しませてしまうのかが分からず、動けないままでいた。
まだ力が足りないのかと、昼は鍛錬を続け、夜は能力を使いながらどうすればアイシスを悲しませることなく、配下になれるかを考え続けていたが……見える『結果』が変わることはなく、苦悩していた。
しかしある日突然見えていた結果が『アイシスの心を傷つけ悲しませる』から『アイシスが申し訳なさそうな表情でポラリスが配下になるのを断る』という形に変化した。
(アイシスが快人と出会ったことで、精神的な面に変化が現れたから)
それに可能性を感じ、いままで以上に能力を行使してアイシスの配下となる未来を求め続けた結果……『己がこの場で待つ』という行動の先に、『灰と黒の二色の髪の女性と共にアイシスの配下となっている』結果が見え、はやる気持ちを抑えながら、最果ての島でイリスの来訪を待ち続けた。
そして念願が叶い、アイシスにかつて言えなかった礼と謝罪を伝えるとともに配下になることができた。本音を言えば『死王配下筆頭』になりたかったこともあり、イリスに対しては当初複雑な気持ちを抱いていたが……一度イリスと模擬戦をしてからは、彼女こそが死王配下筆頭であると認め『筆頭殿』と呼ぶようになり、なんだかんだでいい関係を築くようになる。
アイシスのことは狂信というレベルで慕っており、己の命はアイシスのために存在すると思っている。ただ、パンドラのように傍目に見てわかる熱いタイプではなく、アインのように心の中で静かに忠誠心を燃やすタイプなのであまり周りには気づかれにくい。
③狐妖星 ウルペクラ
六連星最年少どころか、伯爵級高位魔族の中でも最年少の119歳。他を隔絶する圧倒的な天才であり、界王配下幹部である桜花姫ブロッサムの700年という記録を大幅に塗り替え、本来成長が遅いはずの魔族ながらたった80年という歴代最速で伯爵級最上位に上り詰めた存在。
アリス曰く『才能だけで言えば、リリアさんと並ぶ一種のバグキャラ』
かつて魔物だったころに怪我を負って倒れているところを、たまたま通りがかったアイシスと快人によって発見され、治療を施される(番外編・死の魔力への挑戦での死の魔力を仮克服後)
その際に余計なストレスを与えないようにと、快人と手を繋いで死の魔力を抑えたままアイシスが治癒魔法を施したことで、体内にアイシスと快人両方の魔力が入り込む。
ソレだけなら本来なんの意味もなかったが、元々持っていた才能と特性により結果として死の魔力に適応し、アイシスと快人に懐いた。
アイシスの強大な魔力に触れたことで眠っていた才能が開花し、すぐに魔族に進化、渇いたスポンジが水を吸収するように知識と力を身に着け、アイシスの配下となった。
アイシスと快人のことは大好きで、ふたりの前では素直で可愛らしい子供だが、ふたり以外に態度が変わり……特にシリウスとラサルには、すれ違いざまに顔へパイを叩きつけたり、喧嘩しているところに巨大な雪玉を落としたりなどのいたずらを繰り替えしており、シリウスとラサルからは『性悪狐』とも呼ばれている。
性格的な相性の良さからか、六連星の中ではスピカと仲が良く、ふたりで一緒に遊んでいることが多い。
巫女っぽい上着に、スカートとレギンスという改造巫女服みたいな恰好をしている。
④晶花星 スピカ
ブルークリスタルフラワーの精霊であり、いつものほほんとしており、居るだけで場が和むおっとりお姉さん。
関西弁と京都弁が混じったような独特の口調で、和服着ていそうなイメージだがドレス着てたり見た目は洋風である。
一番初めは魔界の中心地……『禁忌の地』にほど近い場所に咲いており、禁忌の地から流れてきた六王たちの残留魔力によって大きな力を得た結果、精霊が宿った。
だからといって特になにをするわけでもなく、魔界各地に移動しては数百年単位でのんびり風に揺れ、また思い出したように別の場所に移動して風に揺れるを繰り返していた。生粋ののんびり屋。
たまたま荒れ地に咲いていたところをアイシスが発見し、精霊が宿っていると知らないまま『こんななにも無い場所で咲いているのは可哀そうだから』という理由で持ち帰られた。
最初は死の魔力のせいで、アイシスを悪しき存在だと思っており姿を見せることはなく、隙を見て逃げようと思っていたが……アイシスのことを知る内に、すぐにそれは誤解であったと認識を改めて精霊としての姿を見せた。
その後、アイシスがブルークリスタルフラワーに深い愛着を持っていることなどを知ってアイシスのことを気に入り、最終的にアイシスの下で根を下ろすことを決めて、彼女の配下になった。
他の精霊族の例に漏れず、攻撃よりも防御が得意でその堅牢な守りは白亜の砦とも呼ばれる実力者……だが、そもそも戦いは好んでおらず、むしろ自慢はブルークリスタルフラワーをいくらでも咲かせられること。
普段はアイシスや六連星の面々とお茶をしたり、アイシスに許可をもらって、死の大地の一部でブルークリスタルフラワーを栽培していたりとのんびり過ごしている。
六連星の中で仲がいいのは、ウルペクラであり妹のように可愛がっている。
余談ではあるが、スピカがブルークリスタルフラワーを栽培している場所こそが、のちにアイシスの治める街である『クリスタルシティ』となる場所であり、スピカが育てた大量のブルークリスタルフラワーは街の象徴として観光名所になる。
本人的には多くの人がブルークリスタルフラワーを好きになってくれて、嬉しい限り。
⑤天刃星 シリウス
己の強さのみを追い求めていた虫人型の魔族。己の強さに自信があり魔界一の剣士を自称していたが、ある日謎の剣士に手も足も出ずに敗北し、その屈辱を胸に長年己を鍛え続けていた。
そして己の理想とする剣技を完成させ、圧倒的強者との戦いを望み、直接会いやすい六王であるアイシスの城を訪れ、アイシスに勝負してくれるように頼んだ。
結果として惨敗することになったが、突然の申し出にも快く応じてくれ、敗北した己を心配してくれるアイシスの優しさと強さに惚れ込む形で配下になることを望んだ。
早い話が『姐さんの強さに惚れました! 舎弟にしてください!!』みたいな感じである。
その後は、そこそこ似た経緯で入りながらも、正々堂々戦う誇り高き騎士タイプのシリウスとは真逆で、卑怯な手を使っても楽に勝つことが正義と考えるラサルと犬猿の仲になり、ほぼ毎日のように喧嘩をしている。
ただ別にラサルのことを心底嫌っているわけではなく、その実力は認めているし協力すべき時には協力する。
かつて己を倒した謎の剣士のことはいまも探し続けているが、凄まじい強者だった割に情報がまったくなくいまだ見つかっていない。ただそれほど焦っているわけでもないので、アイシスの配下として鍛錬を続けながらいつかリベンジ出来たらと前向きに考えている。
なお余談ではあるが、彼女を遠目に見たある超絶美少女が「……いや、違うんですよ……たまたま姿変えて、自分の作った剣で遊んでただけで……私、剣士じゃねぇんすよ」と呟いていたとかなんとか……。
⑥地縛星 ラサル・マルフィク
スーパーエリートぼっちにして、超絶引きこもりのネクロマンサー兼呪術師……長らく洞窟に籠って研究ばかりしており、外界にまったく興味がなかったため、勇者祭に出たことも無ければ六王すら存在は知ってても顔も見たことがないというレベルだった。
それこそ数千年に一度洞窟から外に出るかどうかというレベルであり、自分が伯爵級高位魔族であるということすら興味がないので忘れていた。
長い年月をかけて、ようやく思い描いていた研究が完成したことで洞窟を出た。そして次の目標を探すにあたり『とりあえず六王とかいうのがいるらしいけど、その中に自分を差し置いて死の王だとか名乗ってる身の程知らずがいるらしいので、誰が死の王に相応しいか分からせてやるか』というノリで、ロクに顔も実力も知らないままで、アイシスの城に襲撃をかけた。
自分と互角ぐらいか、それよりちょっと上程度だろうと予想していたが、登場したアイシスと死の魔力をみて……「ガチのやつじゃねぇか……」と『初手土下座』を決めた。
その時のラサルの心境としては……『てっきり死の王っていうから、自分の同じネクロマンサーかと思ってたら死の概念そのものみたいなのが現れた。これあかんやつや』である。
結果その時に流れで「配下になるためにきました」的なことを言ってしまい、そのままアイシスの城に配下として済むことになってしまった。
アッサリと騙されて歓迎するアイシスの甘さに呆れつつも、希少な本が山ほどあるし、主は甘っちょろいしで研究には最適な場所だと考えて、配下らしいことは一切せずに書庫に引きこもって悠々自適に研究を始めた。
しかし、そんな自分に対し住人が増えたことを心から喜び、引きこもってても文句ひとつ言わないわ、主の癖に差し入れ持って訪ねてくるわ、分からないところがあったら優しく教えてくれるわなアイシスの純粋さに、罪悪感から精神的フルボッコに……。
いつの間にかアイシスに絆されていたことを自覚し、改めてアイシスに配下として忠誠を誓い、今度は真面目に配下として働くようになった……まぁ、仕事は少ないので研究していることの方が多いが。
価値観の違いからよくシリウスと衝突しているが、シリウスと同様に心底嫌っているわけではなく「忌々しい奴だが私には一生できない生き方は、少し羨ましくもある」となんだかんだで認めているし、協力すべき時には協力もする。
ちなみにいつも巨大な棺桶を持ち歩いているが、中はマジックボックスのようになっており、彼女が製作した死霊兵が収納されている。




