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愛しき従者の願い②



 住んでる人が多くなく、どことなく静かな印象を受ける廊下を、俺は落ち着きなく歩いていた。

 今日は母さんと父さんの初仕事……クロの魔法具商会での研修実習生としての初日である。そして時間的にはそろそろ帰ってきてもよさそうな時間……ふたりとも大丈夫だろうか?


 もちろんセーディッチ魔法具商会ならと信用もあるし、仕事の経験で言えば母さんと父さんの方が俺より上なのだから、心配するのもおかしな話かもしれない。

 だけどここはふたりにとって異世界、俺もいまはもう慣れたとはいえ初めはいろいろ戸惑った覚えがある。そうなるとやはり心配にもなる。


 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、少し先……曲がり角になっている場所から明るい声が聞こえてきた。その声は間違いなく母さんと父さんのものだ。よかった、明るい声ってことはきっと上手くいったんだろう。やっぱり心配し過ぎだったかな?

 ホット胸を撫でおろしたあと、声の聞こえる方向に向かおうとして……聞こえてきた内容に足を止めた。


「でもすごいよね、快人! 私、快人がこんな大活躍してたなんて知らなかったよ」

「まぁ、快人はあまり自慢するようなタイプじゃないからね。僕たちに知られるのは気恥ずかしかったのかもしれないよ」


 ……え? なんだ? 母さんと父さんは、いったいなんの話をしてるんだ? 俺の話みたいだけど……大活躍?

 あまりにも気になる内容だったので、俺は足を止めたままで聞き耳を立てる。母さんと父さんも立ち止まって会話をしているのか、こちらに移動してくる感じはない。


「レオノーラさんには感謝だね。本を貸してくれたおかげで、快人の活躍を知ることができたよ」

「あぁ、しかし、本当にすごい活躍だね……たしかにこれなら、エルフ族の英雄と呼ばれているのも納得できる」


 なんだこれ、ものすごく嫌な予感がする……本? エルフ族? 思い出せ、なにかあったはず……。


――ミヤマくんの活躍を題材にした本や劇もあるね


 あっ、あぁぁぁぁぁ!? お、思いだした! リグフォレシアに行ったとき、レイさんとフィアさんが言っていた本……あのあとジークさんと恋人になったりといろいろあって、完全に忘れてた!?

 そ、そそ、そういえば、続巻が出るとかなんとか言ってたような……。


「八巻まで出てるなんて、私も親として鼻が高いよ!」

「なんというか、子供の成長というのは早いものだね」


 八巻!? え? うそ、そんなに出てるの俺の本? いやいや、八巻分も書くようなことしてないだろ!?

 そういえば、レイさんとフィアさんがブラックベアーを倒したのも俺ってことになってるとか、そんなことを言ってたような……。


「……快人が『数百匹を一蹴した』っていうブラックベアーって、やっぱり強い魔物なのかな?」

「う~ん、ベアーというからには熊のような魔物っぽいね。普通の熊一匹でも僕たちから見れば脅威なわけだし、それを数百匹となると快人も相当強いんだろうね」

「快人は魔法は使えるけど強く無いって言ってたけど、謙遜だったのかな?」

「比較対象が強すぎるんじゃないかい? シャローヴァナル様だとかクロム様だとかを対象にするとって意味かもしれないよ」


 えぇぇぇぇぇぇぇ!? ちょっと、待って……なんか信じられない方向に話が進んでるんだけど!? 強くないよ! 俺がよくいままで比較対象にあげられたの、スライムとゴブリンなんだけど!!


「さすが私の快人! 私の自慢の息子だね!」

「おいおい、僕の息子でもあるんだからね」


 ふたりとも、目を覚ましてくれ……その息子は、フィクションの世界の息子だ。実在しないから……と、ともかくこの流れはマズい、早く誤解を解かないと。

 そう思いながら足を踏み出そうとした直後、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……おや? アカリ殿にカズヤ殿、廊下で立ち止まってどうされましたか?」

「あっ、アニマちゃん! 見て見て、この本! 快人の活躍が書かれてるんだよ」


 ここで、アニマだと!? こ、これはマズい、さらなる誤解が積み重なるパターンだ。アニマのことだから、思いっきり俺を持ち上げて話しそうな気がする。

 もっと早くに出ていくべきだった。いや、まだ間に合う! いまから……。


「あぁ、その本であれば自分も目を通したことがあります。ですが、内容は物語向けと言いますか、かなり脚色されていますよ」


 ………………おや?


「え? そうなの?」

「えぇ、いまアカリ殿がもっている一巻で言えば、ブラックベアーを全滅させたのはご主人様であるとなっていますが、実際は違います。ご主人様が戦ったブラックベアーは一匹……まぁ、なんというか自分です」

「アニマちゃんと!?」

「えぇ、その経緯は今度ゆっくりさせていただくとして……あの際、ご主人様は足が竦んで動けなくなったユズキ殿を守るために、実力差を理解しながらも自分に立ち向かいました。その勇気が称賛されるべきものであるのは疑うべくもありませんし、その時のご主人様の強き心を見て自分はご主人様に仕えることを望みました。ただ、実際に自分を討伐したのはリリア殿です」


 予想外の展開になってきた。俺はてっきり、また過剰すぎるほど俺のことを持ち上げて話すのかと思っていたが、アニマが語った内容は実際の出来事そのままだった。


「ブラックベアーの大群を全滅させたのも、ご主人様ではなくアイシス殿です。まぁもっとも……ご主人様があの場にいなければ、アイシス殿は表れなかったでしょうし、そういう意味ではご主人様のおかげといっても間違いではないかもしれません」

「な、なるほど……」

「収穫祭の内容についても、ご主人様の大記録はリリウッド殿の助力によるものが大きいです。とはいえ、リリウッド殿の助力が無くともご主人様は大差で優勝していました。その後のリグフォレシアのことを考えた優しい願いは、称えられるのも当然ですし、間違いなくご主人様はリグフォレシアにとっては恩人であり英雄でしょう。ただやはり、大衆向けの本ということもあって、内容はやや装飾過多のようにも思えます」


 穏やかな声で母さんと父さんの誤解を解くように語るアニマから、なんとなく以前とはどこか心境の変化があったように感じられた。


「ふむふむ……教えてくれてありがとう、アニマちゃん」

「いえ、あとできれば……その本のことはご主人様には内緒にしていただけませんか? ご主人様は過剰に称賛されることを好む方ではありませんので、その本はご主人様には負担にしかならないと思うんです」


 母さんの言葉にアニマは温かく優し気な声で答える。


「あぁ、本当に助かったよ。危うく快人に余計なプレッシャーを与えてしまうところだった。しかし、アニマちゃんは凄いね。快人のことをいろいろ考えてくれて、本当に立派だよ」

「従者として当然のこと……と返すべきなのでしょうが、違いますね。敬愛するご主人様に笑顔でいてもらいたくて、自分が好きでやっていることです。なので、称賛は不要です」


 その言葉を聞いたあと、俺はそっと足音を立てないようにその場から移動した。つい微笑んでしまいそうになる口元を隠すように手を当てながら……。

 なんて言えばいいのか、自分が好きでやっているのだと力強く答えたアニマの言葉が、なんだか無性に……嬉しく感じたからだ。





事実を語っているようで、大好きオーラまったく隠れてないし、普通に絶賛しているアニマ。



シリアス先輩「それじゃあ、前回大好評だった私が答えるQ&A第二弾だ!」

???「え?」

シリアス先輩「うん?」

???「いや、なんでもないです。続けてください」

シリアス先輩「じゃあまず一つ目、『狐妖星とアリスの口調似てない?』」

???「これはいくつかありましたね……ふざけないでください! いいですか、勘違いしている人も多いので言っておきますけど『アリスちゃんは基本敬語』で『時々気分で崩れる』て、『ねぇ』とか『~す』って言い回しを使うんです!」

シリアス先輩「……気分なの?」

???「気分です。実際同じような言い回しでも使ってないことありますし、むしろ使わないことの方が多いんです! なのでまったく被ってません!! いいですか、ここテストに出ますからね!!」

シリアス先輩「……ムキになって否定するあたり、自分でも似てるところがあると思ってるんじゃ……」

???「……二度とあとがきに出れない体にしてやりましょうか?」

シリアス先輩「あ、はい、すみません。狐妖星とアリスは欠片も似てないしなんの関係もない。はっきり覚えました……じゃ、気を取り直してふたつ目『アイシス配下のことがもっと知りたい』、はいどうぞ」

???「これに関しては設定も固まってきたので、クリスマスあたりに番外編として未来のお話を出そうと思ってるみたいです。実際本編に登場は相当先になるでしょうしね」

シリアス先輩「なるほど、じゃあ今回はここまで!」

???「……いや、だから……答えてるの私……」

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― 新着の感想 ―
[一言] この親にしてこの子ありな人の良さと信じやすさ。もしかして快人の身内には評価ガバガバでバカになるのってこの両親の親バカ遺伝した?
[一言] 可愛い…(/∀\*)
[良い点] カイトとクロやアイシス達との掛け合いがとてもいいと思う。 [一言] イルネスの章などはないでしょうか?
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