王の力①
「へぇ、まぁ互いに歩み寄ろうとしていた状態を考えると、切っ掛けがあれば仲良くなれるのには納得ですが……本祝福までするとは、さすがのアリスちゃんも驚きましたね」
「やっぱり、本祝福ってそう簡単にはやらないものなのか?」
両親とフェイトさんの関係も好転した翌日、俺はことの顛末の報告も兼ねてアリスの雑貨屋に足を運んでいた。
イリスさんのバーから直通で繋がってはいるんだけど、なんとなく帰りにウインドショッピングでもしようかと普通に歩いて雑貨屋にきた。
「そうですね。本祝福ってのは神族にとっても大きな意味を持つものですからね。特に最高神であるフェイトさんの本祝福は……まぁ、するかしないかは個人の裁量とはいえ、今回のは異例中の異例って感じです」
「それはやっぱり、不老になるから?」
「いえ、それはあくまで副次的な効果……たしかに祝福によって得られる効果は大きなものです。ですが、本祝福のキモってのはそこじゃないんすよ」
「……えっと」
すぐにはその理由が思い浮かばずに首をかしげていると、アリスは真剣な表情を浮かべて指を二本立てた。
「最大のキモといえる効果はふたつ……まずひとつは、本祝福を受けたものはその神の名を持って発言することを許される。これはカイトさんも知ってるでしょうけど、実はこれものすごく大きな力なんです」
「……たしかに、神の名を持って発言できるのはすごいことだと思うけど」
「……ありえないことではありますが、例えば仮にアカリさんとカズヤさんが『悪意を持って神の名を用いて発言』したとしても、本祝福を与えたフェイトさんは『その発言を支持』します」
「ッ!?」
「たとえそれが百人中九十九人が間違っていると思う内容であっても、フェイトさんだけはソレを肯定する……しなければいけないんです。神族にとって名とは、権能と共にシャローヴァナル様から直接与えられたもの、その名を用いた発言に背くのは、神族にとってとても大きな恥になります。まぁ、あくまで恥というだけなので、内容によっては無視することもあるでしょうけど……積極的に否定することはまずないでしょう」
なるほど、アリスの言葉の意味が理解できた。つまり本祝福は、神族側にとっても場合によっては意に反した行動をとらなくてはならなくなるようなリスクがあるものというわけだ。
だからこそ、本祝福は本当に心から信頼した相手にのみ与えられるものなのか……。
「そしてもうひとつ、こちらの方が大きいです。本祝福を受けるということは、その神の『庇護下』に入るということでもあります。先ほど言った通り神族にとって大きな価値を持つ名前、それを用いて祝福を与えた者が害されると言うことは、神族にとってはシャローヴァナル様から貰った名前に泥を塗るに等しい行為になるわけです」
「つまり例えば、母さんと父さんに危機が迫ったとしたら……」
「フェイトさんは普段だらけてますが、神族らしさってのもちゃんと持ってるので、まず間違いなく出てきます。これもあり得ない想定ではありますが、仮にカイトさんの両親が六王と敵対して命の危機に瀕したとしたら、フェイトさんはたとえ相手を殺すことになったとしてもカイトさんの両親を守ります」
「……なるほど、それはたしかにとんでもないな」
「えぇ、しかもこちらの恐ろしいところは……判断は個々に一任されていることです。他の人が大丈夫と思っても、フェイトさんの基準で害されたと認識すればアウトって感じですね。神族によっては、仮祝福でも同様に庇護下の者を守ろうとする方もいますね」
そういえば以前メギドさんが現れた時に、クロノアさんが『リリアを守る義務がある』と発言していた覚えがある。あの時はまだ仮祝福だったけど……アレはクロノアさんの裁量で、仮祝福であっても己の庇護下と定めていたということだろう。
「そんな風にフェイトさんにとってもいろいろ手間になることを承知で本祝福をしたってことは……フェイトさん自身、なんだかんだで変わるきっかけをくれたカイトさんの両親に感謝してるんでしょうね」
「……そっか」
「まぁ、別によっぽどのことが起こらない限りはちょっと便利なバフ程度ですし、むしろ両親の安全という点ではプラスなわけですし、深く考える必要はありませんよ」
「……だな」
本当にありがたい話だ。いざとなったらフェイトさんが両親を守ってくれると考えると、ものすごく安心感がある。フェイトさんには今度改めておい礼をしよう。
「ともあれ、これでカイトさんの両親に関する問題は、アリスちゃんの件を残して解決しましたね!」
「いや、お前の件もこの前のバーで解決してる」
「……本当に失敗しました。バー作るべきじゃなかったと、割とマジで後悔してます。昔の自分を知ってる相手って厄介ですねぇ……あっ、ところで、話は変わりますが……」
「うん?」
「そのイリスなんですけど、シャローヴァナル様から貰ったアイテムを元に造った体も安定してきたので、リハビリというか……本格的に能力に見合った戦闘技術を教えようと思うんですよ。せっかくですし、カイトさんも見に来ますか?」
よほど過去の話題には触れてほしくないのか、やや慌てながら話を切り替えるアリスに苦笑しつつ、俺は気になったことを聞き返す。
「……その前に聞きたいんだけど、リハビリって?」
「えっと、いまのイリスは私の能力を元にそれこそ六王並の基本スペックはあるわけなんですが……言い方は悪いですけど、それ以外は死んだときのまま……人間レベルでしかないんですよ。まだまだ課題は多いんですよ。なのでこのあたりで一度、高次元の戦いを経験してもらおうかなぁと思ってます」
「つまり、強い人と戦うってこと?」
「えぇ、というか……アイシスさんと模擬戦します」
「……マジで?」
なんだろうこれ、なんかとんでもないことになってきたような……片や魔界の頂点の一角、片や以前凄まじい魔力砲撃を見せてくれた六王並のスペックを持つイリスさん。
正直、世界のひとつとか簡単に滅びそうな戦いなんだけど……大丈夫なのかなぁ?
シリアス先輩「ちなみに、いまのイリスの強さって大体どれぐらい?」
???「まぁ、総合的に見て『伯爵級上位』前後ってところですかね」
シリアス先輩「え? でも、以前伯爵級最上位のアグニに勝ってるよね?」
???「アレは、ルールと巻き込んじゃいけない観客がある試合で、かつアグニさんが正面からの力比べに応じてくれたからですよ。ガチで殺しあったらいまのイリスには勝ち目ありません」
シリアス先輩「……え? でも心の声で死ぬとか……」
???「言っときますけど、六王幹部レベルになると全員ほぼデフォルトで自己蘇生ぐらいできますからね。死んでも自力で生き返りましたよあの人」
シリアス先輩「……すげぇな、六王幹部」




