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神の成長⑧



 いよいよ訪れた両親とフェイトさんの二回目の顔合わせ……もといお茶会は、最初からすさまじく重い空気で開始された。

 いや、決して険悪な空気というわけではない。しかし、両者ともに俺から見てもわかるぐらい肩に力が入りまくっていた。


「……」


 フェイトさんからは一回目以上になんとか歩み寄ろうと気負うような焦りが、母さんと父さんからはなにか会話の糸口を見つけたいが見つからないという戸惑いが伝わってきていた。

 早い話が、両者ともに緊張しまくっており、それが互いにも伝わっているので行動を起こせずにいる感じだ。


 う~む、難しいところだ。いまここで俺が割って入って話を展開するのは可能だが、現状の肩に力が入りまくった状態で話をしても、いい結果になるとは思えない。

 少し落ち着いてもらわないと上手くいくものも上手くいかないだろうけど、沈黙が続けば続くほど話を切り出すのが難しくなってくる。

 やはり多少強引でも、俺が話題を振って話を進めるべきかと、そう考えて口を開きかけたタイミングで、沈黙に耐えられなかったので母さんがギクシャクした様子で立ち上がった。


「……あ、えっと、紅茶のおかわり入れますね!」


 今回はいろいろ気まずい雰囲気になるだろうということもあって、この部屋に他の人はいない。イルネスさんが紅茶の入ったポットと茶菓子だけはカートに乗せて置いておいてくれた。

 そして母さんが紅茶のおかわりを入れに行こうとして……なにか、メモ帳のようなものが床に落ちた。


「……アカりん、なにか落とし……うん? 異世界の文字かな……えっと、『夢ノート』?」


 たまたま近くに落ちたメモ帳をフェイトさんが拾い上げ、表紙に書かれている日本語を見て首を傾げた。しかし直後に人差し指を自分の額に当て、その指が一瞬光ったかと思うと、フェイトさんは何事もなく日本語で書かれたタイトルを口にした。

 勇者召喚で自動付与される翻訳魔法みたいな感じだろうか?


「あ、えっと、それは……夢というか、目標というか、そういうのをまとめたメモです」

「母さんは昔から、なにか目標ができるとメモに書いて、ソレが叶ったら印をつけるってのをやってました。自分がなにをしたいと思ったか、なにをしてこれたかを忘れないためだって」

「……ふ~ん……あ、いや、えっと……中見てもいい?」


 母さんの言葉に父さんが補足を入れると、フェイトさんは興味なさげに呟いたあと……ハッとした表情を浮かべたあと、中を見ていいか母さんに尋ねた。

 たぶん「ふ~ん」で会話を終わらせてしまいそうになったから、慌てて付け加えたんだろう。こういうところからも、フェイトさんが歩み寄ろうと頑張っているのは伝わってくる。いい流れになってくれるといいが……。


「あ、はい。で、でも、生き返ってから覚えてた内容を走り書きしてるだけなので……あまり面白くはないと思いますが」

「そっか……へぇ、いっぱいあるね。んと、横に花みたいな印があるのが叶ったやつかな……」


 フェイトさんは呟きながらメモ帳を読み進めていくが、表情と感応魔法で察するに興味が持てるようなものでは無いみたいだ。

 そのままフェイトさんはパラパラとメモを捲り……ふいに手を止め、ジッとメモを凝視し始めた。


「……」

「フェイトさん?」


 いままでとは違うその反応に首を傾げつつ、フェイトさんの後ろに回ってメモを覗き込んでみると……開かれていたのは、一番新しい夢が書かれたページだった。

 そこには『頑張ってフェイト様と仲良くなる!』と母さんの字で書き込まれていた。

 フェイトさんはその文字をしばらく見つめたあと……フッと呆れたような表情で苦笑した。


「……そっか……そういうことだったんだ」

「えっと、フェイトさん?」

「カイちゃん、私さ、シャローヴァナル様に言われたんだ。私がカイちゃんの両親に興味を持つためには、足りないものがあるって……それが、いま、やっとわかったよ」


 静かな声でそう言ったあと、フェイトさんは手を自分の額に当てながら天を仰いだ。


「あ~もぅ、私って馬鹿だなぁ。長いこと生きてきたのにさ、こんな簡単なことにも気付いてなかった。権能を使ったら思い通りに相手を動かせるからって……『相手のすべてを知ってるわけじゃない』のにさ……」

「それが、足りなかったものなんですね?」

「……当たり前だよね。『相手のことを知ろうともしない』ままじゃ、普通は興味なんて抱けないよね。私がするべきだったのは、ただ漠然と興味を持とうとするんじゃなくて……相手のことを知ろうと努力することだったんだ」


 まるで憑き物が落ちたように微笑んだあと、フェイトさんは戸惑う母さんと父さんの方を向き……勢いよく頭を下げた。


「フェ、フェイト様!?」

「い、いったいなにを……」

「ごめん! 私、いまのいままでふたりにまったく興味も無かったし、価値も感じていなかった。いや、勝手に価値なんてないって決めつけてた。神様だなんだと偉ぶってても、私はそんなことにすら気づかない未熟者だった。ふたりには、たくさん怖い思いをさせちゃったと思うし……まずはそれを謝らせてほしい」


 なんだろう? 滞っていた流れが動き出すような、ズレていた歯車がピッタリと噛み合うような感覚がした。

 長年持ち続けてきた価値観を変えるには、時間か大きな切っ掛けが必要になる。偶然ではあるが、その切っ掛けが転がり込んできた。

 フェイトさんは少しの間頭を下げ続けたあと、顔を上げて母さんと父さんに告げた。


「……勝手な言い分だけどさ。私はカイちゃんにとって大切な人たちのことも、大切に思えるようになりたい。だから、本当にいまさらだけどふたりのこと知りたいんだ……教えてくれるかな?」

「……じゃあ、その代わり、フェイト様のことも教えてくれますか? 私たちも、フェイト様のことをもっと知りたいので……」


 フェイトさんの雰囲気が柔らかくなったことで、母さんと父さんの表情にも笑みが浮かんだ。そして、母さんが告げた言葉を聞いたフェイトさんも、どこか楽し気に笑った。


「おっけ~、じゃ、お互いにってことだね」


 本当にいい流れだ。コレならもしかすると、今回でこの件は解決するかもしれないと、そう思えるほどに……あとは、要所要所でしっかり俺がフォローして会話が弾むようにしよう。

 そんなことを考えつつ、俺も微笑みながら口を開いて、三人の会話に加わっていった。





天然神「ドヤァァァ」

シリアス先輩「う、うぜぇ……あ、次回で神の成長は終わりらしいよ。その次は、バトルだ! シリアスだ!」

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