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神の成長⑤



 イリスさんが作ってくれたカクテルを楽しんだあと、出されたつまみを食べながら俺は本題をアニマに切り出した。


「それでアニマ、相談なんだけど……フェイトさんと、母さんと父さん。どちらも歩み寄ろうとはしてるみたいなんだけど、なかなかうまくいかなくてね。なにかいい方法が無いかと考えていたところなんだ」

「……なるほど、難しい問題ですね。自分にも経験があります」

「アニマにも?」

「えぇ、ご主人様もご存知の通り、自分は元ブラックベアー……魔物でした。そしてそんな魔物である自分が人となりましたが……やはり、馴染むのは時間がかかりました。魔物であった頃の自分にとって、気に入らないものは力で解決するというのが常識でした」


 そう言われて思い出したのは、出会ったばかりのころのアニマ……あの頃のアニマは、それこそ本当に抜身のナイフみたいに喧嘩っ早かった。

 それはブラックベアーとして生きていたころは、ソレが当たり前だったからなのだろう。だがそれから徐々にアニマは軟化してきたというか、最初のころほど周りに威圧的に接したりはしなくなった。

 そしていまは常識や教養を身に着け、安心していろいろなことを任せられる存在に変わっている。


「フェイト殿は神、姿は似ていてもやはり価値観などは人族と相違があってしかるべきです。魔物としてせいぜい20年程度しか生きていない自分でも、なかなかに手間取りました。長い年月を生きているフェイト殿にとっては、自分以上に己を変えにくいのかもしれません」

「……なるほど、ちなみにアニマは考えを改めたというか、そういうきっかけみたいなものはあるのかな?」

「……そうですね。いま、思い返してみれば……アリス殿を見たのがきっかけでしたね。それまでの自分は、周囲を見下していました。自分は他の同族よりも強い個体だったせいか、ご主人様とシャローヴァナル様以外のことは……心の奥底で、下に見ていたのかもしれません」


 軽くグラスを傾けながら、アニマはどこか昔を懐かしむような表情を浮かべる。


「あの当初でもリリア殿は自分より遥かに強かったですが、実際の戦いをしっかりと見たことはありませんでしたし……漠然といまは勝てなくてもいずれ勝てると思っていたのかもしれません」

「それが、アリスを見て変わった?」

「はい。当初自分はアリス殿を人間だと思っていたこともありますが……例のシグマ殿との戦いを見て背筋が凍る思いでした。その後に現れたバッカス殿も強大な力を有していましたが、それよりも、リリア殿よりも……底知れない力をアリス殿から感じました」


 なるほど、アニマはたぶん魔物として生きてきた時間が長いからか、本能的に強者を見極める嗅覚を持っているのだろう。

 あのシグマとの戦いから、世界でも最強格といっていいアリスの力の一端を本能で感じ、恐れた。


「自分が酷くちっぽけに思えました。なぜ自分は、こんなに低い場所でふんぞり返っていたのだろうと……そこからはご主人様もご存知の通り、アリス殿に劣等感を感じ……ご主人様の言葉で、前を向いて歩いていけるようになりました。そこから、ですね。周りを低く見ないようになってから、自分の価値観は変わり始めたと思います」

「……なるほど、認識が変わる、なにかの切っ掛けか……」

「えぇ、ですが、大きなきっかけがあるのが最善ではあるのでしょうが……そう簡単にいくとも思えません。なので、やはり月並みな方法ですが互いが話をできる席を、多く用意するのがいいのではないでしょうか?」


 たしかに、ここはアニマの言う案が一番のような気がする。フェイトさんの価値観が変化するにしても、それに繋がるきっかけが現れるにしても……機会は必要だ。

 実際問題外野がああだこうだ言ったとしても、即座になにかが変わるわけではない。だけど、そういった場を用意することは外野である俺にもできる。


「ありがとうアニマ、なんとなくやるべきことが見えてきた気がするよ」

「ご主人様のお役に立てたのなら、なによりです」


 そう、間には入れる俺がお茶会だとかそういう場を用意して、フェイトさんと両親が会う機会を多くする。最初は俺越しに話していたとしても問題ない。

 焦らず少しずつ、俺が話題を振ったりして話しやすくすればいい。そうして多く会話をしていれば、いつか変わるきっかけのようなものが見つかるかもしれない。

 見つからなかったら見つからなかったで、その時に改めて別の手段を考えよう。


 少し視界が開けたように感じながら、カクテルの入ったグラスを手に持つと、そこにカルパッチョのような料理がのった小皿を差し出しながら、イリスさんが口を開いた。


「なれば、この言葉を贈っておこう。器用貧乏ではあったが、なにもかも二流どまり程度の凡才。それても、長い年月をかけすべてを超一流にまで鍛え上げた馬鹿が、昔言っていた言葉だ。『私の辞書には不可能って文字は赤の太字で入ってるけど、諦めるって言葉はないんだよ』……とな」

「……いい言葉ですね」

「あぁ……それと『大きな障害を前にして、越えられるかどうかなんて考えても意味ないよ。考えるべきなのは、どうやったらその壁を越えられるか、でしょ?』とも言っていたな。まぁ、そういう前向きな……呆れるほど馬鹿な親友が我にはいるのだ」


 不可能でも諦めない。諦める暇があったらどうやって不可能を可能にするかを考えるか……さすが、別世界で英雄と呼ばれるだけはある。いい言葉だ。

 まぁ、なんか後ろで真っ赤な顔を両手で抑えながら地面を転がってる奴がいるけど、気にしないことにして……アニマとイリスさんのおかげで、やるべきことは見えた。あとは行動するだけだ。





シリアス先輩「なんだこの0異次元ネットの書き込みは! 私が酒に詳しいのはやけ酒してるからだと……ここにはココアしか置いてないんだよ! 私だって酒に逃げたいよ!! でもないんだよ!! 酒とか食べ物について書かれてる本とかは山ほど置いてあるけどね!!」

めーおー「……あの…‥それ……ボクの……」

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[気になる点] 価値観の違う異世界で、種族どころか存在の次元が違うのに「俺の親だから仲良くして欲しい」ってのは酷く傲慢に感じる
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