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番外編~エピソード・オブ・ルナマリア~②



 王女リリアンヌの前に突然現れ、意味深な言葉を残して去っていったルナマリア……しかし、それ以後一年、ルナマリアがリリアンヌの前に現れることはなく、いつしかリリアンヌも彼女のことは忘れてしまっていた。

 そしてちょうど一年後の武術大会に……ルナマリアは現れた。


「大変です! 師団長!」

「どうしました?」


 控室に飛び込んできた部下の女騎士に対し、リリアンヌは不思議そうに聞き返す。


「ジ、ジークリンデ副師団長が……負けました!?」

「なっ……ジークが!? そんな馬鹿な……いったい、誰に……」


 リリアンヌとジークリンデはすでに騎士団内はおろか、国単位で見ても頭一つ抜けた戦闘力を有している。リリアンヌもそれはよくわかっており、間違いなく今年もジークリンデと決勝を戦うはずと思っていた。

 しかしそれは覆され、次にリリアンヌはその相手が誰かを尋ねた。ジークリンデが敗北する相手となると、騎士団内では騎士団長ぐらいしか思い浮かばない。

 だが騎士団長は過去に10年連続優勝して殿堂入りとなっており、現在は武術大会には参加していないはずだった。


「……黒百合です。黒百合の冒険者ルナマリア」

「……ルナ……マリア」


 部下の告げた名前を聞き、リリアンヌの脳裏には一年前に出会った青髪の女性が思い浮かび、自然と剣を持つ手に力がこもった。

 そのまま詳しい話を聞こうとしたタイミングで、第二騎士団に割り当てられた控室にジークリンデが戻ってきた。


「ただいまもどりました。すみませんリリアンヌ……負けてしまいました」

「えぇ、いま聞きました……貴女が負けるほどに強いのですか? 黒百合は……」

「強いというよりは巧いという方が正しいでしょうね。私は完全に『封殺』されてしまいました。冒険者は騎士団と違い少数で動くことが多いため、優れた冒険者ほど万能であると聞きますが……彼女はまさにそれでしたね。私の戦いの癖を見抜いていたのか、全然思い通りに戦わせてもらえませんでした」

「……それほど、ですか」


 リリアンヌはジークリンデの強さをよく知っていた。だからこそ、彼女が封殺されたというのが信じられなかった。

 しかしその後話を聞き進めていくうちに、ルナマリアが凄まじく強いことを理解した。ジークリンデが得意とする付与魔法。それの特性と発動のタイミング見切っており、状況に応じであえて武器を捨てて別の武器に切り替えたり、発動の瞬間を邪魔したりと見事な立ち回りを演じてみせたらしい。


「……気を付けてください、リリアンヌ。純粋な身体能力は貴女が上ですが、恐ろしく多芸な相手です。技術は負けていると思って臨む方がいいですよ」

「……わかりました」


 ジークリンデの言葉に真剣に頷いてから、リリアンヌは大剣を手に持ち自らの試合に向かった。








 武術大会の決勝戦。順調に勝ち上がったリリアンヌの前に立つのは、予想通りジークリンデを打ち破ったルナマリアだった。

 短めの槍を片手に持ち、もう片方の手に盾を持つルナマリアの後ろには、剣や斧といった大量の武器が地面に突き立てられている。

 武術大会では試合中にマジックボックスの使用は禁止されている。そのためルナマリアのように複数の武器を状況に合わせて切り替える者は、事前にマジックボックスから外に出して置いておかなければならない。

 そんななルナマリアを見て、リリアンヌはなるほど……ジークリンデの言う通り厄介そうな相手だと認識し、静かに大剣を構えた。


 一年前はよく喋っていたルナマリアだが、研ぎ澄ましているのかリリアンヌを前にしても一言も話さない。しかし、審判が試合開始を告げた瞬間、ルナマリアは口を開いた。


「一年ぶりですね。王女殿下」

「……名前は名乗ったはずですよ?」

「あ~覚えてますよもちろん。ゴリアンヌとかそんな感じでしたよね。頭オカシイ脳筋にふさわしい名前ですね」

「……」


 リリアンヌはあまり煽り耐性は高くない。というのも基本的に王女であるリリアンヌを、ここまで真正面から彼女を貶す相手は普通いない。

 そのためルナマリアの言葉に、リリアンヌは額に青筋を浮かべた。


「覚悟は、いいですか?」

「御託はいいから、さっさとかかってきてください……王・女・殿・下」

「このっ!」


 腹立たしいルナマリアの笑顔を見て、リリアンヌは全身に魔力を雷の如く迸らせながら地を蹴り、一気にルナマリアに向かった。

 凄まじいとすら表現できるスピードでルナマリアに接近したリリアンヌは、ルナマリアの手前で……『ルナマリアが会話しながらこっそり魔法で掘っていた落とし穴』にはまり、落下した。


「……ぷっ、くくく……あははは! 綺麗にハマりましたね! 最高です! ねぇ、いまどんな気分ですか? 覚悟はいいですか……とかカッコいいこと言って、落とし穴に間抜けにハマった気分、ぜひ聞いてみたいですねぇ」

「……」


 我が意を得たりとばかりに煽り倒すルナマリアの言葉に、リリアンヌは穴の中でプルプルと怒りに体を震わせる。

 そして怒りのままに飛び出して落とし穴を抜けようとして……『蓋のように展開された空気の壁』に思いっきり頭をぶつけた。


「~~!?!?」

「本当に単純というか、素直というか……思い通りに罠にはまってくれますね」

「ゆ、許しません! このような卑怯な……絶対に許しませんからね!!」


 リリアンヌは憤怒に染まった表情で剣を一閃し空気を壁を粉々に砕き、穴から飛び出して剣を構える。もはや一部の油断もしないという意思が瞳に宿っている。


「……甘いですね。本当に貴女は甘いです。気づいていないんですか? 私がなんのために落とし穴という手を使ったか……」

「なにを……」

「もう遅い! 後ろを見てみなさい! 私の『必殺術式』はすでに完成しています!!」

「なんですって!?」


 ルナマリアの言葉を聞いて慌てて背後を振り返ったリリアンヌだが……どこにも必殺術式などなかった。


「うっそです!」

「なぁっ!?」


 そして無防備な背中にルナマリアのドロップキックが炸裂し、大きく吹き飛ばされた。


「……こ、この! 卑怯者!!」

「戦略と言ってほしいですね。勝てばいいんですよ、勝てば」


 もはやリリアンヌは血管が切れそうなほど怒りの表情を浮かべ、それでも冷静に大剣を構えたまま、いくつかの魔力弾を飛ばし地面に落とし穴がないことを確認、再び地を蹴り……『いつの間にか足に巻き付いていた草に足をとられた』。


「は? え?」


 またも嵌められたことに驚きながら、前のめりに倒れようとするリリアンヌ。気づいた時には目の前にルナマリアが居て、大きく手を振りかぶっていた。

 そしてその手には、なぜか白いクリームを塗りたくった『パイ』があった。


「いい角度、貰いました!」

「なんでパ――ぶっ!?」


 パイはリリアンヌの顔に綺麗にぶつかり、その顔を白く染め上げた。なんとも言えない沈黙が会場に流れる中……リリアンヌは袖で顔を拭き、大きな声で叫んだ。


「なに笑ってるんですか! もう絶対に許しませんからね!!」

「ふふふ、かかってきなさい」


 いまのリリアンヌの表情は、観戦していたジークリンデですら初めて見るものだった。なんというか、リリアンヌは昔から良い意味でも悪い意味でも大人びていた。

 こんな風に感情を爆発させることなどなかった。しかし今はどうだ? ムキになってルナマリアに向かい、撃ち合うリリアンヌは怒っている……怒っているのだが……どこか、楽しそうに見えた。


「なかなかやりますね。ならばここで私のトンファー術を見せてあげましょう!」

「蹴り!? トンファー使ってないじゃないですか!」

「使ってますよ。これが分からないなんて、ガキですねぇ」

「ガキじゃありません!」


 言い合いをしながら武器を次々変えて戦うルナマリアあと、喧嘩するように真正面から剣をぶつけるリリアンヌ……まるでふたりは、悪友のようだった。

 そのまましばらく打ち合いが続いたあと、ルナマリアが武器を槍に切り替えたのを見て、リリアンヌは微かに笑みを浮かべた。

 そして突き出された槍を足場に跳躍し、驚くルナマリアを見ていたずらが成功したような無邪気な笑みを浮かべながら大上段に大剣を構えた。

 そんなリリアンヌを見て、ルナマリアはフッと笑みを浮かべる。


(そうですよ……『その顔が見たかった』んですよ)


 戦っているのに笑い合う二人、ソレを見てジークリンデがどこか羨ましそうな表情を浮かべた。


「貰いました!」

「あまいっ!」

「なぁっ!?」


 振り下ろされる大剣に対し、ルナマリアは武器を投げ捨て両手の拳で刃を挟み込むように受け止める。その拳の白羽取りは、一年前の大会でリリアンヌが見せたもの……。

 とはいえ、ルナマリアには剣を砕くだけの腕力は無い。なのでルナマリアは、そのまま剣を捻ってリリアンヌの体勢を崩した。

 これが地上であれば、力の差でリリアンヌの体勢を崩すのは不可能だっただろう。しかし、リリアンヌはいま空中に居て、ふんばりがきかない。

 崩れたリリアンヌの体に蹴りが叩き込まれ、リリアンヌは大きく吹き飛ばされた。しかし、ダメージはさほどないようで、すぐに立ち上がって笑みを浮かべた。


「……次は、当てます」

「ふふ……いい顔できるじゃないですか、『リリ』」

「り、リリ?」

「リリアンヌだから、リリ……あだ名ってやつですよ。いま市井ではあだ名をつけて呼び合うのがトレンドなんですよ。まぁ、王女様は知らないかもですけど」

「知ってます! 知ってましたから……本当ですよ! わ、私だってジークのことジークって呼んでますし!」


 ルナマリアの煽りにムキになって言い返すリリアンヌは、どこか子供っぽく……まるでいままで、王女として押さえ込んできた素が出たようだった。


「まっ、嘘ですけどね」

「こ、このぉ……絶対やっつけてやりますからね! 覚悟してください、『ルナ』!」

「ルナ……ルナですか……悪くないですね。いいですよ、かかってきなさいリリ!」

「行きますよ、ルナ!」


 再び大剣を構え、ルナマリアに向かうリリアンヌの口元にはたしかに笑みが浮かんでいた。王女としての立ち振る舞いや、周りの目など忘れて……人生初めての喧嘩を楽しむように……。





???「ほう、さすが私も高く評価するルナマリアさん……見事なトンファー使いです」

シリアス先輩「……いや、トンファー使って無くない?」

???「一見無駄に装備しているように見えて、非常に高度な駆け引きがあります。まったくこのテクニックが分からないなんて、三流ですね」

シリアス先輩「え? 私がおかしいの?」

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― 新着の感想 ―
ほうトンファーキックですか… たいしたものですね
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