神の成長③
夕日が差し込む部屋で、俺はソファーに座り考え込んでいた。その内容はつい先日行った両親と恋人たちとの顔合わせ……結果としてはおおむねいい方向と言っていいだろうが、少しだけ問題は残っている。
アリスに関してはまったく問題ないというか、アイツが初対面で母さんと父さんを信用しないのは初めから分かっていた。アリスは少し罪悪感を感じているみたいだが、俺にとっては予想通りだった。
いままでの話を総合すると、アリスはおそらくクロよりも年上で、俺の知り合いの中ではシロさんに次いで長い年月を生きてきている。だからこそ、だろうか? 彼女は基本的に初対面の相手を信用しない。
それは母さんと父さんだけじゃない……俺に対してもそうだった。本人から聞いた話ではあるが、アリスは最初は俺がクロを救えるかどうかを見定めており、当然ながら最初は俺の事も信用していなかった。
場合によっては俺をクロから引き離すことも考えていたとのことだ……アルクレシア帝国に一緒に言った辺りで、その気持ちは無くなったらしい。
アリスは初対面の相手と友好的になるのに時間がかかる。ただ何度か接するうちに、少しずつ態度は和らいでいく。
以前葵ちゃんがゴーレム魔法について教えてほしいと言ったときも、ただ突き放すだけではなく代案を提示していたし、最近ではリリアさんのこともそれなりに信用してきているように見える。
まぁ、ともかく、アリスは時間さえかければちゃんと母さんと父さんと仲良くなれると信じてるし、そちらはまったく問題ない。
……問題はフェイトさんのことだ。フェイトさんは歩み寄ろうとはしてくれていたが、実際に歩み寄れてはいなかった。そのことは母さんと父さんにも伝えてあるし、ふたりともできればフェイトさんと仲良くなりたいと言ってくれた。
フェイトさんと両親、その仲を取り持つ……俺がしっかり間に入ってフォローするべきだとは思うんだけど……その方法が思いつかない。
う~ん、できれば三人には仲良くなってもらいたいが、なにかいい手はないものか……。
うん、そうだ。自分ひとりで考えたとしてもいい答えは出ないかもしれない。ここは他の人に意見を聞いてみよう。
誰かに相談するという方法を思いついた俺は、ゆっくりと立ち上げり部屋の外へと向かっていった。
まず始めに声をかけたのは、たまたま掃除をしているところを見かけたイータとシータである。
「なるほど……『殴り合い』などがいいのではありませんか?」
「私もそう思う……です。拳を交えれば仲良くなれる……です」
「……」
すっかり忘れてたけど、このふたりは元戦王配下……いわゆる脳筋集団の一員だったわけで、提案する方法も大変にアグレッシブだった。
そういえば、ふたりとも意見がぶつかると口論もそこそこに戦い出すし……見た目とは違ってどちらも脳筋なのかもしれない。
イータとシータに「参考にさせてもらうね」とだけ伝え、再び屋敷を歩いていると……なにやら廊下の壁にもたれかかり、腕を組んで妙なポーズをしているルナさんがいた。
ソレを見た俺は、躊躇なくルナさんを無視して廊下を進もうとした。
「ちょ、ちょっと、ミヤマ様!? なんで無視するんですか!?」
「いや、なんとなく……それで、なんの用ですか?」
慌てた様子で俺を呼び止めるルナさんに対し、俺はやや呆れた表情を浮かべながら言葉を返す。するとルナさんはニヤリと笑みを浮かべたあと、ビシッと俺を指差しながら告げた。
「話は聞かせていただきました! 私にいい考えが――」
「結構です」
「――なんで!?」
「いや、万が一にも建設的な意見が出ることはなさそうなので……」
「最近のミヤマ様は、私に対して辛辣すぎませんか!?」
正直これっぽっちも期待できない相手ではあるが、それでももしかすると億分の一ぐらいの確率で有効な意見が出るかもしれない。
「……じゃあ、一応聞きます。どんな方法ですか?」
「異世界より伝わった由緒正しい親睦の遊び『王様ゲーム』を……」
「お疲れさまでした」
「ちょっと、ミヤマ様!?」
大変に無駄な時間を過ごした。そう実感しながら俺はまだなにか言ってるルナさんを放置して足をすすめた。
次にジークさんにでも相談してみようと、庭に出てみると……なぜか次々に、いろいろな知り合いが現れた。たぶんというか、間違いなくアリスの差し金だろう。
ありがたいことではあるが、相手は選んでほしい。
「おう、カイト! 話は聞いたぜ! 俺に任せな!!」
「……帰れ脳筋」
とりあえずいの一番に現れ、なにを言うか聞かなくても想像できたゴリラを追い返し……。
「ミヤマ様! 不肖パンドラ、ミヤマ様の力になるべく……」
「帰れ、変態」
「あぁぁぁぁん!?」
血走った目でなにか言おうとした変態を華麗に交わし……。
「……カイト……困ってるって……聞いた……」
「ア、アイシスさん? えっと、なにかいい方法が……」
「……ううん……全然思いつかないし……むしろ……誰かと仲良くなる方法は……私の方が知りたいけど……カイトの助けになりたくて……来た」
「そ、そうですか……ありがとうございます。すごく嬉しいです」
むしろ苦手な分野だろうに、力になりに来てくれた大天使に癒されたり……。
「案ずることはありません、我が子よ。母に任せなさい……運命神とか言う不敬極まる肉塊を9割殺しにすれば、言うことも聞くでしょう」
「まって、エデンさん!? ストップ!! クロォォォ! 早く来てくれぇぇぇ!」
初手から暴走しているヤンデレ神をクロの助けを借りて、なんとか止めたりしていると……いつの間にか、日が暮れていた。
なんだろう、大していい案が出ていない上にものすごく疲れた……アイシスさんには癒されたけど、その後のエデンさんがそれを上回る負荷をかけてきたので、精神的にかなり疲れた。
「……ご主人様? どうされたのですか? なにやら、お疲れのように見えますが……」
「……アニマ、助けてくれ」
「は? あ、はい! 自分でよろしければ、全身全霊でご主人様のお力になります!」
そんな中タイミングよく外出から帰ってきたアニマ……本当に心の清涼剤である。アニマは最近グッと成長しているみたいだし、相談すればいい答えをくれるかもしれない。
俺に頼られたのが嬉しかったのか、嬉しそうな顔で力強く頷くアニマ……彼女は熊の獣人のはずだが、なんか背後にちぎれんばかり尻尾を振る子犬の幻影が見えた気がした。
???「そもそもの前提として、快人さんからアニマさんへの好感度って高いんですよねぇ。昔は火のついたダイナマイトとか言ってましたが、六王祭あたりでは清涼剤に変わってましたし」
シリアス先輩「アニマの気持ちにもアニマより早く気づいてる感じがしたし、きっかけさえあればサクッとくっつきそうな……憂鬱だ」




