神の成長①
神界上層、最高神とその直属のみが住むことを許された特別な地、そこにあるみっつの神殿のひとつ時空神の神殿には、神界の誇る三人の最高神が集まっていた。
目的は半年に一度行われる最高神三人による会議……もっとも、普段は会議というよりはクロノアが、フェイトとライフを叱る場でしかないのだが、今回は少し様子が違っていた。
「……なぁ、生命神。これはどういうことだ?」
「さぁ? 私も聞きたいところですね……どうしたんですか、運命神?」
ふたりが見つめる視線の先、机に伏してどんよりとした空気を放っているフェイト……いつもの面倒くさそうな態度ではなく、どこか落ち込んでいるように見えた。
「……時空神、生命神……私は駄目な神だよぉ……」
「知っているが?」
「その通りだと思いますけど?」
「酷くない!?」
駄目な神だというフェイトの発言に即座に頷くクロノアとライフ。実際普段の態度を見る限り、駄目な神そのものであることは事実なのだが……。
「ま、まぁ、それは置いておこう。それで、運命神いったいどういうことだ? なにか悩みがあるなら聞くが……」
「悩みっていうか、ふたりに聞きたいんだけどさ……親子ってなに?」
フェイトの悩みは、少し前にあった快人の両親との顔合わせについてだった。彼女はなんとかうまくやろうと意気込んで挑んでみたはいいが、結局親子というものがどういうものか理解できず、また明里と和也に興味を抱くこともなかった。
それでは駄目だと理解しているのに上手くいかないと、ソレが原因で落ち込んでいた。
「親子? 血縁関係にある者たちの事であろう?」
「生物的な遺伝子を受け継いでいるか否かということですか?」
そんなフェイトの質問に、クロノアとライフは首をかしげながら聞き返す。
「じゃあさ……たとえば、カイちゃんの両親とふたりが会ったとして、ふたりはどう行動するの? どんな風に接する?」
「うん? いまいち要領を得ないな……別にミヤマの両親であるか否かなど関係ないであろう? 対応は個で区別するものであり、ミヤマの両親だからといってなにかしら特別な対応など必要ないのではないか?」
「同感です。ミヤマさんの両親であるという要素はなんらその両名の評価に関わるものではありません。論ずる意味を感じませんが?」
「……はぁ、そうだよね。ふたりともなんだかんだで最高神だもんね……やっぱそうなるよねぇ」
クロノアとライフの返答、明里と和也はあくまでそれぞれ個人として接するべきであり、快人との関係を考慮する必要はないという意見は、フェイトにも理解できる。というよりも実際はフェイトの似たような考えではある……それではいけないとも思っているが。
事実としてクロノアはリリアとは関係も深く、いろいろと気にかけている様子だが、兄であるライズに関してはあくまで別の人間と認識して接しており、特にリリアと仲がよいことを理由に評価を上げたりはしていない。
それは、神族……神としては正しいものなのかもしれない。しかし……。
「……ふたりだったら、それでもいいのかもしれないけどさ。私はカイちゃんの恋人だよ……私はできるなら『カイちゃんが大切に想っているひとを大切に想いたい』……でも、どうしてもうまくいかないんだよ。実際に会ってみても、本当に何の興味も持てなかった……気を抜いたら『帰る』って言っちゃいそうで、ロクに話せなかったしね」
「……むぅ、難しいな。我と生命神には理解の及ばぬ事柄だ」
「そうですね。運命神が納得のいく話をするのは私にも時空神にも不可能……それこそ、シャローヴァナル様の叡智に縋りたい内容と言えます。しかし、この程度のことでシャローヴァナル様に質問するのは……不敬が過ぎますね」
ライフが口にした通り、シャローヴァナルならこの問題に答えを出してくれるかもしれない。シャローヴァナルは快人との戦い以降、驚くほどその精神面に変化が表れていた。
シャローヴァナルは快人との件に決着が付いたあとは、『この世界を創ってよかった』と快人だけでなく、快人が変わるきっかけとなった己の世界を……そこに生きる者たちを愛するようになった。
だからこそシャローヴァナルは快人の周囲の人たちがなにを望むか、どう接すれば快人が喜んでくれるかを理解できるようになった。
しかし、その方法はフェイトには当てはまらないと言っていい。シャローヴァナルはかつて快人が指摘したように元々世界を愛していた。ただそれに気付かなかっただけで、周囲に興味を抱かなかったのは、自分の作り出したものに優劣を付けたくなかったから……。
だが、フェイトは違う。彼女は世界を愛してはない。あくまでシャローヴァナルの命により運命を司っているだけで、世界に対して思い入れはない。だからこそ、シャローヴァナルとは別の方法をとらなければならない。
もっとも……。
「なるほど、話は聞かせてもらいました」
「「「シャローヴァナル様!?」」
『その程度』の差異は、感情を理解できないという弱点を克服したシャローヴァナルにとって『容易く方法を指し示せる』ものだった。
そう、もうすでにシャローヴァナルはこの件の解決法……『フェイトがどうすればいいか』を理解している。
シャローヴァナルは慌てて跪く三人の最高神を見たあと、静かに口を開いた。
「……フェイト。あなたはそもそも、『手順』を間違えているのですよ」
快人が地球に帰っていたこの世界にとっては一年八ヶ月という期間。その期間に最も成長した存在は誰か……それは間違いなくシャローヴァナルだ。もはやその成長は進化と言っていいレベルである。
彼女はすでに理解している。心とはなにか感情とはなにか……なぜフェイトは、明里と和也に興味を持てないのか、その全てを……。
???「他者を導くってのは、ソレができるだけの土台があるってことですし、マジにシャローヴァナル様は成長したんですね」
シリアス先輩「……あれ? 新しい恋人のルートは?」
???「もう始まってますよ。今回は短期間に集中して親密になるのではなく、話の中で親密になっていく感じです」
シリアス先輩「……で、結局誰?」
???「そうですね。これだけでは答えにはたどり着けないでしょうし、ヒントを出しましょう……ヒントは『熊』です」
シリアス先輩「なるほど難し……一択じゃねぇか!?」




