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顔合わせ③

本日2話目の更新です



 アリスと両親の顔合わせの最中、突如現れたメイド服のエデンさん……そのあまりの事態に理解が追い付かず、しばらく呆然としていたが、なんとか気持ちを奮い立たせて口を開く。


「……え、エデンさん? い、いったいなにを……」

「目的は二つです。ひとつは愛しき我が子へ紅茶のおかわりを持ってきました。この服は雰囲気作りのようなものですね。そしてもうひとつ……そちらのふたりに用があります」

「ッ!?」


 エデンさんがそういって母さんと父さんを見た瞬間、アリスが俺の隣から消え、母さんと父さんを庇うように、黒と白の二本のナイフを持って、エデンさんの視線に割り込んだ。

 そのままアリスはエデンさんを睨むように見ながら、静かに口を開いた。


「……どうする気ですか?」

「安心しなさい。貴女の考えているようなことにはなりません……『そのふたりの体は私が作りました』。そのふたりも、私にとっては『我が子』です」

「……そうですか」


 エデンさんの言葉を聞いて、アリスはほっとした様子で手に持っていたナイフを消し俺の隣に戻ってきた。

 おそらくではあるが、アリスは母さんと父さんの肉体を造ったのはシロさんで、そのせいでエデンさんがふたりを自らの子とみなさない可能性を考えたんだろう。

 しかし、母さんと父さんの肉体を造ったのはエデンさんらしく、ふたりを我が子と呼んだことで安心したのだと思う。

 エデンさんは我が子と呼ぶ相手に対しては、寛容だから……。


「話の前にまずか紅茶を淹れましょう、愛しき我が子、そしてふたりの我が子よ……どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 エデンさんは優し気……優しげだと思う、思いたい笑みを浮かべて、俺と母さんと父さんのカップに紅茶を注いでくれた。


「……お~い、エデンさん? 私にはねぇんすか?」

「すぐ他者に頼るのは恥ずべき思考ですよ、アリス。くだらぬ文句を言う暇があったら、甘ったれずに自分で注ぎなさい」

「こ、このっ……」


 そして、安定の我が子以外には厳しい対応を見せつつ、エデンさんは母さんと父さんを見る。


「こうして顔を合わせるのは初めてですね、宮間明里、宮間和也。私の名はエデン、貴女たちの世界神にして、貴女たちの母です」

「……あっ、えっと……はじめまして?」

「よ、よろしくお願いします」


 高らかに母だと宣言するエデンさんを見て、ふたりは若干引いた様子で言葉を返す。うん、母さんと父さんの戸惑いはもっともであるが……それでもこれだけは言わせてほしい。

 いまのエデンさんはまだマシな状態だからね!? 普段はもっとひどいから!!


「たとえ、こちらの世界で暮らすことになろうとも、貴女たちは私の子……なにか困ったことがあれば、母を頼るのですよ?」

「「は、はい」」


 エデンさんは満足そうな笑みを浮かべて、ふたりの頭を軽く撫でる。俺と接する時のような暴走が無い分、まともな慈悲深い神様に見えるから不思議だ。


「……で、エデンさん? 結局それ言いに来ただけですか?」

「えぇ、その通りです。それに合わせ、こうしてメイド服で甲斐甲斐しく紅茶を用意することで、私の健気さもアピールできるでしょう?」

「どうもそっちの世界とこっちの世界じゃ健気って言葉の意味が違うらしいですね。貴女のヤバさは十分アピール出来ましたから、さっさと帰ってください」

「ところで我が子、菓子も用意しましたので召し上がれ」


 アリスは皮肉を交えてエデンさんに言葉を返すが、エデンさんはこれを華麗にスルー! エデンさんって割と口論無敵じゃない? 興味ない話完全スルーだし……エデンさん相手の時ぐらいだろう、アリスがこんなに分かりやすく苛立っているのは……。

 結局そのままエデンさんは居すわり、時折アリスを煽りつつも顔合わせ終了までいた。











 次は最後の顔合わせであるクロ番となり、別室で待ってもらっているクロを迎えに行くために移動する。

 エデンさんはアリスの顔合わせが終わると同時に帰った……正直、クロと一緒にいると喧嘩する未来しか見えないので、正しい選択だと思う。

 そんなことを考えつつ、理由はわからないがなにかを考えるような表情で姿を現したままで付いてきていたアリスに声をかける。


「でも、なんだかんだ会ったけど、フェイトさんとアリスの顔合わせも無事に終わってよかったよ」

「……」


 呟いた俺の言葉を聞いて、アリスは少し沈黙したあとで、どこか重い雰囲気で口を開いた。


「……カイトさん、申し訳ないですけど……私は正直言って、まだカイトさんの両親を信用してはいません。というか警戒しています」

「え? 知ってるけど?」

「……はい?」


 アリスが重々しい雰囲気で告げてきたのは、なにをいまさらと思うような内容だった。


「いや、というか無理だろ? だって母さんと父さんとアリスは初対面なわけだし、いくら俺の親だからってそれだけの理由で会ってすぐ全面的に信用するなんて、そっちの方がおかしいと思うけど……」

「……え~と、いや、まぁ、それはそうなんですが……カイトさんはそれでいいんですか?」

「うん? だって、お前がさっき自分で言っただろ? 『まだ』って……」

「うっ……それは……」

「それにさっき、結局は勘違いだったけど……母さんと父さんのこと、エデンさんから守ろうとしてくれてただろ?」

「……」


 アリスが母さんと父さんのことを警戒しているのなんて、わざわざ言われなくても気づいていた。というかむしろ、初対面で信用するほうがアリスらしくないと思う。

 アリスは良くも悪くも頭がいい……きっといろいろと、最悪の可能性みたいなのを考えてしまうんだろう。そういう意味では、頭がよすぎるのも考えものだ。


「……あ~まぁ、そうですよ。善人だとは思います。実際私が考えているようなことは99%起こらないんでしょう……でも、どうも私はひねくれものでしてね。1%の可能性を無視できない……カイトさんの両親を信用するまでは、まだ時間がかかると思いますよ?」

「別に、焦ることなんてないって……そうやって、いずれは信用しようって考えてくれてるだけでも、ありがたいよ」


 そんな風に言葉を交わしながら移動していると、不意にアリスがこちらを向いて、口を開いた。


「……あと、カイトさん」

「うん?」

「あまり、フェイトさんのことも怒らないであげてください……フェイトさんは神族です。親もいなければ子を産むこともない、親子って関係はあの人にはよく分からないものだと思うので……」

「……」

「……逆に私たちだって、神族の気持ち……生まれてすぐシャローヴァナル様に絶対の忠誠を誓い、必要なら躊躇うことなく命を投げ出すって感覚を理解はできないでしょ? それを同じですよ」


 フェイトさんのフォローをしようとするアリスだが、それに対して俺は首を傾げつつ言葉を返した。


「アリスって、フェイトさんの顔合わせの時って席を外してたんだっけ?」

「え? えぇ、邪魔することもないだろうと……屋根の上に居ましたね」

「……フェイトさんは、『歩み寄ろうとしてくれてた』みたいだけど?」

「……へ?」


 俺の言葉を聞いたアリスは、キョトンとした表情を浮かべた。そのなかなか珍しい表情に苦笑しつつ、俺は言葉を続ける。


「フェイトさんと母さん、父さんの顔合わせは『上手くいかなかった』……フェイトさんは、基本俺にしか話しかけないし、ふたりを見る目も感情が籠ってない感じで、母さんと父さんも怖がってたみたいだしね」

「……それ、駄目なのでは?」

「ふふ、アリスにしては気付くのが遅いな……『上手くいかなかった』んだよ?」

「あっ……あぁぁぁ!?」


 俺の言葉を聞いたアリスは、なにかに気付いた様子で驚愕の表情を浮かべる。そう、フェイトさんと両親の顔合わせは上手くいかなかった……でもそこにこそ、フェイトさんが歩み寄ろうとしてくれていた証拠が隠れている。


「聞きたいんだけど、本来そう言うことってありえるのかな?」

「……ありえないですね。アカリさんとカズヤさんにシャローヴァナル様の祝福はありません。だとすれば、当然フェイトさんの権能に抗えない。フェイトさんには『ふたりがフェイトさんを全面的に信頼する結果』だとか『友好的に顔合わせを終える結果』を確定させることができたはずです」

「でも、そうならずに上手くいかなかったのは、フェイトさんが権能を母さんと父さんに使わず、その身ひとつで顔合わせに応じてくれたから、だよな?」


 そう、本来なら未来を確定させることができるフェイトさんの顔合わせが、失敗に終わるはずはない。正直俺も、フェイトさんは運命を操作して無難な感じで顔合わせが終わるように調整するとばかり思ってた。


「それに母さんと父さんから見れば、フェイトさんは感情の籠ってない目で見てる感じだったろうけど……魔力の方にはしっかり感情は乗ってたよ。俺が感応魔法で感じたフェイトさんの感情は、『緊張、困惑』……あと、顔合わせが終わった時に感じた『少しの後悔』……俺にはそれだけじゃ、フェイトさんがなにを考えていたかは分からないけど……アリスならわかるんじゃないか?」

「えぇ、ソレを聞いてハッキリわかりました。たぶんフェイトさんは、親子ってものは分からなくてもアカリさんとカズヤさんが、カイトさんにとって『特別に大切な人』ってのは理解してたんでしょうね。だからフェイトさんとしては、なんとか友好的に接しようと考えてたんでしょう……少なくとも始めは」

「けど、上手くいかなかった」

「はい……数万年生きてきて形成された性格は、気持ちの持ちようぐらいではすぐには変わってくれなかったんでしょう。フェイトさんはアカリさんとカズヤさんを見て、まったく興味が持てなかった……ふたりを道端の石ころぐらいにしか感じなかったんでしょう。それじゃいけないと理解してても、どうしても興味が持てない……だから困惑してたんですよ」


 となると、緊張の方は……なんとか仲良くしなくちゃと考える気負いみたいなものか……。あの感情のない目……リリアさんたちには向けたことが無いあの目も、もしかしたら緊張の表れだったのかもしれない。


「フェイトさんは、いままで『興味のない対象に興味を持とうと努力した経験』がないですから、どうしていいか分からなかったんでしょうね。たぶん自分から話さなかったのも、受け答えだけならともかく、自分から話すと『突き放すような言葉』を言ってしまいそうだったんでしょうね。さっきも言った通り、フェイトさんにはふたりは石ころのようにしか見えてなかったでしょうから」

「けど、ソレを変えようとはしてくれてるんだよな?」

「えぇ、間違いなく。シャローヴァナル様がカイトさんの周囲に目を向けるようになったのと同じように、フェイトさんもカイトさんの周りに目を向けようとしてるんでしょう……まぁ、価値観が変わるにはそれなりの時間か、大きなきっかけが必要ですし……時間はかかるでしょうけどね」

「……なるほど、それで顔合わせが終わった時、少し落ち込んでたのか……」

「いままで違うことに挑戦するってのはそういうものですよ。『あそこでああしとけば』とか『もっと、別のやり方を試せば』とか、あとになって後悔は湧いてくるものです……まぁ、正直少し意外でしたが、フェイトさんも変わろうとしてるんですね」


 そこまで話したところで、アリスは少し考えるような表情を浮かべて沈黙した。それを見つめつつ、今後できるだけフェイトさんが母さんと父さんと仲良くなれるように協力しようと思っていると、思考が終わったアリスが口を開いた。


「……私も穿った見方ばかりじゃいけませんね。カイトさん、今度アカリさんとカズヤさんを私の雑貨屋に連れてきてあげてください」

「……アリス」

「私も少し、おふたりと仲良くなる努力ってのをしてみますよ……上手くいくかどうかは分かりませんけどね」

「上手くいかなかったら、ちゃんと俺がフォローするよ」

「……頼りにしてます。というか、あたりまえですけどカイトさんも成長してるんですね……正直、今回は自分の頭の固さを思い知らされた気分です」

「誉め言葉、だと思っていいかな?」

「えぇ……惚れ直しましたよ」


 変わろうとしている、だけど長い年月を生きてきたからこそなかなか変えられない。シロさんもそうだけど、フェイトさんもアリスも……長い間変わらなかったものを変えようとしている。

 俺に出来ることは少ないかもしれないけど……なにか力になれればいいな。





???「活動報告にて、アリスちゃんの着ぐるみVer2が公開されています!」

シリアス先輩「……なんで、お前の着ぐるみって、どれも不気味なの?」

???「可愛くないっすか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] もしかして運命神って言わなかったのも気負わせたりしないようにして素で接しようとしたから?
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