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閑話・ルナマリア~過去最大の危機~


 時は少し遡り、リリアの屋敷の廊下……アルベルト公爵家のメイドであり、当主リリアの親友でもあるルナマリア……かつては冒険者としてそれなりの修羅場をくぐってきた彼女はいま、『いまだかつてない死の危機』に遭遇していた。

 突如目の前に出現した……快人の誕生日パーティや新築記念パーティで目にした弩級にヤバい神……。


「そこの『肉塊』」

「……は? えっと、貴女は確かエデ――ぴぃ!?」


 瞬間、ルナマリアを押しつぶされそうな重圧が襲う。濃厚なほどの死の予感に、ルナマリアは冷や汗を流しながら口を噤む。


「肉塊風情に私の名を口にすることを許した覚えはありません。本来なら即刻処断するところですが、貴女は愛しき我が子の知り合い……一度は許しましょう。しかし、次はありませんよ?」

「は、はは、はい。も、申し訳ありません」

「謝罪など不要。貴女に与える命はひとつ、速やかに『我が子の好む紅茶』を用意しなさい」

「は、はぁ……」

「誤解なきように言っておきますが、私にとって美味なる紅茶を創造することなど容易い。しかし、美味であれば万事よしというわけではありません。時に飲みなれたものこそ、愛しき我が子の心を癒すこともあります……よって、貴女には愛しき我が子のために紅茶を用意する栄誉を与えましょう」


 ルナマリアは滝のような汗を流しながら何度も頷く。なにせ、毎秒死の危機があるような相手との会話であり、文句など言おうものならどうなるか分からない。

 ルナマリアは必死だった。必死だからこそ、少しでもエデンの印象をよくしようと、口を開いた。


「……あ、あの、その……ミヤマ様は、リプルパイなどの果実が使われた菓子を好みますので、い、一緒にお持ちしては……」

「……」


 その言葉を告げた直後、エデンから感じる重圧がほんの少しだけ和らいだ。


「『全知』たる私は、無論愛しき我が子の好みは完全に把握していますが……肉塊風情が、我が子の好みを正しく理解していたのは、少々意外ですね。やはりそれも、愛しき我が子の魅力がなせることなのでしょうかね」

「は、はい! もちろんです! この世にミヤマ様ほど魅力的な男性は存在しません! わ、私も分不相応だとは思いつつも、ミヤマ様へは恋心を抱かざるをえません!!」


 それはこの死の危機から逃れたい一心で告げた言葉だったが、ソレを聞いたエデンは少し沈黙したあとで一度頷いた。


「……なるほど、嘘はないようですね。肉塊とはいえ、真に美しいものを判断するだけの美的感覚はあるようですね……ならば、不敬とは言いません。愛しき我が子を前にして、恋に落ちぬ方が不敬でしょう。貴女の想いを許します」

「あ、ありがとうございます」

「せっかくの機会です。肉塊とはいえ、我が子とそれなりに親しい者である貴女に、ひとつ尋ねましょう」

「ッ!?」


 ここにきてさらなる死亡フラグの上乗せであった。何を尋ねようとしているのかは分からないが、返答を間違えたらどうなるのかは理解できる。

 ルナマリアはこれまで以上の緊張を持って、エデンの言葉を待った。


「どうも、愛しき我が子は私に遠慮しているようなのです。子が母に甘えるのは当然の権利のはずですが、我が子はなかなかその権利を行使しようとはしません。なぜだと思いますか?」

「……そ、それはえっと……人前だからではないでしょうか!」

「……ふむ、続けなさい」

「わ、私も母と仲がいいのでわかるのですが……や、やはり人前で母に甘えるというのは恥ずかしさが勝ってしまうのです。な、なので、ミヤマ様も、ふたりっきりであれば……」


 必死に紡いだルナマリアの言葉、それはエデンに届いたようで……エデンは軽く顎に手を当てて考えるような表情を浮かべた。


「……なるほど、なかなか興味深い話が聞けました。肉塊……貴女、名はなんと言いましたか?」

「は、はい。る、ルナマリアです」

「ふむ、覚えておきましょう。貴女は他の肉塊より見所があるみたいですね。私は肉塊であっても価値ある者は評価します。特別に今後は、我が名を呼ぶことを許しましょう」

「あ、ありがとうございます……エデン様」


 どうやらルナマリアの言葉は高評価だったらしく、エデンは大きくルナマリアの評価を上げた。

 そしてエデンは次にどこからともなく巨大な袋を取り出し、ルナマリアに手渡した。


「働きに対する褒美を与えましょう」

「は、はい。光栄です」


 ルナマリアがチラリと中を見てみると、袋には大量の白金貨が入っていた。


「さぁ、話は終わりです。ルナマリア、早急に紅茶を用意しなさい。茶葉の選択は、貴女に一任しましょう」

「はい! かしこまりました!」


 ルナマリアは勢いよく敬礼をし、とりあえず死の危機から脱したことに胸を撫でおろしつつ、紅茶の用意に取り掛かった。

 安堵するルナマリアは、まだ気づいてはいなかった……『全知』であるエデンが、ルナマリアの言葉に『嘘が無い』と判断したということの意味を……。


 ともあれルナマリアは紅茶を用意し、いつの間にかメイド服に変わっていたエデンにカートを託し……心の中で、これから被害を被るであろう快人に詫びた。






エデンママンの好感度


1位、快人(最愛の我が子)

2位、それ以外の我が子

3位、シャローヴァナル(一応は友人)

4位、アリス(能力は評価する)

new5位、ルナマリア(肉塊の中では一番見所がある)



ワースト1位、クロムエイナ(怨敵)

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