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閑話・神の策略

書籍版第七巻の表紙と、発売日を活動報告に掲載しました! 今回はアイシスメインの巻です。



 快人の家の新築記念パーティが終わり、アリス……の分体は、快人の家の地下にあるBARでイリスと会話をしていた。


「……ふむ、それで結局神々がなにをしていたかは、分からなんだと?」

「えぇ、結局あの後おかしな行動をとるわけでもなく、まず間違いなく聞いても答えてくれないでしょうし、そうなるとお手上げですね」

「貴様でもか?」

「そりゃ、いくつか予想は出来ますけど、最近のシャローヴァナル様はどうも読みにくいんですよねぇ。精神面が急成長している最中なので、予想外の行動をとることが多いんですよ……まぁただ、以前よりカイトさんのことを考えて行動してるみたいなので、シャローヴァナル様が勝ったなら悪い展開にはならないでしょうね」


 そう、結局シャローヴァナルとエデンが何について争っていたかは、現在も分かっていなかった。というのも、シャローヴァナルもエデンも、コイントスでの勝負以後は特に目立った行動をとることはなかった。

 快人も招待客に挨拶回りをしていたためあまり時間もなく、なんだかんだでうやむやになっている状態だった。


「まぁ、案外なにもないのかもしれんな。そのエデンという神がなにかをしようとして、シャローヴァナル様が阻止しようとしていただけという可能性もある」

「ですねぇ」

「……ところで、先ほどから気になっていたのだが、その紙袋はなんだ?」

「あぁ、コレはカイトさんが招待客に配った記念品です。カイトさんがイリスにも渡してくれって……まぁ、イリスはパーティには参加してないですけどね」

「お前には言うまでもないだろうが、我はあの手のパーティは苦手でな……それにしても、相変わらず律儀なことだ」


 アリスから紙袋を受け取り、微かに微笑みを浮かべたあとでイリスは中身を確認する。


「……ほぅ、グラス……クリスタルグラスか? 美しいな」

「えぇ、耐久力もあって使いやすいグラスですよ」

「なるほどな、記念品としては無難だがよい選択……うん? この箱はなんだ?」

「へ? 箱?」


 首をかしげるアリスの前で、イリスが紙袋から取り出したのは、手のひらに乗る程度の小さな箱だった。


「……それは、ランダムボックスとかに使われる使い捨てのマジックボックス……いや、でも、そんなもの入れてないはずですよ?」

「……ということは?」

「間違いなく、シャローヴァナル様の仕業でしょうね。意外ですね……カイトさんの手には渡らない、記念品になにかしてくるとは……」

「ふむ、たしか下の紐を引けば開くのだったな? どれ……これは……『ワイン』か?」


 使い捨てマジックボックスの中から出てきたのは、一本のワインだった。ラベルにはKと大きな文字が描かれていた。


「これはもしや、以前お前が言っていたシャローグランデというワインか?」

「いえ、デザインが違いますし、シャローグランデではないですね……私の記憶に同じデザインのワインはないので、新しく作ったものでしょうね」

「ふむ、このラベルに書いてる文字は初めて見るな……」

「それはカイトさんの世界の文字ですね。カイトさんの名前の頭文字からとったんだと思います。裏にもなにか書いてますね。おや? これはこの世界の文字ですね……えっと『シャローヴァナルよりカイトへ、愛をこめて』……なるほど、カイトさんのために作ったワインってことですか……」


 そう言ったあと、アリスはなにかを考えるような表情を浮かべて沈黙する。そのまま数十秒考えたあと、アリスは顔を上げてイリスに提案した。


「イリスさえよければ、飲んでみません?」

「構わんぞ……少し待て、ワイングラスを用意する」


 幸いにしてここはBARであり、ワイングラスも用意がある。イリスは棚からワイングラスをふたつ取り出し、自分とアリスの前に置く。

 そしてコルク抜きを使ってワインの蓋を開け、グラスに注いだ。


「……なに? 『銀色』だと?」

「たぶん、シャローヴァナル様の髪の色をイメージしたんでしょうけど……水銀みたいな見た目ですね」

「やめよ、これから飲むんだぞ」

「まぁ、味は問題ないと思いま――ッ!?」

「どれ、我も――ッ!?」


 アリスとイリスはグラスに注がれたワインを一口飲み、どちらも目を見開いて硬直した。そのまましばらくの間、グラスを傾けたままで硬直したあと、ふたりは我に返った。


「……な、なんだ、これは……これが、ワイン? だとしたら、我がいままで飲んでいたものはなんだ? 色の付いた水か?」

「なんつぅ美味さですか……私がいままで飲んだワインの中でも、ぶっちぎりでトップの美味さですよ」

「ということは、つまり、これはうわさに聞くシャローグランデより上ということか?」

「いや、全然桁が違います。というか、これ飲んでハッキリわかりました。シャローヴァナル様……『シャローグランデ造った時は、思いっきり手を抜いてやがった』んですね」


 そのワインの味はすさまじいものだった。この世界に存在するあらゆるワインの味を記憶しているアリスでさえ、思わず言葉を失ってしまうほどの味……まさに神の美酒と呼ぶにふさわしいものだった。

 その味に衝撃を覚えつつも、アリスは少しして頭を抱えた。


「……本当に、なんつぅ速度で成長してんすかあの神様……まさかもう、こんな『搦手』まで使えるようになってるとは……」

「む? 搦手?」

「えぇ、これは言葉にするとシャローヴァナル様がカイトさんのためにワインを造って参加者に配ったってだけですが、その実とんでもなく高度な策略の上に成り立っているものです」


 アリスはシャローヴァナルの精神的成長を凄まじいと評したあと、シャローヴァナルの行動について解説を始めた。


「まずカイトさんに内緒でこっそりというのがいい手です。事前に申し出たとしたら、カイトさんは遠慮していたでしょう。ですが、こうしてこっそり仕込んでしまえば、カイトさんがそれを知るのは『参加者の手にワインが渡ったあと』であり、そうなるといまさら返してとは言えないわけです」

「……なるほど、道理だな」

「そして現存しないワインというのも、明確な価値の基準がないためカイトさんの印象としては、『シロさんがなんかとても美味しいワインを造って、参加者に配ってくれた』という認識になり、なんだかんだで受け入れやすいわけです」


 そこで言葉を区切ったあと、アリスはワインのボトルを手に持って解説を続ける。


「……次に、記憶って言うのは当たり前ですが印象が強いものほど最初に思い浮かぶわけです。これだけ、美味しいワインともなれば強烈に印象に残るでしょう……『ラベルの裏に書かれたこの世界の言葉と共に』……」

「つまり、此度のパーティの参加者にとって『ミヤマカイトの恋人といえば?』と言って、一番初めに思い浮かぶのがシャローヴァナル様になるわけか……」

「その通りです。それだけでもシャローヴァナル様にとっては大きな利点でしょうが、この搦手の肝は別にあります」

「……まだあるのか?」

「えぇ、というよりもここからが本番です。カイトさんにとって、今回のシャローヴァナル様の行動は驚きこそすれ、受け入れやすいんです。なぜなら、『受け取った参加者は喜んでくれている』から……これだけ、素晴らしいワインです。それは、間違いなく参加者がカイトさんにお礼の手紙なんかを送る際に書かれるでしょう」


 かなり複雑に考えられているシャローヴァナルの策略、その肝がいよいよ語られるということで、イリスも緊張した面持ちでアリスの言葉を待つ。


「そうなると、カイトさんの性格から考えて『驚いたけど、みんな喜んでくれてるし、まぁいいかな?』となるわけです。しかも、ここで重要になってくるのは、シャローヴァナル様がこっそり行ったこと……これだけで、謙虚さと甲斐甲斐しさをアピールできるわけです」

「なるほど、ミヤマカイトにいい印象を与えるということか……」

「えぇ、ですが肝はその次です。カイトさんの性格上、次にどうなるかといえば『シャローヴァナル様にお礼をしよう』と考えるわけです!」

「たしかに、ミヤマカイトならそうするであろうな」


 そこでアリスはグッと拳を握り、どこか悔しそうに見える表情で言葉を続ける。


「それこそが、シャローヴァナル様の狙いです! カイトさんの方がお礼をしたいという状況ということは、普段であればカイトさんが恥ずかしがって嫌がるような要求をしたとしても……『恥ずかしいけど、シロさんへのお礼だし……シロさんが喜んでくれるなら』となるわけです! つまりシャローヴァナル様は、今回の件で、『普段よりもかなりガードが緩い状態で、カイトさんになにかを要求する権利』を得たわけなんです!」

「……な、なるほど……すさまじいな。しかし、そう上手くいくのか?」

「行きます。なにせ今回のワインは参加者全員に配ってるわけで、内緒にしていたとしても……誰かひとりでも『素晴らしいワインをありがとうございました』とでもカイトさんに言えば、そこから流れに乗れます。しかも、誰も不幸になってません。参加者は凄いワインがもらえてハッピー、カイトさんは参加者……知人に喜んでもらえてハッピー、シャローヴァナル様はカイトさんにお礼をしてもらえてハッピーという……隙の無いプランです」


 それはまさに神の策略とでもいうべき、計算されつくされたものだった。精神的な成長が著しいシャローヴァナルは、ついにはカイトの周囲を味方に付けるという作戦まで考えられるようになっていた。


「……で、なぜお前はそんなに悔しそうなんだ?」

「私がやっとけばよかった!!」

「……そうか……」




~喧嘩の原因~


天然神「ふふふ、完璧です。参加者にも、カイトさんにも、私にも利点があるトリプルWINシステム……実行が楽しみです」

ママン「……我が子主催の催しものの記念品ならば、母である私が関わるべきでは? 参加を希望します」

天然神「あ? なにを私のトリプルWINシステムに後のりしようとしてるんですか、貴女の参加は認めません」

ママン「……なぜ、ダメなのですか?」

天然神「再度繰り返しますが、この件に貴女を関わらせるつもりはありません」

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― 新着の感想 ―
参加者も含めたトリプルwinの策略なの、マジで成長してるんだなって。
[一言] シロさんの策略凄いな! これ今までならアリスが考え行動に移すパターン。 流石、唯一無二の最高最強の創造神。 本気を出すと知略もチート。 創造神は伊達じゃない!
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