新築記念パーティ④
まるで最終決戦のような凄まじい光景の中、はるか上空からコインが落ちてきた。
そのコイン……白金貨は、地面に落ちると不思議なことに一度も跳ねることはなく、ピタッと停止した。そう・……『表』を上にして。
「……ぐっ」
「決着です」
その結果が意味するところは、シロさんの勝利であり、エデンさんは悔しそうに表情を歪めた。そのまま少しの間沈黙したあとで、エデンさんは肩から力を抜いた。
「……不満が無いとは言いませんが、結果は結果……異論はありません。今回は大人しく引き下がることとします」
「では、それでこの件に関して契約を交わしましょう」
「……わかりました」
結局内容はおろか、なにが起こっていたのかも分からない俺は戸惑いつつも成り行きを見ていた。すると、俺の隣にアリス……本体はいまだ円柱の障壁を展開しているので分体が出現した。
「……はぁ、本当にしんどいです」
「えっと、お疲れ様? 結局なにが起こってたのか、俺にはサッパリだったんだけど……ヤバい事態ということだけは分かった」
「まぁ、説明するとあの二人の神は、コインが落ちてくるまでの間互いの全能力を使って結果を操作しようとしていたわけです。ですが、表が出てシャローヴァナル様が勝つという結果と裏が出てエデンさんが勝つという結果は同時には存在しえない。そうなると力場の交差点で、事象の極大矛盾が発生して、理やら概念が湾曲を……」
「な、なるほど……分からない」
「思いっきりわかりやすく言うと、ふたりの力が強すぎて、世界の方が耐えられずに壊れそうだったので、それを私たち三人が押さえ込んでた感じです」
「……本当に、お疲れ様」
原理とかはサッパリ分からなかったが、世界がヤバかったことだけはハッキリわかった。クロ、アリス、フェイトさんはまさに世界を救った英雄である。
そんなことを考えていると、契約とやらが終わったのか、シロさんが軽く手を振り……円柱の障壁が消えた。
「なっ!? なにしてるんすか! シャローヴァナル様!! 空間は押さえても、その白金貨には滅茶苦茶な力が残って――破裂しますよ!?」
「ッ!?」
アリスが叫び声をあげた直後、落ちていた白金貨が空中に跳ね上がり、眩いほどの光を放ち……『何事もなかったかのように地面に落ちた』。
切羽詰まっていたアリスの声とは裏腹に何も起こらなかったことに首を傾げつつ、いつの間にか、俺を庇うように前に出ていたアリスに声をかける。
「ア、アリス!? 大丈夫か!」
「……え? えぇ、大丈夫です。ちょっとビックリしただけです。もう安全なので心配いりませんよ」
「そ、そうなのか?」
「はい、まったく問題なしですね。ここも一段落したみたいなので、カイトさんは挨拶回りに戻って大丈夫ですよ。さっ、行きましょう!」
「え? ちょっ……まだ、なんであんなことになってたかを……」
「それはあとで私の方で確認しときますよ、ほらほら時間が無くなりますよ」
なんだろう? アリスの様子に少し違和感を覚えたが、この言い回しから察するにこれ以上は聞かない方がよさそうだ。
アリスは俺が知るべきことはちゃんと教えてくれるし、なにより俺はアリスを信頼してる……だから、ここは素直に従っておくことにしよう。
違和感を振り払って、俺はアリスの言葉に従い挨拶回りを再開した。
快人がその場から去ったあと、シャローヴァナルとエデンも姿を消し、クロムエイナとフェイトだけが残った。そしてそこに、分体のアリスが出現する。
三人の顔はどこか青ざめており、なにやら信じられないものを見たといった様子だった。
「……あのエデンさんがあそこまで言うぐらいだから、とんでもないとは思ってましたが……想像以上でしたね。アレが、シャローヴァナル様が持つ究極の力……『物語の終わり』ですか……」
「うん、ボクも驚いてる。ボクが持ってた時とは全く違う……あんな力が、存在するんだね」
「い、いや、シャルたんも冥王もなんかわかった顔してるけど……アレなに!? なにが起こったの?」
三人が話しているのは、先ほどシャローヴァナルとエデンの力が集中し白金貨が事象の矛盾によって破裂するという……『現象のみを終わらせた』シャローヴァナルの力について。
「アレがシャローヴァナル様の持つ……あらゆるものを終わらせる力ですよ」
「……シャルティアはどう思った?」
「……正直、心底シャローヴァナル様がカイトさんの味方で良かったと安堵しましたね」
そこでいったん言葉を区切り、アリスは少し沈黙したあとで再び口を開いた。
「……私は正直、全知全能の神相手でも勝てる自信はありますよ。権能を引っぺがしたりで、相当に時間はかかるでしょうが……勝算は存在します。ですが、アレは……無理です。実際に目にするまでは、なにか対処法が存在するんじゃないかって気持ちもほんの少しはありましたが……」
「そうだね……こうして目の前で見たはずなのに『なにも分からなかった』……いつ発動したのか、どういう力が及んだのか……なにも分からず、気付いた時には全部『終わっていた』」
「……というか、私は物語の終わりってもっと世界丸ごと終わらせるみたいな、大雑把なものだと思ってたんですけど……ごく一部の現象のみに対象を絞って発動することもできるんですね。いやはや、シャローヴァナル様がカイトさんの敵じゃなくて本当に良かったです」
言うまでもなく、アリスもクロムエイナも圧倒的な実力者であり。その総合的な能力は世界創造の神にも劣らない。
しかし、そんな彼女たちをもってしても、シャローヴァナルの物語の終わりを認識することすらできなかった……そう、ハッキリ言ってしまえば、彼女たちは物語の終わりを見たわけではない。
結果を見て、シャローヴァナルがその力を行使したであろうことは認識できたという程度である。
「シャローヴァナル様は、やっぱすごいなぁ。そんな力持ってるなんて……まぁ、あんなとんでもを力って呼んでいいか分かんないけどね」
「そうっすね。本当に論外……とんでもねぇ神様ですよ」
シリアス先輩「なんかすごい力ってことだけは分かった。それで結局あの二人はなんで争ってたの?」
???「その答えは、次の話で分かる予定です。あっ、ちなみにパーティはもう終わりです。大きなイベントは終了しましたからね」
シリアス先輩「そしてシリアスな新章が?」
???「……始まると、本気で思ってるんですか?」
シリアス先輩「……思ってない」




