新築パーティを行おう⑧
王城での特別許可証の授与は無事に終了した。というより、本当に形だけなので受け取ってそれで終わりだったのだが……。
ともあれこれで、残るは明日に迫った新築パーティだけだと思っていたが、家に戻ってきたタイミングでアニマからとあることを相談された。
というのも、どうやら母さんと父さんが働きたいらしい。どうも、俺に養われている状態なのがいたたまれない。
聞いた直後はなんというか……気にしなくていいのに、ふたりとも真面目だなぁと思ったが……よくよく考えれば、似たようなことを俺もアリスに相談していた。やっぱり、親子ということだろうか、考えることは似ているみたいだ。
それはともかくとして、母さんと父さんの気持ちもわかる。ただ……これと言っていい方法も思いつかない。なにせ単純にこの世界で過ごした年数は俺より上で、最近では経済界にも明るいと聞くアニマにも良い方法が思い浮かばなかったのだから……。
かといって、母さんと父さんが悩んでいる状態を放っておくわけにもいかない。となると頼れるのは……。
「……なるほどね」
「なにかいい方法ないかな? クロ」
世界最大の商会の名誉会長であり、多方面に顔が広く、そして俺としても相談しやすいクロである。
例によってパーティの前日だろうか関係なく、俺の部屋に遊びに来てソファーでクッションを抱えて可愛らしく寝転がっていたクロに、アニマから聞いた話をそのまま伝えてみた。
俺の話を聞いたクロはなにかを考えるような表情を浮かべたあとで起き上がり、パァっと明るい笑顔を浮かべた。
「なら、ちょうどいいのがあるよ!」
「ちょうどいいの?」
「うん。実は一年ぐらい前から、ボクの商会で新しい試みを始めてね。まぁ、簡単に言っちゃえば『知識ゼロの状態から魔法具製造技術者を育成する』って感じだね」
「お、おぉ……」
なんか聞いただけですごく良さそうというか、ちょうど母さんと父さんの状況にマッチしている気がする。やっぱりクロに相談して正解だった。
「もともと魔界に比べて、人界は魔法具を製造できる技術者が少なかったんだよ。ほら、ボクって前にカイトくんに魔法を教えたでしょ? アレで人族の魔法の勉強法とか、どこで躓きやすいのかとかある程度分かったからね。それを元に育成プランを作ってみたんだ。人界の支部の人材不足の解消にもつながるからね」
「……なるほど、ということは本当にまったく知識が無い状態からでも大丈夫ってこと?」
「うん。詳細はパーティのあとに予定してる顔合わせで説明するけど、じっくり一年間かけて……本当に一から学びながら働ける感じだよ。一年前にいくつかの小さな支部で試験的に導入してみて、いい感じだったから対象を増やして、第二弾はシンフォニア王都の支部でも行う予定で、ちょうどもうすぐ募集をかけるつもりだったからちょうどいいよ」
どうやら本当に最高といえるタイミングだったらしい。クロが考えた育成プランというなら信用もできるし、なによりすでに実績もあるみたいだ。
聞いた限りだと、地球でいうところの研修実習生に近い感じがする。
「まだ募集はかけてない段階だから、カイトくんの両親が希望するならボクの権限でシンフォニア王都支部に枠を用意するよ? シンフォニア王都の支部では10人ぐらい募集をかけるから……カイトくんの両親としても、同じスタートラインの子が居るのはやりやすいでしょ?」
「それは本当にありがたいけど、迷惑とかはかからない?」
「大丈夫だよ。他ならぬカイトくんの頼みだもん。ボクにどーんと任せてくれればいいよ! って、まぁ、カイトくんの両親が希望した場合は、だけどね」
「ありがとう、クロ」
「えへへ、どういたしまして」
お礼を告げる俺に対し、クロは可愛らしく微笑みを返してくれた。本当に俺はいい恋人を持ったと、なんだか誇らしい気分になりつつ……話を切り替えるように口を開く。
「……どころで、そろそろ聞いていいかな?」
「うん? なにを?」
「……クロ、なんで『寝巻き』なの?」
「あ~いや、深い意味はないんだよ! ただなんとなく、そう! 最近忙しかったから、ちょっと疲れたなぁとか思ってるだけで……」
なぜかこの部屋に登場した時点から……ベビーカステラ柄の寝巻に身を包んでいたクロに尋ねてみると、クロはそっぽを向きながらやや焦り気味の声で告げる。
なんというか、嘘が下手すぎるというか……そっぽ向きながらも、チラチラとこちらを見ているので、あまりにも分かりやすい。
「……えっと……泊っていく?」
「いいの!? あっ、いや……こほん。そうだね、明日のパーティに寝坊しちゃっても駄目だし、その方が安全だね! せっかくだからカイトくんの好意に甘えるよ!」
「……」
なお、この幼女魔族は、以前眠ったのは数千年ぶりだとかなんとか言ってたやつである。しかし、う~ん……いったい何が目的なんだろうか?
正直今回の流れはちょっと、クロらしくない。クロならむしろ寝巻について尋ねれば「うん? 今日カイトくんのところに泊まるつもりだから!」とかアッサリ応えそうなんだけど……。
そんなことを考えていると、クロは聞き取れないほど小さな声でなにかを呟いた。
「……そ、それでね……ボ、ボク、本とか読んで……いろいろ勉強したから……カイトくんがしたいなら……」
「うん? ごめん、いまなんて?」
「ッ!?!? な、なな、なんでもないよ! あぁ! もうこんな時間だね! 早く寝ないと!!」
「え? いや、まだ9時……」
「さぁ! カイトくんも明日早いんだし、ほらほら」
「ちょっ!? クロ? なにを――てか力強っ!?」
結局疑問に答えが出ることはなく、顔を真っ赤にしたクロによって俺は文字通りベッドに放り投げられ、想像以上に早い時間から眠ることになった。
一夜明け、妙な気だるさと眠気を感じつつも起床し、顔を洗ってからパーティの会場である庭へと向かう。
開始自体は10時を予定しているが、気の早い人はもしかしたらもう来ているかもしれないし、一度様子を見ておく必要があるだろう。
ともかく、いろいろあったが……いよいよ、俺の家の新築記念パーティが始まる。
シリアス先輩「アイエェェェ!? メインヒロイン!? メインヒロインナンデ!? ナンデェェェェ!? なぜにこのタイミングでこんな話を……結局パーティ始まってねぇし!!」
???「……糖分が足りないって言われたかららしいですよ」
シリアス先輩「変なプライド出してんじゃねぇよ!! 不意打ち受けるこっちの身にもなれぇぇぇ!!」




