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新築パーティを行おう⑦



 別に仕事がしたいとか、なにかやらなければ暇を持て余してしまうとか、お金に困っているとか、そういうわけではない。

 ただなんとなく、こちらの世界で生きていくならやはり自分で収入を得れるようにするべきなのかと、そんな軽い気持ちだったのだが……なぜか、アリスがいまだかつてないドシリアスな顔で止めてきた。


「……えっと、そ、そんなに大変なことになるの?」

「なります。考えただけでも恐ろしい事態に……どうやらカイトさんは事の重大さがいまひとつわかってないみたいなので、ひとつづつ起こりうる可能性のある事象を説明します」

「あっ、はい」


 なんというか、かつてアルクレシア帝国で見た暗殺者モードみたいな低い声で、ゴゴゴゴと効果音が聞こえそうな顔つきで、アリスは言葉を続けていく。


「まず、カイトさんがどこかに雇われたとしましょう。するとどうなると思います? 『仮にもカイトさんの上司』という立場になった相手に対して、あの頭おかしい神とかが黙ってると思いますか?」

「……思わない」


 たしかにそんな状況になったとして、エデンさんが大人しくしているとは思えない。というか、絶対にありえない。

 そうなった場合どうなるのか……想像するのすら恐ろしい。


「そして、もし仮にそれをなんとかできて、カイトさんが働き始めたとしましょう……言っときますけど『超腫れ物扱い』ですよ? なにせ、カイトさんになにかあったら……いやそれこそ、カイトさんを叱りでもしたなら、ヤベェ奴らがすっ飛んでくるんですからね」

「……それは、その、エデンさん以外でもってこと?」

「うちの頭のおかしい配下、狂信の域に達したメイド、こっちの世界の神、『……カイトを……いじめるな』、他もろもろ」

「……」


 たしかに言われてみれば、とんでもない地雷である。しかも恐ろしいのは、その中の大半の方々は、俺が気付かないうちに行動を済ませてしまいそうだという点。

 ある意味、派手に動くエデンさんはまだ対処を考えやすい部類なのかもしれない。


「では次に、カイトさんが誰かに雇われるのではなく起業した場合を考えてみましょう」

「う、うん」

「まず最初に100%、アニマさんあたりが絶望して泣きます」

「……え?」

「『じ、自分の働きが足りないために……ご、ご主人様の手を……も、申し訳ありません! どうか、どうか、考え直してください! もっと努力します! ご主人様の手を煩わせないように……なので……どうか……』」

「……マジで、そうなるの?」

「アリスちゃんのスーパーコンピューターを超える頭脳がたたき出した予想ですと、100%です」


 ……じゃあ、確実にそうなるな。そっか、確かにアニマは真面目過ぎるほど真面目だし……そうなった場合『自分がふがいないせいで』とか考えちゃうのか……。


「さらにその後の展開ですが……『カ、カイトくん!? どうしたの? お金が必要なの? それならボクが用意するよ。いくら必要? ……とりあえず、白金貨一万枚ぐらいでいい?』と言って、マジで心配してくる世界一の大富豪」

「……」

「カイトさんが働くイコール、カイトさんと過ごせる時間が減ると認識し……おそらくトンとかそんな単位で、白金貨を創造して送りつけてくる創造神」

「……い、いや、さすがにそんな風にお金を作るのは駄目なんじゃ……」

「シャローヴァナル様ですよ? 誰が文句を言うんすか? ちなみにこの件に関しては、クロさんもシャローヴァナル様の味方ですよ。さっき言ったように、カイトさんが働くと言うことは、クロさんにとってもカイトさんと過ごせる時間が減るかもしれないという一大事ですからね」


 たしかに、この世界においてシロさんはある意味絶対の存在である。一応世間的には三つの世界は対等という扱いではある。

 しかし、魔界の頂点である六王と同列に考えられているのは『最高神』でありシロさんではない。

 そして最高神にある程度親し気に話しかけるアインさんやアリスも含めた六王でも、シロさんのことだけは『シャローヴァナル様』と呼んでおり、完全に別格の扱いだ。


 シロさんは以前「私がルールです」なんて冗談めかして口にしていたが……実際のところ、それは間違いとは言えない。

 シロさんはこの世界の神……シロさんが鴉は白いと言えば、この世界では鴉は白いものであると認識される。されもシロさんに文句を言うことなどできない。

 唯一の例外といえるのがクロだが、アリスの言葉通りならこの件に関してクロはシロさん側らしい。


「……なんというか、その変な言い方だけど……俺が働くことでは、誰も幸せにならないのか……」

「ですね。カイトさんが働いてもメリットは皆無、不幸な方が量産されるだけです」


 なんだろうこの、言い過ぎかもしれないが……まるで世界が俺に働くなと言っているかのような布陣は……。


「というか、カイトさんも別に仕事がしたくて仕方ないとかそういうわけではないんでしょ?」

「まぁ、それは……その通りだけど」

「ついでにお金に困ってるわけでもない」

「う、うん」

「……働く必要なくないですか?」

「ない……かも」


 アリスの言葉に反論する余地がない。というか、散々聞かされた内容により、働くことにメリットがまったく見いだせない。


「今後長期的な面で見てのお金なら、アニマさんに任せとけばいいんですよ。カイトさんがなに不自由なく暮らせるだけのお金ぐらい、余裕で稼いでくれますよ」

「……いまさらだけど、アニマってそんなに凄いの?」

「そりゃ、アニマさんはいま『経済界でも名の知れたホープ』ですし、資金運用に関してはかなりのものですよ」

「そうなの!?」


 まさかの新事実である。アニマは真面目で努力家だし、実際俺が預けていたお金を倍ぐらいに増やしていたことから考えても、2年前とは比べ物にならないぐらい成長しているとは思っていた。

 しかし、割と他人への評価が辛めなアリスがここまで評価するほどに成長していたとは……。


「凄いなアニマ。たった二年でずいぶん成長したんだな」

「……まぁ、教師がとんでもなかったっすからね」

「……教師?」

「『カイトさんと会うために夜の予定を空けていて』、カイトさんが地球に帰っている間、暇な時間ができていた『才能ある雛鳥を育てるのが大好きな経済界のドン』です」

「……クロか」


 なるほど、アニマはクロに投資だとかそういうのを教えてもらっていたのか……。


「まぁ、クロさんの育成能力は世界一です。コレに関しては私も素直に負けを認めています」

「アリスがそこまで言うのは少し珍しい気がするな」

「そもそも育て上げた数が違いますからね……」


 まぁ、たしかにクロが育て上げた雛鳥の数はとんでもない。なにせ聞いた話では、クロの家がある街に住む人のほとんどは、クロが育てた雛鳥らしい。


「いや、私もそれなりに指導力はあると思ってるんですけど……なぜか不思議と、私が一から育て上げると『どこかしらにバグが発生』するんですよねぇ」

「バグ?」

「分かりやすい例が……パンドラです」

「なるほど……い、いや、でもさすがはクロ。二年でほとんどゼロからそこまで成長させるなんて……」

「いや、経済学系の基礎は半年程度で教え終わったみたいで……あとは『戦闘技術』を教えてました」


 どうも俺の恋人は、想像していたよりはるかにすさまじい指導者らしい。考えてみれば、魔法の才能がほぼ皆無な俺も、クロと出会って半年程度で簡単な魔法具なら作れるレベルになってたし……改めて考えると、とんでもないなアイツ。


「……凄いな、クロ」

「えぇ、正直私も一年ちょっとで、戦闘に関しては脳筋一直線のアニマさんに『高度な格闘技を習得させる』とは思ってませんでした」

「……もしかして、アニマ。滅茶苦茶強くなってる?」

「まぁ、細かくは言いませんが……リリアさんといい勝負できるぐらいですね」


 何度目になるか分からにけど……すげぇな、クロ。





シリアス先輩「……⑦まできたんだけど……パーティとはいったい……」

???「大丈夫です。次回はライズさんの出番とかオールカットでパーティに入りますから」

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