家を建てよう⑧
アイシスさん専用とも言っていい応接室の紹介が終わったあと、アイシスさんは「……また……新築のお祝いに……くる」といって帰っていき、アリスによる家の案内が再開された。
俺の部屋はあとで回るということで、先に他の……リリアさんの屋敷とは違う内容になっている部屋について案内してくれるらしいが、期待度はかなり高い。
自動移動の廊下といい、死の魔力に対応できる部屋といい、やはりアリスに頼んで正解だった。
そんなことを考えながらアリスの誘導に従ってたどり着いたのは……地下に続く階段だった。
「……地下室もあるのか?」
「まぁ、お約束的なやつですね。ここも、アリスちゃん的には結構お勧めです」
「へぇ……うん? 道が二つに分かれてるな」
「この地下には二つの部屋が用意されてます。どっちから見てみます?」
「……う~ん、じゃあ右」
地下室とはいえ、照明用の魔法具があるのであまり薄暗い感じはせず窓のない普通の廊下といった印象を受ける。
道は二つに分かれており、それぞれ進んだ先に大きめの扉らしきものが見えた。
……なんの部屋だろう? 地下室って言われて浮かぶイメージは、なんとなく倉庫的なものだが……わざわざ案内するということは、別のものなのかな?
そもそも俺にはクロから貰った、ちょっと訳わからない容量のマジックボックスがあるので倉庫は必要ない。アリスがそれを把握してないわけがないので、たぶん倉庫ではないだろう。
そんな疑問と少しの期待を胸に扉を開けると……なにやら、『店』のような構造をした部屋だった。壁には所狭しと武器や鎧が飾られており、奥のカウンターにはライオンの着ぐるみが居る。
「……なにここ?」
「ふふふ、ここは『アリスちゃんの装備屋』ですね! 武器や防具を買うことができますよ!」
「……うん?」
「まぁ、ぶっちゃけると私の雑貨屋の売れ残り持ってきただけなんすけどね! ささ、カイトさん! さっそく買っていき――痛いっ!?」
反射的にゲンコツをおとした俺は悪くないと思う。うん、なんと言えばいいのか……きちゃったよ悪ふざけ。あと、なにより腹が立つのは……アリスがすべて真面目じゃなくて悪ふざけを混ぜてきたことに、なんとなく安心してしまってる自分に対してだ。
なにやってんだと思う反面、いつものアリスだと納得する……ままならないものである。
「……なんで俺の家に装備屋が必要なんだよ」
「いえ、別に必要じゃないっすけど……なんかカッコよくないです? 初期のスタート地点に、実は隠しショップがあったのが終盤に判明するとか、アツくないっすか?」
「その気持ちはなんとなく理解できるが、必要性はゼロじゃねぇか!」
「いやいや、分かりませんよ。ここの装備屋がいつか役に立つ日が来るかもしれませんよ!」
「……こねぇよ」
呆れたようにそう呟いたあと、俺は一度大きく溜息を吐いてから……まぁ、アリスだし仕方ないかと自分を納得させることにした。
むしろアリスがなんの悪ふざけもしてこなければ、それはそれでなんか不安になる。
「……とりあえず、もうひとつの部屋に行ってみようか。嫌な予感しかしないけど」
「いやいや、期待してくれて大丈夫ですよ! もうひとつの部屋は、アダルティな大人の店ですから。カイトさんも気に入ってくれるはずです!」
「……部屋じゃなくて、店って言ってるのが、すべてを物語ってる気がする」
どうやら地下室はアリスの悪ふざけスペースみたいで、もう片方の部屋もなんらかの店らしい。俺はもう一度大きなため息をはいてから、若干諦めの混じった気持ちでもうひとつの部屋に向かった。
そして、大き目な扉を開けると……少し暗めの……バーのような部屋があった。
「……む? 来たか、久しいな」
「いろいろ言いたいことはありますけど、なにやってんですか……イリスさん」
「うむ、お前の気持ちはよく分かる。我も呆れ果てている」
なぜかバーテンダーの格好でカウンターにいるイリスさんに声をかけると、イリスさんも呆れたような表情を浮かべて頷いた。
「はい、というわけでここは『BARイリス』です! お酒や軽食が楽しめますよ……ちなみにこの部屋、実は私の雑貨屋の裏手です。『時空間魔法で空間繋いじゃいました』! てへぺろ――あいたっ!?」
「お前本当になにやってんの……」
「い、いやいや、落ち着いてください! これは考えようによってはすごく便利なんですよ! ちょっと小腹が空いたときとかに来れますし、バーの奥の扉からは、アリスちゃんの雑貨屋に行けるので買い物も楽々です!」
「……そうか、なるほど」
「あっ、待ってカイトさん。私が悪かったです。謝りますから……おもむろに『加減知らねぇ創造神謹製の理不尽過ぎるピコピコハンマー』取り出すのはやめてください。それ、超痛いんですよ……というか、あの腐れ神、いつの間にその兵器をカイトさんに!?」
俺がマジックボックスから取り出したピコピコハンパーを見て、アリスは本気で焦った様子で頭を下げてきた。そのなんとも言えない様子に、俺はもう一度大きなため息をはいてからピコピコハンマーをしまった。
そして、カウンターにいるイリスさんの方を向いて口を開いた。
「……はぁ、というか、イリスさんはそれでいいんですか?」
「うん? 我か? まぁ、我としては元々料理は趣味なのでな。気が向いたら顔を出すといい、我らの故郷である世界の料理でも振舞ってやる」
そう言って軽く微笑むイリスさんを見て、俺はふたたびまぁいいかという心境になってくる。たしかに、悪ふざけの産物ではあるが……装備屋よりは使いそうな気がする。
夜に少し小腹が空いたときとかに、来るのもいいかもしれないし……なんとなく、静かで落ち着いた店内の雰囲気も嫌いではない。
まぁ、本当にアリスには困ったものではあるが……このぐらいならいいかと思ってしまう程度には、俺も絆されてしまっているみたいだ。
シャローヴァナル特製ピコピコハンマー
・物理防御及び魔力防御全貫通
・因果律干渉や空間湾曲等も無効化し、強制的に結果を確定させるため『振れば必ず当たる』
・肉体にダメージは与えず痛覚のみに激烈な痛みを与える
・痛覚が存在しない、痛みを感じない相手に対しても『強制的に痛覚を付与しダメージを与える』
・書籍版六巻で登場、いつの間にか快人にプレゼントされていた
シリアス先輩「……理不尽過ぎるツッコミアイテムだ」
???「……まぁ、カイトさんは優しいんで、なんだかんだで見せるだけで使わないんですけどね」




