家を建てよう⑤
本日二話目の更新です
神域に訪れたアリスに対し、シャローヴァナルは振り向きもしないまま神域の端から世界を見る目ていた。
(う~ん。興味なしって感じがひしひしと伝わってきますね~。まぁ、それでもこうして会ってくれるだけ、ずいぶん丸くなったってことでしょうけど)
シャローヴァナルはたしかに以前と比べて劇的に物腰が穏やかになったと言っていい。こうしてアリスの来訪に対して応じているだけでも、以前の彼女からは考えられないものだ。
だが、それでもやはり友好的という段階には程遠い。シャローヴァナルはアリスの心を読んでいる。つまりは、アリスがなにを求めているかを理解し、その上で興味がないと振り向いてすらいない。
「……作ってほしい素材があるんですよ。世界には存在しないものなので、貴女以外には無理でしょう?」
「それを私が作る理由がありません」
アリスの言葉に対し、シャローヴァナルは抑揚のない声で淡々と返す。たしかに今回アリスが求めているものは……いってみれば、直接的には快人に利をもたらすものでは無い。
間接的に考えれば、快人が喜ぶのは間違いないのだが……生憎と、シャローヴァナルはそこまで広い範囲に興味は持たない。
「でしょうね……まぁ、だからこそ私も、いまのいままでいわなかった訳なんですけどね」
そう、一年前……いや、それこそ快人がこの世界に永住すると決めてすぐに動き始めたアリスにしては、今回の行動はあまりにも遅い。
その理由は単純だ。考えはしたが、シャローヴァナルを説得するのは難しいと見て没にしていた案だったから……。
「ですが、状況が変わりました。いまなら、十分に勝算があると思って、こうしてここに来てるわけなんですよ」
「……いいでしょう。言ってみなさい」
一年前の時点では、アリスでもシャローヴァナルを説得するのは難しかった。だが、快人とシャローヴァナルが恋人になり、そのデートでのシャローヴァナルの様子を見ていたアリスは、いまのシャローヴァナル相手になら交渉する価値はあると感じた。
「いいですか、たしかにこれはカイトさんに直接影響はないです。ですが、コレを用意することで、カイトさんは……ものすごく喜びます!」
「……」
ゆえにアリスは、誘い球を投じた。彼女が唯一シャローヴァナルを動かすことのできる可能性があるカード……快人のことを表に出し、シャローヴァナルの興味を誘う。
これで、シャローヴァナルがアリスの話に関心を持てば、あとはアリスの持つ話術で説得できると……しかし、ある意味でシャローヴァナルは、アリスの予想を大きく裏切った。
アリスが告げた直後、アリスの目の前にズシンという音と共に巨大な素材が出現したのだ。
「……へ?」
「造りました。貴女の望む通りの素材を、貴女が望む量」
「いや、えっと……私まだ、説明してねぇっすけど?」
そう、シャローヴァナルはアリスの予想通り誘い球に反応した。しかし、その反応は思わず手が出てしまったとかそんなレベルではなかった。
シャローヴァナルはアリスの投じた誘い球を迷いないフルスイングかつ真芯で捉え、バックスクリーンに叩き込んだ。
「必要ありません。快人さんが喜ぶのでしょう? であれば、私がためらう理由はありません」
「……」
振り向かないままでそう告げたシャローヴァナルの言葉を聞き、アリスは驚きながらも思考を巡らせる。
(正直、驚きましたね。てっきり、カイトさんの家の建築に参加させろだとか、カイトさんとのデートを取り付けろだとか、そういった交換条件を出してくると思っていましたが……)
そう、結果としては予想通りシャローヴァナルはアリスの提案に応じた。しかし、その過程はアリスにとっても若干の想定外といえるものだった。
いままでのシャローヴァナルであれば、間違いなく交換条件を出してきていた。己の行動に対して見返りを求めていたはずだ。
実際六王祭の時もそうだった。しかし、今回のシャローヴァナルはそうではなかった。それはひとえに見返りを求めるわけでもなく、クロムエイナに対抗するわけでもなく……。
(私が思ってた以上に、シャローヴァナル様はカイトさんを……愛してるんでしょうね。見返りがあれば嬉しいけど、無くても別に構わない。最優先なのはカイトさんの幸福……そういうのは、嫌いじゃないっすね。まぁ、ここは、さすがカイトさんって、そう思っておきましょう)
そこまで考えたところでアリスはふっと微笑みを浮かべ、再び口を開いた。
「ありがとうございます。ところでシャローヴァナル様。もう一つ提案があるんですけど……こっちは、ちゃんとシャローヴァナル様にも恩恵があるものですよ」
「聞きましょう」
朝目覚めたあと、窓のカーテンを開けて心地よい朝の陽ざしを浴びながら軽く体を伸ばす。
昨日リリアさんには自分の家を作ることを伝えたし、今日からいよいよ家づくりかな? アリスに要望を伝えたりと、いろいろ時間はかかりそうだけど楽しみだ。
「カイトさん、おはようございます」
「アリス、おはよう。ちょうどよかった、昨日の話だけど……」
「あ、はい! 『家完成しましたよ』、さっそく見に行きますか?」
「じゃあさっそく――え?」
家完成した? いや、えっと……昨日話したばっかりなんだけど……え? マジで? 一晩で?
???「アリスちゃんが一晩でやってくれました」
シリアス先輩「マジで一晩だよ……コイツ、チートすぎる」




