家を建てよう③
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シンフォニア王国王城の中でも、特に豪華な一室には人界三国のトップが集結していた。
ここで行われているのは一年に一度、十日間に渡って行われる三国合同会議。人界の三王が集結し、国単位の情報交換や人界全体について話し合う会議。
会場は持ち回りであり、今年はシンフォニア王国が会場となっていた。
室内にいるのは限られた少数のみ、シンフォニア王国は国王であるライズと、王太子として正式に指名を受けた後継者であるアマリエ。
アルクレシア帝国は皇帝クリスと、補佐を務める腹心の部下のふたり。ハイドラ王国は国王ラグナと……お目付け役の部下と、計六人のみだ。
そして直接席について話し合うのは王のみであり、アマリエを含む同行者は少し離れた場所で待機している。
「はぁ、それにしてもアマリエ嬢もなかなか次期国王の風格が出てきたのぅ。まぁ、ライズ坊の年齢を考えれば継承はまだまだ先じゃろうが、時代の流れを感じるのぅ……で、なんでワシはまだ国王をしておるんじゃ!? ついに千の大台に乗ったぞ! いつまで年寄りをこき使う気なんじゃ……」
「ははは、それだけ民から望まれているということでしょう。それに年寄りなど……最近月一で我が国最強である公爵と一騎打ちをしている現状では、説得力がありませんよ」
愚痴るように告げるラグナの言葉を聞き、ライズが苦笑しながら返す。そう、国家同士の会議とはいっても、毎年……それも十日もあれば議論することなど多くはなく、こうした雑談が行われることも多い。
「そういえば、ハイドラ王国はつい最近国王投票なるものを行ったらしいですね?」
「……相変わらずクリス嬢は耳が早いのぅ。うむ、議員を投票で決めるなら国王も民意で選べばよかろうと、そう思って提案したわけじゃが……ワシの『得票率99%』ってなんじゃ!? というか、なんでほかの候補者もワシに投票してるんじゃ! 国王になりたくて立候補したんじゃないのか!!」
「あくまで私の予想ですが、国王を辞めたいラグナ陛下が強行して、立候補者も他薦のみだったのでは? そしておそらくその1%は、ラグナ陛下以外への投票ではなく無効票では?」
「……本当に……ワシは……いつ国王を辞められるんじゃ……」
そう、三国の中でも特にハイドラ王国国王であるラグナの支持率は圧倒的だった。本人は辞めたくててしょうがないのだが、王としての能力は優秀そのもの、サボって城を抜け出すことはあっても議会は一度も欠席しない。
世界的な英雄のひとりであり、国民主体の改革にも寛容な上に、人柄も良く人気も高い。その上千年に渡り国王と務めており、もはや国の象徴といっていい存在なので、ハイドラ王国の民としてはラグナ以外の国王は考えられないという状態だった。
おそらく今後もラグナが国王を辞められる日は来ないのだろうと、そう思いながらクリスは苦笑を浮かべた。
そんな和やかな空気だった会議室の扉が、突然勢いよく開かれた。
「緊急の用件に付き、失礼いたします!」
「……オーキッド?」
大慌てと言った様子で駆け込んできたのは、シンフォニア王国第一王子であるオーキッド……だが、これはあまりにも異常な事態だった。
この場は三国のトップと同行者のみしか入れない部屋であり、王族であるオーキッドであっても会議中の入室はよほどの緊急事態でない限り認められない。
当然オーキッドもそれは弁えているはずであり、室内に居た者たちの表情が緊迫する。
「至急、国王陛下と王太子殿下のお耳に入れたいことがあります!」
「……それは、緊急を要する内容であり、三国の会議を中断してでも耳に入れるべきものということか?」
「はい!」
「よい、申してみよ」
国王としてのライズの問いかけに、オーキッドは躊躇なく頷く。大災害か、強大な魔物の出現か……そんなことを想像するライズに対し、オーキッドはやや興奮気味に……それでいて、かなり嬉しそうな声で告げた。
「先ほど、カイトから手紙が届きました! シンフォニア王都に住居を構えることに決めたと!」
オーキッドのその言葉は、室内に静寂をもたらした。
そして少しして、ライズとアマリエは勢いよくガッツポーズをした。
「……よし、よしっ!! そうか! さすがミヤマくんだ!」
「ぐっ……や、やはり、そうなったか……」
「そうなる可能性が高いとは理解していましたが……想像よりはるかに早い……」
ライズは大喜びといった具合に叫び、ラグナのクリスは悔し気な表情を浮かべる。
そう、快人がシンフォニア王国、それも王都に住む……それは本当に大きい。もちろん快人を政治利用することはできない。そんなことをすれば文字通り国は亡びるだろう。
だが……快人が居る。ただそれだけで国には大きすぎる恩恵がもたらされる。なぜなら、快人は文字通りこの世界の特異点である。
快人がシンフォニア王都に家を持つということは、その快人に会うために六王や最高神、果ては創造神までもが国を訪れるということ……場合によっては王城に立ち寄ってくれる可能性すらある。
この場に居る者たちはそれを理解している。だからこそ、素早く次期国王であるアマリエが動いた。
「陛下! 私は、そちらの指揮を執ります!」
「あぁ、そうだな。国の法律に対しても特例処置などを加えねばなるまい。分かっているとは思うが……」
「えぇ、ミヤマ様の要望はすべて通します」
「よし! それでは……いや……待て!」
「……え?」
自ら先頭に立って指揮を執るというアマリエに、ライズは意気揚々と答えようとして……突然なにかに気付いた様子で、顔を青くした。
「……アマリエ、オーキッド……『一年ほど前』に、幻王様が『しかるべき時に開けてください』と言って、大きめの封筒を置いていったのを覚えているか?」
「え、えぇ、厳重に保管を――まさかっ!?」
「……あぁ、私はいまがその、しかるべき時だと思う」
「す、すぐに持ってまいります!」
ライズの言葉を聞いて、アマリエもオーキッドも顔を青くし、オーキッドは慌てて宝物庫へ向かった。
クリスとラグナも、幻王という言葉が出てきて嫌な予感がしたのか、さらに表情を暗くする。
そしてほどなくしてオーキッドが大きな封筒を抱えて戻ってきた。
「戻りました!」
「……開けてくれ」
ライズが緊張した面持ちで指示を出し、オーキッドが封筒を開けると、中からはいくつかにまとめられた書類が出てきた。
そしてそれを見たオーキッドは、青を通り越して白い顔になり、震える声で呟く。
「……いくつかの資料と……手紙が、入っています」
「……読み上げてくれ」
「わかりました。では……『この手紙を読んでるってことは、たぶんカイトさんが家を作りたいって言い出したんでしょうね』」
「「ッ!?」」
そこで、なぜライズが青い顔をしていたのか、クルスとラグナも気づいた。先ほどライズは『一年前に幻王が置いていった』と言った。
それはつまり、幻王は……アリスはこの展開を読んでいたということに他ならない。
「……『ちなみに、いま三国合同会議中だったりします? だとしたら、手間が省けるのでクリスさんとラグナさんにも内容を教えてあげてくださいね』」
「「「なっ!?」」」
その内容には、三国の王だけではなく室内の全員が言葉を失った。
「……『カイトさんの性格や、現地の状況、必要な工程から予測すると、カイトさんがこっちに戻ってくるのはおおよそ二年。正確には一年と八ヶ月ぐらいって予想してます。そしてたぶんカイトさんは戻ってきて数日中にはそれを言い出すと思うので……ちょうど合同会議の時期ですかね』」
あまりに正確すぎる、異次元とすら言える読み……それを聞いた者が感じるのは、ただただ恐ろしいという恐怖だった。
「……『まぁ、こればっかりはカイトさん次第でずれちゃうので、当たってたらご愛敬ってことで、あとの方に書いてある資料をクリスさんとラグナさんに届けてあげてくださいな。さてさて、それでは本題に移りましょう。ちょっと三国の王様たちにお願いがあるので、しっかり覚えてくださいね』」
そして、世界一とすら言える知力を持つ幻王からの要求が、一年の時を経て王たちへと突き付けられた。
シリアス先輩「……思ったんだけどさ」
???「なんすか?」
シリアス先輩「……お前、いや、アリスって……相棒兼親友だとかフランクっぽいこと自称しておいて、実際は作中でも一二を争うほど快人にべた惚れだよね?」
???「……は? い、いやいや、なに言ってんすか? まぁ、アリスちゃんがカイトさんに惚れているのは認めましょう。それは恋人なんだから当然ですね。しかし、作中一二を争うほどとはとても……」
シリアス先輩「……快人にプライバシーは無いとか言いながら『快人と恋人がふたりっきりの時は、会話が聞こえないように離れて護衛してる』」
???「……うぐっ、そういえば、そんな設定もありましたね」
シリアス先輩「快人がなにかを欲しがった時、金銭を要求するなんて建前を付けつつ『真っ先に用意する』」
???「……い、いや、それは、商売チャンスなだけで……」
シリアス先輩「快人になにかあった時は、快人にとって幸せな結末になるように『陰に日向に献身的なフォロー』……」
???「……やめましょうこの話は……私に効きます」
シリアス先輩「そもそも存在自体が快人のセ〇ム筆頭、快人が呼ぶと即座に現れる……ふざけた態度とってても、『大好きオーラ』が全然隠せてないよね」
???「……そ、そろそろ口を閉じましょうか、ね?」
シリアス先輩「……というか、戻ってきたら抱いてアピールまで……」
???「おい、エセシリアス。粗挽きハンバーグになりたくなかったら、いますぐその口を閉じろ」
シリアス先輩「ッ!? い、イエッサー」




