家を建てよう①
神界からリリアさんの屋敷に戻り、改めて母さんと父さんと挨拶を交わしたあと、リリアさんは「家族水入らずで話したいこともあるでしょう、説明もほぼ終わりましたので」と気を利かせて退出してくれ、いまは広い部屋に、母さんと父さんと俺の三人でいる。
あれこれと考えていた。もし、母さんと父さんが生きていたらどんな会話をするのだろうと、生き返ったふたりとどんな風に話そうかと……しかし、意外なほどに話題が出てこない。
もっとこう、懐かしさとかで自然と話が弾むものだと思ってたんだけど……。
「……う~ん。なんというか、夢の中とはいえ一ヶ月一緒に住んでたわけだし、そこまで久しぶりって気がしないね」
俺と同じようにこれといった話題が出てこなかったらしい父さんが苦笑しながらそう呟き、母さんも頷く。
たしかに言われてみれば、あの仮想世界でのふたりが本物だったってことは、若干の記憶の差異はあれど父さんの言う通り一月一緒に生活してる。
こうして三人で居て、ものすごく懐かしいとかそんな感じがしないのは、ソレが原因か……。
「まぁ、それに私は、実はあの試練の半年前に快人と会って話もしてるしね」
「……え?」
「そうなのかい? それは初耳だね」
栗色の髪を揺らしながらサムズアップして告げた母さんの言葉、その意味するところを俺はすぐには理解することができなかった。
そしてそれは父さんも知らなかったみたいで、首をかしげながら母さんに尋ねる。
「私の方があなたより早くこっちの世界に来てたからね……まぁ、その時はルーチェって名乗ってたんだけど」
「え? えぇぇぇ!? じゃ、じゃあ、やっぱり、ルーチェさんって母さんだったの!?」
「ふふふ、実はそうだったんだよ」
小さな体をそってドヤ顔をする母さん……そりゃうり二つのはずだ。まさか、本人だったとは……。
「へぇ、でも、名前を変えたぐらいじゃ、快人は気付きそうだけど……」
父さんの疑問はもっともである。実際俺も最初見た時は、母さんは死んだと分かっていても……本人じゃないかと疑っていた。
「い、いや、でも……あの母さん……ルーチェさんの手作りサンドイッチは、美味しかったんだ!」
「……なんだって? それは別人だね。間違いない。僕が快人の立場でも、別人だと思っただろう」
俺が真剣な表情で告げた言葉を聞き、誰よりも長く、誰よりも多くの回数母さんの料理を食べてきた父さんは、しみじみと頷き、俺が気付けなくてもしょうがないと言ってくれた。
ということはあのサンドイッチは別の人が作ったのか? それともまさか、シロさんは母さんの料理下手を修正したとでもいうのだろうか……だったら凄いな。さすがほぼ全能の神。
まぁ、そんなこと本人に言えるわけもないけど……。
「……快人? あなた?」
「ひっ……あ、いや、いまのは言葉の綾というか……」
「あ、あぁ、その通りだ。さすが神様というのは人知を超えた存在だ。まさか、母さんの料理をなんとかできるなんて……驚きを禁じ得ないよ」
なんで俺が避けた地雷を踏むのかな父さんは!? 母さんの目が据わってるじゃないか!
これヤバいんじゃない? この流れだと、俺も一緒に怒られるパターンなんじゃ……。
「……あなた、ちょっとこっちにきなさい」
「……すまない、失言だった。だ、だが、長く君と一緒にいるからこそ衝撃だったというか……待つんだ。い、いまは快人とゆっくり会話を……」
「快人は少し待っててね」
「あっ、うん」
よし! どうやら母さんの判定では、俺はセーフ、父さんはアウトだったみたいだ。さらに失言を重ねる父さんの首根っこを掴んで部屋から出ていく母さんを見送りつつ、俺はほっと胸を撫でおろした。
「……う~ん。カイトさんの両親は、少しジークさんの両親に似てる感じがしますね。ノリがよさそうで私的には結構好きなタイプです」
「本当に唐突に出てくるよなお前……まぁ確かに、それは俺も前に同じこと考えた」
レイさんとフィアさんが父さんと母さんに似ているというのは以前俺も考えたし、アリスもそう思うのならやはり似ているんだろう。
なんというか、仮想世界でも見たやり取りではあるが……こう、自然と心が温かくなるのは、やはり懐かしさを感じているからなのかもしれない。
そんなことを考えながら、たぶん俺が暇にならないように話し相手になりに来てくれた気の利く恋人と雑談をする。
「……そういえば、全然話は変わるけどさ」
「なんすか?」
「いや、俺もこっちにずっと住むことに決めたわけだし、いつまでもリリアさんの屋敷にお世話になるんじゃなくて……『自分の家』とか買った方がいいのかなぁって」
「あ~たしかに、有りですね。またアリスちゃんの懐に、大金が入ってきそうで楽しみです」
予想通りといえば予想通りではあるが、アリスはやはり大工も問題なくこなせるらしい。となるとやっぱり、なんだかんだでコイツに頼むことになりそうな気がする。
多少高いとはいえ……やっぱり安心感というか、信頼感が違う。まぁ、言ったら絶対調子に乗るから本人には言わないけど……。
「……まぁ、なんとなく予想は出来たけど……ちなみにその場合の価格は?」
「そうですねぇ、もろもろ含めて白金貨1000枚でいかがですか?」
「……ふむ」
払えない額ではないが、いままでアリスが俺に提示した金額でも最高額……日本円にして100億円である。
それでもアリスなら、間違いなく金額以上の仕事はしてくれるだろうし……アニマがやたら増やしてくれたおかげで、白金貨1000枚払ったとしても、所持金にはまだまだ余裕がある。
一生に一度の買い物だし、遊びに来る知り合いとか、泊まる可能性がある方々を考えても……贅沢してもいいような気がする。
アリスのことだから、俺が引くような豪華絢爛過ぎの建物とかは作らないだろうし……。
「……じゃあ、アリス。リリアさんとかに話を通してからだけど、先にお金は渡しとくよ」
「はいはい。まいどありですよ~。まぁ、任せてください。カイトさんが満足する家を作りますよ」
「あぁ、よろしく」
そう言って微笑んだ俺は……まだ自分の立場というか……周囲の環境に対しての認識が……甘すぎた。
それを後悔するのは、あとになってからである。
???「ヒント、恋人は公爵、エリフ、六王、最高神、創造神……」
シリアス先輩「……あっ(察し)」




