終わりの神が謳う愛⑪
Q、なんでこの時間に更新?
A、昨日更新するの忘れてた
恋人同士となったシロさんとの遊園地デート。これだけを言葉にすれば一切違和感はない幸せなひと時といった感じだろう。
まぁ、実際は遊園地デートの前に……『異世界から帰ってきた当日に、世界の時間を巻き戻して、神界に新たに創造した』という、自分で言っててもわけが分からない言葉が入るのだが……。
とはいえ、シロさんが常識の範疇外なのはいまに始まったことではないので、そこまで気にはならない。ある意味では、俺も慣れてきたということだろう。
そんなシロさんとの遊園地デートだが、一通りのアトラクションを……明らかに一日では足りない時間で回り、いよいよ最後のアトラクションへとやってきた。
うん、俺の気付いてないところで、デート中にもう一度ぐらい世界の時間が巻き戻ってる気がするが……残念ながら神界の空は昼のままなので、ハッキリとはしない。
ともあれ、最後のアトラクションはやはりというべきか、お約束というべきか……巨大な観覧車だった。
「やはり遊園地デートの締めくくりは、観覧車ですね」
「たしかに、定番中の定番ではありますけど、手堅い気がしますね」
「はい。この観覧車に乗って……」
シロさんはそこまで言ったところで、ふとなにか考えるように顎に軽く手を当てたあと、後方を振り返りながら口を開いた。
「アリス、快人さんと観覧車に乗って夜景を見たいので……『夜景といい感じの花火』を用意してください」
「私の長い人生でも、いまだ経験したことない無茶ぶりっ!?」
流石神様はなにもかもスケールが違うらしい。まさか、こともなげに夜景を用意しろ、なんて……それは流石のアリスでも厳しいだろう。
「できなのですか?」
「いや、できますけど……はぁ、クロノアさんの苦労が少しわかった気がしますよ。それじゃ、準備するので神界の天気を夜にしておいてください」
「わかりました」
前言を撤回しよう。シロさんというか、俺の周りは常識の範疇外の奴ばかりだった。え? 夜景って、そんな飲み物買ってくるみたいな感じで用意できるものだったっけ? シロさんとアリスがおかしいのか、このふたりにツッコミを入れようとしている俺が間違っているのか……。
そんなことを考えていると、ふっと周囲が暗くなり、神界に夜が訪れた。
「では快人さん、さっそく乗りましょう」
「わ、わかりました」
突っ込んだら負けという言葉が頭に思い浮かんだ俺は、とりあえず余計なことを考えるのは止めにして、シロさんと共に観覧車に乗ることにした。
着ぐるみを着たアリスがゴンドラの扉を開いてくれ、シロさんと一緒に乗り込んだわけだが……。
「……あの、シロさん?」
「なんですか?」
「席、ひとつしかないんですけど……」
「おや? これは大変ですね。しかしすでに乗ってしまったので、ふたり一緒に座るしかありませんね」
「……ソウデスネ」
白々しさここに極まれりであるが、残念ながら今回も俺には拒否権はないみたいだ。
う~ん、しかしどうしよう? 椅子の作りはしっかりしてるし、普通の椅子よりは大きめだが……横並びにふたり座るのは、無理そうだ。
膝の上に……いや、百歩譲ってシロさんを俺の膝の上に座らせたとしたら、シロさんの身長を考えると、俺が夜景を見ることができなくなる気がする。
――シロさんをお姫様抱っこして、膝の上で抱えれば大丈夫。
あぁ、なるほど……たしかにその形ならふたりとも外の景色が見えるし、幸いこの椅子には肘置き的なものは付いてないから……うん? ちょっと待て、なんだいまの?
――まぁ、あれこれ考えてても仕方ない。そうと決まれば、さっそくシロさんを抱き上げよう。
う、うん。まぁ、そうだよな……観覧車はもう動き始めてるわけだし、あまり長く考えてても……。
――ついでに、少しくらい胸とかお尻とか触っても、きっとシロさんは許してくれるだろう。
「……シロさん」
「どうしました?」
「俺の頭に響かせてる、この心の声的なやつを速攻止めてください」
「……バレましたか」
「そりゃバレますよ」
わざわざ俺の声と、俺の口調を真似て頭に声を響かせてきていたので、気づくのが遅れた。なんて恐ろしい思考誘導を仕掛けてくるんだこの神様……。
けど、まぁ、うん……シロさんが望んでいることはよく分かった。
「……シロさん、失礼します」
愛しい恋人がそれを望んでいるというなら、叶えない理由なんてない。ここまでの様々なアトラクションでもいろいろなことはしてきたが、基本的には受動的だったわけだし……シロさんの要望を叶えるために、こちらから積極的に動いてもいいだろう。
そんなことを考えつつ、シロさんの要望通り驚くほど軽いその体を抱き上げ、ゆっくりとひとつだけの椅子に座る。
シロさんの柔らかな体の感触、密着する体、自然と抱きしめる手の力が強くなる。そのまま視線を正面に向けると、それは見事な夜景が目に入った。
キラキラと眼下に煌めく色とりどりの光は、まるで宝石をちりばめたみたいで、どうやったのかは分からないが、さすがアリスと行ったところだろう。
「……シロさん、体勢きつくはないですか?」
「大丈夫です。それにしても……綺麗な夜景ですね」
「シロさんの方が綺麗ですよ」
「ッ!?」
「そう言って欲しかったんでしょ?」
「驚きました。快人さんは、私の心が読めるのですか?」
相変わらずの無表情ではあったが、驚いているというのは本当みたいで、声に少しだけ抑揚を感じた。
「そのぐらいは、心が読めなくても分かりますよ。えっと、大切な恋人のことなんですから……」
「……ふふふ、そうですか、なるほど」
俺の言葉を聞いたシロさんは、心底楽し気に笑ったあと、俺の首に手を回しそっと体を寄せてきた。
「せっかくアリスに夜景を用意してもらいましたが、無駄になってしまうかもしれませんね」
「うん? どういうことですか?」
「快人さん、ひとつわがままを言ってもいいですか?」
「えぇ」
「この観覧車に乗っている間……短い時間ではありますが、いまは、私だけを見てくれませんか?」
「……はい、喜んで」
即答できなかったのは、仕方がないと思う。だって……頬を赤くして、照れを隠すように笑うシロさんの顔があまりにも美しすぎて、一瞬なにも考えられなくなってしまったから。
眼下に煌めく夜景よりも、ずっと美しいと思えるシロさんの金色の瞳。その瞳に吸い込まれるようにそっと顔を近づけ、シロさんの目を見つめたまま唇を重ねた。
夜空に浮かぶふたりきりの空間、そこで一番綺麗な星を独り占めにできる幸運をかみしめながら……。
シリアス先輩「……ツライ」
???「【悲報・まだ異世界から帰ってきて一日目】」
シリアス先輩「……オウチカエリタイ」
???「ここがおうちです」




