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気の早いエイプリルフール番外編②

今回は前回の続きを更新です。


明日は、本編を更新します。



 魔王配下……という設定のドM四天王。その最後のひとりにして、俺の知る限り最悪の変態であるパンドラさんとの戦い。

 現在仲間はおらず俺一人で戦うことになるわけだが、どうしよう……。


 単純な戦闘力という話であれば、俺が全身世界最強の装備で固めたとしてもパンドラさんに敵うわけもないだろう。

 だがいまは勇者ごっこという遊びの最中であり、その前提で考えるのなら俺にも勝てるようになっていると思う。


 あの謎のメッセージウィンドウから考えるに、設定されたHPを削り切れば勝ちだろうか? ともかく、やれるだけのことはやってみよう。

 ゲーム風に考えるなら、パンドラさんの素早さ次第だが、先制を取りたいところではある。


【狂気のパンドラが現れた】


【パンドラは期待に満ちた目で攻撃を待ち構えている】


 なんで、魔王四天王、四人中三人が待ちの姿勢なんだよ。両手広げて待ち構えてるけど、目はギラギラとしていて、なにかを狙っているようにも見える。

 カウンターを狙うつもりだろうか? いや、考えても仕方ない……とりあえずこのやけに軽い剣で攻撃してみよう。


【勇者カイトの攻撃】


【パンドラは素早い動きで『剣が急所に当たるように調整した』】


「あぁぁぁぁぁん!」


【クリティカル! パンドラに9999のダメージ】


【パンドラはとても喜んでいる】


 もう心から帰りたい。妙に色っぽい叫び声で、恍惚とした表情を浮かべるパンドラさんを見て、心底そう思った。


「素晴らしい! 一撃で私にここまで快か……ダメージを与えるとは、さすが勇者といえるでしょう」


 いま、快感って言いかけた。絶対言いかけた。


「ですが、まだまだこの程度で私は倒せませんよ。思うに武器がよくないのでしょう……いいでしょう、特別に私が強力な武器を用意しましょう! さぁ、好きなものを手にとって使いなさい!」

「……あの、『鞭ばっかり』なんですけど……なにさせようとしてるんですか、貴女」

「はぁはぁ……ミヤマ様に堂々といたぶっていただけるなんて……素晴らしい役割です」

「自重しろ変態」

「んはぁぁぁ!? そ、そんな、言葉攻めまで……ありがとうございます!」

「……」


 駄目だこの変態、無敵すぎる。これ以上付き合っていると、なんかこちらの方が大切なものを失いそうな気がする。

 パンドラさんの手の付けられなさを再確認した俺は、静かに呟いた。


「……アリス」

「はいはい、ほら、パンドラ……ハウス」

「え? シャ、シャルティア様!? し、しかしまだ、プレ――戦闘は続行中で……」

「SMプレイしろなんて言ってねぇでしょうが……暴走すんなってあれほど言っといたのに……」


【パンドラはアリスに連行された】


【パンドラを倒した】


 なんというか、悲しくも厳しい戦いだった。というか、このメッセージウィンドウ……こんな時にまで表示されるのか、無駄に高性能っていうか……絶対誰か、具体的には世界の神とかが操作してるだろコレ。








 ある意味で最悪ともいえる魔王四天王を打倒し、ついに辿り着いた魔王城……うん、気のせいかな? なんか、ここまでの戦いって……望んでもないSMプレイをさせられただけの気がするんだけど……。

 まぁ、それは忘れよう。正直あまり思い出したくもないし……それよりも、いまは魔王だ。


 いったい魔王役は誰が担当しているんだろうか? 正直四天王の面子的には、アリスが魔王だとしっくりくるんだけど……仲間に居るってことはたぶん違うだろう。

 六王の中で魔王っぽい見た目なのはメギドさんかな? 変身するし、こういう遊びにもなんだかんだノリノリで参加してくれそうだ。

 実力という点で考えれば、クロもありかもしれない。こちらが六王ふたりに初代勇者でもクロは強敵感があるし……変身するし。


 そんなことを考えながら、モンスターの出現しない……普通に豪華な城を進み、最奥である巨大な扉の前に辿り着く。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか……。


 大きさの割にやけに軽い両開きの扉をゆっくりと開け、魔王の待つ玉座へと到着……。


「……頑張れ、私……ミヤマくんのため、ミヤマくんのため……うぅ、でも、この服着てると、過去のトラウマが……ふぐぅっ……耐えなくちゃ……」

「……」

「でも、懐かしいなぁ……なんで、私、あんな馬鹿なこと……うぐっ……吐きそう」

「……」


 玉座の間には、たしかに魔王がいた。しかも、かつて初代勇者に倒された本物の魔王である。しかし、顔は青ざめ、豪華な椅子に伏して嗚咽を零す姿は……ただただ、可哀そうでしかなかった。


「なぁ、アリス?」

「なんすか?」

「……魔王、瀕死なんだけど……もう戦う前から、精神的にボロボロなんだけど……」

「リアリティを追求して本物選んだんですけど……どうもトラウマ刺激されたみたいですね」


 どうしよう? いろいろなゲームをプレイしてきたけど、いまだかつて登場時点でここまで瀕死なラスボスは見たことないんだけど……いまにも泣き出しそう……というか、すでに半泣きである。

 あまりに悲惨な魔王の姿に呆然としていると、魔王……もといフィーア先生は、こちらに気付き、少し慌てた様子で姿勢を正し……。


「よ、よく来たな勇者……うぷっ……こ、ここまでたどり着いたことに敬意を表して……うぇっ……わ、私が直々に相手を――ッ!?」


 台詞と共に起き上がろうとして、起き上がれずに椅子から転げ落ちた。


「ちょっ、フィーア先生!? 大丈夫ですか?」

「……か、体が震えて……立てない」


 もう無理だろこれ!? 戦えないよ! こんなボロボロのフィーア先生に鞭打つような真似ができるわけがない!?

 青ざめた顔で震えるフィーア先生を見て、俺は慌てて駆け寄りしゃがんで声をかける。


「フィーア先生、無理しないでください……ゆっくり、深呼吸して落ち着いて……」

「……ミヤマ君が……ぎゅってしてくれたら、震えも収まるかも……」

「……うん?」


 なんだろう? 少し打算的な言葉が聞こえた気もしたけど……青ざめて震えているのは、演技ではないとは思う。

 ど、どうするべきか……いや、まぁ、こんな状態のフィーア先生を放ってはおけないし、そもそもの原因はアリスであり、ひいては勇者ごっこを了承した俺でもあるわけだから……それでフィーア先生が落ち着くなら……。


 そう考えた俺は、フィーア先生の要望に応え、その華奢な体をそっと抱きしめた。


「こ、これで、いいでしょうか?」

「……うん……ありがとう……ミヤマ君、あったかい」


 う~ん、本当になんでこうなったのか……勇者ごっこと言いつつ、結局やったことは半強制的にSMプレイさせられて、最終的に魔王を抱きしめただけである。


【魔王フィーアは仲間になりたそうにこちらを見ている】


【仲間にしますか?】


 ……メッセージウィンドウが空気読んでくれない。絶対これ中身天然神だろ……。


【魔王フィーアが仲間になった】


【豪華なベッドが出現した】


 ……うん? なにこれ、なにこのベッド?


【夜の戦いに挑みますか?】


【はい】


【今夜はおたのしみですね】


 おいちょっと待て!? なにこのメッセージ!? というか、なんで俺じゃなくてメッセージウィンドウが選択してんだよ!


「ちょっ!? フィーア先生!?」

「……あっためて」

「いやいや!? なに言い出してるんですか貴女!? アリス止め――あれ? いない!?」


 なぜか急にベッドの上に移動し、顔を赤くしたフィーア先生が潤んだ目でこちらを見つめながらにじり寄ってくる。

 助けを求めようとしても、先ほどまでいたはずのアリスやノインさん、アイシスさんの姿がない。


「ミヤマ君……」

「ちょっと待って!? ストップ! ストォォォォップ!?」











「うわぁぁぁ!?」

「うぉっ!? 急にどうしたんすか、カイトさん?」

「……え? あれ?」


 驚いたような声が聞こえて振り向くと、雑貨屋のカウンターで不思議そうに首をかしげているアリスが見えた。


「……変な夢でも見たんすか?」

「は? え? えっと……俺、寝てた?」

「えぇ、30分くらいですけど、カウンターに伏してスヤスヤと」

「じゃあ、さっきまでのは……夢?」

「よく分かりませんけど、そうなんじゃないっすか?」

「……そ、そっか」


 それを認識すると同時に、ガックリと肩から力が抜けた。なんだ、夢だったのか……なんというか、良かったような、少し惜しかったような。

 まぁ、ともかくホッとした。ドM四天王も、可哀そうな魔王もいなかったんだ。


「あっ、ところで、話は変わりますけど……」

「……うん?」

「カイトさん、『勇者ごっこ』してみません?」

「……」


 明るい笑顔でそう告げるアリスに対し、俺も苦笑をこぼしながら口を開く。


「うん……『絶対やらない』」

「……あれ?」





メインヒロイン(笑)「……裏ボスで待機してたのに、出番なかった……」

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― 新着の感想 ―
この世界に定住するって決めてケジメつけたんだからこの時点でチョメチョメしちゃってもよかったんでない?
[一言] 大人の階段のぼるRPG
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