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早すぎる母の日番外編

申し訳ない。ちょっと最近仕事が忙しくて時間が取れず、また先に書いていた番外編を投稿します。


本当に時期が先の……母の日に投稿する予定の番外編でしたが、一週間開くよりはマシなので投稿します。



 目の前に置かれた鮮やかな色合いのカーネーションの花束を見ながら、俺は腕を組んで真剣な表情で考え込む。

 母の日……それは非常に微笑ましく、温かなイベントといえるだろう。実際、『実の母親』に関しては、親孝行しつつ家族団欒の時間も楽しめた。

 しかし現在、俺の目の前にはカーネーションがあり、それを見る俺の表情はおそらく決戦に赴く武士のようになっているだろう。


「……カイトさん、念のため確認しますけど……正気っすか? これは流石にヤバいかもしれないっすよ。いや、もちろん私もいざとなったら全力で対応しますが、アレが本気で暴走すると厄介極まりねぇですよ」

「うん、正直俺も不安で仕方ないし、さっきから震えが止まらないんだけど……けど、いままでのことを考えると……」


 なぜカーネーションの花束ひとつで、アリスが戦慄した表情で正気かと尋ね、俺の体が面白いぐらい震えているのは……これから俺は、エデンさんにこの花束を贈ろうと考えていたからだった。

 いや、正直言って自分でも正気を疑いたくなるし、エデンさんの反応が恐ろしくて仕方がない。しかし……しかしである。


 時折……いや、高頻度で発生する暴走には困らされているとはいえ、いままでエデンさんにお世話になったり、助けたりしてもらったりしていないかというと……そんなことはない。

 フィーア先生の一件もそうだが、シロさんとの戦いにおいてもアリス達にヒントを出してくれたり、地球に一度戻った際におじさんやおばさんへの説明を手伝ってくれたりと……ぶっちゃけ滅茶苦茶助けてもらっている。


 となれば、人として最低限のお礼はするべきではないかと思い、エデンさんが喜ぶものはなにかと考えた結果……カーネーションの花束という結論を出して、用意してみたわけだ。

 だけど、これを渡したときのエデンさんの反応が予想できない。なにせ、俺の方からエデンさんになにかを贈るのは初めてだ。

 普段から、まぁ、なんというか、控えめに言ってヤバい方であるエデンさんが、さらにテンションを上げるとどうなってしまうのか……もはや想像すらできない。


 いちおう取れる限りの対策は取った。アリスにはこうして姿を現した状態で、いつでも対応に動けるようにしてもらってる。クロはエデンさんと顔を合わせると、エデンさんの方が喧嘩腰になるのでここにこそいないが、少し離れた場所に待機してもらっており、なにか反応があればすぐに動いてほしいと伝えてある。

 それとシロさんにも頼んでみたのだが、シロさんはエデンさんとの約束で俺とエデンさんのやり取りに割って入ることはできないらしく、力になれないということだった。


「……とはいえ、いつまでも悩んでても仕方ないな。アリス、いまからエデンさんを呼ぶから……頼んだ」

「えぇ、任せてください。すでにヘカトンケイルの究極戦型も発動させてますし、大抵の事態には対処できるはずです」


 カーネーションを贈るだけとはとても思えない、重々しいやり取りをしたあと、俺はエデンさんから貰った一枚の羽根に軽く魔力を注ぐ。

 するとすぐに室内を眩い光が包み込み、その光が晴れるとエデンさんが現れた。


「我が子の方から私を呼ぶのは珍しいですね。いえ、もちろん嬉しいのですよ。母は愛しい我が子と一秒でも多く共に居たいのですし、そう愛しい我が子は……」

「あ、あの、エデンさん!」

「うん? どうしました?」


 現れた瞬間からアクセル全開で、放っておけばいつのように恐ろしく長い台詞がきそうだったので、途中で割って入る。

 そして首をかしげるエデンさんに、カーネーションの花束を差し出した。


「……これは?」

「え、えっと、エデンさんにはいつもお世話になってますし……今日はその、母の日なので……カーネーションを……」

「……」


 エデンさんは俺が差し出したカーネーションの花束を、無言で受け取る。

 それと同時に、アリスが警戒を強めるように低く構え、空気が緊迫したような気がして思わず目を閉じた……さ、さぁ、どうくる? どんな反応を……。


「ありがとうございます、愛しい我が子。このような素敵な贈り物を貰えて、母は幸せです」

「……うん?」


 柔らかいと表現できるような、優しい声……あれ? なんだこの違和感? いつものような、ゾクっと背筋が冷たくなるような感覚がない。

 恐る恐る目を開けてみると、エデンさんは眩いほどのアルカイックスマイルを浮かべて俺を見ていたが……アレ? なんか、いつもと違うような……具体的には、目の奥にどろどろとしたものが見えないような。


「これは、驚かされてしまいましたね。ですが、とても嬉しいです」

「あっ、えっと、喜んでいただけたなら、よかったです」

「えぇ、改めて我が子の優しさに感謝を……あぁ、せっかくの機会ですし、少し母とお茶でも飲みませんか? もう少し我が子と話したいのですが、いかがでしょう?」

「……は、はい。大丈夫です」


 やっぱりなんか変じゃない? いつもみたいに捲し立てるように喋らないし、それどころかこちらの都合を確認してくるし……。

 戸惑っている俺の前で、エデンさんは少しだけ背中の羽を動かし、テーブルの上に紅茶とクッキーを『三つずつ』出現させる。


「アリスも一緒にいかがですか? 貴女と一緒の方が、我が子も喜ぶでしょう」

「……え、えぇ、私は構いませんけど……エデンさん的には、私が同席しても大丈夫なんすか?」

「もちろんですよ。貴女は我が子の大切な人……それに、いつも愛しい我が子を守ってくれている優しい子です。母として是非、お礼を言わせてください。いつも、ありがとうございます」

「あ、はぁ……ちょっと、カイトさん……『誰っすかこれ』!?」


 アリスが目に見えて戸惑っているのは珍しいが、俺もまったく同じ気持ちである。本当に誰だこれ!? いつもと完全に別人じゃねぇか!? え? ちょっと、本当にどうなってんの?

 エデンさんのあまりの変貌に、俺とアリスが混乱していると、部屋に黒い渦が出現しその中からクロが現れた。


「カイトくん! 大丈夫!? シャルティアの魔力が揺らいでたから……」

「おや? クロムエイナではありませんか?」

「来てみたんだけ……え?」

「貴女も来たのですね。ではもうひとつお茶を追加しましょう」


 エデンさんは基本的にクロを嫌っている。というか敵視していると言っていい。普段は名前すら呼ばず『神の半身』と呼び、話すときはいつも喧嘩腰なの……だが……。


「よろしければ、貴女も一緒にお茶を飲みませんか? 仕事が忙しいのであれば、無理にとは言いませんが」

「あっ、え? い、いや、今日は、商会の方の仕事は休んでるから……」

「そうですか、それならよかったです。貴女が真面目で頑張り屋なのは私も知っていますし、無理をしたところで壊れるようなやわな体をしていないということも分かっています。しかし、適度な休みは必要ですよ。心もまた疲労するのですからね」

「……う、うん……え?」

「失礼、お説教みたいになってしまいましたね。では、お茶にしましょう。愛しい我が子の恋人である貴女たちも、私にとっては可愛い我が子のようなもの、母は貴女たちの話が聞きたい」

「……えっと……カイトくん……シャルティア……聞いていいかな? ……誰コレ?」


 大きく目を見開きながら尋ねてくるクロだが、残念ながらその疑問に対する答えは俺もアリスも持ち合わせていない。というか、俺とアリスも同じことを聞きたい。

 その後のお茶の席でも、エデンさんの態度は変わらず……優しく微笑みながら、自分から話すのではなく俺たちの話を聞いていた。

 そして時折、手を伸ばして俺の頭を撫でたりしたが、それ以上過度なスキンシップを取ろうとすることもなく……本当に母親が子供を可愛がっているような感じだった。


 アリスやクロに対しても同様で、言葉遣いは優しく、相手を気遣うように話すエデンさんの姿は、母性と慈愛に満ちているようにさえ感じた。

 ただ、俺とアリスとクロは普段とあまりに違うエデンさんに戸惑いっぱなして、お茶会が終わるころには精神的に疲れまくってしまっていた。


 結局その日はエデンさんが元に戻ることはなく、お茶会が終わったあとは「あまり長居しては迷惑になりますし」などと、普段なら絶対言わないであろう台詞を言ったあと、俺にもう一度お礼を言ってから去っていった。


 そして一夜明けて翌日になると、エデンさんはいままで通りに戻っており……なんというか、微妙にホッとした反面……時々でいいから、あの謎の優しいモードになってくれないかと、そうな風にも思った。





~説明~


・エデンママン【聖母モード】

『デフォルトがヤンデレ』のママンの、快人に対する愛情が限界突破した状態。普段なら狂気的な愛情になる部分も含め、すべての感情が『愛しい我が子への愛情』のみで埋め尽くされているため、普段とは全然違う。行動すべてが快人への愛情であふれており、我欲がまったくないので結果としてものすごく優しく、相手のことを思いやる。

また『我が子以外への敵意』だとか、そういうのも『我が子への愛情』で上書きされているので、我が子じゃない相手に対しても普通に優しい。

この状態のエデンママンの危険度は皆無、挨拶したら微笑みながら返してくれるレベルで優しい。

ちなみにこのモードの継続時間は1日ほどなので、翌日になればいつも通りに戻ってる。


なお、この状態は『通常とは異なる一種の異常事態』であり、『正常な状態はヤンデレ』である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バ、バグったぁww 愛情限界突破、いいですね!
[一言] これ、もしも今後ママンがママンで我慢いかずに恋人目指して成功したら聖母モードの頻度上がりそうだから頑張って頂きたい。安心感を与えてくだちい
[良い点] ママンが可愛い [一言] でもやっぱり普段のママンが好き
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