数日遅れのバレンタイン番外編①
実はツイッターにて、遅れながらバレンタイン番外編を書くことと、どのキャラを書くかのアンケートを取りました。
いままでバレンタイン番外編を書いてないキャラというくくりで、四つの選択肢を用意して投票してもらいました。
結果がこちらです。
総得票数331
①イルネス 19%
②エリーゼ 1%
③フュンフ 1%
④三話か? 三話欲しいのか? この欲しがりめ! 79%
というわけで、バレンタイン番外編は三話です。
今日はフュンフ、明日にエリーゼ、イルネスの順で投稿します。
バレンタイン……それは男にとっても女にとっても、いろいろな意味で一喜一憂するイベントといえるだろう。多くのカップルが生まれるタイミングでもあり、すでに付き合っている者たちにとっても互いに愛情を再確認できるイベントだ。
しかし、そんな正の側面と同時に、このイベントには勝者と敗者の格差から生まれる禍々しい負の側面もある。
その負の側面に堕ちてしまった者たちは、バレンタインの日にはリア充爆ぜろとそんな言葉を口にすることもある。
俺も、ほんの数年前まではそちら……負の側に存在しており、心の中でリア充爆発しろと何度も思ったことがあった。
しかし、いまはどちらかというと……爆発しろどころか、爆撃されろと言われかねないリア充側に立ち位置が変わっており、バレンタインにも多くのチョコレートを貰うことができるようになっていた。
それはもちろん嬉しく幸せなことだと思う……しかし、明日にバレンタインを控え、俺は現在大きな悩みを抱えていた。
贅沢な悩みといえば、その通りなのだが……これがなかなかの難題である。
「う、うん。なるほど……男の子もいろいろ大変なんだね」
「あっ、すみません、フュンフさん。せっかくお茶に誘っていただいたのに、愚痴みたいなこと言ってしまって」
「ううん。それは全然かまわないんだけど……それで、結局カイトはなにに悩んでるの? 私で相談に乗れる内容だといいんだけど……」
若干困ったような表情で笑いながら、それでも俺の相談に乗ってくれると告げてくれたのは、クロの家族であるフュンフさん。
クロの家族たちにとってのお姉さんポジションという言葉がよく似合う優しく面倒見のいい方で、俺もたまに相談に乗ってもらったりしている。
たまたま今日は、フュンフさんが遊びに来ないかと誘ってくれて、一緒にお茶を楽しんでいたのだが……「そういえば、明日はバレンタインだね~」というフュンフさんの言葉から、現在の話に移行していた。
「いえ、その、実は……食べ終わってないんです」
「う、うん?」
「……その、まだ『去年のバレンタインチョコ』を……食べ終わってないんです。あといろいろ不安な方々が……」
そう、俺が現在抱えている問題とは……貰うチョコレートの量に対して、消費がまったく追い付いていないということだった。
いや、本当にいろいろな人からチョコレートを貰えるのは嬉しいし、自分でも贅沢な悩みだとは思うんだけど……問題は、『愛が重すぎる方々』が存在しているという点だ。
例えば、アインさんは去年チョコレートを100種類100個ずつ贈ってきてくれた……つまり一万個である。
まずこの時点でひとりで1年で消費できる量ではないのだが、なにより問題なのはそれを上回るほどのものを贈ってきた方々がいるということだ。
問題児その一、パンドラさん……チョコレートを製造している商会の権利書を……鎖で縛りあげた会長と共に贈ってきた。
そして、アリスに頼んでなんとかしてもらったと思ったら、次は全裸にリボン代わりの荒縄で自分をラッピングして、俺の部屋のベットで待機してた……最終兵器「助けて、シロさん」により事なきを得たが、心から貞操の危機を感じた瞬間だった。
問題児その二、カタストロさん……一ヶ月絶食して購入した高級チョコレートという、ふたつの意味で重たい贈り物をしてくれた。
問題児その三、フェニックスさん……なんか自分をラッピングして『バレンタイン風焼き鳥です』とか書かれた札持って突入してきた。高度なギャグかと思ったら、目がマジだった。
問題児その四、グラトニーさん……彼女は大変な偏食家なので、深海魚みたいな魔物を贈ってきた。柔らかいのに噛み切れないゴムみたいな食感だった。
問題児その五、モロクさん……なんか悪魔的な儀式で使いそうな、串刺しの動物を山ほど贈ってきた。
問題児その六、メギドさん……明らかにまともな人間が食べたら辛さで死亡するような、恐ろしい色のチョコレート……らしき物体を贈ってきた。
問題児その七、ライフさん……なぜか豊穣神さんをチョコレートコーティングして、綺麗に箱詰めした上で送ってきた。もちろん丁重にお返しした。
問題児その八、シロさん……チョコレートの生る木なるものを創造して、勝手に俺の家の庭に生やしていた。
問題児その九、ツヴァイさん……なんかチョコレートで出来た俺の等身大の像を贈ってきた。引くほどリアルで、正直……あんまり食べたくなかった。
そして、最大にして論外の問題児、エデンさん……『チョコレートで出来た惑星』という、もう字面からすでに意味不明なものを贈ってきた。それをいったいどうしろというのだろうか?
というか、こうして思い出すと問題児は、ほとんど幻王配下じゃねぇか!?
「……う、うん。こ、困ったな……大半私にどうすることもできない内容な上に、身内が関わってる。いや、その、ごめんね。アイン姉さんとツヴァイ姉さんも、悪気はないと思うんだけど……ふたりとも妥協しない性格だから、いろいろとね」
「いえ、まぁ、なんだかんだでそれだけ想っていただけてるのは嬉しいですし……フュンフさんに話を聞いてもらったことで、少し気が楽になりました」
「そう? 本当に聞いてただけで、力になれてる気はしないけど……せめてなにか対策のアドバイスをって思ったんだけど、う~んオーソドックスなのしか思い浮かばないよ」
「え? なにか方法があるんですか?」
「いや、本当に大した内容じゃないよ。皆カイトのことが好きだから、いっぱい張り切っちゃうわけだし……カイトが『貴女と一緒に食べたいから、ふたりで食べられる量にしてください』とか言えば、ある程度は加減してくれるんじゃないかなぁって思っただけなんだけど……」
「ッ!?」
な、なるほど……たしかにそれはいい手である。グラトニーさんとかメギドさんとか、そもそもの味覚がおかしい相手には使えないが、もしかしたら少しは自重してくれる方もいるかもしれない。
「ありがとうございます、フュンフさん! それなら少しは、マシになりそうな気がします」
「少しでもカイトの助けになったなら、よかったよ」
「……フュンフさんに相談してよかったです」
「あ、あはは……そ、そういわれると、少し困っちゃうかな?」
「うん?」
いいアドバイスがもらえたことを喜びながらフュンフさんにお礼を言うと、なぜかフュンフさんはバツの悪そうな表情で苦笑した。
その意味がわからず首をかしげていると、フュンフさんはマジックボックスを出し、そこから小さな箱を取り出した。
「いや、ほら、私はカイトが思ってるほどいい人ってわけじゃないよ。だって、沢山のチョコレートを消費できないっていうカイトの困りごとに……ひとつ追加しちゃうわけだしね」
「……え、えっと……それって……」
「なんて、あはは……いや、私みたいにいまいち冴えない女から貰ってもあんまり嬉しくはないと思うけど、いつも仲良くしてもらってるからね。受け取ってくれると、嬉しいかな?」
「あ、ありがとうございます」
優しくて面倒見がよくて、家事なんかも万能で、いろいろな知識にも詳しくて、顔もビックリするぐらい整ってて、プロポーションも抜群……家族からは「女性として憧れる」とまで言われているフュンフさんが、冴えないかどうかはさておいて……これは、不意打ちだけど嬉しい。
フュンフさんは毎年バレンタインには家族にチョコレートを作って配っているって聞いたことがあるので、たぶんそのついでに俺のも用意してくれたんだろう。
お礼を言ってから小さな箱を受け取って開けてみると、中には小さめのチョコレートが六つ並んでいて、見ただけでもおいしそうだった。
「……本当に嬉しいです」
「そ、そんなに喜んでもらえると、ちょっと照れちゃうね……あっ、ごめん。私はそろそろ城門の警備に戻るよ」
「あ、はい。相談に乗っていただいて、ありがとうございました」
「気にしなくていいよ。私でよければいつでも力になるから……あ~ついでにもうひとつ」
穏やかな表情で微笑んだあと、フュンフさんは椅子から立ち上がり、俺の近くまで歩いてくる。
「カイトはたぶん、家族の分作って余ったから用意したとか思ってそうだから……これはおまけ――ちゅっ」
「…………………………え?」
「それじゃ、またね」
「………………………………………………え?」
フュンフさんは、流れるような動きで俺の頬に軽くキスをして、いたずらが成功したような表情で笑いながら去っていった。
俺はというと、状況に頭が追い付いておらず、微かに唇の感触が残る頬を触りながら、フュンフさんが去っていった方向を呆然と見つめていた。
快人の下を去って、持ち場である城門に辿り着いたフュンフは、そのまま軽く城門にもたれかかり、ずるずると座り込んでしまった。
フュンフの顔はリンゴのように真っ赤になっており、バクバクと鳴る心臓を押さえるように胸に手を当てる。
(や、やっちゃった……ま、まいったなぁ。こういうのを、雰囲気に流されるっていうのかな? 次からどんな顔して、カイトに会えばいいんだろう……)
カイトの前では余裕にも見える表情を浮かべていたフュンフだが、実際その内心は割と大変なことになっていた。
(こんな、何千年も生きてから初恋を経験したような、面倒な女に好かれても……カイトも、困るよね)
彼女にとって、カイトは家族の大切な人であり、同時に彼女にとってはとても遅い初恋の相手だった。
「……胸に秘めたままに……しとくつもりだったんだけどなぁ」
困惑と後悔が入り混じったような表情で、城門にもたれかかったままぼんやりと空を見つめるフュンフ。
そう……いまは、まだ、後悔。
……彼女の心のうちが「行動してよかった」と変わるのは、もう少し先の話。
???「フュンフさんは、まだ本編ではカイトさんと会話すらしてないキャラですね。実は、書籍版六~七巻にて登場予定だったりします。キャラとしては、ジークさん+フィーアさんみたいな、恋愛クソ雑魚お姉さん系キャラですね」
シリアス先輩「……いや、そっちよりも、問題児……」
???「大人っぽいながらもどこか抜けてるところがある感じのキャラなので、中々かわいいかとも思いますね!!」
シリアス先輩「……なんか言えよ、問題児の親玉」
???「さて、次回はエリーゼですね! どうぞお楽しみに!!」
シリアス先輩「……おい」
 




