終わりの神が謳う愛⑧
シロさんとの遊園地デート、続いてやってきたのは……なにやら少し複雑な外観の建物の前。パンフレットには、トリックハウスと記入されている。
パンフレットに付属している簡単な説明を見ると、どうやらいろいろなお題をクリアしながら進んでいく形式のアトラクションらしい。
ちょっと形は違うけど、たぶん脱出ゲームとかみたいな感じなんだろうとは思う。
中に入ってみると、いきなり道が三つに分かれていた。えっと、ひとつ目は『ファミリー用』、ふたつ目は『カップル用』……おいおい、これ三つ目はまた恒例のぼっちいじめ――『先輩用~はよ帰って砂糖でも齧ってろ~』ってなに?
先輩って、ソレはいったい誰に対しての先輩なんだろう? というか、先輩に対して当たりきつ過ぎない!? なんかその通路だけ辛辣な副題付いてるし、ここからチラっと見ただけでも通路が棘だらけ……明らかに大量の罠が仕掛けられてる気がする。
なんだか異質なその通路は気になったが、少なくとも俺とシロさんに関係があるものではなさそうだ。それにアリスのことだから、適当にふざけて付けたのかもしれない。
とりあえず気にしないことにして、シロさんと共にカップル用の通路を進むことにした。
少し薄暗い通路をしばらく進むと、明るい部屋に辿り着き、そこには奇妙な模様が描かれた大きな扉があった。たぶんこの扉を開くのが、最初のお題かな?
そんなことを考えながら部屋を見渡してみると、別の壁に大きな文字でいくつもの問題らしきものが描かれていた。
問題にはそれぞれ数字が降ってあり、それは扉の模様にも……あぁ、なるほど。どこかで見た覚えのある模様だと思ったら……これ、クロスワードパズルか。
えっと、なになに……「すべての問題を解き、中央の文字を大きな声で上から順に読めば、扉は開く」か……意外と正統派なお題である。
てっきりもっとカップル感の強い、羞恥心が振り注ぐようなお題が用意されてるのかと不安に思ってたけど、安心した。
よし、じゃあ、さっそく一問目から解いていこう。あんまり難しくない問題だといいんだけど……。
『この世界トリニィアを創り出した創造神の名前は?』
ビックリするぐらい簡単な問題であろう。というか、いま真横に居るからねその神様。
「これは、いきなりの難問ですね。どうします、快人さん? ここはあえて、他の問題から解いていき、ヒントを得るという方法もありますよ」
「……」
ちなみに、シロさんはちょっと前の「幸せです」発言以降、表情こそ変わらないものの雰囲気ですぐわかるほどはしゃいでるので、ノリノリである。
ま、まぁ、それは置いておいて解答方法は……口で言うだけでいいのか。
「一問目の答えは、シャローヴァナル」
「快人さんに呼び捨てにされました。照れますね」
「……」
シロさんがご満悦そうで、なによりである。
クロスワードパズルの問題は、どれも俺でも簡単に答えられるものだったので、順調に解くことができた。さらに、どういう原理かは分からないが、俺が正解を口にすると目の前の巨大扉のクロスワードパズルに自動で文字が入る親切設計である。
結局詰まることなく問題は解き終え、あとは中央の文字を上から大きな声で読むだけである。
「じゃあ、読みますね……えっと……し、ろ、さ、ん、あ、い、し、て、る――へ?」
「快人さんがとても大胆で、私は嬉しいです。もちろん、私も快人さんを愛しています」
「あ、えっと、はい。ど、どうも……」
……手の込んだ罠だった。このあとから気付く恥ずかしさ……俺が大声でシロさんへの愛を告げたことで、巨大な扉は開き、先への通路が現れた。
なんだろう、この言いようのない敗北感は……やっぱりいろいろと仕掛けはしてるみたいだ。これは、この先についても警戒しなければ……。
思わぬ恥ずかしさを感じながら、現れた通路を進んで次の部屋に辿り着くと、また大きな扉があり、そこには大きな文字でこう書かれていた。
『彼氏が彼女をお姫様抱っこすれば開きます。なお、お姫様抱っこは次の部屋まで継続すること』
警戒を強めたと思ったら、今度は一転してドストレートなお題をぶつけてきやがった!?
「素晴らしいアトラクションですね。とても、ワクワクしています」
しかも、シロさんはこれでもかというほど嬉しそうなので、回避もできないし文句も言えない。
「あ~えっと、シロさん。お姫様抱っこ、なんてするのは初めてなんで、上手くできるか分かりませんが……それでも大丈夫ですか?」
「ふむ、快人さんはお姫様抱っこをするのは、私が初めてなのですが?」
「え、えっと、はい。そうなりますね」
「つまり、私が快人さんの『初体験』の相手というわけですね。これは、ますます素晴らしいです」
おっと、言葉のチョイスに気を付けろよ天然神……そのワードは大変に危険なやつだ。そういう単語を聞くと変に意識して、恥ずかしさがさらに跳ね上がるから……。
「……私は、そちらの意味でも、構いませんけどね」
やめて、サラッと当たり前のようにそういうこと言うのやめて……顔火傷しそうなほど熱いから……。
「と、とにかく、お姫様抱っこしますね!」
「そうですね。では、『今回は』そちらで……またの機会に、ですね」
あれ? シロさんって、こんなに可愛かったっけ? いや、もともと絶世の美女ではあったけど、茶目っ気というか人間味が増して、可愛らしさがものすごく高まってる気がする。
お姫様抱っこされながら俺の顔を見て、はにかむような微笑みとか……それはちょっと反則過ぎる。
……駄目だこれ、勝てない。たぶん、いや間違いなく……このアトラクションを出るまでずっと俺の顔は真っ赤なままだろう。
???「やりましたね。シリアス先輩! アリスちゃんの心遣いで本編に出ましたよ!」
シリアス先輩「いや、出てねぇよ!? 出てないのに貶されたっていう、よりひどい状況なんだけど!? まぁ、この際それは置いとくとして……独白閑話がきたら、終わりじゃないの!? デートまだ続くの!?」
???「もちろん続きます。あぁ、そういえば話は変わりますけど、ひとつ前の話でアイシスさんの件……気になったので、わた……アリスちゃんがシャローヴァナル様に聞いてきました」
シリアス先輩「アイシスが邪神の魂から生まれたって話?」
???「ですです。いや、それがですね。アリスちゃんは邪神には意思なんて無いって思ってたみたいですけど、ちゃんと邪神にも意思はあったみたいで……アリスちゃんに倒される直前、自分のコアを捨てて魂だけ別世界に逃げたみたいです。そして逃げた先で、世界作り真っ最中のシャローヴァナル様に遭遇して、記憶とかを『終わらされて』、魂だけアイシスさんを作りだすのに使われたみたいです」
シリアス先輩「邪神が不運すぎる。ヤバい奴から逃げたと思ったら、さらにヤバい奴の目の前に出ちゃうとか……」
???「ちなみに、裏設定みたいなものですけど……魂だけになっても邪神が逃げたのは……『孤独なまま消えたくなかった』からみたいです。それに関してはまぁ、アリスちゃん的にも考えさせられる内容でしたね。言葉を持たなかった邪神にとっては、世界の心を自分に繋ぐ(絶望を与える)ことが、唯一他者と繋がることが出来る……一種の愛情表現だったのかもしれません。愛が世界を亡ぼすとはよく言ったものですね。アイシスさんが人一倍孤独って感情に敏感なのは、記憶はなくともその辛さを知っているからかもしれません」
シリアス先輩「……う~ん。そう考えると、気まぐれとはいえ、邪神をアイシスに転生させたのはファインプレー……なのかな?」
???「だと思いますよ。そのおかげで、孤独な元邪神……アイシスさんは、カイトさんと出会うことができたわけですしね」




