終わりの神が謳う愛⑥
一体どれぐらいの時間が経ったのだろうか? シロさんとのキスに文字通り時間を忘れていた俺の意識は、満足したらしいシロさんが口を放したことで戻ってきた。
それでもまだ余韻というべきか……シロさんの唇の感触がハッキリと脳裏に焼き付いており、言葉を発せずに呆然としていた。
……シロさんは大変ご満悦である。心なしか背後に「大満足」と書かれた文字が見えるような……いや、あの文字実在してるわ。立体文字の表現気に入ったのかな?
「……ふふふ、どうですかアリスちゃん特製神界ジュースは!」
「……言いたいことはいろいろあるんだけど、とりあえずどうしてああなったか説明してほしい」
「了解です。あとちなみに、キスはカイトさんの方からしてますからね」
「え?」
アリスの言葉でようやく、そもそも神界ジュースを飲んでいたことを思い出し、なぜあんな状況になったかを尋ねてみた。
「ふふふ、その秘密はこのストローと容器にあります。実はこのストローと容器は魔力で作ってあって、『一定の時間で消滅』するようになっています。さらに、ストローの方は一気に消滅するのではなく、下の部分から徐々に消えていくように作ってあります!」
「……う、うん。なるほど」
「そしてこのストローの形状……下から消えていくことにより、徐々にカイトさんとシャローヴァナル様の顔が近づくように計算して作ってあります……まぁ、つまり、この神界ジュースとは!」
「……」
「カイトさんの味の好み、そして飲むスピードを完璧に把握している私が持てる技術のすべてをつぎ込んで創り上げたジュースで……飲めばカイトさんは、そのおいしさに夢中になり、『知らず知らずのうちにシャローヴァナル様のとの距離が近づき』、そして最後に容器とストローが完璧なタイミングで消えることで、『カイトさんからシャローヴァナル様にキスをする』って感じです」
……なんて、恐ろしいドリンクを作りやがったんだコノヤロウ。
「しかも、中身にも追加要素がありまして、四つの層を順に飲んでいくことで、一時的にちょっとだけ『唇の感覚が強まり』、シャローヴァナル様の唇をより鮮明に感じられるようになってます。ちなみに分かってるとは思いますが、四つの層はクロノアさん、ライフさん、フェイトさん、シャローヴァナル様をイメージして作ってます。コンセプトは『神界を丸ごと味わい尽くして、最後にシャローヴァナル様も味わう』というわけです!」
「……」
もやは言葉がない。ただただ戦慄してしまう。シロさんは、なんて恐ろしい奴を味方に付けてしまったんだと……というか、コイツ、あのやり取りがあってから今までの間にそんな緻密なジュース作り上げたの? マジで、チートすぎる。
俺がアリスの凄さと、これから先の不安に呆然としていると……シロさんがどこからともなく、大きな袋を取り出してアリスに渡した。
「アリス、完璧です。私の要望を完全に満たした作品、見事というほかありません。これは、貴女の働きに対する追加報酬です。とっておきなさい」
「ありがとうございます!」
繰り返しになるが、シロさんは大変ご満悦である。
なんというか、ただ喉を潤すつもりがとんでもない事態に発展した気はするが、シロさんが本当に嬉しそうなので文句も言えない。
しかし、あのレベルでこれからも各所に仕掛けを用意されると考えると、本当にものすごく不安である。
そんなことを考えながらも、シロさんと手を繋いで再び園内を歩く。
「……シロさん、嬉しそうですね」
「えぇ、アレは本当に素晴らしいドリンクでした。また飲みましょう」
「……いや、えっと……」
「特に快人さんからキスをしてくれるという仕掛けが、大変素晴らしいです。私はとても満足しています」
「……」
先ほどまでよりいっそうテンションが上がったらしいシロさんは、表情こそ無表情なものの纏う雰囲気はこれでもかというほど上機嫌である。
しかし、う~ん。さっきのアリスとシロさんの会話……私の要望を完全に満たしたって言葉、そしていまシロさんが口にしたセリフ。
なんかちょっともやもやするというか、納得いかない部分がある。
「……シロさん」
「はい?」
「えっと……失礼します」
「ッ!?」
俺の呼びかけでシロさんがこちらを向くと同時に、俺は繋いでいた手を少し弾き、同時にシロさんの頬に手を添えるようにして……キスをした。
先ほどのように長いキスではなく、本当に軽く唇が触れるだけのキス。
上機嫌だったシロさんは俺の心を読んでいなかったのか、珍しく驚いたように目を見開き、俺が唇を放したあとは早いペースで瞬きをしながら俺の方を見ていた。
「快人さん?」
「……いや、その……不本意な状況で、シロさんの要望を叶えるのは、なんか納得できなかったので……やり直しました」
「……」
そう告げてから、俺はシロさんの手を引き早足で歩きだす。やばい、たぶんいまの俺、滅茶苦茶顔赤いよ。シロさんのほうをまともに見れない。
我ながらちょっと、情けないかなぁとも思うが……なんとなく、流される形でシロさんを喜ばせたのは、納得ができなかった。
だってほら、もうシロさんは俺の恋人なわけだし……俺の事で喜ばせるなら、ちゃんと俺自身の意思で喜ばせてあげたいというか……と、とにかく、ちょっと向きになってしまったかもしれない。
「快人さん、質問があります」
「え? あ、はい。なんですか?」
湯気が出そうな恥ずかしさから逃げるように歩いていると、手を繋いでいるシロさんから声を掛けられ、振り向かないままで返答する。
「……満足という気持ちより、さらに上の気持ちはなんと表現するのがよいのでしょうか?」
「へ? えっと……う~ん。幸せ、とかですかね?」
「そうですか。なるほど、では……快人さん、ありがとうございます。私はいま、とても幸せです」
「ッ!?」
その言葉を聞いて反射的に振り返ると、シロさんは微かに頬を染め……本当に幸せそうな表情で笑っていた。
あまりにも美しい、その表情を見れただけでも、恥ずかしい行動をしたかいがあった。
というか、いま思ったんだけど……アリスの奴、まさか……後にこうなることまで全部計算した上で、あのジュース作ったんじゃ……ありえそうで恐ろしい。
シリアス先輩「おいぃぃ! ふざけんな! サッサとデート進行しろよ! なに一話使って、もう一回キスしてんの!? デートいつになったら終わるの!! もう甘いのやだぁぁぁ!」
???「まぁ、一話前に休憩あったから良いじゃないですか」
シリアス先輩「休憩挟んだことでより甘さが増幅されてるんだよ!」
???「それはそうと、さすがアリスちゃんは有能な恋人ですね!!」
シリアス先輩「話逸らすなら、もう少しうまく逸らしてくれない?」




