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番外編・メイド

ちょっと、次の話に苦戦気味なので番外編でお茶を濁します



 それは偶然の遭遇の出来事だった。

 たまたまアインさんが、ラズさんの畑で採れた野菜をお裾分けに来てくれて、そのついでにアインさんと雑談をしていると、その場にクッキーを持ったルナさんがやってきた。


「……失礼します。お嬢様が良いクッキーが手に入ったので、お裾分けにと……って、あれ?」

「おや? ルナマリアではありませんか?」


 部屋に入ってきたルナさんにアインさんが反応した。しかも、アインさんが〇〇様ではなく名前を呼び捨てにしているということは、それなりに親しい間柄でもあるということ……。

 意外な組み合わせだなぁと一瞬頭に浮かんだが、次にルナさんが告げた言葉でふたりの関係はすぐに納得することができた。


「お、お久しぶりです、アイン会長!」

「えぇ、こんなところで会うとは奇遇ですね」


 ……あぁ、そっか……そうだった。アインさんは冥王愛好会の会長で、ルナさんも冥王愛好会のメンバー。しかも冥王愛好会は、入会に必ず会長であるアインさんによる面談があるという話なので、顔見知りでもおかしくはない。

 なんとなく新鮮な組み合わせではあるが、メイドという共通点もある。


「……ふむ、『メイド力』52000ですか、以前よりかなり上昇しています。しっかりと研鑽を詰んでいるようですね」

「はい! ありがとうございます!」


 ……うん? なんか、おかしなこと言い始めたぞ? メイド力?


「……あの、メイド力ってなんですか?」


 とりあえずアインさんに聞いてみることにすると、アインさんは俺の方を向いて微笑みながら説明してくれる。


「メイド力というのは、メイドとして基本的な心技体を身に着けたものが纏う『メイドリックオーラ』を数値化したものです。性質によって若干の偏りはありますが、数値が高ければ高いほど、メイドとして優れているということになります。それと、このメイド力が30000以上であることが、四年に一度のメイドの祭典『メイドオリンピア』への出場条件でもあります」

「……は、はぁ……」


 どうしよう。知らない単語の説明を求めたら、新たな単語がふたつ出てきたんだけど……メイドリックオーラ? メイドオリンピア? ちょっと、なに言ってるか分からないです。

 メイドとはいったいなんだろうかと、この世界に来て何度も考えた哲学が頭に浮かぶが、それより早くルナさんが口を開いた。


「アイン会長は、第一回から第十回までのメイドオリンピアで優勝して、そのあまりのメイド力から殿堂入りとなり、現在は審査員側で参加されています」

「な、なるほど……」

「ちなみに、メイド力が100000を超える者は『スーパーメイド』と呼ばれ、全メイドの憧れの存在ですね。現状ではアイン会長を除き、世界にたった四人しか存在せず、メイドオリンピアの覇権を争っています」

「……」


 なんだろうこの、突然宇宙の話を振られたようなどうしようもない感覚は……脳が理解を拒んでいる。知るべきではない世界の話だと、訴えてきているような気さえする。

 というかメイドオリンピアってそんなメジャーな大会なの? 四年に一度で、アインさんが十連続優勝ってことは……最低でも40年以上前からあるってこと?


「彼女たちも良いメイドですね。しかし、続くスーパーメイドが生まれていないのでややマンネリともいえますね……そろそろメイド界にも新たな風が現れてほしいもの――ッ!?」

「アインさん?」


 ルナさんの言葉を聞いて、しみじみと感慨深げに……訳の分からない話を続けようとしていたアインさんだったが、突如驚愕した表情に変わり扉の方を振り向いた。


「この、メイド力は!?」

「アイン会長? ど、どうされたのですか?」

「……とてつもないメイドリックオーラが近づいてきます。メイドリックオーラは魔力とは違い、ある程度近くでなければ探知できないとはいえ……この屋敷に、ここまでの強者が存在していたというのですか!?」

「アイン会長が驚くほどのメイドリックオーラ? い、いったい……」


 なにやら緊迫した雰囲気ではあるが、完全に俺は置いてけぼりである。というか心から思うんだけど……よそでやってくれないかな?


「メイド長でしょうか?」

「いえ、この屋敷のメイド長は以前見たことがあります。メイド力は68000……一般レベルから考えれば優秀ですが、この気配はそんなレベルではありません」

「……メイド長以上のメイド力……もしや、イルネス様では?」

「たしか、貴女の師でしたね? 優秀だとは聞いていましたが……メイド力50000……100000……150000……いや、もっと高い!?」

「そんな!? た、たしかにイルネス様は凄いメイドですが……前大会の最高数値でも130000ですよ!」


 俺が呆然としている間にも、ルナさんとアインさんは緊迫した様子で言葉を交わす。繰り返しになるが、メイドってなんだろうか?

 そして規則正しい音で扉がノックされ、イルネスさんが入室してきた。


「失礼しますぅ……おやぁ?」


 そしてイルネスさんを見たアインさんの顔が、今日一番の驚愕に染まった。


「……メイド力……280000!?」

「280000!?」

「しかも、このメイドリックオーラは……『慈愛のメイドリックオーラ』!?」

「そ、そんな!? 慈愛のメイドリックオーラで、そこまでの数値だなんて!?」

「メイド力ぅ?」


 どうやらアインさん曰く、イルネスさんは凄まじいメイド力を持つ……つまるところ、メイドとしてとても優秀らしい。

 しかし、当のイルネスさんはよく分かっていないのか、不思議そうに首をかしげていた。

 なんというか、ある程度アインさんとルナさんの会話の意味が分かるようになってしまった自分が……すごく嫌だ。


「これほどのメイドが、まだ存在していたとは……見つけましたね。メイド界の新たな風を!」

「す、凄いです、イルネス様!! イルネス様がメイドオリンピアに出れば、優勝間違いなしです!」

「意味は~よくわかりませんがぁ、でません~」


 興奮した様子のアインさんとルナさんに対し、イルネスさんはいつも通りの様子で返答する。


「是非、メイドオリンピアに出てください。推薦枠を用意します。貴女なら、メイド界の新たなる星になれます!」

「なりません~」

「イルネス様! メイドオリンピア優勝者は、世界中のメイドからの憧れの的です! 富も名声も、思うがままですよ!」

「私の~業務にはぁ、富も名声も必要ありません~」


 一瞬イルネスさんまで、この異常なメイド論に染まってしまうんじゃないかとも考えたが……イルネスさんは淡々と、それでいてバッサリとふたりの言葉を却下する。

 よかった、イルネスさんが常識的な方で……本当に良かった。


「……そうですか、残念ですが無理強いもできませんね。ところで……以前どこかでお会いしませんでしたか?」

「気のせいでは~?」

「……そう、ですね。これほどのメイド力の相手を忘れるとも思えませんし……しかし、なんとなく覚えがあるような……」


 とりあえずイルネスさんがハッキリと拒否してくれたおかげで、異常な展開になっていたメイドの話も終わった。

 アインさんはなんとなく釈然としない表情で首をかしげていたが……。


 まぁ、それはともかくとして……やっぱり、この世界のメイドは……俺の知ってるものとはなんか違う気がする。





~おまけ・メイド力ランキング~


メイド力の基準

0~9999:素人メイド

10000~29999:三流メイド

30000~49999:二流メイド(下級貴族に仕えるメイド長クラス)

50000~99999:一流メイド(上級貴族及び王城に仕えるメイド長クラス)

100000~:スーパーメイド(国にひとり程度の割合)



1位:アイン(メイド力530000)


解説

全メイドの頂点に立つ存在であり、メイドの祭典メイドオリンピアの第一回から第十回までの大会で二位以下に圧倒的な差をつけて優勝、殿堂入りとなる。

世界メイド連合の代表も務め、全メイドたちの憧れの存在でもある。


アイン会長の所感

「たしかに私は現在メイドとしての頂点に立っていますが、ここを終着点とは思っていません。妥協とはメイドにとって最も恥ずべき感情。これからも研鑽を詰んでいくつもりです」


仮2位:アリス(推定メイド力500000以上)


解説

メイドというわけではないが、アインが非常に評価している存在。


アイン会長の所感

「彼女はメイドではありませんが、私が世界で唯一メイドとしてのライバルと認める存在であり、その資質は随一です。特に多様で洗練された技術に関しては、私をも上回るでしょう。強いて上げるなら、相手を極端にえり好みするところがあるのが欠点ですね。とはいえ、主はカイト様限定ですが、献身的な心に卓越した技術、そして圧倒的な戦闘力と……メイドに必要なすべてを兼ね備えた究極のメイドとなりえる資質を持っています」


3位:イルネス(メイド力280000)


解説

メイド界に突如現れた超新星。メイドとしての心技体を高い次元で兼ね備えているが、中でも心に特化したメイドでもある。慈愛のメイドリックオーラを持つ。


アイン会長の所感

「これほどのメイドをいままで知らなかったのは、恥ずべきことですね。彼女はメイドとしての心技体の中でも心に特化したメイドであり、メイドとして主人を鼓舞し導く『苛烈のメイドリックオーラ』とは正反対……主に寄り添い、包み込む慈愛のメイドリックオーラの持ち主です。このタイプは控えめで一歩引いた存在であることが多く、あまりメイドとしての優秀さが見えにくいのですが……それでもなおこの数値には恐れ入ります。残念ながらメイドオリンピアには興味がないようですが、彼女のようなメイドが存在しているのは、同じメイドとして嬉しく思います……しかし、やはり、どこかで会ったような気がするのですが……」


4位:技のスーパーメイド(メイド力130000)


解説

アルクレシア帝国王城のメイド長を務める存在であり、メイドとしての心技体の中でも技に特化したメイド。貴族の力が強いアルクレシア帝国で磨かれた技術は、所作ひとつひとつが美しくメイドオリンピアでも注目の的。


アイン会長の所感

「アルクレシア帝国は貴族の力が強いという特徴もあり、メイドの質は他の二国に比べて高めです。中でも彼女は、上品かつ洗練された技術を持ち、その仕事ぶりは特別なことをしなくても人目を集める美しさを兼ね備えたもとへと昇華されています」


5位:心のスーパーメイド(メイド力120000)


解説

シンフォニア王国王城のメイド長であり、高い統率力を持つ存在。彼女が指揮するメイドたちはレベルも高く、統率も取れた集団であり、彼女のカリスマ性がうかがえる。必要とあれば王にさえ異を唱え、諫める苛烈のメイドリックオーラの持ち主であり、国王ライズも彼女には頭が上がらない。余談ではあるが、ライズの妻のひとりでもある。


アイン会長の所感

「メイドとは時として戦場に咲く薔薇のように勇ましく、主人が道を誤ったときはそれを正す強さを持っていなくてはなりません。彼女のようにメイドであると同時に主人の指針となる導き手であるというのは、メイドとしてひとつの完成形とは言えるでしょう。仕事の面では一切容赦はしないようですが、私生活では夫に優しい面もあるみたいですね」


6位;体のスーパーメイド(メイド力110000)


解説

ハイドラ王国王城のメイド長であり、圧倒的なタフネスを持つ存在。朝から晩まで休みなく大量の仕事をこなしても、一切動きが乱れない体力はメイドとして優れた能力であり、メイドオリンピアでもその体力を生かして活躍している。


アイン会長の所感

「メイドにとって甘えとは排除すべきものであり、疲労しているなどということを言い訳に仕事の精度が落ちるのは恥ずべきです。無論、昨今は雇用事情も改善され休憩なども多くあるでしょうが、有事であれば徹夜で働くこともあるでしょう。その際にまったく疲労が見えない彼女は、多くの者にとって眩しく映るでしょうね」


7位:バランスのスーパーメイド(メイド力100000)


解説

界王リリウッドに仕えるメイド。特別秀でた部分は無いが、メイドとしての心技体を高い次元で兼ね備えた存在。安定感が抜群であり、メイドとしてはお手本的な存在ともいえ、スーパーメイドの基準ともいえる存在。

派手さはないが、地味でも堅実な活躍でメイドオリンピアでも何度も優勝している。ただ、毎回メイドオリンピアには、アインに連れてこられて参加しており、そのたびに「……あ、あの、その、私……メイドじゃな……なんでもないです」と口にしている。

なお、地味すぎて気付かれていないが……実は界王配下幹部七姫の『草華姫・カミリア』であり、家事等は趣味……押しに弱い性格で、アインにメイド認定されてずっとそれを否定できていない。


アイン会長の所感

「彼女は非常に安定したメイドであり、派手さはありませんが堅実です。すべての能力のバランスがよく、新人メイドはまず彼女を目指すべき目標とするのがいいでしょうね。ただ控えめな性格なのか、呼びかけなければメイドオリンピアに出場しようとしないのは困りものですね。誘えば来るのですが……」


番外:ルナマリア(メイド力52000)


解説

アルベルト公爵家のメイドであり、メイドとしてはかなり高い技量を持つ。


アイン会長の所感

「メイド歴はまだ浅く、粗削りではありますが……すでに一流メイドと呼べるメイド力を身に着けており、先が楽しみな存在ですね。ただ彼女の場合、主が親友ということもあって主をからかう癖がありますね。もっとも、気心知れた間柄であり、それが彼女の主にとっても心休まる要因となっているので、マイナス点とはいえません。優れたメイドの形とは、数値だけではなく主の数だけ存在するものです」


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