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終わりの神が謳う愛①



 俺は勇者召喚に巻き込まれ、異世界トリニィアにやってきた。そしてその一年の最後に、世界の神であるシロさんから与えられた試練を、多くの助けを得ながら突破し……元の世界でお世話になった人たちに別れを告げて、この世界へと帰ってきた。

 そして知り合いへの挨拶を終えてシロさんの元を訪れると、なぜかリベンジマッチを申し込まれた……うん、わけがわからない。


「……えっと、シロさん?」

「なんですか?」

「リベンジマッチ?」

「はい。リベンジマッチです。負けたままなのは悔しいので、今度は私が勝ちます」

「……」


 シロさんがド天然なのはいまに始まったことではないが、それでもこの展開は予想外だった。リベンジマッチということは、もう一度俺に試練を与えるということだろうか?

 あの試練の結果には、シロさんはなんだかんだで納得してくれていたと思っていたのだが……。


「いえ、『そちらではない』です」

「……はい?」

「試練のリベンジマッチではありません。貴方の考えた通り、私はあの結果に納得しています……一発でクリアされたのは不満ですが」


 まだ一発クリアのこと根に持っていらっしゃった!? い、いや、それはまぁいいか、いまは関係なさそうだ。というか、試練のリベンジマッチじゃない?

 ……じゃあ、なんのリベンジマッチ?


「私が今回リベンジするのは、快人さんと初めて出会ったときの敗北です」

「……え、えっと、祝福をしてもらったときの……ですか?」

「はい。あの時、貴方は私に『貴女には、俺の本当に欲しいものは与えられない』と、そう言いました」

「……え、えぇ、たしかに言いましたね」


 確かにシロさんと初めで出会ったとき、俺は望むものをひとつ与えてくれるというシロさんに対して、その言葉を返した。


「というわけで、そのリベンジです。私が本当に快人さんの欲しいものを与えられないかどうか、試してみましょう」

「……は、はぁ?」


 なんだろう? いまいちシロさんの意図が読めない。ただ、以前のシロさんならともかく、いまのシロさんなら別に俺が超常の力を欲しがっているわけじゃないというのは分かるはずだ。

 となると、シロさんは俺になにを与えようとしているのだろうか? これと言って思い浮かぶものは……。


 そう考えていると、シロさんは俺の前で軽く指を振り……一瞬眩い光が辺りを包み込んだ。そして、その光が晴れた時――俺は言葉を失った。


「……母さん……父さん……」

「久しぶり、快人……って言っても、試練の時に夢の中で会ったけどね」

「なんというか、不思議なものだね。死んだはずの僕たちが、こうして当たり前に『生き返っている』のは……」

「……生き……返った?」


 状況に頭が追い付かない。衝撃が強すぎて思考が整理しきれない。ただ茫然と、母さんと父さんの言葉をオウム返しのように呟く俺に対し、シロさんは微かに笑みを浮かべて口を開いた。


「なにを驚いているのですか? 私は神ですよ。死んだ人間を生き返られることなど、造作もないことです……というより、むしろこのふたりの魂を地球神から譲り受ける交渉の方が、遥かに手間でしたね」

「……エデンさんから譲り受けたって……じゃあ」

「えぇ、このふたりは紛れもなく快人さんの両親です。記憶が同じ別人というわけでもありません」

「ッ!?」


 母さんと、父さんが……生き返った? こんなにもアッサリ、こんなにも当たり前のように……。


「感動の再会というものに関しては、のちほどお願いします。事前にリリア・アルベルトには話を通していますので、このふたりには彼女から今後について説明を受けてもらうことにしましょう」

「はい。というわけで、快人、またあとでね!」

「……混乱する気持ちもわかる。というか僕もまだ完全には理解できてない……けどまぁ、また母さんや快人と共に生きていけるのは……嬉しいね」


 シロさんが再び軽く手を振ると、母さんと父さんは光に包まれて転移していった。まだ、思考は冷静さを取り戻してはいない。だけど、ひとつだけ……これからまた、母さんと父さんと一緒に居られると、それだけは理解できた。

 少しずつそれを実感するとともに、目頭が熱くなってきた。いいんだろうか? こんなにも幸福なことが起きて、こんな信じられないほどの奇跡が起こって……。


「……誰が文句を言うのです? 私はこの世界の神です。つまり、ここでは私がルールです」

「……シロさん」

「私が居る限り、貴方は取捨選択などする必要はありません。なにかを諦める必要などありません。私は、決して平等な神ではない。気に入った相手は思いっきり依怙贔屓します。私は貴方に、幸福以外の未来など決して与えはしない」


 そう告げて渾身のドヤ顔……気のせいではなく背後に「ドヤァァ」と立体的な文字を浮かべているシロさんを見て、思わず苦笑してしまう。

 あぁ、ずるい……本当に、ずるい……こんなの、勝てるわけ……ないじゃないか……。


 涙が止まらない俺に対し、シロさんは背後に浮かんでいた文字を消し、見惚れるほど美しく優しい笑顔を浮かべた。


「……どうですか? 快人さん、私は貴方の欲しいものを……与えることができましたか?」

「……はぃ」

「それはよかった。ならば、ようやくこの言葉を口にできます。貴方に勝てないままで口にするのは、なんとなく納得できなかったので……」

「……え?」

「快人さん、貴方は私に感情を教えてくれた。私という終わりを倒してくれた……貴方を、愛しています。どうか、私を貴方にとって……もうひとつ上の特別にしてください」


 以前の抑揚のない声が嘘のように、感情が籠った美しい声。紡がれるのは、愛の告白。眩しいとすら感じるのを笑顔を見ながら、俺はゆっくりと返事を口にする。

 仮に母さんと父さんが生き返っていなかったとしても、俺は同じ答えを返しただろう。だけど、うん。再認識するきっかけにはなった。

 シロさんが俺のために考えて行動してくれたのが、本当に涙が止まらないほど嬉しい。心からそう感じるのは……。


「……はい、喜んで」


……とっくの昔に俺が、このハチャメチャで天然で、それでいて煌めくように愛おしい神に恋をしていたという、なによりの証拠だったから。










 リリアから世界についての説明を受けている途中、ふと快人の母親である明里は視線を窓の外に向けた。


「……母さん?」

「ううん、なんでもない」


 明里は、夫である和也より先にこの世界にきていた。理由は単純で、自らの世界の生命を溺愛しているエデンが、シャローヴァナルに『期間限定の貸し出しとはいえ』二人の魂を渡すことを渋っており、先に話がまとまっていた明里の魂だけ和也より数ヶ月早く貸し出されていたから……。


 明里は思い返す。この世界にきて、ルーチェと名乗って快人と会う前、シャローヴァナルから提案された賭けの内容を……。



――私としては、別に貴女たちの魂を使う必要はない。似た他人を作ることは簡単です。ですが、どうせなら完璧に場を整えたいと思いました。なので本物の貴女たちを使おうと考えたわけです。ここまで手間がかかるとは予想外でしたが……。


――私やあの人が、快人の障害になるのが嫌だと、そう言った場合は?


――別に、それならそれで構いません。似た別人を作り出すだけです。ですが、そうですね……貴女たちの用意には、一番手間がかかっていることですし……貴女たちにも、利点は用意しましょう。


――利点、ですか?


――えぇ、可能性は低いですが……もし、快人さんが『一度の挑戦で試練を突破』したなら……試練の後に、少しの間だけ貴女たちと快人さんが自由に話せる時間……『しっかりとした別れを行える時間』を用意しましょう。


――ッ!?


――繰り返しになりますが、断っても構いません。私は貴女たちには欠片の興味もありません。ただ、快人さんへの試練を完璧な形にするための道具です。断った場合は、すぐにでもその魂を地球神へ返却しましょう。それはそれで、私の負担は減ります。



 そう、たしかにそんな会話があった。その時点では、シャローヴァナルは仮に快人が試練を一発でクリアしたとしても、明里や和也を蘇生する気など無かった。

 あくまでシャローヴァナルが興味を持っているのは快人個人であり、他は一切関係ないと、そう考えているのが理解できていた。


(……だけど、私たちはこうして生き返った。シャローヴァナル様は二年かけて地球の神様と交渉して、私たちの魂を正式にこっちの世界に持ってくることを了承させた)


 明里はエデンと会ったことはないが、あのシャローヴァナルが試練を用意するうえで一番手間だったと語ったことからも、その交渉が非常に困難だったことは理解できる。

 貸し出すだけでそれなのだ。譲り受けるとなると、さらに桁違いの労力が必要だろう。


 しかし、シャローヴァナルはそれを行った。いままで快人だけにしか向けていなかった目を周囲に向けた。そもまた『快人の幸せに繋がる要因である』と理解できるようになったから……。


(……やっぱり快人は自慢の息子だよ。あの神様の考えを変えちゃうんだから……)


 ただ試練を突破しただけでは、この結果は訪れなかった。快人がシャローヴァナルの心を変えたから……『己の幸福』ために快人を求めていたシャローヴァナルに、好きな相手に幸福になってほしいと願う『愛』を教えたから……。


 そう、快人が『本当の意味』でシャローヴァナルに勝利したからこそ……神は奇跡を起こしてくれたのだ。




ちなみにエデンママンは交渉に対してゴネまくりましたが、最終的に

①明里と和也の肉体はエデンが作る

②エデンの分体をトリニィアに永住させる

③快人との逢瀬をシャローヴァナルは邪魔しない

という条件で了承しました。



シリアス先輩「……もうだめだ……お終いだ……天然神が完全に味方になってる。依怙贔屓宣言してる……もうシリアスなんて訪れないんだ……」

???「……初めから無かった気も……ってこら、どこに行こうとしてるんすか?」

シリアス先輩「私は行く! まだ見ぬシリアスの地平を求めて!!」

???「……晩御飯までには帰ってきてくださいね~」

シリアス先輩「……」

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― 新着の感想 ―
何回読んでも、このシーンを映像で見たくなる。 アニメ化ならないかなぁ・・・ いや、なって欲しい。
[一言] よし読み返したらコメントで萎えてる人がいるから言っておこう。 この世界はシロさんがルールです。誰の文句も受け付けません。シロさんがルールです。これこの作品読むに置いて最大に必要な考えです。覚…
[良い点] おぉぅ、まさかそっちからの告白とは……
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