おかえり快人①
第二部スタートです……まぁ、だからと言ってなにが変わるわけでもなく、イチャイチャします。
異世界……トリニィアに帰ってきた俺は、まずは知り合いに帰還の挨拶をしに行くことにした。
クロは「またあとで遊びに行くね~」と言って姿を消し、これから俺は順番に転移魔法で各地を回ることになるが……まぁ、その前に……。
「ただいま、アリス」
あいにくと俺に気配を読むなんて高等な技術は使えないし、感応魔法もアイツにはあまり効果は無いだろう。だからこれは、確信ではなく信頼……たぶん、もう居るんだろうと、そう思って呟いた。
すると背中に軽い衝撃……誰かがもたれかかったような感触がして、声が返ってきた。
「……おかえりなさい、カイトさん」
すぐに姿を見せないのは、たぶん恥ずかしがっているのだろう。アリスらしいと言えばアリスらしい。
だけど、うん……やはり、アリスが近くに居ると思うとすごく安心する。
なんだかんだで、いつの間にか……話しかければアリスが応えてくれるのが当たり前になってたし、そのせいかこの二ヶ月は少し落ち着かなかった気がする。
「イリスさんにも、ただいま戻りましたって伝えておいてくれ」
「……『律儀なことだな。まぁ、息災なようでなによりだ』、だそうです」
アリスの心具の中にいるイリスさんにも帰還を伝えたあと、さっそく各地を回ることにする。問題はどういう順番で回るか……。
転移魔法で回るので距離は関係ないけど、いまは人界に居るのでリリアさんの屋敷に一番に行くのがいい気もする。だけど、うん……やっぱり最初は、あの人のところにしよう。
寂しがりなところがあるから、早く顔を見せて安心させてあげたい。
魔界の最北端に位置する死の大地……そこにある大きな城の中では、アイシスが落ち着かない様子で動き回っていた。
「……カイト……いつ帰ってくるのかな?」
『……何百回目ですかその台詞。何度も言いますけど、もう少し落ち着いてください』
たまたまアイシスの居城を訪れていたリリウッドは、今朝からいくどとなく繰り返されているやり取りに大きなため息をつく。
本日快人が帰還するという情報は、アリスによって事前に快人の知り合いたちには通達されている。しかし、今日のいつ、どこに帰って来るかまではわかっていなかった。
そのため、その話と聞いた時からアイシスの頭の中は快人が帰ってくるということでいっぱいで、他のことは一切手に付かない状態だった。
しかし、帰ってくる地点がどこなのか分からないため、今朝から城の中を行ったり来たりしていた。
「ッ!?」
『……おや? どうやら――って、アイシス!?』
彼女たちは言うまでもなく世界でもトップクラスの実力者であり、予兆である微弱な魔力から転移魔法の発動はおろか、誰が転移してくるかまで読み取ることができる。
そんな彼女たちはたったいま、転移魔法の予兆を感じた……城の門の前に、アイシスが待ち望んでいた相手が転移してくる予兆を……。
アイシスの行動は早かった。それを察知した瞬間には、すでに彼女は飛び出していた……そう『城の壁を一直線に突き破って』……。
『……まったく、相変わらずですね』
快人に会いたくて仕方がなかった先ほどまでのアイシスの様子を思い出し、リリウッドはふっと優し気な微笑みを浮かべたあと、なにかに思い至った様子で表情を少し青くした。
『……もしかしなくても、この壊れた壁を直すのは……私ですか?』
二年という月日が経過しても、魔界の苦労人は健在だった。
……いったいこれはどういう状況だろうか? 俺はアイシスさんに帰還の挨拶をしようと、転移魔法を使ってアイシスさんの城の前にやってきた。
するとどうだろう……俺が城の前に着くのとほぼ同時に、分厚く重厚そうな扉が吹き飛んだではないか……そして、中からはアイシスさんが飛び出してきた。
「カイトッ!?」
「うわっ、とと……アイシスさん?」
早い……俺が到着して一秒も経たずに、現れたアイシスさんには驚いたが、薄く涙を浮かべながら抱き着いてくる姿を見ると、どれだけアイシスさんが俺の帰還を喜んでくれているかが伝わってきて……驚きの感情はあっという間に塗りつぶされた。
「……遅くなってしまいましたけど、ただいま戻りました」
「……うん……うんっ……おかえり……カイト……会いたかった」
俺にとっては二ヶ月だが、アイシスさんにとっては二年……アイシスさんのことだから、本当に一日千秋の想いで、俺を待っていてくれたんだろう。
華奢なその体を強く抱きしめながら、片方の手で優しくアイシスさんの頭を撫でる。
「すみません、寂しい思いをさせて」
「……この二年が……いままでで……いちばん……長く感じた……でも……いい……寂しさなんて……カイトが帰ってきてくれた嬉しさで……全部……消えたから」
本当に、なんというか……この人はまさに天使みたいな方だと思う。幸せそうに俺の胸に顔を埋める仕草も、心から幸せそうな声も、紡ぐ言葉も……なにからなにまで愛おしくてしかたがない。
正直、あちこち回ることを考えるとあまり長居はできないんだけど……それでも、時間の許す限りアイシスさんを抱きしめていたいと……心から、そう思った。
シリアス先輩「私は逃げる。この地獄の戦場から! ???を掻い潜って! ……超高速で走り、相手をかわす瞬間だけ急に歩幅を縮めて一気に抜く! これが光速の走り! シリアスゴ〇ストだ!」
???「……いや、仮に比喩じゃなく文字通りの光速だったとしても、私は見てから捕獲余裕なんすけど……」
シリアス先輩「……自重しろ、チート……まじ、自重してください」