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『願う心、虹の光』

本日二話目の更新です



 地を強く蹴り、絵里奈は巨竜に向かって駆ける。記憶と感情を持つ特別な六人の容量リソースを終結させたいまの彼女の身体能力は、先ほどまでとは桁が違う。

 一歩目でその速度は時速100kmを軽く超え、その脚力はビルの壁すらも容易に駆け上がり、拳はコンクリート塊すら容易く粉砕するだろう。

 だが、そう、しかし……『その程度』である。


 迫る絵里奈を迎え撃つように、巨竜はその腕を振り下ろす。純然たる質量を伴ったその一撃。まともに当たればその時点で戦いは終了してしまう。

 だからこそ絵里奈は素早く方向転換をしてその腕を回避、衝撃による地面の揺れが伝わって来るよりも早く跳躍し、巨竜の腕に飛び乗って駆け上がりながらハンドガンを撃つ。

 あまりにも小さなその一撃による明確なダメージは無かったが、巨竜の体から少しだけ黒い水が零れ落ちたのを絵里奈は見逃さなかった。


(……やっぱり、ダメージを受けないわけじゃないんだ。ダメージはある……けど、全体の容量リソースに対して与えられるダメージが少なすぎる。やっぱり倒すのは現実的じゃないね。仮にボクの攻撃が一回で黒いゾンビ一体分のダメージを与えられてるとしても、単純計算で70億発撃ち込まないといけない)


 絵里奈が分析しつつも全速力で腕を駆け上がっているのは、もちろん理由がある。これだけのサイズ差がある相手との戦いで、距離を取られると厄介極まりない。

 炎弾の連続攻撃で瞬く間に倒されてしまうだろう。絵里奈が小さな勝機を掴み取れる可能性があるのは、小回り……そのサイズさゆえに、懐に入ってしまえば戦いやすくなる。


 腕を駆け上がる絵里奈を潰そうと、もう片方の腕が動き始めるが、絵里奈は巧みに速度に緩急をつけ狙いを絞らせない。


(……このドラゴンも生物的な動きで行動するのなら、死角はやっぱり後方……首の裏から背中辺りに陣取って、少しずつダメージを蓄積させて、注意をこっちに引き付ける!)


 絵里奈の戦法は決して間違いではない。巨大な相手の懐に潜り込むというのもそうだが、注意を引くために相手にとって厄介な戦い方を行うというのも理に適っている。

 事実絵里奈は想定通り巨竜の首を後ろに辿り着き、そこを走りながら弾丸を次々と打ち込めていた。一撃のダメージは少なくとも、積もり積もれば怯ませることぐらいはできるかもしれない。

 ただひとつ誤算があるとすれば……先入観だろう。


「なっ!? くっ……」


 強烈な風を感じた絵里奈は咄嗟に巨竜の体の一部を掴んで体を支えた。そんな彼女の目に映ったのは、凄まじい速度で迫るビルの壁だった。


「ッ!?」


 巨竜が背に張り付いた自分ごとビルに体当たりをしようとしていることに気付いた絵里奈は、素早く跳躍し、肩、腕、膝を経由して地面に降りる。

 雑居ビルが粉々に砕けてその破片が落ちてくるのを眺めつつ、体勢を立て直そうとすると……巨竜の姿が消えた。


「え? 上ッ! 跳んで……」


 素早い判断で上空に視線を向けると、翼を使って飛行するのではなく、足を使って跳躍した巨竜が両手を組み落ちてくるのが見えた。

 そう、彼女はひとつ先入観を持っていた。アレだけ巨大なら『動きは遅いはずだ』と……。だが、その認識は間違いである。

 巨竜は速い――絵里奈よりも。


 組まれた巨腕が叩き下ろされ、大きな揺れと共に地面に巨大なクレーターが生まれる。舞い上がる土煙の中で、なんとか射程外へ逃れた絵里奈だったが……状況は決して良くはない。

 そう、距離が空いてしまったのだ。そうなれば次に来るのは……。


「やっぱり、炎弾……くそっ、見えにくい!?」


 土煙で視界が悪い中、次々と飛来する巨大な炎弾……戦いは絵里奈にとって、一番避けたかった形へと移行してしまった。

 なんとか回避は間に合っている。しかし、一撃でも当たれば終わりの攻撃……攻めに転じる余裕はない。


(位置を……快人くんの方にだけは、攻撃が飛ばないように……)


 絵里奈にとっての負けは、快人に攻撃が当たってしまうこと……であれば、まだ本当の意味での勝算は失っていない。

 むしろこうして巨竜の注意が自分に向いているなら、快人は動きやすくなるはず。

 もちろんこの激しい戦闘の中を潜り抜けて霊園に到達するには時間がかかるだろう、それでも可能性は……希望はある。


 だがそんな希望を打ち払うように、土煙を裂いて巨腕が横薙ぎに振るわれた。


「いつの間に後ろに……くぅっ――しまっ!?」


 あまりにも機敏に、絵里奈に悟られないほど狡猾に素早く……巨竜は土煙に隠れて絵里奈の背後に移動していた。

 そしてその振るわれた巨腕を、絵里奈は跳躍して回避した。それしか回避する方法がなかった。

 だが、それは致命的な失敗であるということは、絵里奈にも理解できた。これだけ素早く動く巨竜の前で、身動きの取れない空中へ逃げるのは、あまりにも大きな隙。


 空中で回避行動をとれない絵里奈に向けて、鞭のように長い尻尾が振るわれる。迫る尻尾は黒い壁のように見え、それは抗えない衝撃と共に絵里奈の体を吹き飛ばした。


「絵里奈ッ!?」


 戦闘の隙を伺いながら霊園に向かっていた快人が思わず足を止め叫ぶ。そんな彼の視界から、絵里奈はビルの窓を貫き消えていった。








 ビルの壁に叩きつけられ、そのまま床に倒れた絵里奈は……震える体でなんとか起き上がろうともがいていた。


「……ぐっ……うっ……力が……入らな……」


 なんとか、衝撃の一部は逃すことができたため即死ではなかった。しかし、肉体に刻まれたダメージは甚大であり、体は言うことを聞いてくれない。

 心はまだ折れてはいない、快人が生存している以上希望も消えていない……だが、道を切り開くだけの力は……もう残っては無い。


 それでも何とか動こうとする絵里奈だが、僅かな希望すら塗りつぶすように……こちらに向けて口を開き、炎弾を放つ巨竜が見えた。

 もうその炎弾を回避する力はない。炎弾はビルごと絵里奈を消し飛ばすだろう。これはある意味当然の結末。そもそも、戦力に差があり過ぎた。70億の闇に挑んだ6つの小さな光が消し飛ばされるという、ただそれだけの結果。

 迫る炎弾がスローモーションのようにゆっくりと目に映る中で、絵里奈は涙をこぼす。


「……ごめん……快人くん……ごめん……本当のボク……なにも……できなかった」


 涙と共に謝罪の言葉を呟き、絵里奈は目を閉じた。しかし……1秒、2秒……10秒経っても、彼女の意識が消えることはなかった。


――そんなことないよ

「……え?」


 優しく響く声に絵里奈が目を開くと……炎弾を受け止めている、少女の姿が目に映った。

 絵里奈と同じ顔で、黒いコートを身に纏った少女は腕を振って炎弾を弾き飛ばしたあとで、絵里奈を振り返って微笑みを浮かべる。


――君が、頑張ってくれたから、間に合った。少しだけ、この世界に干渉できた

「……本当の……ボク?」

――本当にありがとう。でも、もう少しだけ頑張って……カイトくんのこと、頼んだよ

「で、でも、ボクの力じゃ……」

――大丈夫。言ったでしょ、少しだけ干渉できたって……


 自分ではあの巨竜を退けることはできないと言いかけた絵里奈に対し、クロムエイナは優しい微笑みのままで大丈夫だと告げる。

 そしてクロムエイナの言葉に呼応するように、黒く塗りつぶされた空が眩い光を放った。


――だから、連れてきたよ。カイトくんの帰還を願う、沢山の想いを……


 空から光が降ってくる。大きな『五つの光』に導かれ、数多の光が絵里奈の居る場所に向かって流星のように迫ってくる。


――受け取って、カイトくんが紡いできた絆……温かく強い翼を!


 その言葉と共にクロムエイナの体も光に変わり、それに続くように次々と降り注いだ光が絵里奈の体へと吸い込まれていく。

 その光には多くの想いが宿っていた。快人と同郷の子たちが、快人が一年過ごした屋敷で働く人たちが、彼を称えるエルフ族たちが、快人と出会い言葉を交わした多くの者たちが、直接会ったことはなくとも快人の行いに感謝する者たちが……快人の無事を願い祈る、温かく優しい想いが……たしかに宿っていた。


「……温かい。これが、快人くんが紡いできた絆……快人くんの翼なんだね」


 注がれた想いと力を胸に、ゆっくりと絵里奈は立ち上がる。先ほどまでのダメージは嘘のように消え、体は羽のように軽く、底知れない力が湧き上がってくる。

 虹色に煌めく光を纏いながら、絵里奈は目の前の障害……巨竜へと目を向けた。





???「数百メートルの巨体で、素早く動いてジャンプまでする……あ~間違いねぇっすね。コイツ完全にマグロ食ってますわ。やっぱマグロ食ってる奴は違いますね」

シリアス先輩「おぃぃぃ!? 変なギャグ入れるな! いいとこなんだから!! シリアス力高まってるタイミングなんだから!!」

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