『6対70億』
強大な威圧感を放ちながら現れた巨大なドラゴン……それがとてつもない障害であるということは、即座に理解できた。
だからこそ、皆の動きも早かった。特に遠く離れた場所にいるドラゴンに唯一攻撃できるであろう風さんは、凄まじい勢いでノートパソコンを操作する。
「距離がある内にありったけ叩き込んでみる!」
風さんがそう告げるとともに、遠方の空にいくつものミサイルらしきものが見え、それが次々とドラゴンに着弾し巨大な爆発と爆煙がドラゴンを包み込む。
「むっ、これは……言わなければならないっすね……やったか!?」
「おい、馬鹿、フラグ建てるな」
降り注ぐミサイルの攻撃を見ながら、有紗がお決まりの台詞を言う……そう、大抵やれてないパターンのアレだ。
そして、爆煙の中から……まったくの無傷のドラゴンが見えてくる。
「……お~い製作者。ゲームバランス間違ってんじゃねぇっすか? あいにくダンジョンの奥地に伝説の剣とか探しに行く時間はねぇっすよ。通常攻撃でダメージ通るようにしといてくれないと――ッ!?」
焦りと呆れが混ざったように有紗が告げた直後、ドラゴンはこちらの方を向き大きく口を開いた。そして、その口になにか光のようなものが見え始める。
そして、巨大な炎弾が放たれ……俺たちの乗る車からは大きく外れたものの、後方の高速道路を吹き飛ばした。
「凜々花ちゃん! ここじゃ、狙い撃ちにされる! 下道に降りて!」
「くっ、わかりました! しっかり掴まっててください! 舌噛みますよ!」
ドラゴンからよく見える位置にある高速道路を走り続けるのは不利と判断し、即座に絵里奈が指示を出し、車は最高速を維持したまま下道に降りる。
「……賭けっすね。あのドラゴンがどこに居ようとこちらの位置がわかるとかって、理不尽能力を持ってないことを祈りましょう」
高速道路ほど真っ直ぐではない一般道を、凜々先輩はアクセルを踏みっぱなしにして走る。カーブはドリフトで抜け、雑居ビルの並ぶエリアも見事なハンドル捌きで通り抜ける。
さすが、凜々先輩の動体視力と反射神経は群を抜いている……だからこそ、彼女がドライバーなのだろう。
「段差! 飛びます!」
出来るだけドラゴンに位置を捕捉されないように……いや、むしろ炎弾の射線が通らないように複雑な道を選んで抜けていく途中には、車が跳ねる段差なんかもあった。それでも凜々先輩は、強くハンドルを握って車を操り、目的地へ向かっていく。
幸いなことに、あのドラゴンは有紗が言うような理不尽能力は持ち合わせていないみたいなのと、無差別に炎弾攻撃をしてきたりはしないみたいだった。
少し回り道にはなるが……コレならなんとか目的の場所に辿り着けそうだ……。
目的の霊園まであと少し……都市部のビル街を抜けた開けた道に辿り着いたところで、車は急ブレーキで停車する。
ここが、ゴールではない。しかし、止まらざるを得なかった。
「まぁ、そうっすよね。私たちの位置が分からなくても、最終的な目的地が分かってるなら……そっちで待ち構えますよね。私だってそうします」
額に汗を流しながら呟く有紗が見る視線の先……霊園のある小高い丘の前には、漆黒のドラゴンが待ち構えていた。
「……仕掛けてこないね? 待ってるのかな? ボクたちが、射程内まで近づいてくるのを……」
絵里奈がそう呟きながら車のドアを開けて外に出て、俺たちもそれに続くように車外へと移動する。
うん、こうしてみるとすさまじい大きさだ。マグナウェルさんと比べれば小さいとはいえ、それでもこの状況下では最悪の敵だろう。
呆れるほどの巨体に、ミサイルの雨を受けても無傷の体、遠距離攻撃もできて……先回りができるほど素早くも動ける。
攻め手が思い浮かばない。しかし、このまま睨み合いを続けていても時間切れになってしまう。
「……やっぱり、アレしかないのかなぁ?」
「そうですね。できれば、そうなる前にクリアしたかったですね」
「時間制限がある以上、選べる選択肢も限られますね」
風さんの呟きに、凜々先輩とリディ先輩が同意する。なんだろう? 俺にはあのドラゴンをなんとかする方法は思い浮かばないんだけど……皆には、なにか手があるのだろうか?
「勝率……低いよね」
「……でも……やらなくちゃ……0%」
「そういうことっすね。やるだけ、やってみましょう」
絵里奈もアイリスさんも、そして有紗も……なにか決意を宿した表情で頷き合っている。
「有紗? いったいなにをするつもりなんだ?」
「……単純な話ですよ。私たちも相手と同じことをします……快人さんは例外ですが……私たち六人は、あの黒いゾンビと同じそれぞれが容量を持つこの仮想世界のキャラクターです。なら、私たちにだって同じことができるはずなんです」
「ッ!?」
有紗の言葉を聞いて、俺の頭に思い浮かんだのは黒いゾンビたちが合体し姿を変えた光景。つまり、有紗たちもソレをやろうとしている。
そして、俺の考えを肯定するように六人は一ヶ所に集まり、円を組むように手を繋ぎ合う。
「記憶や感情を持つ私たちは、たぶん単独で黒いゾンビ数十から数百体分の容量は持っているはずです」
「……けど、それでも相手は70億の容量集合体。勝率は本当に低いよね~」
「……それでも……やる……快人を……送り届ける」
凜々先輩、風さん、アイリスさん……。
「厳しい戦いですね。ですが、他に手もありません」
「元となった人物が影響してるのか、私たちの中で総合力が一番高いのは絵里ちゃん先生……だから、私たち五人の力を全部絵里ちゃん先生に託します」
「……うん、頑張るよ」
リディ先輩、有紗……そして絵里奈の順に頷くと、六人の体が眩しい光に包まれる。
そして絵里奈を除いた五人の体が光となり、その光がすべて絵里奈の体に取り込まれると、絵里奈は俺の方を振り向いた。
「……絵里奈」
「倒せれば、一番いいけど……たぶんボクたちは勝てない。なんとか、注意を引き付けるように動いてみる。快人くんは隙を見つけて、霊園を目指して……」
「……わ……わかった」
戦う力のない己の弱さを歯がゆく感じつつ、それでも絵里奈の言葉に頷く。絵里奈は俺を見て一度微笑みを浮かべたあと、ハンドガンを両手に持ってすさまじい速度でドラゴンへと向かっていった。
そう、6対70憶という、あまりにも絶望的な戦力差の戦いに……。
シリアス先輩「完全に私のターン!!」
???「まぁ、もうライトシリアスも終盤なので、終わりは近いですけどね」
シリアス先輩「……もうちょっと……長引かせよ?」
???「却下」




