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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした  作者: 灯台


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『歪んだ愛』



 神界の中心……神域に辿り着いたアリスたち人魔連合軍と神族たちが目にしたのは、背中を向けてどこかを見つめているシャローヴァナルと、巨大な繭ようなものの前で悔しそうに唇を噛んでいるクロムエイナだった。

 それだけを見れば、戦いに勝利したのはシャローヴァナルのように見えるが……そうではない。戦いに勝ったのはクロムエイナだ。だからこそシャローヴァナルは、クロムエイナがゆりかごに触れることを容認している。


 それを素早く察知したアリスは、即座にその原因が忘却のゆりかごにあることを理解して瞬時にクロムエイナの横に移動する。


「クロさん! ッ!? ――これは……ちぃっ!? 想定の中でも3番目に悪いパターンですか……」

「……クロムエイナ……シャルティア……それ……解除……できるの?」

「出来ます。というか、解除だけならものすごく簡単です。複雑な手順も必要なく、妨害系の術式も一切ない……でも、何重になってるんすかこれ!? 私でも全容を把握しきれません……これは、この術式は『解除させないためのものじゃなくて、解除に時間を賭けさせるためだけに作られた術式』です!」


 そう、忘却のゆりかごに施されている術式は本当に簡単なものだった。魔法の初心者であっても、時間さえかければ解除は可能なレベルの……だが、その単純な術式があり得ない数……いくつもの世界を飲み込むほどの量で積み重なっており、これをひとつひとつ解いていくには膨大な時間がかかる。

 クロムエイナと同様に表情を硬くするアリスたちに向かって、シャローヴァナルがゆっくりと振り返りながら口を開いた。


「……当然です。私が半年かけて作り上げたのです。ならば、解除にはどんなに早くても半年はかかるのが道理ではありませんか?」

「あぁ、そうですね! 単純な量だけの作戦だからこそ、対応できる手段が限られてくる……厄介なことしてくれましたよ、本当に……」


 シャローヴァナルに言葉を返しながらアリスは超高速で思考を巡らせる。クロムエイナの物語の始まり(プロローグ)を使うのはどうだろうか? いや、それもできない。

 物語の始まり(プロローグ)は不可能を可能にする能力だ。だがこの術式を解除することは『不可能ではない』。時間内に解除するのを不可能と想定するにしても、明確な制限時間が設定されているわけでもない。

 いや、そもそも馬鹿正直に解除をするのではなく、ゆりかごを破壊するという選択肢は……。そこまで考えて、アリスは隣にいるクロムエイナに視線を向ける。

 するとクロムエイナも、アリスの意図を察したのか……首を横に振った。


「……駄目、破壊は……出来ない。カイトくんはいま、一時的に『祝福を解除されてる』……そして、このゆりかごの中にはカイトくんの魂が溶け込んで、混ざり合ってる。ゆりかごを破壊したら……カイトくんがどうなるか分からない」

「……」


 クロムエイナの言葉を聞いて、アリスも歯噛みする。思考は絶え間なく動かしているが、それでも有効と思える手段が浮かんでこなかった。


(……駄目、どの方法も成功率が2割を超えない。どれもわずかに成功の可能性があるのは……クロさんの能力への対策? ということは、シャローヴァナル様はクロさんの能力も事前に知っていたってこと……くそっ! リスクが高すぎる……考えろ、ひとつの手段じゃなくて複合させて成功率を底上げすれば……)


 それは言ってみれば、『快人の魂を人質にする』といえる策略であり、クロムエイナやアリスが強硬な手段を選べない……ある意味では、悪魔のような対策だった。

 状況が悪いことを察し、表情を暗くする人魔連合軍たちの前で神族を代表し、クロノアとライフがシャローヴァナルに頭を下げた。


「……申し訳ありません、シャローヴァナル様。与えられた役割を遂行することができませんでした」

「別に構いませんよ? さほど期待していたわけでもありませんし、結果はどうでもよかった。これはあくまで私と快人さんの戦い、他の戦いなど所詮盤外のものです。貴女たちも役割を終えたなら、体を休めていなさい」

「ッ!?」


 頭を下げるクロノアとライフを見下ろしながら、抑揚のない声で口元に小さく笑みを浮かべながら告げるシャローヴァナル。

それを見て、クロムエイナは大きく目を見開き、肩を震わせた。


「……いつ……いつだ?」

「うん? どうしました? クロ」

「いつ『入れ替わった』! シロは、本物のシロはどこへ行った!! 答えろ! 『地球神』!!」

「……」


 クロムエイナが激情と共に叫んだ言葉を聞き、全員の視線が『シャローヴァナル』に集中する。すると、ガラスが割れるような音と共に、その姿が変わった。

 純白の翼を背負った天使の姿に……。


「さぁ、いつでしょうね? 少なくとも、最初に神域で貴女と言葉を交わしたのは本物でしたよ」

「……エデンさん……姿が見えないと思ったら……貴女はいったい、どっちの味方なんですか?」

「別にどちらでもありませんよ」

「分かってるんすか? カイトさんの記憶が消されるかもしれないんですよ? 貴女だって、カイトさんを気に入っていたのでは?」

「『それがなにか問題があるのですか?』」

「……なんですって?」


 己にアレコレとアドバイスをしたかと思えば、シャローヴァナルに協力するような立ち位置で現れたエデンに対し、睨みつけるような目でアリスが問いかけると、エデンは心底不思議そうに首を傾げた。


「別に私はどちらが勝ってもかまわない。たとえ記憶が消えても、それが愛しき我が子の選択の先にあるのであれば、私はそれを肯定しましょう。いままでの記憶を持った我が子を愛しましょう。いままでの記憶を失った我が子を愛しましょう。破滅に向かう我が子の背中を押しましょう。破滅する我が子を抱きしめましょう。愛しき我が子のあらゆる選択の果てを、私の愛を持って肯定しましょう。そう、そうです……記憶の有無など……『私の愛の前では些細な問題』です」

「……やっぱ、カイトさんの世界の神はぶっ飛んでますね」


 滲みだす狂気を隠すことなく、エデンは歪んだ笑みを浮かべる。快人の記憶が消えようが消えまいが、己の愛の前では些細な問題だと……。

 ある意味エデンは、誰よりも快人を愛している。ゆえに、その思考は誰よりも歪んでいる。快人の選択の果てが仮に破滅だとしても、彼女は満面の笑みと溢れる愛を持ってそれを肯定する。

 だからこそ、エデンにとってこの勝負は本当に……どちらが勝ってもかまわない。


「まぁ、質問にだけは答えておきましょうか。シャローヴァナルなら……その中に居ますよ」

「「ッ!?」」

「私はそうですね。例えるなら、この勝負における審判の立場です。不正が有れば邪魔はしますが、それ以外は見守るだけ……そう、我が子とシャローヴァナルの勝負を、ですね。というわけで、アリス……『貴女が思い浮かべている策』は、残念ながら容認できません。我が子の戦いに水を差すのは許しませんよ」

「……邪魔な審判を排除してから、不正を行うって手もありますけどね」


 アリスはエデンとの会話の間にも策を講じ続け、いくつか勝率の高い方法を思いついていた。その中でも一番可能性があるであろう……ヘカトンケイルの究極戦型を用いて、術式の解除速度を倍々に増加させながら解除を行うという手段を、いままさに実行しようとしたタイミングだった。

 しかし、エデンはそれを制止する。快との戦いに割り込むのは許さないと……。


「そうですね、貴女のヘカトンケイル究極戦型は素晴らしい力です。無限の成長と進化……なるほど、たしかに貴女なら『いずれは勝てるかもしれません』ね。『全知全能たる私の本体』にも……」

「なんですってっ!? まさか!?」


 エデンの言葉を聞いた直後、凄まじいプレッシャーを感じたアリスは上を向いた。

 そこには――星があった。夜に変わった神界の空の中で、あまりにも異質ながらあり得ないほどの存在感を放つ……鉄の星――全知全能たるエデンの本体が……。


「試してみますか? 貴女が全知全能を超えほどに成長するのが先か、我が子とシャローヴァナルの勝負が終わるのが先か……貴女にとっては分の悪い賭けだと思いますがね。あぁ、もちろん私の本体も無限成長と進化の能力程度は持ち合わせています。いたちごっこにならないといいですね」

「くっ……」

「分ったなら、『正攻法で介入しなさい』……貴女はすでに、そこに至るヒントは得ているはずです。あまり時間は残されていませんよ。シャローヴァナルが我が子との戦いに設定したのは、仮想世界での30日間……すでにその半分は経過しています」

「……」

「そして、我が子の勝利条件は仮想世界からの脱出……そのためには、『そこが偽りの世界であると明確に認識できる場所』へたどり着かなければならない。その場所のヒントも、貴女たちの手の届く範囲にある。その場所が分かったなら……クロムエイナ、貴女がゆりかごに触れ我が子に呼びかけなさい。我が子の側が、そこを仮想世界だと認識していれば、その声は届きます」

「……え?」


 エデンが告げたその言葉は、まるで助言のような……いや、紛れもない助言だった。


「……本当に、貴女はなに考えてるんすか?」

「言ったはずです、私としては結果はどちらでも構わないと……しかし、まぁ、そうですね。どちらを応援しているのかという内容であるなら……私の答えはわざわざ口にするまでもないでしょう?」





シリアス先輩「……むしろコイツがラスボスなんじゃないかと思うレベルの狂気と風格」

???「エデンさんだけは、マジでブレませんよね。ずっと一貫して病んでます」

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― 新着の感想 ―
[一言] 労いの言葉がしれっと出てくるとか感情を学び始めたシロさんからじゃありえないもんなあ
[一言] エデンたん…可愛いねぇ( -∀-)
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