『神の力』
戦王メギドが真の姿に戻りその凄まじい力を見せつけたことで、戦いの天秤は大きく傾いた。神族たちには動揺が見て取れ、連携にも僅かな綻びが現れ始める。
そこが好機……攻めるならいましかないと、即座に動き始めた者たちが居た。
『我が眷属よ! 私の下に……『神樹形態』へ移行します!』
そして神族側の要たるライフを相手取っていたリリウッドも、即座に切り札を切った。彼女の言葉に従い、彼女が直接力を分け与えた幹部……七姫たちがリリウッドの下に向かい、それぞれが別の色、七色の光る球体状に変わりリリウッドの体に吸い込まれていく。
リリウッドの葉でできた髪に七色の花が咲き、着ていた衣装も元の形を残したまま豪華さを感じるものへ変化する。
これこそがリリウッドの切り札である神樹形態。貴重な戦力である伯爵級七体を取り込み、爆発的に能力を向上させる形態。
多数対多数という今回の戦いにおいて、伯爵級七体が欠けるのはマズいと思ってここまで使用していなかったが……いまは、それを使うしかない。
この好機にライフを倒し切れなければ、この先時間が経てばたつほど消耗して不利になっていく。そう考えながらリリウッドが手をかざすと、ライフの足元から生えた木がライフの体を取り込みながら急激に成長していく。
「これは――くっ!」
その木の成長速度はライフの反応を上回っており、ついにライフの体すべてが木に取り込まれる。するとその瞬間、アイシスの魔法によって生えてきた木は氷に包まれる。
さらにそこで終わることなく、再び新たな木が生え凍りついた木を取り込むように成長、そして繰り返すように凍りつく。
それを数十度繰り返すと、ライフが居た場所には一本の巨大な氷の木だけが残る状態になった。
『……これで、要は潰せましたね』
アイシスとリリウッドによる極大封印術式。さらにはそれを数十回繰り返し強固にした現在の彼女たちが行える最大の封印。いかに不死身のライフといえど、封印してしまえば終わりだ。
一番厄介な存在を封じたことに安堵した表情を浮かべるリリウッドだが、それを否定するような小さな声が聞こえてきた。
「……だめ……間に合わなかった」
『アイシス?』
「……気を付けて……リリウッド……『起きた』」
『え? ――なっ!?』
直後、轟音と共に巨大な氷の木が粉々に砕け散った。そして、驚愕するリリウッドと、唇を噛み額に汗を流すアイシスの前にその存在は姿を現した。
纏めていた髪はほどけ、普段は閉じられている深紅の瞳を大きく開き、憤怒の表情を浮かべる生命神。
それを見た瞬間、全力で防御術式を発動させ巨大な木の壁を作り出したリリウッドの反応は流石だといえる。しかし、木の壁はすさまじい衝撃と共に砕け散り、その余波でふたりも大きく後退させられる。
『ぐぅぅぅ……な、なんですか、この出鱈目な威力は……』
余波でさえかなりのダメージを受けたことに驚愕しながら呟くリリウッドの前に、拳を握り表情を怒りに染めたままのライフが悠然と歩いてくる。
「……やってくれましたね。よくも、よくも、私を下賤で野蛮な『殴り合いという領域』に引きずり出してくれましたね!! 楽に死ねると思うなよ! 貴様らぁぁぁぁ!!」
そう、ひとつ大きな誤解がある。ライフはその生命を司る能力こそが強みだと、そう思われているが……実はそうではない。
最高神の中で能力に特化しているのは運命神フェイトであり、ライフはまた別の性質に特化している。
彼女は生命を司る神……その生命が宿る器たる肉体こそが、彼女にとっての究極の武器。
不死身の体、底なしの膂力、異常なほどの動体視力……そう、ライフとは『肉弾戦等に特化した神』という面こそが本質だった。あくまで、本人が殴り合いを野蛮な行為だと考えており、それをしたくなかったから兵を生み出して戦闘していただけ。
しかし、リリウッドたちはライフを追い込んでしまった。兵団だけでは勝てぬとそう思わせるほどに……。
踏み込んだ地面が粉々になるほどの脚力をもって、一瞬でリリウッドとアイシスに接近したライフは拳を振るう。
圧倒的な威力の籠ったその一撃を受ければ、ふたりは致命傷とすらいえるダメージを受けるだろう。しかし、それより早く両者の間に割り込み、ライフの拳を同じく拳で迎え撃った者がいた。
「ちぃ!? 戦王ぉぉぉ!」
「ぐっ、この……やるじゃねぇか!」
強大な力と力のぶつかり合いですさまじい衝撃波が生み出され、両者ともに数歩後退する。真の姿に戻ったメギドと、本気を出したライフ。
その凄まじい超越者たちの戦いは、あまりにも原始的な殴り合いによって繰り広げられていく。
空間が揺れるような轟音を聞きながら、クロノアは大きくため息を吐いた。
「……まったく、生命神がああなると『周りの回復が疎かになる』。奇しくも、お前たちにとっては望み通りの展開となったわけだ」
「貴女は、ずいぶんと余裕ですね」
「いや、そんなことはない。十分に驚嘆しておる。大したものだよ、貴様らは……正直、ここまで追い込まれるとは思っておらなんだ」
アインたちを賞賛するような言葉を投げかけるクロノアに対し、アインはそれ以上言葉を続けず攻撃に移る。
しかし、突如クロノアの姿が消え、アインたちから少し現れた場所になんの予兆もなく移動していた。
「……消えた? 瞬間移動ですか?」
「まぁ、そのようなものだ。そして、そう急くな……少し、我の話を聞いておけ。なに、お前たちにとっても有益な内容だ」
「……どういうつもりですか?」
クロノアの意図が読めず怪訝そうな表情を浮かべるアインだが、とりあえず話を聞いてみることにしたのか、構えたままクロノアの言葉を待つ。
「なに、奮闘する貴様らへの褒美と『手向け』だ。神族の権能は、どこに宿ると思う? 運命神を見ればわかりやすいな……そう『瞳』だ。別に瞳を失ったからと言って、権能を行使できなくなるわけではないが、そこが核である以上弱体化はする。故に、神族と対峙するなら瞳を狙うのが効率的だといえよう」
「……たしかに、有益な情報ですね」
「であろう? さて、神族の権能の象徴は瞳。それを理解したところで……問おう、神への反逆者たちよ」
寒気すら感じる威圧感と共に、クロノアはアインたちにその瞳を向ける。
「……なぜ、神族の中で唯一我だけ……『瞳が二色』だとおもう?」
「ッ!?」
その言葉に呼応するように、クロノアの青色の左目が淡い光を放つ。そう、クロノアは最高神の中で一番最後に作られた存在。
権能に特化したフェイト、肉弾戦に特化したライフ……そしてその両方をバランスよく併せ持ち、最高神として一番完成された存在といえる者こそクロノアである。
そして、そんな彼女は神族の中で唯一『ふたつの権能』を持っている。ひとつは言わずと知れた時の権能。こちらはクロノアが普段から行使しており、人界では時の女神と呼ばれていることからも彼女を象徴する力であることは間違いない。
だがそれ以上に危険な権能が彼女の左目には宿っており、それは世界への影響が大きいためシャローヴァナルから許可があった場合に行使する力。
そう、クロノアの正式な神名は『時空神』、彼女は――『時間』と『空間』を司る神である。
シリアス先輩「う~ん、熱いバトル。素晴らしいね。ちなみに、この決戦、あと何話ぐらい?」
???「う~ん……三話か四話で決着しますね。そしてクロさんとシャローヴァナル様の戦いに一話、そのあとはドキッ学園ラブコメディの始まりですね」
シリアス先輩「試練! 試練だからね!?」




