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『赤き戦いの王』

本日二話目の更新です。ご注意ください。



 揺れていた戦いの天秤が、少しずつ傾きつつある。それも、人魔連合軍の側へと……アリスというジョーカーを除いた単純な戦力差で考えれば、それは奇跡とすら言えるほど順調な展開。

 事前に対策を練り、戦う相手を割り当て、個ではなく複数で神族の実戦不足という隙を突く……その作戦は見事にハマり、戦局を呼び込む切っ掛けになった。

 だが、それは薄氷の上を歩くようなもの。神族側はライフが存在する限りいくらでも欠員の補充は行えるが、人魔連合軍側はそうではない。

ひとつの柱が崩壊すれば、そのまま全体が崩れてしまう。


「メギド様ぁぁぁぁ!?」


 おそらく戦王配下の誰かが発したであろう悲痛な叫び声。その声により戦場に集う多くの者たちの視線があるひとつの浮島へと向けられた。

 10メートルを超える体躯を持つメギドの体、それが『二つに切り裂かれ』……沈む。そしてそれを行った上級神……シアは、手に持つ大鎌を忌々し気に見つめながら呟いた。


「……あぁ、くそっ……これが命を絶つって感触か。シャローヴァナル様のためとはいえ、最悪の気分だ」


 自らに刃を向けた相手でも決して殺さず生かして倒す。それは災厄神シアの拘りではあった。だが、思わぬ奮闘で勢いに乗る人魔連合軍を止めるには、その柱のひとつを折るのが最も有効。

 アリスという単独で最高神を上回るジョーカーが存在している以上、一刻も早くそれを行う必要があった。だからこそ彼女は、神界のために拘りを捨て、メギドを両断した。


「……悪かったな、メギド。こんな借り物の力でお前を倒して……全部終わって生き返ったあとに、一発ぐらいなら大人しく殴られてやる」


 六王の一角であるメギドが敗れたこと、それはすさまじい動揺を人魔連合軍にもたらす。特に、今回の戦いにおいて主体となっていた戦王配下にとっては、すぐには立て直せないほどの精神的なダメージを与える。

 ライフと戦っていたアイシスとリリウッドも、多くの神族を相手取っていたマグナウェルも大きな動揺を見せている……ある意味戦いの行方が決まったともいえる混乱を見ながら、クロノアはポツリと呟いた。


「……まぁ、よく持った方だというべきではあるが、予想通りだ。六王として同列に語られてはいても、奴の……戦王の総合的な実力は、他の六王にもアインにも一歩劣る。であれば、最初に崩れるのは奴であろうな」


 そう呟きながら、同じように動揺しているであろうアインたちに視線を動かしたあと……鋭く放たれたアインの拳を受け止めた。


「ほぅ、流石というべきか、薄情だというべきか……他の者は動揺しているのに、お前は動揺していないようだな?」


 ツヴァイやフィーア、フュンフは大なり小なり動揺が見える。しかし、アインの表情はまったくと言っていいほど動揺がない。

 他の六王ですら動揺している事態に、アインが冷静でいられる理由はひとえに彼女の性格――ではない。

 アインがその理由をクロノアに対して語ろうとした瞬間、戦場に大声が響き渡った。


「動揺するんじゃねぇ! 戦王配下!! まだ、『ここからだ』!」

「……オズマ……様……なぜ……笑っているのですか?」


 戦場に声を響かせたオズマの表情は、すぐ近くに居た同じ戦王五将のアグニから見ても異常なものだった。オズマは……笑っていた。心の底から嬉しそうに、憧れのヒーローを眺める子供のように……。


「いいか、よく聞け! ここまでは俺でもいったことがある……ここから、ここからなんだ!」


 普段の飄々とした彼からは想像もできないほど興奮した様子で、拡声魔法すら使って声を響かせる。


「戦王配下! 戦いながらでいい! その目に焼き付けろ! 称えろ! そして、魂に刻め!! 俺たちの――『王の姿』を!!」


 嬉々として叫ぶオズマの声響いた直後、天を引き裂くような巨大な火柱が上がった。空間を縦に割るかの如く燃え上がる炎の発生源……それに覆い隠されているのは、二つに切り裂かれたメギドの体。

 ソレが異常な事態であると言うことは、もちろん神族側も気づいている。その場を去ろうとしていたシアは足を止め、クロノアもアインへの反撃の手を止めて火柱を見る。


「……なんだ? なにが起こっている?」

「クロノア」

「むっ?」

「先ほどの言葉に対する答えは単純です。なぜ、私が動揺していないのか……生憎と、いまの私は必死です。『自分より遥かに強い相手の心配』をしている余裕はないだけです」

「……なに?」


 思わぬアインの言葉にクロノアが怪訝そうな表情を浮かべると、まるでそれに応えるように燃え上がっていた火柱に変化が起こり始める。

 炎の色はドンドン濃くなり……ついには漆黒の炎へと変わり、唐突にその炎が消え去った。


 戦場という場には不釣り合いな静寂が訪れる中、ひとり……静かにオズマは胸に手を当て、空中で片膝を付いて首を垂れた。

 その心は喜びに打ち震えている。それもそうだろう、なぜなら彼はずっとこの瞬間を待ち望んでいたのだから……。


「……お目覚め、心より嬉しく思います。偉大なる『我が王』よ」


 炎が巻き起こっていた場所には、ひとりの美女が悠然と立っていた。燃え盛る炎の如く赤く波打つ長髪。先ほどまでの姿から考えると、あまりにも小柄な180㎝程の体。

 後ろに向かって大きくそった二本の角に、白く美しい細腕。抜群のプロポーションを持つ体をあちこち破れたボロボロのローブで包んだ美女。

 その女性は己の姿を確かめるように一度自分の手を見たあと、目の前に居るシアから視線を外し、両膝を付いて祈るように両手を合わせて目を閉じた。


「……敬愛する我が母、クロムエイナ。貴女の許しなくして、再びこの愚かな姿に戻る無礼をお許しください」

「……隙だらけだ」


 美しい声で祈りを捧げる女性に対し、シアは即座に地を蹴って接近した。なにが起こっているのか、まだ完全には理解が追い付いてはいない。しかし、目の前の女は危険だと彼女の直感が訴えていた。

 だからこそ隙だらけの姿を晒しているうちにケリを着けるため、全力で大鎌を振るった。


 そしてその大鎌は、寸分違わず女性の細い首を捉え――『薄皮一枚貫くことなく粉々に砕け散った』。


「なっ、にっ!?」


 己の攻撃が防御すらされずに防がれたことに驚愕しながらも、シアは即座に女性から距離をとるため後方へ跳躍した。

 その判断は見事だったといえるだろう。だがもう、全てが遅かった。

 直後にシアが見たのは、己に迫る握り拳……咄嗟に魔力で複数創り出した大鎌を砕き、己の魔力障壁を紙の如く貫いて飛来する絶対の一撃。


 そして――空間が爆ぜた。


 ただ拳を振るっただけ、それだけの動作で浮島は消し飛び大きな土煙がまった。そしてそれが晴れた時、シアの姿はどこにもなく……ただ、その王だけが空間に君臨していた。


「オォォォォォ!」


 そして女性……真の姿に戻ったメギドは咆哮し、最も近くに居た神族の集団へと檻から解き放たれた獣のように凄まじい速度で向かう。

 もちろん神族たちも即座に反撃の姿勢をとり、ソレどころかメギドの危険性を察知した上級神たちも集まって、数十人もの規模でメギドに対し攻撃を仕掛ける。

 そして神々は知ることになった――真の暴虐とはいかなるものかを……。


 ふるった刃が、突き出した槍が、放った弓が、降り注ぐ魔法が――メギドの体に傷はおろか、汚れすらつけることができない。

 巨大な盾が、全力で張った魔力障壁が、防御に向いた権能が――欠片の抵抗すら許されず、その拳ひとつに粉砕される。

 シャローヴァナルによって莫大な強化を得たはずの神族たちが――羽虫のようになぎ倒されていく。


 それはまさに荒れ狂う赤き獣……戦いの王。太古の昔、『魔界の三分の一を焦土に変え』、敗れたとはいえ『本気のクロムエイナに微かな手傷を負わせた存在』。この世界で自然に生まれた者の中で最強の力を持ち、のちに『戦いではなく虐殺しか生み出さないことを嫌い自ら封じた』真の姿。

 本来2メートルに届かない身長を、10メートル以上になるまで何重にも封印を施さなければ抑えきれないほどの力が、いま神族に向けられる。


 死んでは蘇る神族を、それ以上のスピードでなぎ倒しながら、メギドは叫ぶ。


「おらっ! オズマ! テメェもいつまで、ダラダラ戦ってやがる……本気を出しやがれ!」


 その言葉が届いた瞬間、頭を垂れたままだったオズマの体が歓喜に打ち震えた。彼は普段メギド・アルゲテス・ボルグネスを『旦那』と呼ぶ。それは、彼にとってその姿のメギドは王であって王ではないから……。

 オズマという騎士にとっての王は、古今にただひとりだけ……かつて『暴風のオズマ』と呼ばれ、己が最強だと信じていた彼の誇りを、積み重ねてきた力を、確固たる自信を、容易く打ち砕いた暴虐の化身。


 その王の強さに憧れた。その王に命を捧げると決めた。その王と同じように自らの力を封じて……ただその目覚めを待ち続けた。

 そしていま、待ち続けた王命は下され、騎士はその瞳に強い光を宿す。


 風が吹き無精ひげが綺麗に切り落とされ、ぼさぼさだった髪もオールバックの形に纏められる。


「仰せのままに、我が王よ」


 もはやなにも迷う必要がない。王の命令が下った。あとは死力を尽くし本気で戦うだけ……荒れ狂う暴風と化したオズマは、メギドが戦っている浮き島に赴きその力を余すことなく振るい始めた。


 いま、戦いの天秤は大きく傾いた。人魔連合軍の側へと……。


 しかし、忘れてはならない。それは同時に、いままで時間稼ぎを主目的とし余裕をもって戦っていた神族たちが、目的を排除に変えて動き始める口実を与えることにもなうるということを……。






???「ちなみに、メギドさんの真の姿を知っていたのは、魔界ではクロさん、アインさん、私の三人ですね」

シリアス先輩「……というか、もう一人の私アッサリ退場しちゃったんだけど、ちょっと!?」

???「あっ、大丈夫です。ライフさんの力で蘇生していないってことは、そもそも死んでないので……めっちゃ遠くにぶっ飛ばされただけです」

シリアス先輩「よかった……のか? まぁ、ともかく、戦王は凄いってことだね」

???「えぇ、ちなみにこの姿のメギドさんは魔法とかまったく使いません。クソチートな防御力と攻撃力を持つ肉体で殴る蹴るの肉弾戦オンリーなストロングスタイルです」

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ここがほんとに好きすぎる
[良い点] 何度読み返してもここのシーンは格別に好き
[一言] めちゃくちゃかっけぇ!
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