祝福のおかげだと思うから
フェイトさんに連れてこられたのは、何度か足を運んだことがあるフェイトさんの神殿だった。あまりいままでじっくりと見たことはなかったが、美しい装飾の施された柱が並ぶ広い部屋は、神聖な雰囲気があった。
「……えっと、フェイトさん? なぜ、ここに?」
「雰囲気ってやつかな? やっぱり、『アレ』をするならここがイイかなぁって」
「アレ……というのは?」
「えっと、まぁ、意味はあんまりないんだけど……カイちゃんへの、プレゼントかな」
「プレゼント?」
フェイトさんの告げた言葉に首をかしげると、フェイトさんは軽く微笑みを浮かべたあと、俺の手を放して神殿の最奥……祭壇らしきものがある場所へ移動する。
そして一段高くなっているその場所から、俺の目を真っ直ぐと見つめて微笑み、口を開いた。
「我が名――フェイトの名において――巡りゆく運命に告げる」
「ッ!?」
大広間に響き渡る威厳に満ちた声……そして、いままでに二度聞いたことがある言い出し。これって、もしかして……。
「かの者――ミヤマカイトを――我が祝福を受けるに値する者と認める」
一度目はシロさんと出会った時に、二度目はリリアさんと参加した王城でのパーティーで耳にした。それは神族にとっては、とても重要な意味を持つ言葉。
「故に――我が名――フェイトの名において――運命に命ずる」
膨大な魔力を放ちながら告げるフェイトさんの姿は、神殿の雰囲気も相まってとても神々しい。だけど、その表情は、包み込まれるような優しさに満ち溢れていた。
「巡りゆく運命よ――かの者の背を押す風となり――幸福な未来へと誘え――我が名――フェイトの名において――かの名――ミヤマカイトの名を――」
ここまではクロノアさんがリリアさんに対して告げた口上と同じだった。しかし、フェイトさんはそこで少し間を空け、眩しいほどの笑顔を浮かべながらその先を告げた。
「――『我が最愛の存在』として――我が名と連ね――運命に記すことを――命ずる」
その言葉と共に眩い光が俺の体の周囲を舞い、徐々に収束していく。
「シャローヴァナル様の祝福を受けているカイちゃんには、あんまり効果は無いんだけど……それでも、受け取ってほしいんだ。私の想いを、矛盾してた心を、丸ごと受け止めてくれたカイちゃんに――心からの愛を込めた――カイちゃんの幸福な未来を願う――貴方ただひとりのために捧げる――運命の祝福を」
収束した光は俺の体へと吸い込まれ、じんわりとした温かさが心を満たしてくれるように感じた。なるほど、これは本当に最高のプレゼントだ。
フェイトさんの想いがあまりにも嬉しく、俺が言葉をなくしていると……フェイトさんは祭壇から降りて俺の下に移動し、真っ赤な顔で俯きながら再び俺の腕を抱きしめた。
「……あぅ、これ、滅茶苦茶恥ずかしい……」
「えっと、その、フェイトさん。ありがとうございます。すごく、嬉しいです」
「う、うん。よ、喜んでもらえたなら……私も嬉しいよ。じゃ、じゃあ、デートの続き……しよっか」
「はい!」
拝啓、母さん、父さん――本人は、シロさんの祝福を受けている俺には意味がないなんて言っていたけど、そんなことは無いと思う。少なくとも、いま心のうちに溢れる温かく幸せな気持ちは、フェイトさんがプレゼントしてくれた――祝福のおかげだと思うから。
――ねぇ、そこの君。
そう、たしかカイちゃんとの始まりはそんな言葉からだった。その時のカイちゃんに抱いた想いは、なんだったっけ? たぶん扱いやすそうとか、そんな酷い感想だったと思う。
おかしな話だよね。私は運命を司る神……未来を見通すことだってできるはずなのに、自分自身の未来すらさっぱり分かってなんか無かった。
ううん、見ようと思えば自分の未来ぐらい見えたと思う。だけど、当時の私は自分の未来にすら……大した興味は抱いていなかった。
ダラダラと楽をしてほどほどにのんびり過ごせたらいいなぁって、それぐらいのことは考えていたけど、具体的になにかをするわけでもなかった。未来に希望なんてものを抱いてるわけでもなかった。
とりあえずいまが楽ならそれでいいやって……私はそんな存在だった。だから、だろうね。カイちゃんに対する恋心を自覚したとき……苦しかった。
自堕落で無責任でワガママな自分が、どうしようもなく最低な存在に思えた。本当は最初っから、カイちゃんに恋をしてるってわかってた。でも、カイちゃんを愛しく思えば思うほど、自分が嫌になった。
だけど……まいったね。カイちゃんはそれでも、私の想いを受け止めてくれた。カイちゃんのことを一番にできない私を、それでいいんだって肯定してくれた。
あんなに嬉しいって思ったのは、生まれてから初めてだった。
私はこれから、どうすればいいんだろう? 分からないけど……たぶん、私っていう存在の本質が大きく変わることはない。たぶんこれからも仕事はしょっちゅうサボるし、カイちゃんにワガママだって沢山言う。
だけど、なにも変化がないわけじゃない。いままでとは違って、いまの私は未来に希望を持っている。
カイちゃんと歩んでいく未来を、幸せなものにしたい。そのためなら、少しぐらい働いたっていい。ちょっとぐらい必死になって頑張ったっていい。
カイちゃん任せじゃなくて、私もカイちゃんを幸せにしてあげられるように頑張りたい。少なくとも、カイちゃんに……私と恋人になったことを良かったって思ってもらえるように……。
【快人は運命の祝福を得た】
【運命の祝福が『フェイトの愛』に進化した】
【運命操作系魔法が使用可能になった】
【しかし、魔力が足りない……ビックリするぐらい足りない】
シリアス先輩「いい話だった。よし、これでフェイトルートおわりね! シリアスな話しよう!」
???「いや、いままで個別ルートの流れ的に次からもっといちゃつくのでは?」
シリアス先輩「やめろぉぉぉ! 言ったら、本当にそうなるだろうがぁぁぁ!!」




