縮まってきているような気がするから
思わぬ緊張の中で始まったフェイトさんとのデート。妙に恥ずかしくて手を繋いだりはしておらず、並んで歩いてはいるものの少し俺とフェイトさんの間には空間がある。
ただ、この付かず離れずの微妙な距離感がまた初デートって感じで、変に意識してしまう……いや、フェイトさんとのデートは二回目なんだけど……。
「……あの、フェイトさん」
「う、うん! なに?」
緊張した感じの初々しい反応、これは本当にヤバい。なんというか、緊張がどんどん連鎖していっているような気がする。
「え、えっと……どこに行きますか?」
「あっ、ご、ごめん。実はその辺り全然考えてないんだ。その、なんていうか、デートするってことで頭がいっぱいで、そっちまで余裕なかったっていうか……」
ちょっと、フェイトさん……頬赤らめるのやめてください。身悶えしそうになります。
「いえ、気にしないでください。それじゃあ、あまり深くは考えずにあちこち見て回りましょう」
「うん。ありがとう……カイちゃん」
「……」
「……」
どうしよう!? 会話続かない! 本当にいつものフェイトさんとは違い過ぎて、ひとつひとつの仕草にドキッとしてしまって、会話を続けようにも変な間が空いてしまう。
だ、だけど、無言の時間が長くなればなるほど会話するのが難しくなるだろうし、ここは少し強引にでも会話を……。
「……あっ、えっと……な、なんか少し暑いですね」
「そ、そうだね! 季節的にはもう少し涼しくてもいいと思うんだけどね」
「……」
「……」
困った。本当に次の言葉が出てこない。お、おかしいな? 俺、クロたちとも何度もデートしたし、少しはリードとかできてもいいはずなんだけど……気恥ずかしさで、フェイトさんの顔が全然見えない。
くっ、こ、このままじゃだめだ……というか、視線を外してると逆に緊張してしまう気がする。よし、何気ない感じでフェイトさんの方を向いて、世間話をしよう。
共通の知り合いであるアリスのこととか、とにかく現在の状況とは関係ない話をして、空気を換え……。
「「っ!?」」
そして、俺とフェイトさんはまったく同時に互いの方へ振り向き、その結果としてばっちり目が合ってしまい、完全に硬直した。
あっ、ヤバい。さっき考えてたこと、全部飛んじゃった。えっと、なんだったっけ? なにを言おうとしたんだっけ? えっと、えっと……。
「……フェ、フェイトさん! の、飲み物でも買いませんか!」
「そ、そそ、そうだね! 暑くて喉渇いたね! そうしよう!」
「じゃ、じゃあ、あの辺の店で!」
「りょ、了解!!」
なんか変なテンションになっちゃったけど、悪くはない状況だ。飲み物を飲めば、少しは落ち着くだろうし、多少なりとも話のタネになる。
そんなことを考えながら早足で屋台に向かい、フェイトさんと共にひとつずつジュースを購入した。そして、立ったままというのもアレだったので、近場にあった小さめの広場に移動し、並んでベンチに座ってから飲みはじめた。
「……」
「……」
ぐっ、また沈黙……フェイトさんも戸惑っているんだ。ここは、男である俺がなんとかリードしてあげたい。一度深呼吸をして……よし。
「……結構喉が渇いてたからかもしれないですけど、美味しいですね」
「……うん」
「なんていうか、こんな風にのんびりした感じなのも、悪くないですよね」
「……そう、だね。うん。こういうのも、いいかも」
落ち着くように努めて話しかけたかいもあり、フェイトさんの声にも少しずつ落ち着きが現れ始めた。
その感じで互いの緊張をほぐしていこうと、そう考えたタイミングで……ポツリと、フェイトさんが言葉を零した。
「……カイちゃん、ごめんね」
「え? なにがですか?」
「もうちょっと、ちゃんとデートできると思ってたのに……私、全然だめだよ。フワフワしてるのに落ち着かなくて、どうしたらいいかとか全然分かんなくて。何度も、頭が真っ白になって、ロクに話もできてない」
「……実は、俺もです」
「……カイちゃんも?」
申し訳なさそうな表情を浮かべて話すフェイトさんを見て、俺はなんとなく安心感を覚えていた。なんというか、フェイトさんも俺と同じ気持ちだったのが改めてわかって、ホッとしている。
「情けない話ですけど、さっきからちっとも考えてる通りに話せなくて……困ってますよ」
「じゃあ、一緒だ」
「ええ、ですね」
「……ふふふ」
「あはは」
フェイトさんと顔を見合わせ、苦笑する。そう、だよな。これはデートなんだし、アレコレ俺ひとりで悩んだところで意味はない。
どっちも上手くリードなんてできない状態なわけだし、そこはふたりで相談しながら考えていったほうがいい。
少しだけ緊張がほぐれたことを実感しつつ、俺はジュースを片手に立ち上がり、フェイトさんに向かって微笑みを浮かべる。
「フェイトさん、次は……なにをしましょうか?」
「……海、見たいな」
「じゃあ、港の方に行ってみましょう」
「うん!」
フェイトさんも俺の言葉を受けて、ようやく笑顔を浮かべて立ち上がる。焦ることはない、まだ時間は沢山あるんだ。
冷静にならなきゃとか、リードしなくちゃとか、そんな考えはどこか心の隅に置いておこう。いまは、精一杯、フェイトさんとのデートを楽しむのが一番だ。
拝啓、母さん、父さん――緊張して、空回りして、上手く会話もできなくて……ただ、それでも、悪くはないってそう感じる。互いに距離を探るように少しずつではあるが、それでも確かにフェイトさんとの距離は――縮まってきているような気がするから。
シリアス先輩「あぁぁぁぁ!? うわぁぁぁぁ!!」
???「……う~ん、フェイトさん凄いですね。いままで登場した恋人たちとも違うこのおっかなびっくり感、見てる私も身悶えしそうですよ」
シリアス先輩「もうやだぁぁぁぁぁ! おうちかえるぅぅぅぅ!!」
???「ここが貴女のおうちっすよ?」




