絆って呼ぶんだろう
祝600話!
カタストロさんのあとも、いままで知り合った方々が次々とプレゼントを持参して俺の誕生日を祝ってくれた。
いや、本当にこういう機会があると、改めて俺は沢山の人と出会って……たくさんの優しさの中に居るのだと実感する。
勇者召喚なんて、創作の中でしか目にしなかった出来事に巻き込まれて……いまこうして、大勢の人たちに囲まれている。
異世界に行ってチートで無双して、富や名声を得る……ぼんやりと夢見ていた、いや、妄想していた異世界生活。いまの俺の状況は、思い描いていたそれとは違った。
異世界に来ても俺はひとりではなにもできないほど弱いままで、たくさんの人たちに助けられて、支えられて日々を過ごしていく。
けど、まぁ、考えてみれば、別におかしなことなんかじゃない。
ひとりで生きていける人は……たぶん探せば居る。だけど、その数は決して多くはないと思う。誰にだってできることとできないことがあって、それを補い合いながら生きていく。
俺は正直、できないことの方が多いけど……一見なんでもできそうなクロやアリス、果ては全能に近い存在であるシロさんでさえ、なにもかもが完璧なわけじゃない。
分からないことも、知らないことも、迷うことだってあるだろう。そういう部分を俺が、ほんの少しでも補えて、支えてあげられているのだとしたら……これほど幸せなことはない。
うん、そうだ……いまのこの異世界生活は、俺が思い描いていたものとは違うのかもしれない。だけど、むしろ……。
『さぁ、次はいよいよアリスちゃんのプレゼントの番ですよ! 城の外に行きますよ……はい、というわけで、エデンさん。皆を転移してください』
「……不可解、疑問、我、指示遂行、義務、皆無」
『……カイトさんのためですよ』
「若干、不満有、然……了承」
俺が物思いにふけっていると、アリスがなぜかエデンさんに全員を会場の外に移動させるように指示を出し始めた。
ここでは渡せないプレゼント? サイズが大きいってことだろうか? いや、それはそれとして……気のせいかな? アリスとエデンさん、少し仲良くなってないか?
あのエデンさんが、文句を言いながらも、己の世界の住人ではないアリスの指示に従うってことは、エデンさんは少なからずアリスを評価してるってことなのかもしれない。だって、エデンさんって基本的に、この世界の人たちに話しかけられてもガン無視だし……。
そんなことを考えていると、一瞬で景色が変わり俺たちは城の外へと移動していた。転移魔法のように予兆があるわけでもなく、本当に背景だけが切り替わったかのような転移。言動のぶっ飛び具合はともかくとして、流石はひとつの世界の神である。
「それじゃあ、皆さん、私の指示通りに移動してください。マグナウェルさんはあと50歩後退で」
『むぅ、足元に気を遣うのぅ』
「浮けるでしょうが……ってこら、腐れ天使! 貴女には事前に言ってるでしょうが! 場所は端っこです。なんすか? 文句があるなら、その邪魔くさい羽外してください」
アリスが沢山の分体を作り出し、個別に指示を出して誘導していく。俺もアリスの本体に連れられてそこに加わり、皆と一緒に整列する。
なんというか、パッと思い浮かんだのは……『集合写真』のような並び方だ。
マグナウェルさんや、体の大きいメギドさんを後方に配置。俺のすぐそばに、クロ、アイシスさん、ジークさん、リリアさん、アリスの五人が集まる。
そして全員の移動が完了すると、アリスの分体のほとんどが消え、数体の分体が少し離れた前方に移動する。
「はい、それでは皆さん! こっち向いてください。ついでにしっかり笑ってください……はい、行きますよ!」
そう告げた瞬間、アリスの分体たちが微かに光ったような……こちらには知覚できないほど高速で動いたような、そんな気がした。
アリスがなにをしたのかは、すぐに知ることができた。
アリスが笑顔で差し出してきた……『美しい額縁に入った一枚の絵』を見て……。
「カイトさん、誕生日おめでとうございます。これは、私からのプレゼントですよ。状態保存の魔法もばっちりです」
「……」
完全にやられた……これは、ズルいだろう。こんなの、嬉しくないわけがない。
「……ありがとう」
まるで写真のように精巧で、それでいてどこか温かな色使いで描かれた絵。そこには、俺と、俺の誕生日を祝うために集まってくれた人たちの姿が描かれていた。
そこに描かれている俺の姿は、本当に幸せそうで……心からの笑顔を浮かべていた。
あぁ、本当に……幸せだ。俺の思い描いていたものとは違う……俺が想像していたよりも、ずっと、ずっと……素晴らしい日々。
その絵には、たしかに、そんな幸せな思いが――宿っていた。
拝啓、母さん、父さん――人間も、魔族も、神族も……俺自身も、誰もが完璧じゃなくて、だからこそ互いに補い合う。思い重なり、心は通い、そして思い出は紡がれていく。目に見えるものでもなく、実際に温度があるわけでもない。だけど、そこには確かに温かななにかがある。それを人は――絆って呼ぶんだろう。
――幸せな思い出が描かれた一枚の絵、それを見るたび、当時のことを思い出す。
――そして、同時に『後悔する』。
――なんども、そう、なんども……
――変えることができないと分かっていながら……過去を悔やむ。
――あぁ、俺はどうしてあの時……
――ちゃんと言っておかなかったんだろうか?
――『次回は普通の規模で大丈夫です』と……。
???「最後シリアスだと思いました? 残念! ギャグでした!!」
シリアス先輩「裏切ったな! 私の期待を、裏切ったなぁぁぁぁ!!」
???「まぁ、600話だからって綺麗にまとめた感じになりましたが……まだ、エデンさんのプレゼント残ってるんですよね」
シリアス先輩「あっ……」




