幻王配下にまともな人っていないの?
プレゼントキャンペーンの当選発表を行いました。詳しくは活動報告にて確認してください。
また、質問のあった第三巻の電子書籍版ですが、担当さんに確認したところ「発売の予定はあるが、まだ準備中」とのことでした。申し訳ありませんが、いましばらくお待ちください。
パンドラさんから、ちょっと特殊なプレゼントを貰ったあと、メギドさんからもプレゼントを貰った。やはりというべきか、お酒……巨大な酒樽だった。
メギドさんの次にはフェイトさんが、大きなクッションをプレゼントしてくれ、その次はマグナウェルさんだったのだが、マグナウェルさんは当然の如く会場には入れない。現在は会場の外にいるので、代理としてファフニルさんがプレゼントを渡してくれた。
その後もライズさん、ロータスさん、ダリアさん、アマリエさん、オーキッドとプレゼントを順に渡してくれ、次はフィーア先生の番かと思ったタイミングで……。
『はい、じゃあ次はカタストロですね』
「はっ!」
アリスの言葉に従い、薄緑色の長髪を首の後ろで一本にまとめ、燕尾服だろうか? 執事のような恰好をした女性が優雅な足取りで壇上へと上がってきた。
……なんか、まったく見覚えのない方が登場しちゃったんだけど!? え? 誰これ? 本当に覚えがない。
『あぁ、カイトさん。その子は、ほら、臨時でカイトさんの護衛を任せた伯爵級高位魔族のひとりです。カイトさんと直接言葉を交わしたことはありませんが、一応その時の十人のまとめ役だったってことで、参加を許可しました』
あぁ、なるほど……クロとの一件の時に、アリスが俺の護衛にと付けてくれた方のひとりなのか。まとめ役ってことは、アリスの配下の中でも結構上の方に居る方なのかもしれない。
カタストロさんは俺の前までくると、丁寧な仕草で一礼してから口を開いた。
「ただいまご紹介にあがりましたカタストロと申します。本日はお誕生日、誠におめでとうございます。ささやかながら祝いの品を持参しました」
「は、はい。わざわざ、ありがとうございます。宮間快人です……えと、よろしくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。ですが、申し訳ありません握手は……私は体質的に触れたものを腐敗させてしまいます。厚手の手袋をしているとはいえ、完璧には防止できませんので」
挨拶とともに反射的に握手を求めるように手を差し出した俺に対し、カタストロさんは軽く首を横に振って謝罪する。
触れたものを腐敗させる……この言い方だと、自分の意志で止めることはできないって感じかな? それは、なんというか、少し悲しい能力のような気がする。
俺は一応シロさんの祝福があるし、たぶん大丈夫なんじゃないかとは思うが……あまり触れるべきではない話題なのかもしれない。
『いや、カイトさん。同情しなくていいっすよ。その子、『本当の姿なら触覚でものを持てる』んですから……そっちで触ればいいわけですし』
「……たとえこの手が『毒翼が変化した』危険なものであるとしても、たとえ手袋等の費用で日々極貧生活を送ろうとも、一日の食事がパン1枚以下でも、洞窟で寝泊まりしようとも……私は『あの醜い姿』を本当の姿とは認めません。これが私の真の姿です」
なんだろう? さっきまでとは、別の意味で可哀そうに思えてきた。
『ちなみに、本当の姿は『蛾のバケモノ』です』
「否定した傍から暴露しないでください! シャルティア様!!」
『というか、時間使い過ぎです。さっさとプレゼントを渡して壇上から降りて、会場の隅っこで乾いたパンでも齧っててください』
「シャ、シャルティア様……流石にそれは理不尽すぎるのでは……」
うん、さすがにちょっと言い過ぎだと思う。いくら配下だからと言って、これではカタストロさんも怒って……。
「サラダまでは許してください! お願いします! 普段はその辺に生えてる雑草食べてるんです!!」
そこっ!? 文句言うところそこ!? というか、食生活が悲惨すぎるんだけどこの方!?
『いや……まぁ、好きなもの食べればいいですよ』
「……いえ、あまり高級なものを食べると、胃が受け付けないので……」
……涙出てきた。自ら進んでそうしているとはいえ、あまりの極貧っぷりに戦慄してしまう。カタストロさんって、伯爵級高位魔族なんだよね? 魔界でも一握りの凄まじい存在なんだよね? そこまで貧乏って、どんなペースで手袋腐らせてるんだろうか?
「……っと、失礼いたしました、ミヤマ様。改めまして、お誕生日おめでとうございます。ささやかながらプレゼントです」
「あ、ありがとうございます。えっと……その、大丈夫ですか?」
主に金銭的面でという言葉を隠しつつ尋ねてみると、俺の意図はカタストロさんにも伝わったらしく、カタストロさんは微笑みを浮かべて告げた。
「ご心配いただき恐縮です。ですが大丈夫です。『絶食には慣れています』」
「……」
「それでは、失礼いたします」
菓子折りだと思うが……軽いはずのプレゼントがやたら重く感じる。今日からの絶食を覚悟してまで用意してくれたプレゼント……申し訳なくてたまらない。
え、えっと、このままじゃダメだろう。なにかないかな? なにか……あっ、そうだ!
「カ、カタストロさん! 待ってください!」
「……はい?」
「よ、よかったらこれを!」
「は、はぁ、ミヤマ様からなにかをいただいてしまっては本末転倒――って、これは!? せ、戦王様のたてがみで編まれた手袋!?」
壇上から降りようとしていたカタストロさんを呼び止め、咄嗟に差し出したのは六王祭の景品でもらった手袋だった。
い、いや、これがカタストロさんの腐敗とやらにどこまで効果があるのか分からないが、素材が素材だし悪くないのではないかと思う。
俺が持っていてもキッチンミトン代わりにしか使う予定がないし……。
「……い、いえ、駄目です! このような高価な物をいただくわけにはいきません!?」
「俺が持っていても、有効活用はできないので……」
俺が差し出した手袋を見て、動揺した様子で首を大きく横に振るカタストロさんだが、俺もこの状況で引くことはできない。
「わ、私にも不要なものです! し、しまってください!」
『ちなみにその手袋ならカタストロの腐敗を完全に防止できますし、カタストロもそれが欲しくてたまらなかったみたいで、六王祭初日に有給とって必死に頑張ってたんですが……アグニさんに負けちゃいまして、手に入らなかったみたいです。その手袋、特殊な製法なのでメギドさんしか作れず滅茶苦茶希少ですし、メギドさんに勝たないと交換不可って制限ありましたからね』
「シャルティア様! 余計なことを言わないでください!! と、ともかく、ミヤマ様! しまってください! そのようなものをいただいても、私にお返しできるものなどなにもありません!!」
そんな制限があったのか……俺が渡された交換リストには、普通に載ってたから気づかなかった。
そして、カタストロさんはもはや必死といえる表情で俺に手袋を引っ込めさせようとしているが、チラチラと視線は手袋に動いているので、欲しくてたまらないというのは本当みたいだ。
それでも理性的な方なのか、貰うわけにはいかないという姿勢を崩さないカタストロさんの『手を取り』、強引に手袋を渡す。
「いえ、あんな話を聞いて無視できません。というか、解決できる要素が手元にあるのに無視するなんて、夜寝れなくなります! だから、俺のために受け取ってください!」
「……わ、私は決してそのようなつもりでは――「カタストロ!」――シャルティア様?」
『そうなったカイトさんは絶対引きません。諦めてください。ただでさえ時間おしてるんですから、さっさと受け取って、会場の隅っこでサラダ齧ってなさい。いい加減にしないと、『私以上に理不尽な天使』が動きだしますからね』
「うぐっ……わ、わかりました」
アリスの言葉を聞いてチラリと視線を動かすと、会場の隅にいるエデンさんがカタストロさんを睨みつけていた。
あかんやつだ。絶対『我が子の厚意を断るとは、万死に値する。この場で存在を消し去ってくれようか?』とか、そんな理不尽極まりないこと考えてる顔だ。
アリスに言われ、カタストロさんは申し訳なさそうな表情を浮かべたまま俺から手袋を受け取り、すぐに勢いよく頭を下げた。
「ミヤマ様、ご厚意、たしかに受け取りました! このご恩は決して忘れません。生涯を賭して、恩を返します!!」
「い、いや、それは大袈裟な……」
「本当に、ありがとうございました!」
「あっ、いや……はい」
大きな声でお礼を言ったカタストロさんは、壇上から降りて会場の隅に移動し……サラダを齧り始めた。
拝啓、母さん、父さん――うん、なんだろうこの気持ち。なんというか、またいままでの人とは違った意味でぶっ飛んだ方だった。個性的というか……それで、ふと疑問に思ったんだけど――幻王配下にまともな人っていないの?
~今日のエデンママン~
「……(早く私の順番は回って来ないものでしょうか? 我が子の顔を見れるのは有意義な時間ですが、たびたび視界に割り込んでくる喋る肉塊が鬱陶しくてたまりません。まったく、アリスも余計なことを……しかし、心を読む限り、我が子には非常に有益……我慢するしかありませんね。あぁ、そういえば、この会場には愛しい我が子以外にも、三人ほど我が子が居ましたね。愛しい我が子には遠く及ばないとはいえ、我が子であることには変わりありません。母として一声かけておくことにしましょう)」
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「……(あの肉塊、始末しますか。我が子の申し出を拒否するなど、許されざる不敬。拒否権など初めから無いと、理解できないのでしょうか? この世界の生物を理由なく殺さないとの約束でしたが……アレは不敬罪でいいでしょう。いえ、不敬罪に他なりません。愛しい我が子の申し出を、二度も拒否するとは万死に値します……ではさっそく……しかし、それでは優しい我が子が心を痛めてしまうのでは? 肉塊如きに配慮など必要はありませんが、我が子の優しさは宇宙より広い。しかし、母として許容できる限界というものもあります。むむっ、どうするべきでしょうか? そうですね……『もう一度拒否したら始末しましょう』……そうしましょう)」
 




