そんなの聞いてないんだけど!?
アリスとフェイトさんの歌は……まぁ、予想通りといえば予想通りではあるが、素晴らしかった。アリスはその高スペックをいかんなく発揮し、シロさんに次ぐほどの歌唱力を披露。フェイトさんも、アリスの歌に飲まれることなく綺麗に声を合わせ、美しいハーモニーを響かせた。
どうやら、クロノアさん、ライフさんとは違い、フェイトさんは普通に上手いみたいだ。
もちろん結果はアリスとフェイトさんコンビの勝利。レイさん、フィアさんは相手が悪かったと思う。夫婦ならではの息の合ったデュエットはとても良かったし、違う相手なら勝っていたかもしれない。
ともあれ一回戦は終わり、ここからは勝ちぬいた者同士の対決。別にトーナメント形式というわけでもないので、対戦順はランダムみたいだった。
現時点での優勝候補筆頭は別次元の歌唱力を持つクロとシロさんコンビ。次点で、息の合ったハーモニーを響かせるアリス、フェイトさんコンビと、ビジュアル面で圧倒的に強いアイシスさんとリリウッドさんコンビあたりだろう。
ただ、やはりすべてのコンビを見たが、シロさんの歌唱力が圧倒的すぎる。二回戦で当たる相手は不運というしかないだろう。
そして、その外れともいえる対戦枠を引いたのは……葵ちゃん、陽菜ちゃんのコンビだった。
しかも、今回もクロとシロさんコンビが先手で、一回戦に勝るとも劣らないすさまじい歌声を披露した。
「……葵先輩、これ、無理です」
「……とりあえず、やるだけやってみましょう」
一回戦で見たノインさんとフィーア先生のコンビと同じく、若干諦め気味の表情でふたりが壇上に上がる。そして、歌う曲としてリクエストしたのは……俺も聞き覚えがある曲名だった。
いや、でも、この曲ってたしか……この世界に転移する半年ぐらい前に、オリコン1位で電撃デビューしたグループの曲じゃなかったっけ?
これはちょっと新しすぎるだろ。流石のアリス楽団もこれは――な ぜ 弾 け る ?
いつのまにかアリス楽団の持つ楽器が、ギターやドラムに変わっており、平然とリクエストされた曲を演奏していた。
こら、間奏でギターアレンジ入れるんじゃない。お前……実は地球出身とかじゃないのか?
正直葵ちゃんと陽菜ちゃんの歌よりも、俺のいた世界の最新の曲をアッサリ弾いてのけたアリスに驚愕したが、まぁ、アリスだししょうがないか……。
葵ちゃんと陽菜ちゃんの歌もいい感じだったが、それでもやはりシロさんの歌声には届かず、ここで敗退となった。
その後も順調にカラオケ大会は進行していき、ついにベスト4が出そろった。
まずは圧倒的歌唱力で、文字通り相手をねじ伏せてきたクロとシロさんコンビ。次に、多彩な曲調の曲を変幻自在に歌い上げ、危なげなく勝ち上がってきたアリスとフェイトさんコンビ。
審査員……というか、俺を完全に味方につけ、圧倒的尊さで勝ち上がってきたアイシスさんとリリウッドさんコンビ。そして、組み合わせにも恵まれてはいたが、安定感のある歌声で勝ち上がってきたラグナさん、フォルスさんコンビだ。
この四組で準決勝を争うことになった。そして、最初の対戦カードは……事実上の決勝戦といっても過言ではないだろう。
クロ、シロさんコンビ対アリス、フェイトさんコンビ……。
『さぁ、いよいよ来ましたよ準決勝! フェイトさん、ここが正念場っすね!』
ちなみに一回戦で参戦して以降、アリスとフェイトさんは壇上で実況と解説をしている。
『い、いや、シャルたん。やめよう、これ、本当に棄権しようよ……歌とはいえ、シャローヴァナル様と戦うなんて、私には出来な……』
「……運命神」
『ひゃいっ!?』
「この勝負に限り、無礼講とします。全力で挑んできなさい」
『はっ! 我が命に代えても!!』
シロさんと戦うことを断固拒否しようとしていたフェイトさんだったが、当のシロさんの許可が出たことで、いままで以上に真剣な顔つきでマイクを握る。
そして、歌唱力上位2チームによるカラオケバトルが始まった。
相変わらず圧倒的な歌唱力を披露するクロとシロさんコンビ、しかしアリスとフェイトさんコンビも負けていない。いままで以上に息の合った歌声で、互いに互いを高め合いながら見事な歌を披露してくれた。
両雄歌い終え、あとは俺の判定を待つばかり……クロとシロさんコンビなら赤の旗、アリスとフェイトさんコンビなら青の旗。
さんざん悩んだあと……俺はゆっくりと『青の旗』を上げた。
『おっと、これは……あ、青!? 青です!! わ、私も結構驚いてますが……これは、私たちの勝ちです!』
『ちょ、ちょっと待ってカイちゃん!? 理由、理由を説明して! なんで、私たち!?』
勝った本人たちが一番驚いている。特にフェイトさんが必至ともいえる表情で、俺に理由を尋ねてきた。俺はアリスの分体からマイクを受け取り、会場中の注目が集まる中で口を開く。
『……正直、歌唱力という意味ではシロさんが一番。全参加者と比べても、圧倒的でした』
『う、うん! そうだよね! シャローヴァナル様が一番だよね! だったら……』
『ですが、その圧倒的な歌声に……クロが完全には付いていけていませんでした。シロさんのほうも、クロに合わせる気がないみたいで、ほんの少しですが違和感がありました』
『なっ!?』
合わせ切れていないといっても、それは本当に僅かだった。実際ここまでは、それに違和感を感じることもなく、圧倒的な勝利を言う形で勝ち進んできていた。
クロも決して下手なわけではない。というか、アリスと並んで歌唱力はシロさんに次ぐほどだった。
しかし、なんというか、歌唱力№1と№2が組んだからと言って、コンビとして№1のハーモニーで歌えるかというと、そう単純な話ではない。
歌が上手いということは、同時にその人らしさとでもいうのか、個性も強く出ている。そうなると、結果として合わせ辛くなってしまったりするのが面白いところだ。
『特に今回は、相手がアリスとフェイトさんという、俺が聞いた中で一番息の合った歌声を披露するコンビだったこともあり、その違和感をいままでより強く感じることになりました』
そう、奇しくも相手がコンビネーション抜群かつ、クロとシロさんコンビに次ぐ歌唱力をもつコンビだったからこそ、違和感が浮き彫りになった。
『……これはあくまでコンビ対抗のカラオケバトルですから、アリスとフェイトさんの勝ちにしました』
『む、むぅ……』
『……カイトさん、意外としっかり聞いてますね。感応魔法も多少影響はしてるんでしょうが、なるほど、と納得できる理由でした』
俺が理由を言い終えると、フェイトさんも押し黙り、アリスは納得したように頷いてくれた。すると、いつの間にかシロさんが俺の前まで近づいてきており、いつも通り抑揚のない声で告げた。
「……歌唱力は、私が一番でしたか?」
「え? えぇ、それこそ個人戦なら、シロさんが圧倒的に優勝していたでしょうね」
「そうですか、でしたら、判定に異論ありません」
「でも、コンビ戦なんだから、シロさんの方でもクロに合わせないとだめですよ」
「……ふむ、わかりました」
クロとシロさんコンビの場合は、クロの方はしっかりと合わせようとしていたが、シロさんの方がそれを無視して歌っていた感じだ。
これでシロさんが多少なりともクロの歌声を聞いて、合わせていたら……たぶん結果は違っていただろう。
『あ~会場の皆さん、一応分かっていると思いますが……注意しておきますね。シャローヴァナル様にあんなこと言って許されるのはカイトさんだけですからね。他の人が同じような発言をすれば、神族総出で抹殺にきますよ。というか、シャローヴァナル様の負けって判定出した時点で、カイトさん以外なら殺されてますからね』
『だよね。でも、まぁ、カイちゃんが言うなら仕方ないよ。シャローヴァナル様も納得してるみたいだしね』
物騒な発言を聞いて、恐る恐るクロノアさんたちの位置場所を見ると……クロノアさんやライフさん、シアさんにハートさんは「まぁ、仕方ないか」とでも言いたげな表情を浮かべていた。
シロさんがなんだかんだで寛容で、本当によかった。
と、ともかくこれで準決勝の一戦目が終了し、続いてアイシスさん、リリウッドさんコンビ対ラグナさん、フォルスさんコンビのカラオケバトルが始まった。
相変わらず一所懸命に歌うアイシスさんは、色あせない可愛らしさを発揮していたが……あれ?
『……シャルたん。死王、なんか、歌上手くなってない?』
『たぶん、ですけど……そもそも、歌ったことが殆どなかったのでは? さっきから他のコンビの歌を聴きながら、小声で練習していましたし、短期間で成長してるんでしょうね』
……健気である。ものすごく、健気である。待ち時間に頑張って練習してた? なんてあの人は、行動の一つ一つがこんなにも尊いんだろうか?
本当に油断したら、ラグナさんとフォルスさんの歌を聞く前に旗を上げてしまいそうだ。
そして続くラグナさんとフォルスさんのコンビも素晴らしい歌を披露してくれたが……結局俺はアイシスさんとリリウッドさんチームの勝ちと判定した。
もちろんちゃんとした理由もある。短期間で歌のレベルを上げ、リリウッドさんのフォローがあるとはいえ、アイシスさんの歌声は、ラグナさんたちと十分に戦えるほどになっていたからだ。
そして、いよいよ決勝戦……アリス、フェイトさんコンビと、アイシスさん、リリウッドさんコンビで争われる。
ただ、残念ながらこれは歌のレベルが大きく違った。アイシスさんの歌唱力も上がり、リリウッドさんのフォローもあるとはいえ……それでも、アリスとフェイトさんのコンビには届かない。
俺が判定するという関係上、ビジュアル面も大きな要因の一つでもあるが……これはカラオケバトル。一番最後に物を言うのは、やはり歌唱力である。
結果として、俺はアリスとフェイトさんコンビの旗を上げ、ここに優勝が決まった。
『決着! というわけで、コンビ対抗カラオケバトル、優勝は……私こと、アリスちゃんとフェイトさんのコンビでした!』
『まさかの優勝だよ……う、う~ん、でもシャローヴァナル様に勝っちゃった以上、手を抜くわけにもいかなかったし……はぁ、まぁ、しょうがないよね』
会場から大きな拍手が巻き起こり、俺も手を叩いてアリスとフェイトさんを祝福する。本当に盛り上がったいい戦いだった。
こうして、終わるのが少し寂しく……。
『さて、それでは、優勝した私たちのコンビは……『暫定チャンピオン』であるカイトさんに挑む権利を得ました!』
……うん? あれ? 俺の耳がおかしくなったのかな? なんか変な言葉が……。
『というわけで、カイトさんVS私とフェイトさんコンビ……特別試合を開始します!!』
「え? えぇぇぇぇ!?」
拝啓、母さん、父さん――コンビ対抗カラオケバトルも終わったかと思えたが、ここでまさかの俺登場である。いや、待って、お願いだから、ちょっと待って……だって――そんなの聞いてないんだけど!?
???「突如始まった特別試合! 寝耳に水のカイトさんは、果たしてアリスちゃんフェイトさんコンビ相手にどう戦うのか! 次回――『快人勝利!』」
シリアス先輩「ネタバレぇぇぇぇ!?」




