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あとで絶対説教してやる



 窓の外が夕焼けに染まり始めたころ、アリスから「パーティーの準備ができました」といわれて、店の外に出て……俺は茫然としていた。

 これは、いったいどういう状況だろうか? ある程度非常識にも慣れてきたと思っていたが……。


「……なぁ、アリス」

「なんすか?」

「俺の目がおかしくなったのかな? 王都の外……『空に浮かぶ城』が見えるんだけど……」

「見えますね」


 呆然と見つめる俺の視線の先には、王都の南あたりに浮かぶ巨大な城があった。輝く白磁のような美しい色合いで、まったくなにも知らない状態で見ていれば、幻想的だと感動もしただろう。

 だけど、今回は前提が違う。なんというか、ものすごく嫌な予感がする。


「……俺の記憶が確かなら、あんなの無かったよな?」

「ですね。『今日建設されましたから』」

「……なぁ、アリス」

「なんすか?」

「……まさかとは思うんだけど……」

「カイトさんの誕生日パーティーの会場です」

「……」


 どうやら、俺が思い浮かべた予想は完璧に当たってしまっていたらしい。

 おかしい……なにかが致命的におかしい。俺はてっきりリリアさんの屋敷とかで、その、ホームパーティー的な感じで祝ってくれるのかなぁと思っていたのに……城ッ!?


「……その、一応聞きたいんだけど、あの城どうしたの?」

「神族の皆さんが半日で作ってくれました」

「俺としては、えっと……知り合いだけのこじんまりとした感じので、よかったんだけど……」

「カイトさん、カイトさん……無理です。貴方の知り合いは、この世界のトップなんすから……」

「……そうだった」


 なぜ、俺はその考えに思い至らなかったんだろうか? 人界の三王、魔界の六王、神界の三最高神と創造神……はては異世界の神まで、全部知り合いである。

 シロさんが参加するとなれば神族は張り切るだろうし、六王や人界の国王たちも参加するのなら、豪華絢爛なパーティーになるのは予想できたはず……いや、誕生日パーティーのために空飛ぶ城を新築するのは、想像できないな。


「……なぁ、アリス」

「なんすか?」

「100歩譲って、誕生日パーティーを豪華にしようとするのは理解できる。けど、城を作ろうと思いついたのは……誰だ?」

「シャローヴァナル様とエデンさんですね。今回に限り、無条件で協力する関係になったみたいです」

「最悪のタッグが生まれてた!?」


 空気を読むという機能がデフォルトでOFFになっており、さらには規格外の発想をそのまま実行できてしまうだけの力を持った最高位の神ふたりのタッグ……考えうる限り最悪の組み合わせである。

 いや、もちろん俺の誕生日を祝ってくれようとしているのは嬉しいし、ありがたいが……絶対自重しないもんあの人たち……。


「というか、どうやってあの城まで行けばいいんだ?」

「なに言ってるんですか? カイトさんには、頼りになる超絶美少女の恋人がいるでしょ? その恋人が運ぶので、まったく問題ありませんよ!」

「……クロかアイシスさんあたりとチェンジしてくれない?」

「ちょっ、カイトさん!?」


 だって、アリスに運ばれるとか言われると、以前魔界を訪問した時のトラウマが蘇るし……。


「大丈夫です! 今回はとびっきりの運搬方法を考えてきましたから! どーんと、大船に乗った気でいてください」

「……もう、『運搬』方法とか言ってる時点で、まったく信用できない。あと、俺の第六感かなにかが、いますぐ逃げろとすさまじい警告を発してる気がする」

「ははは、ご冗談を……じゃ、これに乗ってください」

「いや、冗談とかじゃ……って、なんだこれ?」


 アリスが取り出したのは半径1mくらいで円形の木の板……俺がこれに乗ると、木の板が宙に浮いて自動で移動する……というのはあり得ない。なぜなら、アリスの表情はふざけている時のソレだ。

 俺は慎重にその木の板を見てみるが、特に不自然な部分は見つからない。


「……アリス、正直に言え。この木の板にいったいどんな魔法をかけてるんだ?」

「え? 壊れないように状態保存の魔法だけっすよ」

「……」

「いやいや、本当ですって!? ほらほら、時間が無くなっちゃうので乗ってください!」


 どうにも疑わしいというか、胡散臭い。だが、たしかに皆を待たせているのなら、急いだほうがいいのも事実だ。

 俺は少し考えたあと、恐る恐る木の板の上に乗るが……特に何も起こらない。


「……あれ?」

「ほら、なにも変な仕掛けはないでしょ? それじゃ、出発しますよ~」

「あ、あぁ……いや、待て、なんで新たな木の板を取り出してるんだ?」


 安心したのもつかの間、アリスは次に細長い木の板を取り出し、どこかで見たような覚えのある台座と細長い木の板、さらには俺が乗っている丸い木の板をジョイントして、離れないように状態保存の魔法を……。


「……待て、アリス。これ、気のせいかな? 『シーソー』みたいに見えるんだけど……」

「……てへっ」

「降り――「角度よし! 発射!」――うわぁぁぁぁ!? アリスゥゥ! お前! あとで絶対覚えとけよ!!」


 なにが起こるか察し、慌てて木の板から降りようとしたが……それよりアリスが俺が乗っているのと反対側の木の板を叩く方が早かった。

 そして、最悪の予想通り俺の体は空へと舞い上がる。


 拝啓、母さん、父さん――最近アリスはちょっと大人しめかなぁ……なんて思っていたら、とんでもないことをしてくれやがった。たしかに会場にはすぐにつくだろうけど、絶対ほかにも方法はあった。この運搬方法を選んだのは、面白いからという理由であることも明白。あのヤロウ――あとで絶対説教してやる。





???「このアリスちゃん式運搬法なら、目的地までひとっ飛び! 快適な空の旅を体験できます! え? 命の保証? なんで、わた……アリスちゃんが、カイトさん以外を助けなきゃいけねぇんすか。アフターフォローがあるのはカイトさんだけです」

シリアス先輩「……つ、ツッコミどころが多すぎる」

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