表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
580/2404

聖母みたいな方だ



 あまりにもアッサリと、まるで世間話をするかのように告げられた……イルネスさんが伯爵級高位魔族であるという衝撃の事実。

 俺たちが唖然として言葉を失う中で、リリアさんがいち早く混乱から回復してイルネスさんに詰め寄る。


「い、イルネスが伯爵級高位魔族!? そ、そんなこと、いままで一言も……」

「聞かれませんでしたのでぇ」

「……い、いや、たしかに聞いてはいないですが……というか予想すらしていませんでした。そ、それはともかく、貴女が伯爵級だというなら……そもそも、なぜ、王城でメイドを……」


 たしかに、俺もある程度この世界に馴染んできたので、伯爵級高位魔族という存在が、世界でもほんの一握りしか存在しない強者だとは理解している。

 それこそ六王配下の幹部だとか、独自の勢力を持つ一城の主とかでもおかしくないほどの存在だ。


 しかし、イルネスさんはリリアさんが子供のころから王城でメイドをしていたと聞いた覚えがある。どういう経緯があればそんなことになるのだろうか?


「伯爵級が~必ずしも~高い地位に居るというわけではありませんよぉ。お嬢様もご存じの通り~私は目立つのが苦手ですのでぇ、慎ましく働いている方が~性に合っていますぅ」

「……そ、そうですか……ま、まぁ、貴女がいいのであれば、私もメイドを辞めろなどとは言いませんが……えっと、イルネス?」

「なんですか~?」

「やっぱりその、メイド長に……」

「お断りしますぅ」


 イルネスさんと長い付き合いであるリリアさんは、イルネスさんの言葉に納得したようにうなずいてから、おずおずと提案した。

 しかし、イルネスさんはその提案をバッサリと一蹴する。


「うぐっ、で、では、せめて昇給を……貴女の普段の仕事ぶりもそうですが、伯爵級高位魔族である貴女を他の平メイドと同じ給金というわけには……」

「必要ありません~いまの給金でぇ、十分に~満足していますぅ」

「うぐぐ……そ、そうはいっても、私にも面子というものがあるんです。他の者の十倍以上の仕事をこなしている貴女を……伯爵級高位魔族である貴女を、安い給金でこき使うというのは……」


 う~ん。これ、たぶんアレだ。伯爵級高位魔族とか言うのは建前で、リリアさんは前々からイルネスさんの給料をアップさせたいと考えていたんだろう。

 だけど、イルネスさんが断っていた。そこに、今回発覚した伯爵級高位魔族という地位……これをチャンスと見て、なんとか給料アップを了承させようとしている気がする。


「私が好きでやってることですから~必要ありませんよぉ」

「うぅぅ……じゅ、10倍とは言いません。せめて、いまの倍……」

「結構ですぅ」

「……1.5倍なら」

「私の給金を上げる余裕があるのならぁ、他の子の給金を上げてあげてください~皆ぁ、喜びますよぉ」


 完全なる拒否である。リリアさん、涙目になってるし……たぶん、いままでもこんな感じで固辞されてきたんだろうな。

 イルネスさんはなんというか、本当に欲のない方だ……というか、イルネスさんが仕事以外のことしてるのを見たことがないような……まさかとは思うけど、24時間働いてるんじゃ……。


「……い、1.2倍……」

「お嬢様ぁ」

「うっ……は、はい」

「私は~お嬢様を~無理強いするような子に~育てた覚えはありませんよぉ? 人の上に立つ立場なのですからぁ、引くべきところは引いて~下の者の意見も尊重できるようにならなければいけません~」

「……はい」


 イルネスさんが諭すような口調で告げると、リリアさんは途端に肩を落とし……『正座』に移行した。


「私は~給金を上げる必要はないといいましたぁ。お嬢様は~それでもぉ、私に無理やりに~お金を渡しますかぁ?」

「……渡しません」


 リリアさんは、本当にイルネスさんに頭が上がらないみたいで、親に叱られた子供みたいな表情になっている。

 イルネスさんはリリアさんが子供のころからの専属という話だし、もしかしたら教育係的な立場でもあるのかもしれない。


「お嬢様は~優しい子ですからぁ、私に利をと~考えているのでしょうがぁ、それは~本当に必要ないんですよぉ。金銭ばかりが~見返りとなるわけではありません~。お嬢様が~当主として立派になってぇ、健やかでいてくれれば~私は十分に報われていますよぉ。これ以上は~もらい過ぎというものですぅ」

「……イルネス」


 本当にイルネスさんは、聖人かなんかなんじゃなかろうか? 本当に母性の塊みたいな人とでも言うのだろうか、惜しみない温かな愛情が眩しいぐらいだ。


「だから~私に利をと思っているのならぁ、当主としてしっかりと~アルベルト公爵家を支えるぅ、お嬢様の姿を~見せてください~」

「は、はい! 頑張ります!」

「でもぉ、無理は~駄目ですからねぇ。頼れるときはぁ、周りをしっかり頼ってぇ、相談するんですよぉ」

「はい!」


 ……あれ? どっちが当主だったっけ? あと、そもそもなんの話をしてたんだっけ?

 ま、まぁ、リリアさんがやる気に満ち溢れてるみたいだから……いいのかな?


 拝啓、母さん、父さん――イルネスさんは、本当に欲がないというか……リリアさんが立派になれば、自分は報われるとか、当たり前に言える辺りが本当にすごい。なんというか――聖母みたいな方だ。





シリアス先輩「見返りを求めない圧倒的な献身力……聖人のごとき欲のなさ……トップとは大違いだ」

???「い、いや~トップが清く美しいから、配下である彼女も聖母なんじゃないっすかねぇ? ほら、部下って上司に影響されるものですから!!」

シリアス先輩「……いや、イルネス以外の部下見てみ?」

???「なんすか? この変態集団……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ぶっちゃけ、リアルだとイルネスのような人が会社にいると衰退するんですけどね。 人一倍成果を上げる人に対して、いくら本人がいらないと言っても適切な給料を渡してない場合、他の人が昇給するの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ