圧倒されてしまわないかという点だ
ゴールドランク以上の招待状を持つ者のみが参加できる最終日のパーティー。それは、中央塔の屋上で行われていた。
空間魔法を使っているのか屋上は初日に来た時より大きく、それなりの数の参加者がいても、スペースにはかなり余裕がある。
ついでに結界によって風も吹きこんできたりはしないので、結構快適である。
形式としては立食パーティーみたいで、最初に六王が挨拶したあとは自由に歓談を行う形式へと移行した。クロたち六王、シロさん、人界の王たちは一段高くなった場所に席が用意されていて、そこで話しかけてくる参加者に対応を行っている。
……まぁ、シロさんに関しては全部クロノアさんが代わりに対応しているみたいだけど……。
会場に入れず顔だけ塔の近くに動かして参加しているマグナウェルさんも含め、皆結構忙しそうである。会場まで一緒に来たリリアさんも、現在は貴族らしき人たちと会話を行っている。
ちなみに、俺に関してはアリスが手を打ってくれたみたいで、あまり人が集まってきていたりはしないので、のんびりと食事を楽しんでいるところだ。
「……クロたち、本当に忙しそうだな」
「もぐ……むぐ……まぁ、通常六王と直接会話ができる機会は少ないですからね。参加者は皆、一定の評価はある人たちなので節度はわきまえてますが……それでも主催者は忙しいものなんですよ」
「……なにしてんだお前」
ポツリと零した言葉に、大量の料理を食べながらアリスが答えてくれる。いや、お前も主催者側じゃないの? なに当たり前のように飯食ってるの?
あぁ、そうか、開催式の時みたいに分体を護衛に残して、本体は壇上に……。
「安心してください! こっちが本体で――ふぎゃっ!?」
「本当になにしてんだお前……」
「いや、だって、アリスちゃんああいうの興味ないですし……挨拶の対応は『パンドラに任せました』」
「……てことは、いま壇上で幻王の格好してるのは、パンドラさんなの?」
「ええ、たまに代役を任せてます」
普段の言動がぶっ飛んでいて忘れがちになってしまうが、パンドラさんはアリスの配下の筆頭だ。必要な時には、幻王の格好をして幻王としてふるまうこともあるらしい。
いまが必要な場面かどうかと言われると、首をかしげるしかないが……。
まぁ、アリスはある意味いつも通りとして……俺も知り合いに挨拶をしよう。クロたちのところは、もう少し回りが落ち着いてからいくことにして、他の知り合いを探すことにしよう。
できれば穏やかに歓談できる感じの人に挨拶を……。
「……おや、ミヤマカイトくんじゃないか。こんなところで会えるとは……いやはや、私は研究者として不確定要素の強い運命というものは当てにしていないのだが……いや、失礼。決して運命神様を侮辱したわけではないんだよ。あくまで非才な私としては、運命という超常の力は推し量ることができないという意味だね。おっと、失礼話がそれてしまったね。つまりこうして偶然とはいえ、君と再会できて嬉しいということだよ」
「……こ、こんばんは、フォルスさん」
「ああ、失敬。一番肝心なことを言っていなかったね。礼儀知らずだと思わないでくれたまえ、つい気持ちが逸ってしまったよ。いや、申し訳ない。では改めて、こんばんは」
軽快な……軽快すぎて圧倒されるトークで現れたのは、初代勇者であるノインさんの仲間にして、エルフ族の最長老であるフォルスさん。
この豪華なパーティーの場でも、相変わらずの深緑のローブを着ているのは、なんというか流石である。
「ところで、こうした豪華絢爛なパーティーというのは、どうも私には合わないような気がしてならないね。ほら、私は基本的に日陰者だろう? だというのに、肩書ばかりが大きくなってしまっているので、こうしたパーティーでは面倒事も多くなってしまう。一応私もかつての縁として六王様方に招待状を……ラグナ経由でいただきはしたが、できればパーティーは辞退したかったよ」
「は、はぁ……」
「ならばなぜここに居るのかと聞きたそうな顔だね。君にもある程度予想は出来ていると思うが、例によってラグナに引っ張ってこられたんだよ。そのくせ、本人ときたら国王用の席に座り、私はこうして苦手な席に放り出されてしまったというわけだ。いやはや、本当に困ったものだ。私のように『人見知りで無口』な者にとって、こういった場は酷く苦痛でもあるよ」
「……え?」
「うん?」
おかしいな、前の時は幻聴だと思ったんだけど……また人見知りで無口とか、この人にまったく似合わない言葉が聞こえてきた。
フォルスさんって自分は無口だと思ってるのか……酷い勘違いである。
「おっと、あまり長々と話しても君の時間を浪費させてしまうね。君に声をかけた本来の用件を伝えよう」
「本来の用件、ですか?」
「ああ、ほら、私が道に迷っていた時に君が助けてくれただろう? そのお礼をしたいんだ。無論、君が見返りを求めない高潔な精神を宿していることは理解しているが、それでは私の気が済まない。君はあまり目玉料理や虫料理には関心がなさそうな感じだったし、どうしたものかと悩んでいたところなんだが……ちょうどいいものがあるのを思い出してね。君はソバという食べ物は好きかい?」
「蕎麦? え、ええ、好きですよ」
「それはよかった。実はヒカリ……ノインの依頼で栽培しているものがあってね。自画自賛になってしまうが、なかなかの出来だと思っている。そこで、ぜひソレをご馳走させてもらいたいと思ってね。できれば後日リグフォレシアまで足を運んでもらいたいんだ。いや、もちろんお礼をする立場である私が訪ねるのが道理というものではあるが、君も承知の通り私は重度の方向音痴でね。正直いって、王都にたどり着ける自信がない」
フォルスさんの提案は、道案内のお礼として俺に蕎麦を振舞ってくれるというものだった。蕎麦はしばらく食べてないし……食べたい。
そして俺がフォルスさんの提案を受けると告げると、フォルスさんは柔らかい笑顔を浮かべた。
拝啓、母さん、父さん――なんというか、フォルスさんにはいろいろ気を使わせてしまったみたいで申し訳なくも感じるが、正直結構楽しみだ。ただ唯一の懸念としては、彼女の有り余るトークスキルに――圧倒されてしまわないかという点だ。
シリアス先輩「シリアスどこ行った? 最終章は?」
???「パーティーがあと2話くらい、そのあと日常編を少し挟んで……」
シリアス先輩「シリアス満載の最終章!」
???「ではなく、最終章に関係するとあるキャラのルートです。まぁ、早い話が……またいちゃらぶです」
シリアス先輩「なんでや!? シリアスいけたやろ!?」




