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『終末の神が望んだもの』



 ソレは数多ある世界の一つに忽然と現れた。初めはなにも行動を起こすことは無く、その世界を見つめ続け、一通り世界を見終えると……あまりにもアッサリと、その世界を終わらせた。

 ソレの情報は全知と呼ばれる力をもつ神により、数多の世界の創造主たちへと伝わっていったが……その時点では、ソレはそこまで脅威とは認識されていなかった。

 なぜなら世界の創造主たちの多くにとって世界をひとつ消すぐらい、やってできないことではない。全知全能の存在、全能すら超えた存在、無限という言葉ですら表現できぬ存在、高位次元を自在に作り出せる存在……理の範疇外に存在する者たちにとって、ソレは特筆すべき点などなかった。

 対処など容易だと……その時はまだ……そう思われていた。


 全知全能の存在が、全能を超えた存在が、無限という言葉でも表現できない存在が、高位次元を自在に作り出せる存在が……世界ごと終わりを迎え、消え去った。

 世界を渡り歩き、一定期間その世界を見たあとで行動を起こすソレが終わらせた世界が1000を超えた頃、ソレは脅威と認識されるようになった。

 故に世界の創造主たちは、ソレが己の世界に出現した瞬間に全力で排除を行うようになった。


 ソレを殺したはずの存在が、ソレを確かに封印したはずの存在が、ソレの力を防ぐ能力を作り出したはず存在が、ソレを因果律から消し去ったはずの存在が、ソレから逃げたはずの存在が……等しく終わりを迎えた。

 そして、ソレが終わらせた世界が10000を超えた頃……ソレは、世界の創造主たちが最も恐れる絶望となった。


 攻撃が通じないわけではない……だが、通じても意味がない。

 逃げることができないわけではない……だが、逃げても意味がない。

 倒したり封印することができないわけではない……だが、そのすべてに意味がない。


 ソレが現れた時点で、もうその世界という物語は最終章に入ってしまっている。だから、いくらあがいても終わりは訪れる。

 いつ、どこで、誰が呼び始めたのか、それがどの世界の言葉なのかは、いまとなっては分からないが……いつしかソレは『終末の破壊神(シャローヴァナル)』と呼ばれるようになった。

 そしてその全てを終わらせる究極の力は『物語の終わり(エピローグ)』と……。


 世界の創造主たちは、シャローヴァナルが己の世界に現れないことを必死に祈った。現れてしまえば、もはやどうにもならないと理解していたから。

 シャローヴァナルが終わらせた世界が『億を超えた』頃……シャローヴァナルが世界を終わらせるのを止め、自ら世界を創り始めたと知った創造主たちは心の底から安堵し、その世界には決して干渉するまいと強く誓った。









 シャローヴァナル本人が語っていた通り、彼女が一番初めに抱いた感情は……疑問である。そもそもの彼女に思考などというものはなかった。

 なぜ数多の世界を終わらせているのか、どうして終わらせる前にその世界を一通り見るのか、そんなことさえ考えたことは無かった。

 エデンが口にした『シャローヴァナルという名のシステム』というのは、実際かなり的を射た発言と言えるだろう。

 シャローヴァナルは世界を終わらせる。ただそれだけの存在で、そこには意味も目的もない……筈だった。


 しかし、シャローヴァナルはある時、眠りから目を覚ますかのように唐突に疑問を抱いた。いままで終わらせてきた世界の創造主たち、その超常の存在たちにも多かれ少なかれ意思はあった。目的を持たずとも、心とまで呼べないまでも、意志というものはすべからく存在していた。

 ならばそれは、自分にもあるのではないか? 


 本来であれば疑問を抱いた時点で、シャローヴァナルに心があるのは明白だったが、シャローヴァナルにはそれが分からなかった。

 自分の中に生まれた表現の難しいナニカ……それがなんなのか、知りたかった。だからこそ、たまたま訪れた世界の創造主……エデンに対し、抱いた疑問を告げてみた。


 結果としてエデンは返答を間違えず、シャローヴァナルは自ら世界を創り出してみようと考えた。

 もし仮に、エデンがそこで返答を間違えていたなら……シャローヴァナルは抱いた疑問を不要なものだと断定し、再び世界を終わらせるだけのシステムに戻っていたかもしれない。


 それから、シャローヴァナルは世界を創りはじめ、そのアドバイスを行う傍らエデンはシャローヴァナルと言葉を多く交わした。

 エデンは現時点で、シャローヴァナルという存在をもっともよく知っているといえる。実際、エデンがアリスに語った推測の多くは正解だった。


 ただ、もちろん外れている部分もある。いや、これに関してはシャローヴァナル本人でさえ知らないが故に、外れて当然ともいえるだろう。

 エデンは『シャローヴァナルは自分を終わらせたかったのかもしれない』と予想していたが、実際は『クロムエイナが最後の終わり(エピローグ)を使っていたとしても、シャローヴァナルが終わることは無かった』。


 たしかに物語の終わり(エピローグ)はシャローヴァナルという存在の『本質の一つ』ではある。だが彼女にはもう一つ、絶対ともいえる力が宿っていた。

 名をつけるなら『最後の物語(ラストストーリー)』……シャローヴァナルという存在は、物語の終わりであり、同時に最後の物語でもある。


 シャローヴァナルは『他が存在する限り消えない』。己以外の全ての物語を終わらせて初めて、彼女という物語を終わらせることができる。

 故にシャローヴァナルを倒す術は存在しない。シャローヴァナルは、シャローヴァナル自身の行動の末にしか終わらない現象だから……。

 だからこそ、生まれたばかりの彼女は数多の世界を終わらせていたのだろう。己という存在の結末が、すべての世界を終わらせた先にしかないと、本能的に理解していたから……。


 もし魔界と神界の戦いの中で、クロムエイナがシャローヴァナルに与えられた力を使っていたらどうなっていたか?

 その答えは単純だ。クロムエイナとシャローヴァナルの両者の存在が一度消滅し、シャローヴァナルだけがその場に再び現れる。


 そうなっていれば、シャローヴァナルが己の心に気付くことは無く、彼女は自ら作った世界を終わらせていたかもしれない。

 だが、そうはならなかった。クロムエイナはシャローヴァナルに強く語り掛け、シャローヴァナルは己に心があることを認めた。


 ……ここまでは過去の話。シャローヴァナルという存在が心を得るまでの出来事。


 ……ここから先は未来へ繋がる話。心を得たことによってシャローヴァナルが起こした行動。


 ……それは、終末の化身と呼べる存在が……『初めて心に抱いた願い』の話。
















 クロムエイナとの戦いから100年。神界に存在する神域から、シャローヴァナルは世界を見つめていた。己に心があると理解してからの日課、移り行く世界を見つめている途中で、シャローヴァナルはポツリと呟いた。


「……『また』、ですね」


 それはクロムエイナとの戦い以降、時折彼女の目に浮かぶようになった存在。薄い茶髪の人の好さそうな青年。そして、それになにかを話している己の姿。

 その存在が誰なのか、なぜこうも同じ光景ばかりが映るのかは分からなかった。しかし、シャローヴァナルは確信していた。

 この存在はきっと自分にとってとても重要な存在であると……。


「分かりません。どうすれば、貴方に会えるのですか?」


 だからこそ、シャローヴァナルはその存在に会いたいと思っていた。しかし、その未来は酷く不安定でハッキリとしない。見える光景もワンシーンのみ……だから、どうすればその存在に会えるのか分からなかった。

 最初は興味だったのかもしれない。その青年に会いたいという想いが、次第に彼女を動かし始めた。


 まず初めにシャローヴァナルは己の作った世界に『三つ目の世界』……人界を創り出した。未来視に映る青年が人間という種族であることは、この世界を創る際に参考にした世界から分かっていた。

 だからシャローヴァナルは『人間を創った』。すると、どうだろう? ワンシーンしか見えなかった未来が、別のシーンを映すようになった。


 それは青年と共に笑い合っているシャローヴァナルの姿。笑い方というものすらよく分からないいまの彼女にとって、衝撃的ともいえる光景。

 シャローヴァナルは確信した。その青年こそ、感情というものを理解できない自分に、感情を教えてくれる存在なのだと……。


 その青年に会いたいという想いが、焼けつくような渇望へと変化していくまで、それほど長い時間はかからなかった。

 そう、それは……シャローヴァナルが初めて抱いた『願い』であり、初めて欲した『未来』だった。






 それからさらに1000年の時が過ぎ、シャローヴァナルは大きな壁にぶつかっていた。

 人界という世界を創り出した。そこに人間という種族も生み出し、さらに他にもエルフ族やドワーフ族など多様な種族も創り出した。

 人界は徐々に発展し、人間も数を増やしてきている……なのに、未来は不安定なままで進展がなかった。


――どうすればあの青年に会える? なにをすればあの青年は自分の前に現れてくれる?


 そんなことばかりを考え、手詰まりと言っていい状況にあったシャローヴァナルだが、思わぬところから次の一手は転がり込んできた。

 それは、友人関係となったクロムエイナの紹介で知り合った『シャルティア』という特異な存在。その存在が別の世界からの来訪者であるということを知り、シャローヴァナルはある可能性にたどり着いた。


――あの青年は、別の世界からやって来た人間なのかもしれない。


 それにたどり着いたことで、シャローヴァナルは異世界から『人間を召喚する魔法陣』を創造し、ソレを人界へに設置した。

 一番初めに創った魔法陣は、交流のあるエデンの世界から人間を招くものだったが……その変化は劇的だった。未来視はいままでとは比べものにならないほど鮮明になった。その青年をこの世界に招くための因子が見え始めた。


 それによりシャローヴァナルは、いままで以上に熱を上げ、その青年をこの世界に呼ぶための因子を集め始めた。

 『人界の発展の方向を裏で操作』、『三つの世界を繋ぐゲートの作成』、『魔王が現れた際に、古い伝承という形で召喚魔法陣の使用方法を伝える』など、誰にも気づかれないように、彼女は動き続け、未来をより鮮明なものへと変えていった。


 初めてその青年を未来に見てから19000年近く経ち、ついに召喚魔法陣が使用された。

 残念ながらその時に現れたのは、彼女が待ち続けた青年ではなく、九条光という少女ではあった。だが、着実に未来はシャローヴァナルの望む方向へと進み始めていた。


 九条光が三世界の友好条約を結ぶために神界を訪れた際に、シャローヴァナルは最高神を通じて話を聞いただけで、アッサリと了承した。

 それはもちろん、それが青年を招くために必要な因子だったから……。


 そして、ついにその時は訪れた。九条光の立会いの下、三世界の代表により友好条約が締結された瞬間……未来は輝くほど鮮明になり、その青年がこの世界を訪れる未来が確定した。

 それからのシャローヴァナルは本当に上機嫌だった。鮮明になった未来視により、その青年の名前が宮間快人であるということも分かり、快人と自分の未来がハッキリと見えるようになった。


 前提が変われば、その意味もまた変わってくる。


 クロムエイナは快人に対して、『シロがいままで興味を抱いた存在なんて片手で数えるほど』とそう語ったが……それは間違いである。

 そもそも、シャローヴァナルはシャルティアにも、九条光にも……『興味など抱いていない』。


 彼女が求めていたのはずっとひとり……宮間快人だけであり、シャルティアも九条光も、『快人を招くために必要な因子だったから気にかけた』だけでしかなく、『名前すら覚えていない』。

 そう、シャローヴァナルはただ快人だけを求めていた。快人の来訪だけを待ち続けていた。出会う前から恋しているといっていいほど強烈に……。


 思えば、快人の来訪が確定してからの1000年が、彼女にとって最も幸せな時間だったのかもしれない。まだ訪れてはいない、しかし確かに訪れるであろう未来を見つめ、心を躍らせていた。


 だが、彼女が渇望した……生まれて初めて願った未来は……訪れなかった。皮肉にも、彼女が唯一『友』だと認める存在によって……。








 『忘却のゆりかご』……そう呼ばれる術式の前で、シャローヴァナルは静かに目を閉じていた。

 彼女はこれから己がやろうとしていることを正しいとは思っていない。間違っているのだと……友であるクロムエイナも、最愛の存在である快人も裏切る行為だと……理解していた。


 それでも……彼女は諦めきれなかった。生まれて初めての願いを、渇望した未来を……どうしても、捨てることができなかった。

 初めて心に生まれた『嫉妬』という感情。それを抑える術を、彼女はまだ知らなかった。


 迷い、苦悩しながら……それでもシャローヴァナルは、物語の終端に向けて舵を取る。輝いていたはずの未来が……いま、暗く閉ざされてしまっているから……。





シリアス先輩「マーベラス……流石は世界の神、圧倒的シリアス力に感涙を禁じ得ない!」

???「……出会う前から恋していたとは、なんともすさまじい……世界の神にはヤンデレしかいねぇんすか……」


【シャローヴァナル←だいたいこいつが元凶】

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