はしゃいでいるらしい
六王祭最終日の朝、俺は中央広場でシロさんを待っていた。待ち合わせは10時丁度であり、早目についたのであと20分くらいだ。
しかし、それにしても……クロといい、シロさんといい、なんで待ち合わせをしたがるかなぁ? やっぱり、お約束は大事なのかな?
シロさんはおそらく、10時ぴったりに転移で現れると思うので、俺は『人気のない中央広場』を眺めつつ、のんびりと待つことにした。
ちなみに、中央広場に不自然なほどに人がいないのは……まぁ、間違いなく神族の方々の仕業だろう。
とそんなことを考えていると、一糸乱れぬ規則正しい足音を響かせ、中央広場に神族の集団が現れた。先頭にいるのはクロノアさん、フェイトさん、ライフさんの三人であり、シロさんの姿はない。
……これは、アレかな? 以前見た軍隊真っ青の警備体制……。
「皆の者、聞け! 細かい配置は前日に通達したとおりだが、それ以外に注意点を伝えておく!」
俺のいる場所から少し離れた位置で整列し、クロノアさんが鋭さを感じる声で注意点を伝え始める。
「まず、分かっているとは思うが、前回とは状況が違う。この六王祭には、六王を始めとした世界上位の実力者も多く存在する故、実力行使での排除は周囲に被害を及ぼす危険がある」
「ってことで、爵位級はスルーするか、私たち最高神の指示を仰ぐこと……くれぐれも独断で行動しないようにね」
クロノアさんに続き、フェイトさんも普段のだらけ切った顔とは全く違う真剣な表情で捕捉する。
「爵位級以下の魔族や人族に関しては、各小隊のリーダーの指示に従ってください。わかっているとは思いますが、失敗は許されません」
ライフさんも相変わらず物騒なことを言っていらっしゃる。というか、各小隊とか……ほぼ軍隊じゃないか……。
「ああ、それと……六王と事を構えるような者は居ないとは思うが、くれぐれも『幻王ノーフェイスには関わらないように』徹底せよ。アレは、面倒事と厄介事の塊のような存在だ。どう転んでも面倒なことにしかならん。『基本的に無視』、『どうしてもかかわる場合は可能な限り早急に話を切り上げる』ように注意せよ。ひとつの連携の乱れが致命的な事態を引き起こす可能性もある。くれぐれも注意するように」
クロノアさんがどこか呆れたような表情で、そんな注意を伝える。あぁ、これ、いままで何回も面倒事に巻き込まれたとか、そんなパターンだろうな……まさかの名指しである。
「……ああ言われてるけど?」
「カッチーン! これは、仏のアリスちゃんと呼ばれる私でもブチ切れ不可避ですよ。訴訟も辞さないです」
「その訴訟は、確実に敗訴するからやめとけ」
「……あ、あの~? カイトさん、私の恋人っすよね? ここは可愛い彼女をフォローするとか、直談判してアリスちゃんの評価を改めるとか、するところでは?」
だって、割と全面的にクロノアさんが正しいもん。クロノアさんたちがアリスに関わると、確実に面倒な展開になるのは俺にも予想ができる。
特にフェイトさんと合わさった時の暴走っぷりは、頭を抱えるレベルである。
「……残念ながら、その評価改善は難易度が高すぎる。俺には無理だ」
「諦めるの早っ!? いやいや、いけますって! 人間、努力すれば大抵のことはなんとかなるものなんすよ!」
「……じゃあ、アリス。俺のボードゲームの腕を上げてくれ」
「……私にだって……出来ないことぐらい、あります」
「おい、目を逸らすな、目を……」
……いまさらだけど、俺ってそんなに壊滅的なレベルで弱いの? ほとんど万能みたいなアリスでも無理とか言っちゃうレベルのなの!?
「……なぁ、アリス」
「なんすか?」
「かなり控えめに、オブラートに包んだ上で答えてほしいんだけど……俺って、そんな弱い?」
「……いや、まぁ、個人には向き不向きもありますし、ある程度数をこなせば自然と腕も上がっていきますよ」
「……で、オブラートを取り払うと?」
「壊滅的ですね。『ワザと負けようと手加減して、勝ってしまう』とか、私の長い人生でも初体験です。割と本気で、泣きたくなるくらい酷いです」
「そこまで!?」
ちなみに、アリスとは日ごろからよくいろいろなゲームで遊んでるけど、ボードゲームは運要素があるやつ以外はさんざんである。
とはいえ、決して俺がアリスに全敗しているわけではない。将棋とかでも勝ったことがある……『アリスは10枚落ちで、俺は2手連続で打てる』という、ゲーム性を根本からひっくり返すほどのハンデ付きで……。
「……おっと、そろそろ時間ですね。流石にシャローヴァナル様相手では、隠れててもバレちゃうので、私は離れて護衛してますね」
「え? あ、うん。いつも、ありがとう」
「いえいえ、ではでは~」
アリスは芝居がかった動きで敬礼をして去っていく。なんというか、本当に頼りになるやつである。アリスが護衛に付いてくれてると分かっているからこそ、俺は気軽に出歩けてるわけだし……また今度、なにか奢ってやろう。
そんなことを考えながら視線を動かすと、神族の方たちもいつも間にか居なくなっており、待ち合わせの時間1分前になっていた。
するとそのタイミングで、中央広場に異変が起こる。中央広場の地面に、いくつもの細い光が現れ、その光が巨大な魔法陣を形成していく。
そして中央広場を覆いつくすほどの巨大な魔法陣が完成すると、神々しい巨大な光が天から降り注ぎ……光の中からシロさんが悠然と現れた。
「お待たせしました」
「なんかラスボスみたいな登場してきた!?」
「すこし、はしゃぎました」
「……そ、そうですか……」
流石シロさんというべきか、初っ端から凄まじい……というか、シロさんってはしゃぐと登場が派手になるの?
拝啓、母さん、父さん――登場から格の違いを見せつけるシロさんに、思わず唖然としてしまった。というか、なんだろう? この不安は……えっと、とりあえず、シロさんは――はしゃいでいるらしい。
【創造神シャローヴァナルの自重が解除されました】
シリアス先輩「あっ……これ駄目なやつだ。というか、いままで多少なりとも自重してたことにビックリ」
めーおー「……え? 超高濃度の魔力の影響で結界に被害が出てる? 天候が、空から一ヶ所に光が降り注ぐわけのわからない改変されてる? まって、ひとつずつ対応するから……う、うん、他の子じゃ無理。ボクが直接動かないと……」




