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今日も騒がしくなりそうだ

 宝樹祭への参加を決めてから二日経ち、火の月18日目。

 宝樹祭に関してはルナマリアさんが日程を調べ、飛竜等も手配してくれるそうなので、後は待つばかりと言った感じだ。

 

 余談ではあるが、昨日楠さんと柚木さんもクロの書いた本のお陰もあり、無事に魔力を使う事が出来る様になった。

 実際に魔法を発動させたりは今日から練習するみたいだけど……やっぱり二人共異世界人だから、俺と同じ様に変わった魔法が使えたりするんだろうか? 


 そんな事を考えながら廊下を歩き食堂の前に辿り着く、今日は早く目が覚めたので、食堂内には誰も居ないかと思ったが、中に入ると人影が見えたので反射的に頭を下げる。


「おはようございます」

「うむ、早いな。良い心がけだぞミヤマ。人間に与えられた時は有限故、無駄に浪費せぬ事を心掛けよ」

「……」


 俺は無言で扉を閉めた。

 可笑しい……なんか、ここにいる筈の無い方が居た気がする。扉の開け方が悪かったのかな? きっとそうだ……よし、今度はもっと勢いよく!


「……一体何をしておるのだ?」

「むしろそれ、こっちの台詞なんですが……何で居るんですか『クロノアさん』……」


 そう食堂のテーブルには、本来勇者祭以外で人界に訪れる事は滅多にない筈の最高神……時の女神であるクロノアさんが居て、当り前の様に紅茶を飲んでいた。

 余談ではあるが、名前に関しては前回の対談で創造神をシロさんと呼んでいるのに、自分に様を付けるなど絶対に許さんと強く言われ、クロノアさんと名前で呼ぶ様になった。


「我か? 我はリリアに呼ばれて訪れたのだ。以前厄介事があれば声をかけよと言っておいた故な……まぁ、これ程早く、しかも一番最悪の形になるとは思わなんだが……」

「そんな、一体何があったんですか!?」

「……」

「え? あの……クロノアさん?」


 緊急事態という風に話すクロノアさんの言葉を聞き、最高神であるクロノアさんが出向く程の事態が発生したのかと慌てて尋ねたが……クロノアさんは心底呆れた様な表情を浮かべ、赤と青のオッドアイをこちらに向けて溜息を吐く。


「はぁ、リリアの奴の苦労がよく分かる。我が出向いたのは貴様の件だ、貴様……死王と知り合ったらしいな?」

「え? あ、はい。アイシスさんとは、二日前に友達になりました」

「貴様のその縁に恵まれる力、呪いの類ではあるまいな。この短期間で、死王を引き当てるとは、本当にどうなっておるのか……」

「い、いや、アイシスさんと知り合ったのは本当に偶然で……」

「分かっておるわ。それでも20日に満たぬ期間で、六王二体と知り合うのは尋常ではない事……特に死王に関しては、別に冥王が手を引いたと言う訳ではないのであろう?」

「……ええ、まぁ」


 反論の余地も無い正論である。

 確かによくよく考えてみれば、俺がこの世界に来てから知り合ってる方々は、本当にこの世界でもトップクラスの力を地位を持つ方ばかり……ある意味幸運であり、ある意味不幸でもある。呪いだと言ってみたい気持ちも分からなくはない。

 ただ一つ言わせてもらえるなら――貴女もそのとんでもない相手の内に含まれてます。


「しかも、よりにもよって死王とは……これが界王辺りであれば、話は楽だったのだが……」

「アイシスさんって、そんなに皆に恐れられてるんですか?」

「あやつは、良くも悪くも純粋だ。故に他の六王より遥かに始末が悪い。理屈が通じぬ場面も多い故な」

「……」


 クロノアさんの言葉を聞いて、俺は少々複雑な気分になる。

 俺もまだそんなに多くアイシスさんと言葉を交わした訳ではないが、悪い方ではないと言うのは分かっているつもりだ。

 アイシスさんは俺と話している時、本当に嬉しそうだった……それはつまり、ずっと寂しかったんじゃないかって、感応魔法で感じた感情と合わせてそう感じた。

 死の魔力を纏う怪物と魔界からも人界からも恐れられ、常に畏怖の視線に晒されてきた日々というのは、俺にはどんな気持だったのか想像もつかない程だと思う。

 

 だからこそクロノアさんが告げた、アイシスさんは始末が悪いという言葉に頷く事は出来ず、ただ沈黙で返答する。

 するとクロノアさんは、どこか感心した様な顔で一度頷き、丁度そのタイミングで俺の前に青い鳥の様な物が出現する。


「……え?」

「……ハミングバード……やれやれ、噂をすればと言うやつか」

「えと、これは?」

「それは魔力による簡易的な遠距離への伝達、短い手紙の様なものだと考えればよい。触れてみろ、そうすれば文字が現れる」


 突然現れた青い鳥に驚いていると、クロノアさんが簡単に説明をしてくれる。

 はて? ハミングバード……前にどこかで聞いた様な? クロから聞いたんだったっけ?

 僅かに聞き覚えのある名前に首をかしげつつ、俺が触れると、青い鳥は消え空中に青白く光る魔力の文字が現れる。


『……今日……昼過ぎ……会いに……いく』


 怖いわっ!! なんか呪いの手紙みたいになってる!?

 と、ともかく、これはアイシスさんからのメッセージらしく、今日アイシスさんが遊びに来るらしい。

 クロノアさんはそれを見て「出向いて正解だったか」と呟いた後、席を立ちリリアさんと話をしてくると食堂を出て行った。



 






















 昼時を過ぎ、俺、リリアさん、ルナマリアさん、クロノアさんはアイシスさんの来訪を出迎えようと屋敷の玄関に集まる。

 クロの時と明らかに違う大勢ではなく少数での出迎え、クロノアさんの指示により気の弱い人間や魔力の少ない人間は、自室での待機を命じられ楠さんと柚木さんも自室で待機する事になった。

 リリアさんもルナマリアさんも非常に緊張しているのか、青い顔で姿勢を正し、今か今かとアイシスさんの来訪を待ち続けている。


「……案ずるなリリア。我が付いておる」

「く、クロノア様……」


 クロノアさんが非常にイケメンな台詞でリリアさんに話しかけ、リリアさんは縋る様な目でクロノアさんを見る。

 どうも以前の対談で、リリアさんとクロノアさんは何かしら通じ合う部分……主に苦労人という部分で共感したのか、リリアさんはクロノアさんを非常に頼りにしているみたいだ。


 そのまま張り詰める様な空気の中で待っていると、門の辺りに青白い光が見え、アイシスさんが姿を現す。

 以前と同じゴスロリ風のドレスに身を包み、フワフワと宙に浮きながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

 前回の件以降俺の体は死の魔力に対応したのか、特に以前の様な感覚は無いが……リリアさんとルナマリアさんが小刻みに震えている所を見ると、どうやらもう死の魔力とやらはここまで届いているらしい。

 自然な動きでリリアさんを死の魔力から庇う様に後方へ移動させるクロノアさんは、やはり大変イケメンである。


 アイシスさんは俺に気付くと嬉しそうな表情を浮かべ、少しスピードを上げて俺の前までやってくる。


「……カイト……こんにちは……急に来て……ごめんなさい……迷惑じゃなかった?」

「こんにちは……迷惑なんて、そんな事ないです。また会えて嬉しいですよアイシスさん」

「……あっ……うん」


 アイシスさんが恐る恐ると言った感じで尋ねてきたので、俺は笑顔を浮かべて挨拶を返す。

 するとアイシスさんはパァっと花が咲く様な笑顔を浮かべ、嬉しそうに頷く……やっぱり、気難しい方とは思えない。


「久しいな死王」

「……クロノア? ……なんで……居るの?」

「ここの家主と知り合いでな……それにしても、貴様にしては常識的な時間に訪ねて来たものだ」

「……リリウッドが……昼時に訪ねるのは失礼だから……過ぎてからにしろって」

「成程、界王の助言か……流石六王の良心と言われるだけはあるな」


 警戒した様子で話しかけるクロノアさんに対し、アイシスさんは特に気にした様子も無く言葉を返す。


「そも、貴様、今日は一体何の目的で訪れたのだ?」

「……カイトに……会いに来た……あ、カイト……これ……お土産」

「え? ありがとうございます。態々すみません」


 アイシスさんが思い出したように告げ、何やら果物が入ったかごを差し出してきたので、家主であるリリアさんを差し置いて受け取るのはどうかと一瞬思ったが……リリアさんは青い顔で震えてるので、俺が受け取る事にしてお礼の言葉を返す。

 するとアイシスさんはまたも嬉しそうに微笑み、微かに頬を赤くしながら口を開く。


「……喜んでもらえたら……私も……嬉しい」

「……誰だ? こいつは?」


 もじもじと可愛らしく指を突き合わせ、恥ずかしげに笑うアイシスさんを見て、何故かクロノアさんは唖然とした表情を浮かべていた。


 拝啓、母さん、父さん――クロノアさんが現れ、アイシスさんが現れ、何と言うか――今日も騒がしくなりそうだ。











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