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もうヤダこの店



 様々な出店を回っていると、時刻は昼時になっていた。

 とはいえ、アトラクション系を回ったとはいえ、最初に食べ歩きをしていたので空腹はそこまででもない。

 なので昼は軽めに済ませようかと考えながら、クロと共に飲食店の並ぶエリアへとやってきた。


 この六王祭への参加者には貴族なども多いため、オーソドックスな夏祭り形式の六日目にもそれなりの高級店が並ぶエリアは存在する。


「……なに食べようか?」

「う~ん、迷うね~」


 クロと手をつないでどこで昼食をとろうかと相談し合う。クロも迷うようにキョロキョロと視線を動かしていたが、突然それがどこかに釘付けになった。

 そして、クロの目が眩しいほどに輝き始めるのを見て、俺が恐る恐るその方向を向くと……そこには『ベビーカステラ料理専門店』という、地獄への案内看板が建っていた。


 ちょっと待ってほしい。お願いだから、少しだけ時間をください……ベビーカステラ料理という言葉がパワーワード過ぎて、受け止めきれてない。

 というか、ベビーカステラ料理ってなに!? ベビーカステラの時点ですでに完成されたひとつの料理だからね!? なんでそこに手を加えようとするんだ? おかしい、絶対におかしい……。


「カイトくん! あそこ! あそこにしよ!!」

「……」


 いやいや、もうすでに結構ベビーカステラにやられているのに、ここでさらに追い打ちとか……流石の俺でもこれは……。


「凄いね! ボク、ワクワクしてきたよ! どんな料理がでるのかな?」

「……え、えっと……」

「楽しみだなぁ~カイトくんと一緒に、ベビーカステラ料理~」

「……い、行こうか」

「うん!」


 ……駄目だ。勝てない。キラッキラの目でこちらを見てくるクロを傷つけることなんて、できない。あの眩しいほどの笑顔を守りたい……己の胃を犠牲にしても……。









 ベビーカステラ料理の店の内装は、いってしまえばごく普通のレストランだった。まぁ、さすがにクロがいるということで、即座にVIP席……個室に案内されてそこで食べることになったわけだけど、不安しかない。

 料理に関しては、クロが「全部!」と元気よく告げたことにより、出す順番は店へのお任せで、俺はつまみたいものをつまむという形式になった。

 そうして運ばれてきた一品目は……。


「……『ベビーカステラグラタン』でございます」

「おぉ!」

「……」


 ……ふぅ、ちょっと心を落ち着けよう。深呼吸して……よし!

 ここは『ゲテモノ』が出てくる流れだろうが!! なに、無難にそこそこ美味しそうなやつ出してきてるんだよ!? というか、この料理……グラタンにベビーカステラ放り込んだだけ……ベビーカステラである必要性を全く感じない!


「……カイトくん?」

「い、いや、なんでもない……次々運ばれてくるんだし、食べようか」

「うん!」


 心の中でツッコミを入れつつ、ベビーカステラグラタンとやらを一口……うん、普通のグラタンである。

 なんというか、微妙な肩透かしを喰らった気分だが、そうこうしている間に二品目も運ばれてきた。


「こちらは『ベビーカステラのラザニア』です」

「おぉぉぉ!」

「……」


 ……ちょっと、料理長か誰か呼んでほしい。なんでグラタンのあとにラザニア出してくるの? ほとんど一緒じゃん……。

 う、う~ん、似たような料理から先に出してきてるってことなのかな? ということは次はベビーカステラドリアとか出てくるんだろうか? まぁ、思ったよりシンプルな感じなのはよかったかな……。


「……こちらは『ベビーカステラのテリーヌ、トリュフとブッフサレ、リ・ド・ヴォと天空豆のガトー仕立て』でございます」

「ふわぁぁぁ、美味しそう!」

「……」


 なんで急にフレンチ系のわけわからない名称の料理出してくるの!? さっきまでの流れはなんだったの? というか、ベビーカステラのテリーヌとか、完全に悪ふざけの産物じゃねぇか!!

 どんな顔して、ベビーカステラをテリーヌにしようとか考えたんだ……というか、なぜ牛肉を並べて出してくる……どこからどう考えても合わないだろうに……。


「そして、こちらは『ベビーカステラの岩塩焼き』です」

「すごい! こんな調理方法もあったんだね!!」

「……」


 ……もうベビーカステラの時点で焼いてあるだろうが!! なんで岩塩で包む必要があるの? もう、ベビーカステラ塩振るだけでいいだろうが!!

 というか、クロはどうなってるんだ? どれも、絶賛じゃねぇか!?


「こちらは『ベビーカステラパスタ』です」

「……う~ん、なるほど、この発想はなかったね。今度真似してみよう」

「……」


 なくていいよそんな悪魔の発想!? というか、ただパスタにベビーカステラ放り込んでるだけだろうが!!


「こちらは、メインの『メガベビーカステラ』です」

「おぉぉぉ! おっきい!!」

「……」


 ……その巨大な物体を、まだ『ベビー』カステラだと言い張るか……というか、これベビーカステラ何個分だろう? でかすぎる。

 あと、それを瞬く間に食べきってしまうクロがすごい。


「こちらは、口直しの『カステラ』です」

「甘くておいしいね」

「……」


 なんでそこで諦めたんだ!? さっきのやつをベビーカステラと言い張っておいて、どんな顔して普通のカステラ出してきてるんだよ!?

 というか、ベビーカステラの口直しがカステラって……なにも直せてないよ!? 胸焼け必至じゃねぇか!!


 拝啓、母さん、父さん――ベビーカステラ地獄を超えた先は、さらなるベビーカステラ地獄だった。というか、切実に言わせてもらいたいんだけど――もうヤダこの店。





???(異次元ネット閲覧中)「……意外とまともな意見も多いっすね。カイトさん爆ぜろとか言ってる奴には、あとで『足の小指を痛打する呪い』をかけておくとして……これなら、意外とまともなベビーカステラが……」

めーおー「えっと……フカヒレ入り揚げ饅頭、ワイバーン肉のハンバーグとタコヤキのシロップ漬け入り激辛麻婆豆腐、かに玉にとろーりチーズと焦がし醤油と刻み海苔をかけて、クランベリーソースとスピリタスアイスクリームをココアのグミで包んで、羊羹と野沢菜と餅を入れたものを生ベビーカステラで包むっと……できた! これが究極のベビーカステラ!!」

???「な ん で 混 ぜ て ん す か !?」

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