閑話・潜む者
シンフォニア王国、アルベルト公爵家。異世界人である快人が滞在するこの屋敷の一室……彼が普段利用している部屋には、ひとりの少女の姿があった。
鈍色で癖の強いミディアムヘアに黒い瞳。支給されているメイド服に身を包んだ子供のように小柄な少女は、はた目には奇妙といえた。
黒い瞳はぼやけるように虚空を見つめており、その焦点は合っていないように見え、表情だけ見れば不気味ともいえる。
しかし、少女は特に不審な行動をとっているわけでもなく、慣れた手つきで黙々と部屋の清掃を行っていた。
窓はしっかりと二度拭きし、細かな箇所の埃ひとつ残さないように丁寧に掃除を行っていく姿は、熟練のメイドといった雰囲気であり、外見とはひどくミスマッチだった。
一通りの掃除を終えたあと、少女は真新しいシーツを持ってきてベッドメイキングを行っていく。シーツの僅かなシワさえ見逃さずに美しくベッドを整え終わると、最後にテーブルの上に置かれた花挿しに爽やかな香りのする花を一輪挿してから部屋を後にする。
少女の名前はイルネス……120㎝ほどの身長に幼い外見ながら、アルベルト公爵家の使用人としては最古参であり、同時に快人と仲の良い使用人のひとりだった。
彼女は快人が屋敷にやってきた当初より、自ら志願して快人の部屋のベットメイキングや掃除を行っていた。
快人がこの屋敷に来たばかりのころには貴重だった最初から彼に友好的な使用人であり、快人ともよく会話を交わす間柄だ。
自己主張は強くなく、裏方に徹することが多いため屋敷内で目立ってはいないが、当主であるリリアも信頼をおく優秀な使用人である。
そんなイルネスは快人の部屋の清掃を終えたあとは、庭に出てベルフリードとリンドブルムのいる小屋へ向かった。
「……ベルフリード、リンドブルム、ご飯ですよぉ」
「ガウッ!」
「キュイ!」
優秀な彼女は快人からも非常に頼りにされており、快人が留守の際にはベルフリードとリンドブルムの世話を頼まれることが多い。
今回も六王祭に参加している快人の代わりに二匹の世話を行っており、二匹もそれなりに懐いていた。
「それではぁ、食べ終えたらぁ、容器を回収にきますねぇ」
やや舌足らずな口調で二匹に告げると、イルネスは次の仕事に向かうために小屋を後にする。
アルベルト公爵家において特に珍しいわけでもない、いつも通りの光景。イルネスも普段と変わらない動きで足を進め、屋敷の中に戻ろうとして……聞こえてきた話し声に足を止めた。
「……そうは思わないか? お嬢様はいったい、あんな軟弱な男のどこがいいんだか……」
「いや、別に皆が皆、貴女みたいに武力重視ってわけじゃないでしょうに……」
「そうか? いや、しかし……やはり、素晴らしいお嬢様にあの男は釣り合わないと思うが……」
警備担当の者たちが交わしている雑談。それを少し聞いたあと、イルネスは何事もなかったかのように屋敷の中に戻っていった。
「ともかく、私は認め――ごほっ!?」
「ど、どうしたの?」
「い、いや、すまない。少し咳が……ごほっ……」
「……顔色悪いわよ? 風邪でもひいたんじゃない?」
「そ、そうかも……しれない……少し気分が……」
静かな廊下を、イルネスはゆっくりとした足取りで歩く。
「……くひっ」
ポツリと、そんな声が彼女の口から零れ落ちた。
「くひひひ……だめぇ……『殺しちゃ』だめぇ……がまん……がまん……でもぉ、寝込むぐらいならぁ、大丈夫ぅ……くひひひ」
特徴的な笑い声を零しながら、イルネスはにたぁ~っと不気味な笑みを浮かべる。焦点のあっていない黒目は、まるで底なしの闇のようにさえ見えた。
少し経つと、イルネスの口元から笑みは消え、不気味な表情に戻る。
そして、そのまま次の目的地に移動しようとしたところで、どこからともなく声が聞こえてきて、イルネスは足を止めた。
「……そのまま聞け、シャルティア様からの指令だ」
「なぁ~にぃ~? 『アスタロト』?」
声の主は幻王配下……幻王兵団に所属する十体の幹部、通称『十魔』と呼ばれる二つ名持ち伯爵級高位魔族のうちのひとり……『虚像の密告者』と呼ばれ、爵位級の認定役でもあるアスタロトだった。
「六王祭六日目の夜……つまり今夜、『幻王兵団幹部は全員中央塔に集合すること』……以上だ」
「招集ぅ? なんでぇ?」
「さぁな、それは知らされていない。ともかく……伝えたぞ、必ず来い……『パンデモニウム』」
その言葉を最後にアスタロトは去ったようで、廊下には再び静寂が訪れる。
「……ここでの名前はぁ、イルネスなんだけどぉ……まぁ、いいかぁ」
呟くように告げたあと、イルネス……いや、パンデモニウムは再び廊下を歩き始めた。
「……六王祭会場の中央塔ぅ……『カイト様』もいる……差し入れぇ、持っていこうかなぁ……くひっ、くひひひひひ」
廊下に響く不気味で、それでいて無邪気な笑い声……上級神の本祝福すら貫通する忌まわしき病の化身……『滅び呼ぶ病魔』パンデモニウムは、ただ、楽し気な笑みを浮かべていた。
実は設定だけは、ジークの閑話の時からいた。
~おまけ・全盛期の快人伝説~
・1日1フラグは当たり前、2日で5フラグも
・初対面好感度MAXを頻発
・快人にとってフラグ回収は、お嬢様の気絶のさせそこない
・初対面好感度限界突破も日常茶飯事
・オセロをするだけで相手が泣いて謝った、匙を投げる幻王も
・あまりにフラグを建てすぎるので、相手がいなくてもフラグ扱い
・そのフラグもしっかり回収
・フラグ建て→回収した先にはまたフラグが特技
・誰とも会ってない日でも2フラグ
・3フラグでも納得がいかなければ、夜に冥王を召喚してもう1フラグ
・朝歯を磨いてるだけでフラグを建てた
・同時フラグ回収3なんてザラ、5フラグ同時回収することも
・フラグ阻止しようとした相手もろともフラグを建てた
・グッとガッツポーズしただけで、5人ぐらい好感度MAXになった
・国境の反対側から、別の国のフラグも回収していた
・会ったことのない相手でもフラグを建てる
・そもそも設定しかなく登場していないキャラでもフラグを建てる
・異世界の男女比が女性に傾いているきっかけが快人なのは、あまりにも有名
・自分の建てたフラグに乗って魔界まで移動するというファンサービス




