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ジークさんと仲良くなれてるみたいだ

 リリアさんとルナマリアさんの喧嘩? も収まり、普段通りの様子に戻った二人を見て考える。

 アイシスさんに関してはいつ来訪するか、現時点では分からないので置いておくとして、丁度良い機会なので、前々から考えていた宝樹祭の件を話してみよう。


「少し前に聞いたんですけど、近々エルフの森という所で宝樹祭というお祭りがあるとか」

「宝樹祭ですか、ええ、確かに丁度この時期ですね。私は参加した事はありませんが、エルフ族の祭りとしては最大規模ですね」

「あれ? リリアさんも参加した事は無いんですか?」


 俺にとってリリアさんはこちらの世界の事なら何でも知ってる方、みたいな印象があったのと、結構有名なお祭りと聞いていたので、リリアさんが参加した事がないと言うのは意外だった。

 ルナマリアさんは俺が口にした宝樹祭が、以前言っていたリリアさんの気分展開にどこかのお祭りへと提案した事に関係するのだと気付き、一度頷いてからいつもの調子で口を開く。


「……お忘れになる気持ちは分かりますが、この行き遅れは一応元王女様で、騎士団の師団長ですから、王都の外へ出る機会はあまりなかったのですよ」

「物凄く余計な一言が足された気がしますが……ええ、確かにルナの言う通り、私はあまり王都の外へは出向いた事がありませんね。私は中途半端な立場の王族で、外交からは割と外れてましたからね」

「脳筋の野生児に見えて、お嬢様は割と箱入りなんですよ」

「……前半は断固否定しますが、後半は概ねその通りです」


 普段の親しげで取っつきやすい雰囲気から忘れがちになってしまうが、リリアさんは王位継承権を持つ王族ではあるが、国王の年の離れた妹という少し難しい立場であり、尚且つ国王はリリアさんを溺愛しているのであまり王都の外へは出したがらなかったそうだ。

 結果としてルナマリアさんと観光で旅行した事はあっても、あまり回数は多くなく、知識としてしか知らない地域も多くあるらしい。


「それはさておき、カイトさんは宝樹祭に参加してみたいと言う事でしょうか?」

「え、ええ、有名なお祭りらしいので可能であれば見てみたいなぁとは……」

「……良いのではないでしょうか? エルフの森は美しく豊かな森と有名ですし、お嬢様もミヤマ様も最近は慌ただしかったのですし、気分転換にも丁度良いのでは?」


 首を傾げながら尋ねてくるリリアさんの言葉に頷くと、ルナマリアさんからも好意的な言葉が返ってくる。

 チラリとこちらを見て頷いている所を見ると、リリアさんの気分転換にこの祭りを選んだ事に、ルナマリアさんも賛成みたいだ。

 そのままトントン拍子に話が進む……かと思われたが、二人共何かを考える様な表情を浮かべる。


「……確かに観光と言う意味でも最適ですね。ただ、私は宝樹祭はおろかエルフの森にも訪れた事が無いので少々不安もありますね」

「ルナマリアさんは、詳しかったりしないんですか?」


 以前ルナマリアさんはハーフエルフと魔族の混血という話を聞いたので、エルフの血が入っているのならエルフの森に関しても詳しいかと思って尋ねたが、ルナマリアさんは首を横に振る。


「確かに私の父はハーフエルフでしたが、私が幼い頃に他界しまして……母に連れられて魔界の祭りに参加した事は何度かあるのですが、エルフの森には訪れた事がないですね」

「……そうなんですか」

「ええ、それに宝樹祭はエルフ族主体の祭りなので、やはり詳しいのは純血のエルフでしょうね」


 好感触ではあるが、やはり情報が少ないと言うのは不安に感じる部分がある。

 リリアさんも参加することには賛成だが、俺達を預かる身として事前情報はしっかり欲しいみたいだ。

 っとそこでふと、一人の女性が頭に思い浮かぶ。


「……ジークさんなら、詳しいのでは?」

「確かに、ジークは純血のエルフですし、エルフの森出身……ルナ、ジークはこの時間なら……見回り中ですか?」

「ええ、恐らく……声をかけてきます」


 どうやらジークさんはエルフの森出身らしく、宝樹祭の事を聞くにはうってつけの人物の様だ。

 リリアさんの言葉を受けてルナマリアさんがジークさんを呼びに行く。

 ジークさんはリリアさんの屋敷に勤める人の中でも、よく話をする方なので、俺自身疑問に思った事を聞きやすい相手で幸いだ。


 少ししてやって来たジークさんに簡単に事情を説明すると、ジークさんは納得した様子で頷き、応接用ソファーに座って質問に答える態勢になってくれる。

 ……当り前の様に俺の隣に座って来たけど、ちょっと警戒心が薄いんではなかろうか? うっ、何か良い香りがする……落ち着け……冷静に……

 


「そ、そう言えば、そもそも俺ってエルフの森が何処にあるかも知らないんですが、遠かったりするんですか?」

「……」

「そうなんですね。じゃあ、馬車で移動って言うのも難しいですかね?」

「……」

「飛んで移動って……魔法か何かですか?」

「……」

「え? ドラゴン? 成程……そう言う移動手段もあるんですね」


 どうもエルフの森は王都からそれなりに遠い場所にあるらしく、馬車で移動するには時間がかかりすぎるらしく、飛竜に乗って移動するのが一般的らしい。

 俺は知らなかったのだが、飛竜を使って移動したり物資を運んだりというのは主流の手段らしく、専門の業者がいるらしい。要するに地球で言う所の飛行機みたいなものという訳だ。


「それなら時期は大丈夫そうですね。参加自体は誰でもできるんですか?」

「……」

「良かった。安心しました。狩猟と収穫の祭りだって聞いたんですけど……」

「……」

「ああ、成程。二日がかりでやるんですね」

「……」

「ふむふむ、初日が狩猟大会で、二日目が収穫なんですね」

「……」

「あ、そうなんですね。それは楽しみです!」


 宝樹祭は二日かけて行われるらしく、先ず初日が狩猟大会で、参加者が定められた区画で狩りを行い、狩った獲物によって優勝者を決めて賞品が贈られるらしい。

 そして二日目には安全な区画で収穫を行う。こちらの方は子供でも参加できるらしく、狩りが無理な俺でも問題無く参加できるとの事だ。

 二日目の夜に狩猟した獲物と収穫した果実を調理したものが並び、皆で豊穣に感謝しながらそれを食べるらしい。


「……」

「へぇ、じゃあ毎年参加者は多いんですね」

「……あの、ちょっと待ってくださいお二人共」

「え?」

「……?」


 ジークさんから宝樹祭について丁寧な説明を受けていると、何故かリリアさんから制止の言葉がかかる。

 ジークさんと揃って首を傾げながらそちらを向くと、リリアさんとルナマリアさんが唖然とした様な表情を浮かべていた。


「先程から、カイトさんとジークは何をしてるんですか?」

「え? いや、ジークさんから宝樹祭の説明を……」

「……そもそもジークは喋れない筈ですが、ミヤマ様はどうやってジークの説明を理解しているのですか?」

「それは、身振り手振りで何となく……ですけど……」


 心底不思議そうに尋ねてくる二人に、俺は首を傾げながら言葉を返す。

 するとリリアさんとルナマリアさんは顔を見合わせ、どこか呆れた様な表情を浮かべる。


「……お嬢様、分かりますか?」

「……いえ、私には……ジークが頷いたり、首を振ったり、時々手を動かしてる程度しか……」


 ああ、そうだった。

 俺には感応魔法があるお陰で、ジークさんがこちらに伝えたい事を言葉ではなく感情で読みとれ、そこに身振り手振りが加わるので非常に分かりやすいと思っていたが……リリアさん達から見たら、ジークさんがジェスチャーして俺が一人で喋ってるように見えるんだ。


「成程、ジーク……貴女が率先してミヤマ様の護衛に付きたがるのは、筆談しなくても会話が成立するからですか……」

「……」


 ルナマリアさんの言葉を受けて、ジークさんは一度深く頷いた後、何故かハッとした表情を浮かべて俺の方を向き、少し慌てた様子で手を振る。

 そして俺にあくまで便利だからではなく、人間的に気に入ってるからだと伝えてくる。

 恐らく今の肯定で俺が傷ついてしまっていないか心配しての行動だと思うが、ジークさんの様な美女にそんな事を言われると妙に照れてしまう。


 俺としてはジークさんはとても話しやすい相手なので、日頃から見かける度に声はかけていたけど……ジークさんは優しい方なのでそんな反応をしたりはしないが、正直迷惑になってないか不安に思ってる部分もあった。

 けど今の行動で屋敷の中でもリリアさんとルナマリアさんを除いて一番多く話をしてるジークさんが、俺の事を好意的に感じてくれていると言うのが分かり、とても嬉しく感じた。


 拝啓、母さん、父さん――ジークさんから宝樹祭の事を色々聞いたよ。後、嬉しい事に――ジークさんと仲良くなれているみたいだ。









次回……死王襲来

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