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『物語はその神に収束する』



 恐ろしいほどの静寂に包まれる夜の海。その上でエデンはぼんやりと月を眺めながら、ゆっくりと現在に繋がる話を始めた。


「……前提が変われば本質も変わる。貴女のふたつめの質問の答えは、おそらくそれでしょう?」

「え、ええ、私のふたつめの質問は……シャローヴァナル様は一万九千年前、それこそ私たちが神界に攻め込んだたった千年後には、召喚魔方陣の用意をしていました。そこまでする動機がよく分かりませんでした」

「シャローヴァナルの真意は私にも測りかねます。あくまで想像という前提でよければ、話しましょうか?」

「お願いします」


 最愛の快人のためにも、いまはひとつでも多くの情報が欲しい。アリスは真剣な表情で、エデンに話の続きを促した。


「おそらく、ですが……『シャローヴァナルの目的は一度変わっている』。いえ、正しくは変化したというべきでしょうかね」

「……変化、ですか?」

「ええ、この世界を創った当初、シャローヴァナルは迷ってい……戸惑っていたのだと思います。それまでの彼女はただの現象であり、心など存在しなかった。いえ、もしかしたら心はあったのかもしれませんが、本人はそれに気づいてはいなかった。言ってみれば、この世界を創ったばかりのころ、シャローヴァナルの心は産声を上げたばかりの赤子だった」

「なるほど、つまりシャローヴァナル様は、自分の心に関して戸惑っていたと、そういうわけですね」

「あくまで推測ですがね。シャローヴァナルは世界を創ったあと、自分がどうしていくべきかが分からなかった。だからこそ、自らの半身を創り……そちらに判断を丸投げしていた。しかし、その後シャローヴァナルの心境は変化し『己の心』が存在することを受け入れました」

「……二万年前の戦いですね」


 エデンの推測はおそらく当たっている。シャローヴァナルは心という存在に戸惑っており、己の行く末をクロムエイナの判断に一任した。

 しかし、そのクロムエイナとの戦いで、シャローヴァナルは己に心があることを認めた。そう、そこがすべての始まりになっている。


「そして、シャローヴァナルが次に求めたものこそ……宮間快人です。彼女がどんな未来を見たのかまでは分かりませんが、その前提こそ一番重要なものです」

「……」

「そもそも、疑問に思ったことはありませんか? シャローヴァナルの宮間快人に対する執着は『異常』だと……ただ興味を抱いたからでは説明できないほど、彼女は宮間快人に執着していた」

「……確かにそれは、思い当たる節がありますね」


 アリスもまた、シャローヴァナルに興味を抱かれたことのある数少ない存在の一人ではある。しかし、シャローヴァナルは特にアリスに執着はしていない。精々名前を覚えた程度だ。

 それは初代勇者、九条光に対しても同じ……つまり、シャローヴァナルは明確に快人を特別視しているということ……。


「それも、そのはずでしょうね。推測が当たっているのであれば、彼女は二万年近く前から、宮間快人という存在を求め続けていた。未来とは移ろい変わりゆくものではありますが、『いくつかの因子が揃えば確定する』こともある。おそらく、シャローヴァナルは宮間快人をこの世界に招くために、幾度となく動いたのでしょうね」

「カイトさんがこの世界に来るという未来を確定させるために……ですか?」

「ええ、すべてはそこに繋がっています。その前提で考えれば、過去のシャローヴァナルの行動も繋がってきます。考えてみれば奇妙ではありませんか? それまで魔界にも人界にも不干渉を貫いていたシャローヴァナルが、最高神を介して聞いただけの九条光の話に乗り、驚くほどあっさりと三世界の友好条約に同意した」

「ッ!? そういうことですか……神界が、いえ、シャローヴァナル様が友好条約に同意したのは……」

「それが、宮間快人をこの世界に呼ぶために必要だったからです」


 エデンが告げた内容に、アリスは大きく目を見開いて驚愕する。それもそうだろう……『すべてはシャローヴァナルに繋がっていた』のだから……。

 この世界において大きな変革である勇者召喚、そして三世界の友好条約……それらはすべて、シャローヴァナルが宮間快人という存在を求めたからこそ起こったことだった。


「これもまた推測にはなりますが……そこで『宮間快人がこの世界に来るという未来が確定した』のでしょうね。この千年ほどの間、シャローヴァナルはかつてないほど上機嫌だったはずです。十年に一度の勇者際に『興味がなくとも出席する』ほどに……」

「待ってください……なにか、なにかが引っかかるんです。ものすごく重要ななにかが……」

「……先ほど私は言いましたよ。前提が変われば本質も変わると……宮間快人がこの世界に来るという未来が、千年前の時点で確定していたという前提で考えてみなさい」

「そ、そういうことですか!? つ、つまり……カイトさんは必ずどこかのタイミングで、勇者召喚に巻き込まれてこの世界に来ることが決まっていた。勇者召喚の魔法陣は……『いつか必ず暴走するはず』だった……で、でも、それって……つまり」


 そう、アリスはたどり着いた。宮間快人という存在を中心に巡っていた物語の本質に……シャローヴァナルという神の『誤算』に……。


「そう、宮間快人がこの世界に来る未来は確定していた。シャローヴァナルは待つだけでよかった。上機嫌にその時を……しかし、そのシャローヴァナルが望んだ未来に介入した者が……『時計の針を進めた』存在がいる」

「……シャローヴァナル様の力を無効化できるが故に、シャローヴァナル様が確定した未来を意図せず変えてしまった……クロさんが……」

「その通り、それが最も重要な部分でしょうね。この一連の物語はシャローヴァナルから始まり、クロムエイナが手を加え、そして最後に再びシャローヴァナルへと収束する」

「……」

「果たして、シャローヴァナルはどんな気分だったのでしょうね? 手を尽くし、求め続けた未来、それがどんなものだったのかは分かりません。しかし、ただひとつ言えることは……この現在は『シャローヴァナルが求めた未来ではない』……だからこそ、彼女は大きく動き始めたのでしょうね」


 淡々と語るエデンの言葉に、アリスはただ茫然と沈黙していた。

 歯車の狂った物語、求めたのとは違う未来……そして、それを変えようと動き出した物語の終わり(エピローグ)……。

 この世界の頂点とすら言えるシャローヴァナルが、底知れないほどの執着を持って快人の前に立ちふさがる。

 果たしてシャローヴァナルと快人との勝負とは、どんなものになるのか……シャローヴァナルがそれによって求めているのはなんなのか……。

 ゆっくりと、舞台は最終章へ向かって様相を変え始めていた。





シリアス先輩「マーベラス……やはり創造神は格が違った。物語の根底に根を張る大フラグ……私は最初からシャローヴァナルはできる存在だと思ってた!!」

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