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一方通行ではないのだろう



 アリスの一押しという洞窟型アトラクション……スーパーラブラブイルミネーション。その中は、まるで星の海のようだった。

 洞窟の壁に散りばめられた色とりどりの光は、強すぎず蛍の光のように優しい明りで、洞窟内を美しく照らし出してくれていた。


「……凄いな、言葉がないよ」

「色のバランス調整に苦労しましたからね」


 すっぽりと収まる小さなアリスの手を握りながら、ゆっくりとした足取りで洞窟内を歩く。驚くほど静かで美しい洞窟内にいると、いいムードというのを実感できた。

 まるで世界にふたりきりのような、そんな特別な空間……自然と繋いだ手にも熱が籠るような気がした。


 なんというか、少し不思議な気分ではある。正直言って、初めてアリスと出会ったときには、こんな関係になるとは想像もしていなかった。

 明るく馬鹿で、どうしようもなく困ったやつだけど……なんだろう? 彼女のことを知れば知るほど、どんどん好きになっていく自分がいる。


 守られるだけじゃなくて守りたい。一緒に笑いあっていたい。悪友のような、親友のような……それでいて、互いに確かに想い合う恋人同士。

 そんなアリスとの関係は、とても心地よい。安心して素の自分を曝け出せるっていうのかな? こいつは受け止めてくれるっていう確信があるからこそ、自然な関係であれる。


「……なぁ、アリス」

「なんすか?」

「いや、なんていうのかな……少し前までは異世界に来てこんな風になるなんて、夢物語でしかなかったのに……不思議なものだよな。実際こうしてると、まるでこうなるのが必然だったみたいに、いまの幸せがピッタリ心に嵌るんだ」

「……そう、ですね。いまの私の姿も、昔の私から見たら想像もできないものなのかもしれません」


 同じように異世界からこの世界に渡ってきたからこそ、アリスにも俺が感じている気持ちは共感できるものみたいだ。

 本当になんで俺は半年前までこの世界にいなかったのだろうかと、そんな疑問を抱くほどいまの日々が幸せで、充実している。


「先のことなんてわからないものだな。助けようと思ったら助けられて、支えようと思ったら支えられて……」

「人生なんて、そういうものですよ。思い通りにはいかないんです。想定外はいっぱいあって、いい意味でも悪い意味でも、たくさんの驚きに満ち溢れているものです」

「……うん。えっと、まぁ、なんというか、うまく話は纏まらないけど……ありがとう、アリス。お前と出会えて本当によかった。お前のおかげで、俺はいま、すごく幸せだよ」

「……」


 色とりどりの優しい光に照らされ、少し気恥ずかしさを感じながら告げると、アリスは付けていた仮面を外してから微笑みを浮かべる。


「それを言うなら、私のほうこそありがとう、ですよ……私はこう思うんです。幸せは一方通行じゃないって」

「うん?」

「誰かを幸せにしたなら、その幸せはきっと自分にも返ってくる。カイトさんがいま、心から幸せだと思うのなら……それは、貴方が誰かを幸せにしたっていう証明でもあります。幸せはひとりで作るものじゃないなんてのは、よく聞く言葉ですけど……実際その通りなんですよ」

「……そっか」

「ええ、カイトさんが幸せなら、私も幸せです。貴方が笑顔になれば、同じように私も笑顔になる。絆を重ねるってのは……たぶん、そういうことを言うんですよ」


 そう告げるとアリスは俺の手をぎゅっと握り、俺の目をまっすぐに見つめながら優しい笑みを浮かべた。

 慈愛に満ちたその表情は、普段の彼女とは少し雰囲気が違った。だけど、それも確かにアリスの持つ一面なのだと、なんの疑問もなく理解することができる。


「カイトさん……貴方が私を幸せにしてくれたのと同じくらい、いえ、それ以上に、私は貴方を幸せにしてみせます。私を選んでくれたことを、決して後悔なんかさせません」

「……ありがとう。だけど、それに関しては反論させてもらう。アリスと恋人になったことを、後悔することなんて絶対ない。それと……俺のほうが、アリスを幸せにしてみせる。そこに関しては、負けるつもりはないから」

「むむっ、言ってくれますね。じゃあ、ひとつ、勝負といきましょう。負けませんよ」

「ああ」


 そう言って互いに笑い合う。心が深く通じ合っているような、手を取り合って同じ方向に歩いているのだと実感できるような、そんな空気がどうしようもなく心地よい。

 こういうのを、いい雰囲気だというのだろう。


 どちらからでもなく、互いに引き寄せられるように、俺とアリスの距離が近づく。それがとても自然なことであるかのように……。

 色鮮やかな洞窟の光が、その瞬間に花を添え、唇に愛しい彼女の温もりを感じた。


 1秒、2秒……周囲から音は消え、目を閉じたことで光も消える。だからこそ、深くハッキリと、重なったアリスの唇の感触を感じることができた。

 なにかを考える必要もなく、ただ心が幸せという定まった形のない温もりに溶けていった。


 拝啓、母さん、父さん――自分を受け入れてくれる相手がいて、自分もその相手のことを受け入れることができて……それは本当に幸せなことだとおもう。なるほど、たしかに、アリスの言う通りだ。こうして紡ぐ幸せは――一方通行ではないのだろう。





シリアス先輩「なるほど……スーパーラブラブね……名前に偽りはないということだね……シンドイ……ツライ」

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