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心に残った不安は消えないままだった



「う~ん、私的にはラーメンも好きなんですが、やっぱり麺といえばパスタって感覚の強い人が多いせいか、いまいち普及しませんねぇ」

「う、うん。というか、お前、何杯食う気だ……相も変わらず、大食いだよな」


 アリスに連れられてやってきたのは、まさかのラーメン屋だった。い、いや、まぁ俺としてはラーメン好きだし、問題はないんだけど……デート中の女の子としては、ど、どうなんだろう? い、いや、俺は好きだよ。一緒にラーメン食べてくれる子……常識的な量であれば……。

 ちなみに現在アリスが食べているラーメンは『43杯目』である。


「……カイトさん、それは違います」

「うん?」

「私は、大食いなのではなく『他人のお金で食べるご飯』が大好きなだけです! そこのところ、誤解しないでください!」

「なお悪いわっ!」


 そして、当たり前のように俺が奢ることになっている。俺がブラックランクの特典を使う気がないのと、なんだかんだで突き放せないのを計算しつくした暴食……やっぱり、アリスはアリスである。

 ある意味いつも通りのアリスに呆れつつ、俺は店内を見渡しながら首をかしげる。


「それにしても、客って俺たちだけ?」


 店内には客どころか人の気配もほとんどない。いや、アリスがおかわりしたラーメンは運ばれてくるので従業員はいるのだけど……店の大きさに対して、人数が少なすぎる気がする。


「あ~いや、実はちょっと思うところがあって、貸し切りにしてます」

「……思うところ?」

「ええ、まぁ、正確に言えばカイトさんに聞きたいことがあるんですよ。ちなみに、従業員も全て私の分体です」

「……重要な話ってことか……」


 アリスの真剣な表情と雰囲気は、これから口にする質問が極めて重要であることを示していた。だから、だろうか? 俺の背筋も自然と伸びる。

 数秒……やけに長く感じる沈黙のあと、アリスは俺の目をまっすぐに見つめながら口を開いた。


「……単刀直入に聞きます。カイトさん、シャローヴァナル様となにかありましたか?」

「……は? ど、どういうこと?」


 シロさん? なんでここでシロさんの名前が出てくるんだろう?


「喧嘩……は無いにしても、なにかありませんでしたか?」

「なにか、といわれても……」

「そ、そうですね。例えば、シャローヴァナル様に試練を与えられたとか、課題を示されたとか……そういうことはありませんか?」

「……」


 これは、もしかして……あの件だろうか? シロさんが自分をラスボスだと語り、俺に試練を与えると言ってきた話。

 たしかに、それに関してはほかの誰にも話してはいなかった。いろいろ理由はあるけど、シロさんの狙いがいまいちよく分からなく、俺自身その内容を整理しきれていないというのが大きいと思う。

 しかし、それ以上になにか、この件に関しては言いようのない不安を感じているからかもしれない。


 なぜ、アリスがそのことに気づき、それを知りたいと思っているのかはわからないけど……アリスになら、伝えてもいいかな?

 お調子者ではあるが、重要な話題を吹いて回るやつではないし……俺自身、彼女のことは心から信頼している。それに、もしかしたら、アリスに伝えることで分かるかもしれない。

 俺がなんとなくこのことを他の人に話す気になれない、言いようのない不安の正体が……。


「……実は、前に神界に行ったときに……」


 だから俺は、以前シロさんとの間にあったことを話すことにした。アリスは俺の話に茶々を入れたりはせず、真剣な表情で俺の話を聞いていた。


 一通り話し終わると、アリスは顎に手を当て、なにやら考えるよな表情を浮かべた。


「……そう、ですか……試練……」

「なにか、気になるところがあった?」

「……いえ、特におかしな部分は無いですよ。シャローヴァナル様がなぜそんな提案をしたのかはわかりませんが、あの方はカイトさんを気に入っていますし……無茶な内容にはならないと思います。むしろ、形だけ試練なんて言ってるだけで、初めからカイトさんの願いは叶えるつもりなのかもしれませんよ」

「そっか……」


 アリスの表情に動揺はなく、むしろ安堵しているように見えた。俺はてっきり、その試練というのに差し出す対価が、大きなものになるんじゃないかと思っていたが……アリス曰く、それはないとのことだ。

 考えすぎだったのかもしれないな……たしかに、シロさんは変なところもあるけど、優しい方だし、案外試練なんてのも簡単なものなのかもしれない。


 拝啓、母さん、父さん――アリスに以前シロさんに言われた試練について伝えてみたが、アリス曰く無茶な試練にはならないだろうとのことだ。安心していいのだとは、思うんだけど……なんでだろう? いまだ――心に残った不安は消えないままだった。









 気を取り直すように食事を再開する快人を見て微笑みを浮かべつつ、アリスは高速で思考を繰り返していた。快人にはそれを悟られないようにし、感応魔法で感じ取られる表層も偽りのもので固めたが、彼女の心の中は現在穏やかではなかった。


(……予想以上に厄介な感じですね。なにより、最悪なのは……あのシャローヴァナル様が『半年以上かけて準備』をする試練……あの、カイトさんの母親にそっくりな人物も、その件に関係している可能性は高い)


 そう、彼女は先ほど快人に語った内容とは逆の感想を抱いていた。快人を不安にさせまいと、先ほどは安心させるようなことを言ったが……彼女が想定では、決して楽観視できる内容ではなかった。


(……あの方が語った通りの展開になってきましたか……可能な限り、備えはしておくべきですね)


 そんなことを考えながら、アリスは少し前……今回快人にこの質問をする原因となった存在との会話を思い出していた。









 時は遡り、六王祭開催の数日前。雑貨屋で店番をするアリスの分体のもとに、想定外の存在が訪れた。


「来訪、内容、重要」

「……エデンさん? 今日はここにカイトさんは居ませんよ? あと、そのややこしい話し方はやめてもらえませんか?」

「……我が子が居ないのは知っています。私が今回訪れたのは、アリス……貴女に話があるからです」

「……本気でどういう風の吹き回しっすか――ッ!? 結界? ほかには知られたくない内容ってことですか?」


 エデンが告げた言葉は、アリスにとっては意外な内容だった。アリスもエデンという存在はある程度理解しているつもりだ。我が子と呼ぶ存在以外をゴミとしか認識していない彼女が、わざわざアリスを訪ねてくる理由がわからなかった。


「これでも、私は貴女のことを多少は評価しているつもりです。我が子には遥かに及ばない存在ではありますが、名前を記憶する程度の価値はある。ほかの喋る肉塊よりはマシです」

「……そりゃどうも……で、用件は?」

「……シャローヴァナルの動きに注意しなさい。愛しい我が子を『失いたくない』のなら……」

「ッ!? な、なにを……」

「これ以上は言えません。シャローヴァナルとの契約に反します。我が子に直接話すことは叶いませんが、シャローヴァナルも、私がこの世界の住人全てをゴミとしか認識していないと思っていたのでしょうね……契約内容に若干の穴がありました。それをついて、貴女に伝えています」

「……契約?」

「詳細は言えませんが……そう遠くない未来、愛しい我が子は神と対峙することでしょう」

「なっ!?」


 淡々と語ったエデンの言葉は、アリスにとって決して無視できない内容だった。しかし、その詳細までは語れないという。

 エデンは伝えるべきことは伝えたと言いたげに背を向け、雑貨屋の出口に向かって移動する。


 その背中を呆然と見送っていたアリスだったが、ふとエデンは扉の前で立ち止まり、振り向かないままで呟いた。


「……面白いものですね。かつて『終末の破壊神』と呼ばれた彼女が、今は創造神と呼ばれている。わからないものです」

「……」

「ですが、それでも、その本質は変わらないのでしょうか? いまだに彼女は、物語の終端に立っている」

「……どういうことですか?」

「……『物語の終わり(エピローグ)』……それが、シャローヴァナルという存在です。私にもその真意はわかりません。ですが、そうですね……卵が先か鶏が先か……貴女は、どちらだと思います?」

「それは、なんに対してですか?」

「……『勇者召喚というものがあったから宮間快人がこの世界にやってきた』のか『宮間快人という存在がこの世界に来るために勇者召喚が生まれた』のか……そもそも、人界にある勇者召喚の魔法陣は『だれが作った』のか……調べてみるのも、面白いかもしれませんよ」

「……」

「それは果たして、『偶然出会えた奇跡の存在』なのか『未来を見る誰かが求めた存在』なのか……本当の始まりは、いったい誰なのでしょうね?」


 誰にでもなく告げると、エデンは雑貨屋から去っていった。大きな疑問をアリスの心に残しながら……





シリアス先輩「……私は、信じてた。神界のトップは、素晴らしい存在だと……」

???「……いや、天敵とか言ってたような……」


今年(後1時間ちょっと)最後の投稿です

皆様、今年は本当にありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。

皆様、よいお年を~


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